M&Aは、企業の成長戦略や市場競争力の強化において、非常に効果的な手法です。しかし、M&Aを成功に導くためには、適切な部署の設立と体制構築が不可欠です。企業間の取引は複雑で多岐にわたり、経営戦略の策定、法的リスクの管理、財務デューデリジェンス、買収後の統合プロセス(PMI)など、さまざまな専門的対応が求められます。
本記事では、M&Aに必須の部署とその担当役割について解説します。経営企画部署、M&A統括部署、法務部署、経理(財務)部署、そしてPMI担当部署(事業推進部署)のそれぞれが、どのようにM&Aの成功を支えているのかを明らかにします。また、M&Aの体制構築時における買い手企業と売り手企業のポイント、さらには専門家の活用によるメリットについても触れ、実務に役立つ知識を提供します。
- この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)
M&Aにおける体制構築の重要性
M&Aは、企業の成長や戦略的な転換を図るための重要な手法です。しかし、その成功を収めるためには、単に取引を成立させるだけでは不十分です。M&Aのプロセス全体をスムーズに進め、買収後の統合を成功させるためには、自社内での適切な体制構築が初めのステップとして非常に重要です。この体制構築は、M&Aを円滑に進めるだけでなく、企業全体の成長と持続可能な発展を支える基礎となります。
M&Aを成功させるためのはじめのステップ
M&Aの成功は、事前の準備と計画に大きく依存しています。これは、単なる財務的な取引以上のものです。組織の文化、経営方針の統合、事業計画の見直しなど、さまざまな要素が絡み合います。これらの複雑なプロセスを効果的に管理するためには、M&Aの初期段階からしっかりとした体制構築を行うことが不可欠です。具体的には、M&Aに関する専門的な知識を持つ部署を設立し、適切な人材を配置することで、取引の全プロセスを統括し、問題発生時には迅速に対応できる体制を整えることが求められます。
自社内の体制構築が必要な理由
M&Aの実施には、多岐にわたる専門知識とスキルが必要です。法務、財務、経営戦略、人事など、多様な分野の知識が求められ、これらを適切に管理することがM&Aの成否を左右します。自社内で体制を構築することにより、社内の事情に精通したチームが迅速かつ適切な判断を下すことが可能になります。また、社内体制が整備されていれば、情報漏洩のリスクを抑え、必要な情報が迅速に共有され、関係部署との連携もスムーズに行えるため、取引全体の効率が向上します。
さらに、M&Aにおいては、買い手企業と売り手企業の双方がそれぞれの立場から最善の結果を得るために、自社の状況やニーズに応じた対応が必要です。そのため、自社内にM&Aの専門部署を設立し、継続的に体制を強化することが、長期的な企業価値の向上にもつながります。特に、大規模な取引や頻繁にM&Aを行う企業では、外部専門家だけに依存するのではなく、内部での知識蓄積とノウハウの共有が重要です。
専門部署の設立が求められる背景
M&Aは、その取引の規模や複雑さに応じて多くの課題を伴います。例えば、契約書の作成や法務デューデリジェンス、財務評価、交渉戦略の策定など、各分野における専門知識が必要です。これらの業務を外部の専門家に依頼することも一つの選択肢ですが、全てを外部に依存することはリスクを伴います。外部の専門家では、企業の内部事情や長期的な戦略まですべてを理解することは難しいため、的確な判断や迅速な対応が遅れる可能性があります。
また、M&Aは企業の将来に直接影響を与える重大な戦略的決定であるため、意思決定のスピードと正確さが求められます。そのため、企業内部に専門部署を設立し、M&Aに精通した人材を育成・配置することで、迅速かつ正確な意思決定が可能になります。さらに、社内のM&A部署は、経営陣との密接な連携が必要であり、経営戦略とM&A戦略を一貫して推進できるという強みも持っています。
これにより、取引の初期段階から統合フェーズに至るまで、一貫してM&Aプロセスを管理できる体制が整います。特に、PMI(Post-Merger Integration:買収後の統合)の成功は、M&Aの成果を左右する最も重要な要素の一つであり、このフェーズにおいても専門部署の存在が成功のカギとなります。内部の専門部署がPMIをリードすることで、企業文化の統合や経営方針の一貫性を保ち、M&Aによるシナジー効果を最大限に引き出すことが可能になります。
M&Aに必須の部署とは?
