M&Aの価格相場とは?目安金額の算出方法を解説!

M&Aの金額に目安があるのはご存知でしょうか。M&Aを成功させるためには、適正な価格を設定することが不可欠です。M&Aの価格相場を理解していないと、売り手は相場よりも低い価格で売却してしまったり、買い手は必要以上に高額な支払いをしてしまうリスクがあります。本記事では、M&Aの価格相場とは何か、その算出方法や価格に影響を与える要素について解説していきます。売り手・買い手双方にとって有利な取引を実現するために、相場の理解を深めましょう。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

M&Aの価格相場とは?その概要と重要性

M&Aの価格相場とは、企業の売買において、売り手と買い手が納得する価格を設定するための基準となるものです。M&Aは、企業や事業を譲渡・譲受する取引であり、その規模や価値に応じて譲渡価格が決まります。しかし、M&Aには明確な固定価格が存在せず、対象企業の価値、業界の状況、買い手・売り手の意向に左右されます。したがって、売却価格の目安を理解することが、円滑なM&Aの実現に不可欠です。

また、価格相場の理解は、売り手が適正な価格で事業を手放し、買い手が過剰な支出を避けるためにも重要です。M&Aのプロセスは複雑で、価格交渉が大きな鍵を握るため、価格相場を正しく把握することで、双方にとって公正で合理的な取引が実現します。以下では、M&Aの価格相場について見ていきます。

M&A価格相場

M&A価格相場とは、企業や事業を売却する際に売り手と買い手の間で合意される価格の基準を指します。この相場は、一般的に企業価値の評価や市場の動向に基づいて決まりますが、明確な固定価格は存在しません。M&A取引の価格は、複数の要因を考慮して交渉によって決まるため、「時価純資産額+営業利益の一定年数分」を基準にすることが一般的です。この方法は特に中小企業のM&Aにおいて頻繁に使用され、譲渡価格の目安を示します。

たとえば、純資産が15億円、年間の営業利益が3億円の企業の場合、「15億円+3億円×2~5年分」が価格の目安となります。これにより、譲渡価格は21~30億円程度が妥当な範囲と考えられます。ただし、企業の将来性や市場の競争状況、取引先の価値など、目に見えない価値も価格に反映されるため、実際の価格はこれを上回る場合や下回る場合があります。

このように、M&Aの価格相場は売り手・買い手双方が納得する交渉価格に基づくものであり、単なる市場価格の算出ではありません。企業ごとの独自の価値、買い手の戦略的意図なども大きく影響します。

M&Aの価格相場が重要な理由

M&Aにおいて価格相場を把握することは、売り手・買い手双方にとって非常に重要です。売り手にとって、適切な相場を理解することで、自社や事業の価値を過大評価または過小評価することを防ぎ、公正な価格での取引を実現できます。一方、買い手は、企業の適正価格を知ることで、必要以上に高額な支出を避け、将来の利益を最大限に引き出すための投資ができます。

M&Aの交渉では、売り手が過大な価格を提示すれば、買い手が興味を失う可能性があり、逆に低すぎる提示は売り手に不満を抱かせ、取引が不成立に終わるリスクがあります。したがって、相場の理解は、交渉を円滑に進め、適正価格での取引成立を導くための鍵となります。

特に、中小企業のM&Aでは、売却価格が売り手の今後の生活や次の事業資金に直結するため、相場の把握は経営者にとって大きな意味を持ちます。相場を把握せずに進めると、価値を見誤って適正価格よりも大幅に低い価格で売却してしまうリスクがあります。

また、買い手にとっても、価格相場を知っておくことで、適切な投資判断を下せます。M&Aは資産の取得だけでなく、事業の継続や成長戦略に関わる重要な投資です。過大な買収価格は、投資回収に長期間を要するため、キャッシュフローの予測が大きく狂いかねません。そのため、買い手も価格相場の知識を持つことが、成功するM&A取引を実現するための一歩となります。 

M&Aの価格相場を決定する要素

M&Aの価格相場を決定する際には、複数の要素が考慮されます。これらの要素は、企業の財務状況や将来性、事業に関連する無形の価値など、多岐にわたります。以下では、特に重要な「純資産」、「将来の収益予測」、「取引先や顧客リスト」、「従業員の価値」、「市場シェアと技術力」の5つの要素について解説します。これらの要素を正しく評価することで、M&Aの価格交渉において適正な価格を導き出すことが可能です。

