SaaS業界のM&A最新トレンドと事例紹介【2024年更新】

SaaS業界は、近年、成長が著しい業界です。

新規でSaaS業界に参入してくる企業も多く、大きな成長が見込める業界として注目されています。

そうした状況にあるSaaS業界においては、スピーディに会社を成長させることを目指して、M&A(Mergers and Acquisitions)が積極的に活用されています。

本記事では、SaaS業界のM&A最新トレンドと事例について詳しく紹介していきます。

本記事を読むことで、SaaS業界において、どのような理由でM&Aが進んでいるのかを実際の最新事例を通じて理解できるようになるので、是非参考にしてください。

SaaS(Software as a Service)とは

Software as a Service(SaaS)は、インターネットを通じてソフトウェアを提供するサービスモデルです。従来のソフトウェア購入では、ユーザーは一度購入し、自身のコンピューターシステムにインストールして使用していました。しかし、SaaSモデルでは、ソフトウェアがクラウド上にホストされ、ユーザーはインターネットブラウザを通じてアクセスし、サービスを利用します。これにより、ソフトウェアのインストールやメンテナンスの手間が省かれ、どこからでもアクセス可能となります。

SaaS業界は、多岐にわたるビジネスアプリケーションやサービスを提供している成長産業です。CRM(顧客関係管理)、HRM(人事管理)、ERP(企業資源計画)、会計ソフトウェアなど、企業運営に必要な様々な機能がSaaSモデルで提供されています。また、個人ユーザー向けには、メールサービス、ストレージサービス、オフィスアプリケーションなどがあります。

SaaS業界の特徴は、低コストでのスタートが可能であること、常に最新のソフトウェアを利用できること、そしてスケーラブル(需要に応じてサービスの規模を拡大・縮小できる)であることです。このモデルは、特にスタートアップ企業や中小企業にとって魅力的であり、大企業でもコスト削減や効率化のために積極的に採用されています。

2024年におけるSaaS業界のM&Aトレンドは、業界の成熟に伴う競争の激化、技術革新の加速、市場の拡大により、多様なサービスを提供するため、また新たな技術や顧客基盤を獲得するために、企業間の合併・買収が活発化しています。これらの動きは、SaaS業界におけるサービスの多様化、顧客ニーズへの迅速な対応、市場シェアの拡大などを目指す企業戦略の一環として重要な役割を果たしています。

日本のSaaS業界が抱える課題

日本のSaaS業界が抱える課題

日本のSaaS業界は、そのポテンシャルにもかかわらず、いくつかの重要な課題に直面しています。これらの課題は、業界の持続的な成長と発展を妨げる可能性があるため、注意深い対策が求められます。

市場の成熟度と競争の激化

市場の成熟度と競争の激化は、多くの新規参入者が市場シェアを獲得しようとする中で、既存の企業にとって大きな挑戦となっています。日本のSaaS市場は完全には成熟しておらず、そのため、市場のポテンシャルを最大限に活用するための戦略が必要です。

人材不足

高度な技術力を要するSaaS業界では、特にエンジニアやセールスの専門性が高い人材が不足しています。この人材不足は、企業の成長を妨げる大きな課題です。

セキュリティとプライバシー

データのセキュリティやプライバシーの保護は、SaaSサービスにとって重要な課題です。顧客データの漏洩や不正アクセスのリスクは、サービスの信頼性を大きく損なう可能性があります。

法規制への対応

SaaSサービスは、国内外のさまざまな法律や規制の対象となります。特に、プライバシーポリシーやデータ保護に関する法律は厳しく、これらの変更に柔軟に対応する必要があります。

顧客のニーズへの対応

日本のビジネス環境や文化に特化したサービスの提供が求められています。海外で成功したサービスモデルがそのまま日本市場で受け入れられるとは限らず、顧客のニーズに合わせたカスタマイズが必要です。

販売戦略とビジネスモデル

日本独特のビジネス文化や販売チャネルへの適応が課題です。効果的な販売戦略やパートナーシップの構築が求められます。また、継続的な収益を生み出すビジネスモデルの確立も重要です。

国際競争力

グローバル市場での競争力強化も課題の一つです。特に、アメリカやヨーロッパ、中国などのSaaS企業との競争では、技術力だけでなく、ブランディングやマーケティング戦略も重要になります。

これらの課題に対応するためには、技術革新、人材育成、セキュリティ強化、法規制への適応、顧客ニーズへの細かな対応、効果的な販売戦略の策定など、多方面での取り組みが必要です。

SaaS業界におけるM&Aの役立ち

SaaS業界におけるM&Aの役立ち

日本のSaaS業界では、急速な市場の成長と共に複数の課題が顕在化しています。これらの課題は、企業の持続的な成長と競争力の強化を妨げる可能性があり、解決策の模索が急務となっています。この文脈において、M&A(合併・買収)は、企業が直面する様々な問題に対して有効な解決策を提供する重要な戦略として注目されています。