M&Aを成功させるためには、単に合併や買収の契約を締結するだけでなく、各フェーズにおいて専門的な対応が求められます。これには、戦略の立案から交渉、契約締結、買収後の統合プロセス(PMI)に至るまで、幅広い分野の知識とスキルが必要です。そのため、企業はM&Aに特化した部署を設立し、効果的に体制を整える必要があります。以下では、M&Aに必須の部署として経営企画部署、M&A統括部署、法務部署、経理(財務)部署、そしてPMI担当部署(事業推進部署)の役割と重要性について解説します。
経営企画部署
経営企画部署は、会社全体の経営戦略を策定し、その一環としてM&Aの実行可否を判断する役割を担っています。企業の成長や競争力強化のために、どのような企業をターゲットとすべきか、またM&Aのタイミングが適切かどうかを分析し、最終的な意思決定をサポートします。経営企画部署は、市場や競合の動向、経済環境などを総合的に分析し、企業全体の戦略とM&A戦略を整合させることが求められます。
また、経営企画部署がM&A統括部署を兼任しているケースも少なくありません。この場合、M&Aの候補企業の選定から交渉、成立に至るまでの一連の業務を担当し、経営陣と密接に連携を取ることで、M&A戦略を迅速かつ的確に実行します。経営企画部署は、M&Aのプロジェクトマネージャーとして、各部署間の調整役を果たし、プロジェクト全体の進行を管理する重要なポジションです。これにより、M&Aが企業の長期的な成長戦略と一致していることを確保し、企業のビジョン達成に寄与します。
M&A統括部署
M&A統括部署は、M&Aに特化した少数精鋭のチームで構成され、M&Aプロセスの中心的役割を担います。この部署の主な任務は、M&Aの目的を明確にし、その達成に向けた戦略を策定することです。M&A統括部署は、候補企業の選定、交渉、PMI(Post-Merger Integration:買収後の統合)の取りまとめなど、M&Aにおける全プロセスをリードします。
M&A統括部署は、他部署と連携しつつも、限られた人数で構成されることが一般的です。これは、M&Aの過程で扱う情報が極めて機密性が高いためであり、情報漏洩のリスクを最小限に抑えるためにも、プロジェクトに関与するメンバーを限定することが重要です。また、M&A統括部署は、迅速な意思決定と柔軟な対応が求められるため、経験豊富なメンバーが揃い、効率的にプロジェクトを進行できる体制が整っています。
この部署は、M&Aの初期段階から統合フェーズに至るまで、一貫してプロジェクトを管理する役割を果たします。特にPMIの取りまとめでは、異なる企業文化や経営方針の統合をスムーズに進めるための戦略的な計画と実行が求められます。M&A統括部署の成功は、M&A全体の成功に直結するため、その重要性は極めて高いといえます。
法務部署
M&Aにおいて法務部署の役割は極めて重要であり、契約書の作成やチェック、法務デューデリジェンスの実施など、多岐にわたる業務を担当します。M&Aは会社法や労働契約、独占禁止法など、さまざまな法律が絡むため、法務の知識が不可欠です。法務部署は、これらの法律に基づき、契約書の内容が適切であるか、また法律上のリスクがないかを慎重に確認します。
法務デューデリジェンスでは、対象企業の法的なリスクを洗い出し、取引に潜むリスクを未然に防ぐための重要な調査を行います。これには、訴訟リスクや労務問題、契約上の問題などが含まれます。法務部署は、外部の弁護士と連携して、取引全体を法的にサポートし、問題が発生した場合には迅速に対応できる体制を整えます。この連携により、M&Aの法的リスクを最小化し、企業の持続可能な成長を支える重要な役割を果たします。