純資産とその影響

純資産は、M&Aにおける価格相場を決定する際の基本的な指標の一つです。純資産とは、企業が保有する資産から負債を差し引いたもので、企業の財務的な健全性を示します。M&Aの価格算定において、売り手企業の純資産が時価評価され、その金額がベースとなることが一般的です。

具体的には、純資産額を基にして「時価純資産法」が用いられることが多く、この方法では、対象企業の財務諸表に記載された資産と負債を時価評価します。例えば、営業債権や有形固定資産などを時価で計算し、これを負債から差し引くことで企業の純資産額を算出します。これにより、M&A取引の基礎価格が決定されるわけです。

ただし、時価純資産法は過去の財務データに依存するため、将来の事業成長やキャッシュフローを反映していない点がデメリットとなります。そのため、この方法単独では、企業の価値を過小評価してしまう可能性があるため、他の要素との組み合わせが重要です。

将来の収益予測とキャッシュフロー

純資産だけでなく、将来の収益予測やキャッシュフローも、M&Aの価格相場を決定する重要な要素です。将来の利益予測に基づいて企業価値を評価する方法として、最も一般的に使用されるのが「DCF法(Discounted Cash Flow)」です。

DCF法は、将来にわたって企業が生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて計算する手法です。具体的には、予測されるフリーキャッシュフロー(営業利益に設備投資や運転資本の変動を考慮したもの)を割引率で調整し、企業の現在の価値を算出します。この方法は、将来の収益性やリスクを反映させるため、成長中の企業やキャッシュフローが安定している企業の評価に適しています。

例えば、事業計画を基にしたキャッシュフローの予測が信頼できる企業であれば、DCF法によってその企業が将来もたらす利益を正確に評価でき、価格が高くなることがあります。一方で、計画が不確実な場合や、市場のリスクが大きい企業では、割引率が高く設定されるため、企業価値が低く評価されることもあります。

取引先や顧客リストの価値

取引先や顧客リストも、M&A価格に大きな影響を与える無形資産の一部です。特に、売却対象企業が多くの安定した取引先や既存顧客を抱えている場合、それがM&A後の事業安定に直結するため、価値が高く評価されます。

取引先が多い企業を買収することで、新規顧客を探す手間を省き、すぐにビジネスを展開できることは買い手にとって非常に魅力的です。また、信頼関係が確立された取引先があることで、ビジネスリスクを軽減し、新しいビジネスチャンスが生まれる可能性もあります。このように、安定した取引先や顧客基盤は、M&Aにおいて価格を引き上げる要因となります。

一方、顧客リストも重要な資産です。特に、新規事業への参入を目指す買い手企業にとって、顧客リストは貴重なビジネス資源です。新規参入の際、顧客獲得に大きなコストと時間がかかることが一般的ですが、既に顧客基盤がある企業を買収することで、その手間を省き、事業の早期立ち上げが可能になります。これにより、取引先や顧客リストの価値がM&A価格に反映されます。

従業員の価値

従業員の存在もM&A価格に大きく影響を与える要素です。特に、買収対象企業が高度な専門知識や技術を持つ従業員を抱えている場合、その価値は非常に高くなります。新規事業に参入する際、経験豊富な人材やノウハウを持つ従業員をゼロから採用するには多大な時間とコストがかかるため、既にそうしたリソースを保有している企業を買収することは、買い手にとって大きなメリットです。

さらに、従業員の価値は、M&A後の事業運営においても重要です。熟練した従業員が引き継がれることで、買収後の事業継続がスムーズに進み、業績が安定します。特に、中小企業では、創業メンバーや長年働いている従業員のノウハウが事業運営に大きく寄与しているため、その価値はM&A価格に大きく反映されることがあります。

市場シェアと技術力

企業が保有する市場シェアや技術力も、M&A価格を大きく左右する重要な要素です。市場シェアとは、その企業が特定の業界や地域でどれだけのシェアを持っているかを示す指標であり、シェアが大きければ大きいほど、その企業の競争力が高く評価され、M&A価格が上昇する傾向にあります。

たとえば、特定の市場で大きなシェアを持つ企業を買収すれば、買い手企業はその市場での競争優位性を即座に手に入れることができます。一から新規市場に参入するよりも、既存のシェアを持つ企業を買収する方がリスクが少なく、成功確率が高まるため、市場シェアの高い企業は高値で取引されることが多いのです。