人材不足の解消

特に技術力の高い人材が不足しているSaaS業界において、M&Aは即座にこのギャップを埋める手段となり得ます。技術や業界知識に特化した人材を擁する企業の買収により、人材不足の直接的な解消はもちろん、新たな視点や企業文化の融合を通じてイノベーションの促進が期待できます。

法規制への対応

SaaS企業は国内外のさまざまな法規制に適応しなければなりません。特定の地域や法律に精通した企業を買収することで、これらの法規制への対応が容易になり、ビジネスの拡張に際しての障壁が低減されます。

顧客のニーズへの対応

M&Aを通じて異なる市場や業界に特化した企業を取り込むことで、より広範囲の顧客ニーズに応えることが可能となります。これにより、サービスの多様化と顧客基盤の拡大が実現し、市場における競争力が強化されます。

販売戦略とビジネスモデル

効率的な販売網やマーケティング戦略を持つ企業を買収することで、製品やサービスの市場浸透を加速させることができます。また、革新的なビジネスモデルの導入により、継続的な収益性の向上が見込めます。

国際競争力

グローバル市場への進出は、日本のSaaS企業にとって避けて通れない課題です。海外企業の買収を通じて、国際的なビジネス展開を加速させることができ、グローバルな競争力の強化に直結します。

総じて、M&AはSaaS業界が直面する様々な課題に対し、多面的な解決策を提供します。これにより、新たな市場機会の創出、技術革新の加速、企業文化の変革といった、長期的な成長と競争力向上を目指すことが可能となるのです。

SaaS業界における最近のM&A事例

ここからは、SaaS業界における最近のM&A事例を紹介していきましょう。

SaaS業界においては、以下のようなM&Aが近年では行われています。

  1. ラクスによる子会社ラクスHRテックの吸収合併
  2. 日立システムズによる子会社セキュアブレインの合併
  3. グローリーによる小売り向けソフト英フルイドの買収
  4. イタンジによるHousmartの買収
  5. 三菱電機による英ICONICS UKの全株式取得
  6. JストリームによるLAMILAの子会社化

以下では、SaaS業界におけるそれぞれのM&A事例について、各社のM&Aの狙いを解説していきます。

ラクスによる子会社ラクスHRテックの吸収合併

ラクス社は、2024年2月13日の取締役会において、同年4月1日を効力発生日として、自社の完全子会社である株式会社ラクスHRテックの吸収合併を決議しました。この合併は、ラクス社が企業の業務効率化を支援する複数のクラウドサービスを提供している中で、そのポートフォリオ管理による売上高成長と利益の創出をさらに加速することを目的としています。

具体的には、ラクス社のクラウド型勤怠管理システム「楽楽勤怠」と、ラクスHRテックが提供する同事業を統合することで、製品力と営業力の両方を強化し、市場シェアの拡大を目指すという戦略に基づいています。この統合により、ラクスHRテックは解散し、ラクスを存続会社とする簡易吸収合併の方式が採用されます。

この合併は、完全子会社を対象としており、開示事項および内容の一部が省略されていますが、ラクス社にとって重要な意味を持ちます。統合によって、ラクス社は既存のクラウドサービスに加えて、ラクスHRテックの技術やノウハウを取り込むことができ、業務効率化ソリューションの提供範囲を広げ、顧客サービスの向上につながると期待されています。また、市場ニーズに迅速に対応することで、より競争力のある製品とサービスを開発し、提供することが可能になるでしょう。

このように、ラクスによるラクスHRテックの吸収合併は、両社の強みを生かした事業統合により、業務効率化市場における競争力を高め、成長を加速させる戦略的なステップとして位置づけられます。

出典: https://ssl4.eir-parts.net/doc/3923/tdnet/2395942/00.pdf

日立システムズによる子会社セキュアブレインの合併

日立システムズは、グローバル市場でのマネージドセキュリティサービス事業の拡大を目的に、2024年4月1日付で、子会社であるセキュアブレインとの合併を実施します。この戦略的な動きは、日立システムズグループの事業体制を再編する一環として行われるものです。

セキュアブレインは、2004年に設立され、2014年に日立システムズの完全子会社となりました。サイバーセキュリティ専門会社として、インターネット上の脅威が多様化する中で、Webサービスを提供する事業者や企業にITセキュリティを届ける重要な役割を担ってきました。また、セキュアブレインは、サイバー攻撃の脅威から企業を守るマネージドセキュリティサービス分野への事業領域拡大にも成功しています。