技術力も同様に、M&Aにおいては非常に高い評価が与えられる要素です。特に、他社が模倣できない独自技術や知的財産権を保有する企業は、その技術力を武器に競争優位を築いており、買い手にとっては魅力的な買収対象となります。高度な技術を持つ企業を買収することで、新たなビジネスチャンスを創出できる可能性があるため、技術力がM&A価格に大きな影響を与えることは言うまでもありません。

DawnX

近年、少額M&A案件が増加しており、個人事業主やサラリーマンの独立希望者にとっても参入しやすい環境が整ってきています。し…

M&Aの価格相場を算出する代表的な方法

M&Aの価格相場を算出する際には、さまざまな方法が用いられます。企業の財務状況や将来性を考慮して、最も適切な方法を選択することで、売り手・買い手双方にとって納得のいく価格が導き出されます。ここでは、代表的な3つの算出方法、すなわち「修正純資産法」「DCF法(Discounted Cash Flow法)」「類似会社比較法(マルチプル法)」について解説します。

修正純資産法

修正純資産法は、企業が保有する資産と負債を基にして、その純資産額を時価で評価する手法です。簿価純資産法と異なり、修正純資産法では資産や負債を時価に換算するため、より現実的な企業価値が算出されることが特徴です。この方法では、企業の貸借対照表に基づく資産と負債を時価評価し、資産から負債を差し引いた純資産額をM&Aの価格の基礎として用います。

メリット

修正純資産法は、計算が比較的簡単であるため、企業の現時点での財務状態を迅速に把握することができます。また、現時点での資産価値を反映させるため、企業の保有資産が重要な価値を持つ場合に有効です。

デメリット

しかし、将来的な収益や事業拡大の可能性を反映しないため、成長企業や収益力の高い企業に対しては過小評価となることがあります。特に、無形資産(ブランド力や顧客関係など)が企業価値の大部分を占める企業では、この方法のみでは企業の真の価値を評価しきれない場合があります。したがって、修正純資産法は企業の財務状況を正確に把握するための一手段ですが、成長性を考慮しないという点で、他の方法との併用が望ましいでしょう。

DCF法(Discounted Cash Flow法)

DCF法(Discounted Cash Flow法)は、将来にわたって企業が生み出すと予想されるキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出する方法です。この手法は、企業が持つ将来の収益性を評価し、それを価格に反映させるため、企業価値をより包括的に評価することが可能です。

DCF法では、まず企業のフリーキャッシュフロー(営業利益から投資や運転資本の増減を差し引いたもの)を予測し、そのキャッシュフローをリスクに基づく割引率で現在価値に調整します。たとえば、成長が見込まれる企業であれば将来のキャッシュフローが高く評価され、企業価値が高まる傾向があります。

メリット

DCF法は、企業の将来の成長可能性や収益力を反映できるため、成長中の企業や安定したキャッシュフローを持つ企業に適しています。将来の収益を評価するため、売り手側にとっては特に有利な評価方法となることが多いです。

デメリット

一方で、事業計画書やキャッシュフロー予測に主観や不確実性が含まれるため、計算結果にブレが生じる可能性があります。また、割引率の設定次第で結果が大きく異なるため、慎重な設定が必要です。DCF法は、将来の利益を重視する買収戦略において重要な手法であり、特に今後の成長が見込まれる企業を評価する際に有効です。

類似会社比較法(マルチプル法)

類似会社比較法(マルチプル法)は、同一業種の上場企業の株価や各種財務指標を基にして、対象企業の価格を算出する方法です。この手法では、対象企業と同様の事業モデルや規模を持つ上場企業を比較対象とし、その企業の市場価値に基づいてM&A価格を決定します。一般的に「EV/EBITDA倍率」や「PER(株価収益率)」などの指標が用いられます。

たとえば、同じ業界内で規模の近い上場企業が複数存在する場合、その企業の株価や利益率などを参考にすることで、対象企業の市場価値を相対的に評価できます。

メリット

類似会社比較法は、株式市場のデータをもとに評価するため、客観性が高く、適正な相場を把握しやすいという利点があります。市場動向を反映しやすいため、現在の経済状況や業界のトレンドに基づいた現実的な価格が算出できます。

デメリット

ただし、類似する上場企業が見つからない場合や、比較対象企業が限定的である場合、この手法を用いることが難しくなります。また、上場企業を基準にするため、上場していない中小企業や特殊なビジネスモデルを持つ企業には適用が難しい場合があります。

類似会社比較法は、特に同業他社が多く存在し、市場での相対的な評価が容易な場合に有効な手法です。特に、買い手側が市場全体の動向を反映した価格を求める際には、活用されることが多いです。

事業譲渡と株式譲渡の価格相場の違い

M&Aの実施方法にはさまざまな選択肢があり、事業譲渡と株式譲渡はその中でもよく利用される手法です。両者は取引対象や譲渡範囲が異なるため、価格相場にも違いがあります。ここでは、事業譲渡と株式譲渡のそれぞれの特徴や価格相場の違いについて解説します。

事業譲渡の価格相場

事業譲渡は、特定の事業や資産のみを売却する方法で、会社全体ではなく一部の事業を売却する点が特徴です。このため、売却対象となる資産や権利、負債などを個別に選択して譲渡できる柔軟性があります。事業譲渡の主な対象には、有形固定資産、無形資産(特許、商標権など)、棚卸資産、そして取引先や顧客リストなどが含まれます。

価格相場の決定要素

事業譲渡の価格は、対象となる資産や事業の現在価値と、将来の収益性が反映されます。以下の要素が主な価格決定の基準です。

  • 純資産価値

譲渡対象となる資産と負債の差額(純資産)を時価で評価した金額。

  • 営業利益の複数年分

譲渡する事業の過去数年間の営業利益をベースに、将来の収益性を考慮して価格が決定されます。

  • のれん代

事業譲渡では、ブランド力や顧客基盤などの無形資産の価値も価格に含まれることがあります。これを「のれん代」として評価し、最終価格に加えることがあります。

事業譲渡は、事業の一部だけを切り離して売却するため、株式譲渡と比較して売却価格は低めになる傾向があります。ただし、事業の収益力やブランド力、顧客リストなどの資産価値が高い場合は、相場を大きく上回ることもあります。

税務面の特徴

事業譲渡では、譲渡側には法人税が課され、買収側には譲渡資産に消費税が課されることがあります。また、事業全体ではなく部分的に譲渡されるため、税務の処理が複雑になる場合があります。

株式譲渡の価格相場

株式譲渡は、会社の株式を売却して、買い手がその会社の経営権を取得する方法です。株式譲渡は、企業全体の経営権を買収するため、事業譲渡と比べて取引範囲が広く、譲渡価格も高くなる傾向があります。企業の全体像が売却の対象となり、経営権、資産、負債、従業員、取引先関係など、すべてを引き継ぐ点が特徴です。

価格相場の決定要素

株式譲渡の価格は、企業全体の価値を反映したものであり、以下の要素が影響します:

  • 純資産額

会社の純資産額が基本的な価格の基準となります。これは、貸借対照表に示された資産から負債を差し引いた金額です。

  • のれん代

株式譲渡でも、事業の将来性やブランド価値、技術力など、無形資産の価値が高い場合には、「のれん代」として売却価格に加算されます。

  • 将来のキャッシュフロー

将来にわたって企業が生み出すキャッシュフローの見込みも、企業価値に反映されます。これをDCF法などで評価し、株式譲渡の価格算定に用いることが一般的です。

株式譲渡では、企業全体の価値を評価するため、事業譲渡よりも高い価格設定になることが多いです。特に、買収後にシナジー効果が期待される場合や、売却企業が安定した利益を上げている場合は、相場を大きく上回る金額が提示されることもあります。

税務面の特徴

株式譲渡では、譲渡側には個人であれば所得税・住民税、法人であれば法人税が課されますが、買収側には税負担が発生しない点が特徴です。このため、税務的な負担が比較的軽いことから、株式譲渡は特に中小企業のM&Aで多く利用されています。

高値でM&Aを成立させるためのコツ

M&Aを成功させるためには、適切な価格で取引を進めることが重要ですが、より高値で売却するためにはいくつかのポイントがあります。特に、売却価格を高めるには、買い手候補との交渉力や自社の魅力をどのように伝えるかがカギとなります。以下に、高値でM&Aを成立させるための具体的なコツを紹介します。