今回の合併により、セキュアブレインが得意とする先端技術、特にWebセキュリティノウハウを活用したモバイルアプリケーションセキュリティサービスや、マルウェア関連技術を用いたランサムウェア対策ソリューションの開発・展開などが、日立システムズの事業に統合されます。これにより、新たなイノベーションの創出に取り組むことが可能になり、日立システムズのマネージドセキュリティサービス事業のさらなる拡大が期待されます。

合併後も、セキュアブレインブランドのセキュリティ製品・サービスは継続して提供され、フィッシング対策ソリューション「PhishWall」やSaaS型Web改ざんチェック/脆弱性診断サービス「GRED」などが引き続き展開されます。この合併は、日立システムズグループが目指す成長戦略の一環として、マネージドセキュリティサービスの価値向上につながり、さまざまなセキュリティ脅威からお客様の資産を守り、事業継続をサポートすることに貢献することが期待されています。

出典: マネージドセキュリティサービス事業拡大に向け組織・体制強化:ニュースリリース:2024年

グローリーによる小売り向けソフト英フルイドの買収

グローリーグループは、2023年12月26日に、小売業向けソフトウェアを提供する英国のFlooID Topco(以下、フルイド)の買収を発表しました。この買収は、グローリーの英子会社であるGlory Global Solutions (International)によって行われ、フルイドの全株式9,922,218株を取得する形で実施されました。取得価額は1億4500万ポンド(約268億円)であり、フルイドはクラウドベースの小売業向けソフトウェア「ユニファイド・コマース・プラットフォーム(UCP)」の提供を行っています。

フルイドのUCPは、小売店が利用中のPOSやセルフレジ、モバイルPOSなどのハードウェアに関わらず導入が可能であり、価格設定や支払い、プロモーション、注文、配送等の処理を一元的に行うことができます。この買収により、グローリーはUCPの提供拡大などソフトウェア事業の充実を図り、グループの海外のリテール市場・飲食市場向け事業を強化することを目指しています。

グローリーグループは『長期ビジョン 2028』のもと、「新たな信頼」を創造するリーディングカンパニーへの変革を目指しており、『2023中期経営計画』では、海外事業の強化と通貨処理機関連事業の枠を超えた事業領域の拡大に取り組んでいます。フルイド社の買収は、グローリーグループにとって非常に重要な戦略的ステップであり、SaaSモデルによる収入源の拡大や、フルイド社が提供する業務効率の向上、コスト削減、シームレスな消費者体験の提供、環境への好影響等のコアバリューが、グループの既存ソリューションと高い親和性を持っていることから、今後の事業拡大に大いに貢献すると考えられています。

また、両社の販売チャネルを通じた製品販売の拡大などのシナジー効果も期待されており、特にフルイド社にとっては、グローリーグループの貨幣処理機事業分野における世界的なプレゼンスや販売チャネルを活用することにより、小売店やレストラン等の成長を加速させることができると考えられています。これにより、グローリーグループは、グローバル市場でのリテールおよび飲食市場向け事業をさらに強化し、長期ビジョンに沿った成長を実現することが期待されます。

出典: https://pdf.irpocket.com/C6457/cXlT/gzU4/gDrA.pdf

イタンジによるHousmartの買収

動産賃貸領域DXを推進するイタンジ株式会社は、不動産売買領域DXを専門とする株式会社Housmartの発行済み株式の取得を通じて、同社をグループ会社化することを決定しました。この経営統合は、顧客の多様なニーズに対応し、さらなる付加価値を提供することを目指す戦略的なステップとして位置付けられています。

イタンジは、不動産賃貸管理や賃貸仲介領域における業務効率化システムを提供しており、導入顧客数や電子入居申込数において業界内で高いシェアを獲得しています。一方、Housmartは不動産売買仲介営業の支援に特化したシステム「プロポクラウド」を開発・運営し、売買仲介の業務効率化を実現しています。

2024年1月4日を目処に進められる経営統合を通じて、イタンジとHousmartは組織・顧客基盤・テクノロジーのシナジーを活かし、マーケットシェアの拡大と業界の課題解決に貢献していく予定です。両社の統合は、賃貸領域と売買領域の事業が一体となることで、本質的な顧客ファーストに繋がり、多様化する不動産会社様のニーズに対応する上で大きな意味を持っています。

加えて、GA technologiesが発表した通り、イタンジがHousmartを買収することで、賃貸仲介・売買仲介の両領域をカバーしたSaaSプラットフォームの構築と事業領域の拡大を目指します。また、双方の顧客基盤を活用したクロスセルにより、両社の事業成長を加速させることが期待されています。この買収と経営統合により、イタンジとHousmartは不動産業界における新たな価値提供とサービスの拡張に向けて歩みを進めていくとしています。