複数の買い手候補と交渉する

M&Aにおいて、売却価格を高めるためには、できるだけ多くの買い手候補と交渉を行うことが有効です。複数の買い手候補と交渉を進めることで、価格競争が生まれ、結果的に売却価格が引き上げられる可能性が高まります。この方法は、いわゆるオークション方式のように、複数の企業に自社の事業や株式を提示し、最も良い条件を提示してくれた企業に売却するという流れです。

このプロセスの利点は、以下の点にあります。

  • 競争原理を活用できる

買い手候補が複数いることで、買い手側はより有利な条件を提示しようとするため、自然と価格が上がる傾向にあります。

  • 最良の条件を選択できる

複数の買い手と交渉することで、単に価格面だけでなく、事業承継後の成長や従業員の雇用維持など、条件面でも最良の選択肢を得られる可能性が高まります。

ただし、複数の買い手候補と交渉する際は、売り手自身がそのプロセスをうまく管理する必要があります。あまりにも多くの候補と交渉を進めると、逆に時間やコストがかかりすぎてしまう可能性もあるため、最適な候補を絞りつつ進めることが大切です。

自社の魅力を買い手にアピールする

M&Aにおいて、自社の魅力を効果的に買い手にアピールすることは、売却価格を高めるための非常に重要なポイントです。買い手が自社に魅力や価値を感じなければ、高い価格での取引は難しいため、いかにして自社の強みを強調するかが成功のカギを握ります。

具体的にアピールすべきポイントは以下の通りです。

  • 財務面での安定性

安定した売上や利益を持っていることは大きなアピールポイントです。過去数年の財務データを提示し、買収後も安定したキャッシュフローが期待できることを示すと、買い手は将来的な利益を見込んで、より高い価格を提示する可能性があります。

  • 独自の技術やノウハウ

他社にはない独自の技術やノウハウを持っている場合、それを強調することで企業の付加価値が大きくなります。特に高度な技術や専門知識を持つ従業員が多い企業は、それ自体が無形資産として評価されることが多いため、買い手にとっても魅力的な要素となります。

  • 取引先や顧客リストの重要性

安定した取引先や顧客基盤を持っていることも強いアピールポイントです。特に長期的な取引関係がある企業や、信頼性の高い顧客リストがある場合、買い手は新規顧客開拓にかかる時間やコストを省けるため、価値が高まります。

  • 将来の成長性

買い手にとって、自社が将来どのように成長する可能性があるかも重要な判断基準です。今後の市場動向や事業計画を具体的に示し、成長余地があることを伝えることで、買い手はその成長を見込んで高値での買収を検討するようになります。

これらのポイントを適切に伝えるためには、事前に買い手のニーズを理解し、相手が何を求めているのかを把握することが大切です。たとえば、技術力を求めている買い手には自社の技術的な優位性を強調し、安定した収益基盤を求めている買い手には財務データを細かく説明するなど、相手に合わせたアプローチが必要です。

M&Aの価格交渉における注意点

M&Aにおける価格交渉は、売り手と買い手の間で複雑な駆け引きが繰り広げられる場面です。双方の利益を最大化するためには、交渉の進め方や戦略をしっかりと理解し、適切なアプローチを取ることが必要です。ここでは、M&Aの価格交渉において留意すべきポイントを解説します。

個別交渉方式とオークション方式の違い

M&Aの価格交渉には大きく分けて「個別交渉方式」と「オークション方式」の2つの方法があります。それぞれの方法には、メリットとデメリットがあり、売り手の状況や希望に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。

個別交渉方式

個別交渉方式では、売り手が特定の1社と直接交渉を行い、条件を詰めていく方法です。この方式の大きなメリットは、交渉のスピードが速い点です。特定の買い手に絞って交渉を進めるため、条件のすり合わせも比較的スムーズに行われ、短期間で取引をまとめることが可能です。また、売り手と買い手が早期に信頼関係を築けるため、後々の事業承継や統合がスムーズに進むケースが多いのも特徴です。

しかし、個別交渉方式にはデメリットもあります。まず、買い手が1社しかいないため、価格の競争が起こりにくく、必然的に売却価格が低く設定されるリスクがあります。また、売り手の強みや魅力を十分にアピールしないまま、交渉が進んでしまう可能性もあるため、適切なタイミングで価格や条件を見直すことが求められます。

オークション方式

一方、オークション方式では、売り手が複数の買い手候補を募り、その中から最も有利な条件を提示した企業を選定します。この方式のメリットは、複数の買い手が競り合うことで、最終的な売却価格が高くなる傾向にある点です。特に、自社の事業や資産に対して高い評価を得られる場合、オークション方式は売り手にとって非常に有利な取引を実現できる手法です。

ただし、オークション方式にもデメリットがあります。まず、複数の買い手との交渉を同時に進めるため、手続きが複雑になりやすく、交渉期間が長引くリスクがあります。また、最終的に買い手を選んだ後は、その買い手と取引を確定する必要があり、途中で交渉を打ち切ることが難しくなる点にも注意が必要です。

価格交渉の成功ポイント

M&Aの価格交渉を成功させるためには、いくつかのポイントを押さえることが重要です。これらのポイントを踏まえ、交渉の場で最大限の結果を引き出すための戦略を立てましょう。

1. 事前準備を徹底する

価格交渉を成功させるためには、まずはしっかりとした事前準備が欠かせません。特に、売り手は自社の価値を客観的に評価し、それに基づいた価格設定を行うことが重要です。自社の強みや、業界でのポジション、今後の成長性などを詳細に分析し、それを買い手にアピールできるように準備しましょう。

また、買い手側も、購入を検討している企業の財務状況や将来性をしっかりと評価し、交渉時に過大なリスクを取らないよう注意を払う必要があります。

2. 適切な価格帯を設定する

価格交渉の際、売り手と買い手が提示する金額が大きく異なると、交渉がスムーズに進まなくなることがあります。そのため、売り手は事前に、自社の最低限譲れない価格を設定しておき、過剰な値下げ要求には応じない姿勢を持つことが重要です。

逆に、買い手側も、過度な値下げ要求をしすぎると、売り手との信頼関係が損なわれ、交渉自体が破談に終わる可能性があるため、慎重に価格設定を行うべきです。

3. 信頼関係を構築する

M&Aの交渉では、価格だけでなく、双方の信頼関係も重要な要素です。売り手が買い手に対して信頼を抱けなければ、いくら高額なオファーを提示されても交渉が成立しない可能性があります。逆に、買い手が売り手の企業文化や経営理念に共感し、長期的な視点で企業の成長を支える姿勢を示すことで、価格交渉もスムーズに進むことが期待されます。

4. オープンなコミュニケーションを心がける

価格交渉の場では、双方が率直に意見を伝え合うことが成功のカギです。売り手は、自社の価値をしっかりと説明し、買い手に納得してもらう努力をする必要があります。また、買い手も、懸念事項や将来のビジョンについて明確に伝えることで、売り手の理解を得やすくなります。

双方がオープンなコミュニケーションを心がけ、共通のゴールを見据えて交渉に臨むことで、より良い条件での取引が成立しやすくなります。

5. 専門家のサポートを得る

M&Aの価格交渉は、複雑で高度な知識が求められるため、専門家のサポートを受けることが推奨されます。M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーが交渉をサポートすることで、適切な価格設定や交渉戦略の立案が可能となり、取引を有利に進めることができるでしょう。

M&Aの手数料とその相場

M&Aを進める際、多くの企業がM&A仲介会社に依頼し、そのサポートを受けながらプロセスを進めます。仲介会社に依頼する際には、相談料や手数料が発生しますが、その内訳や相場について理解しておくことが大切です。また、近年人気の「完全成功報酬制」にはメリットとデメリットがあるため、依頼を検討する際に十分な知識を持っておくことが求められます。ここでは、M&Aの手数料の内訳と相場、完全成功報酬制の特徴について解説します。

M&A仲介手数料の内訳

M&A仲介会社に依頼する際、主に以下の3つの手数料が発生します。それぞれの役割と相場を把握することで、予算やプロセスに応じた対応が可能となります。

1. 相談料

M&Aを検討する初期段階で発生するのが相談料です。M&A仲介会社では、最初に経営者や担当者が相談を行い、売却の意思や買収の条件について話し合う場が設けられます。相談料は、依頼前に仲介会社の実績や対応の質を確認するための重要なステップです。

相場はM&A仲介会社によって異なりますが、最近では無料相談を提供する会社が増えており、初期のコストを抑えつつ、信頼できる会社を選ぶことができます。

2. 着手金

M&A仲介会社に正式に依頼し、業務委託契約を結ぶと発生するのが着手金です。着手金は、M&A案件が開始された時点での人件費や資料作成費などに対する費用です。着手金を徴収する理由は、交渉や資料作成などの初期業務が着手時点から発生するためです。