出典: https://itandi.co.jp/press_releases/155

三菱電機による英ICONICS UKの全株式取得

三菱電機株式会社は、自社グループ内のソフトウエア開発体制のさらなる強化と、FA(ファクトリーオートメーション)領域における循環型デジタル・エンジニアリング事業モデルの確立を目的として、米国に本拠を置くICONICS, Inc.(以下、ICONICS社)を通じて、英国ICONICS UK, Ltd.(以下、ICONICS UK社)の全株式を取得しました。この取得により、ICONICS UK社はICONICS社の100%子会社となります。

2019年にICONICS社を完全子会社化して以来、三菱電機はグローバルでのソフトウエア開発体制を強化してきました。ICONICS UK社は、ICONICS社製品の英国販売代理店として、独自にクラウドアプリケーションの開発およびSaaS(Software as a Service)事業を展開しています。これにより、UX(ユーザーエクスペリエンス)やクラウド関連の技術資産およびエンジニアリング能力を有しており、これらを三菱電機グループ内で取り込むことで、製造現場から様々なデータを収集し、デジタル空間上で再現・分析・活用する統合ソリューションの進化を図ることが可能となります。

この買収は、三菱電機にとって製造現場での生産性や品質を向上させ、TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)削減に貢献する重要な戦略的ステップです。ICONICS UK社のクラウドアプリケーション開発技術やノウハウの取り込みにより、三菱電機とICONICS社はFA領域におけるデジタル変革の加速を目指します。

このように、三菱電機による英ICONICS UKの全株式取得は、デジタル技術を活用した製造現場の最適化および事業モデルの革新に向けた重要な一歩であり、グループ全体のソフトウエア開発能力と事業展開の拡大に大きく貢献するものと期待されています。

出典: https://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2023/pdf/0602.pdf

JストリームによるLAMILAの子会社化

Jストリームは、2023年5月25日に、動画マニュアルを容易に作成できるSaaS「VideoStep」を開発・販売する株式会社LAMILA(以下、LAMILA)の全株式を取得し、同社を子会社化することを発表しました。取得価額は5億円で、取得後の持ち株比率は100%となります。この取得は7月中に予定されています。LAMILAは、「動画をあらゆる現場に実装し、働き方を変える」という事業ミッションのもと、多彩な機能を持つ動画マニュアル作成サービスを提供しています。このサービスは、動画編集が未経験のユーザーでも容易に使いこなすことができることを特徴としています。

Jストリームは、企業のビジネスにおける動画の利用を創業以来支援しており、特に教育・トレーニング用途の動画利用の成長可能性に注目しています。LAMILAのサービスや保有する動画・AIに関する技術ノウハウは、Jストリームが保有する配信インフラや関連する技術ノウハウ、営業力との親和性や相乗効果が高いと判断され、この子会社化が決定されました。

今後、JストリームとLAMILAは、両社の技術の相互活用とサービスへの組み込みを進め、Jストリームのリソースを活かした営業展開や管理面の支援を通じて、新たな市場の効率的な獲得に向けて協業を進めていく予定です。また、LAMILAは社名を「VideoStep」に変更する予定であり、これによりブランドの統一と市場へのアピールを図ります。

この子会社化により、Jストリームは動画マニュアル作成市場におけるプレゼンスを高め、動画を活用した新たなビジネスモデルの創出と市場拡大を目指しています。LAMILAの技術とJストリームのリソースの融合は、企業の動画活用をさらに促進し、効率的で多様な働き方の支援に寄与することが期待されます。

出典: https://www.stream.co.jp/pdf/?g=2023-05-25&t=15-00&v=1&d=ir

まとめ

2024年に入り、SaaS業界ではM&A(合併・買収)が活発に行われています。これは、市場の成長と技術革新の加速、さらには競争の激化に伴うものです。特に、人材不足の解消、法規制への適応、顧客ニーズへの細やかな対応、販売戦略の強化、そして国際競争力の向上といった課題に対処するため、多くの企業がM&Aを戦略的手段として選択しています。

事例としては、JストリームによるLAMILAの子会社化や、三菱電機による英ICONICS UKの全株式取得などが挙げられます。これらの事例から、SaaS企業が技術や人材、市場アクセスなどの資源を迅速に獲得し、サービスの範囲を拡大し、顧客サービスの質を向上させるためにM&Aを活用していることが分かります。

また、これらのM&A活動は、企業が新たな市場機会を掴み、競争力を高めることを目的としています。特に、グローバル市場での競争に勝ち残るためには、技術革新だけでなく、効果的なビジネスモデルや販売戦略、そして国際的なビジネス展開の強化が不可欠です。

2024年のSaaS業界におけるM&Aトレンドは、企業の成長戦略や競争力強化のための重要な手段として位置付けられています。これらのM&Aは、業界全体のイノベーションを促進し、顧客にとってより良いサービスを提供するための新たな可能性を開くことに寄与していると言えるでしょう。