着手金の相場は、100万円〜500万円程度ですが、完全成功報酬制を採用している仲介会社では、着手金が発生しない場合もあります。ただし、着手金が発生する場合、取引が成立しなくても返還されないことが一般的であるため、あらかじめ確認しておく必要があります。

3. 成功報酬

M&A取引が成立した場合に支払われるのが成功報酬です。成功報酬は、取引額に対して一定の料率が適用される「レーマン方式」が一般的に採用されており、取引金額が大きくなるほど料率が下がるのが特徴です。

成功報酬の料率の一例として、次のような段階的な料率が適用されます。

  • 5億円以下の部分:5%
  • 5億円超〜10億円以下の部分:4%
  • 10億円超〜50億円以下の部分:3%
  • 50億円超〜100億円以下の部分:2%
  • 100億円超の部分:1%

たとえば、成約額が7億円の場合、5億円までの部分に5%、残りの2億円に4%を適用し、合計成功報酬が計算されます。成功報酬は、M&A取引において最も大きな手数料であるため、あらかじめ仲介会社と明確に契約内容を確認することが重要です。

完全成功報酬制のメリットとデメリット

完全成功報酬制は、M&Aが成立した場合にのみ仲介会社へ報酬を支払う方式で、近年では多くの仲介会社がこの制度を採用しています。特に中小企業のM&Aでは、着手金が発生しない完全成功報酬制の導入が進んでいますが、この方式にはメリットとデメリットが存在します。

メリット

1. 初期費用が発生しない

完全成功報酬制の最大のメリットは、着手金や相談料がかからない点です。M&Aが成立しなかった場合、経営者は手数料を支払う必要がなく、リスクを最小限に抑えることができます。特にM&A成立の可否が不透明な初期段階では、この方式が大きな安心材料となります。

2. 仲介会社のモチベーションが高い

仲介会社は、M&Aが成立しなければ報酬を得られないため、取引の成立に向けた努力を最大限行う姿勢が期待できます。つまり、仲介会社は積極的に買い手・売り手のマッチングや交渉を進め、最終的に成功させるためのアプローチを取る傾向があります。

3. 経営者にとって予算管理がしやすい

成功報酬は成約額に応じて段階的に支払われるため、取引が成立しない限りは大きな費用負担が発生しません。このため、経営者にとって予算管理がしやすく、安心してM&Aプロセスに臨むことができます。

デメリット

1. 成功報酬が高額になる可能性

成功報酬制の場合、取引が成立すればその報酬額は非常に高額になるケースがあります。特に大規模なM&A取引では、数千万円から億単位の成功報酬が発生することも珍しくありません。成功報酬額をあらかじめ確認し、予算内で適切な取引を進めることが重要です。

2. 仲介会社の迅速な対応が求められないケースも

成功報酬制の場合、仲介会社が成立しそうな案件に優先的に対応し、成立の可能性が低い案件には対応が遅れる場合があります。成立の確率が低いと判断された場合、迅速なサポートが受けられないリスクも考慮しておく必要があります。

3. 成立しない場合のプロセス終了リスク

完全成功報酬制では、M&Aが成立しなかった場合に費用がかからない一方で、途中で取引が破談になった場合、プロセスが途中で終了するリスクがあります。そのため、成立に向けた進捗管理や交渉過程においては慎重な計画が求められます。

まとめ: M&Aの価格相場を知っておこう!

M&Aの価格相場を決定するには、複数の要素を考慮する必要があります。純資産や将来の収益予測、取引先や顧客リスト、従業員の価値、そして市場シェアや技術力など、目に見えない企業の強みが価格に大きく影響します。また、修正純資産法やDCF法、類似会社比較法といったさまざまな計算手法を用いることで、企業価値を具体的に算出できます。

さらに、事業譲渡や株式譲渡の形態によっても価格は大きく異なり、それぞれの手法の特徴を理解しておくことが大切です。交渉においては、買い手・売り手双方の思惑が異なるため、適正な価格相場を基にした慎重な交渉が求められます。

M&Aの取引を成功させるためには、相場を知り、価格交渉を進める上でのポイントを押さえることが重要です。適切な知識を持ち、複数の買い手候補と交渉しながら、自社の魅力を最大限にアピールすることで、より有利な取引を実現することが可能です。

1分査定を試す

無料で売却額査定

相談する

相談する(秘密厳守)