法務部署の活動はM&Aの成功に直接影響を与えるため、契約内容に不備があれば取引全体が頓挫する可能性もあります。そのため、法務部署はM&Aのあらゆる段階で必要不可欠な存在であり、その重要性は言うまでもありません。
経理(財務)部署
経理(財務)部署は、M&Aにおける財務面の専門知識を提供し、財務デューデリジェンスと税務面のM&Aスキームの検討を担当します。この部署は、買収対象企業の財務状況を徹底的に調査し、企業価値の正確な評価を行う役割を果たします。財務デューデリジェンスでは、対象企業の収益性、キャッシュフロー、負債状況などを詳細に分析し、企業の財務的健全性を評価します。
また、M&Aのスキームに応じて税務リスクを管理し、負担を最小化するための提案を行います。M&Aにおける税務面の影響は、取引の成功に直結する要素であり、適切なスキームを選択しないと、思わぬコストが発生するリスクがあります。経理(財務)部署は、このリスクを回避し、企業にとって最も有利な条件で取引を進めるための財務戦略を策定します。
さらに、M&A後の財務統合においても、経理(財務)部署は重要な役割を果たします。異なる会計基準やシステムの統合を円滑に進めるための計画と実行をサポートし、統合後の財務の健全性を確保します。これにより、M&Aによるシナジー効果を最大限に引き出し、企業全体の財務状況を強化します。
PMI担当部署(事業推進部署)
PMI(Post-Merger Integration)担当部署、または事業推進部署は、M&A成立後の統合作業を担当します。PMIは、M&Aの成功にとって最も重要なフェーズの一つであり、この統合がうまく進まないと、M&Aによって期待されたシナジー効果が実現されない可能性があります。PMI担当部署は、企業文化や経営方針の統合、システムの統合、人材の統合など、多岐にわたる業務を推進します。
この部署は、M&A後の組織が新しい経営方針に沿って一貫して運営されるように、必要な変更をリードします。特に異なる企業文化の統合は、従業員のモチベーションや組織のパフォーマンスに大きな影響を与えるため、慎重な対応が求められます。PMI担当部署は、これらのプロセスを効果的に管理し、スムーズな統合を実現するための戦略を策定します。
さらに、PMI担当部署は、経営陣との連携を通じて統合の進捗を定期的に報告し、必要に応じて戦略の見直しや調整を行います。これにより、M&Aによる企業の成長戦略が軌
道に乗るようにサポートし、買収後の価値を最大化する役割を果たします。PMIが成功することで、買収に要したコストの早期回収が可能となり、企業の競争力を大幅に向上させることができるのです。
M&Aで体制構築を行う際のポイント
M&Aの成功には、取引の成立だけでなく、買収後の統合を円滑に進めるための適切な体制構築が不可欠です。特に買い手企業と売り手企業の双方において、それぞれが直面する課題や取り組むべきポイントは異なります。ここでは、買い手企業と売り手企業の体制構築における重要なポイントを解説します。各企業がこのプロセスをどのように進めるかによって、M&Aの成否が大きく左右されます。
買い手企業の体制構築ポイント
買い手企業にとってM&Aの成功は、単に企業を買収することではなく、その後の統合プロセスであるPMI(Post-Merger Integration)を如何に効果的に進めるかにかかっています。PMIが成功すれば、買収によるシナジー効果を最大限に引き出し、企業の競争力を大幅に向上させることができます。以下に、買い手企業が体制構築時に押さえておくべき主要なポイントを紹介します。
PMIの体制整備とシナジー効果の創出
PMIは、買収後の企業統合を指し、組織の再編やプロセスの標準化、システム統合、企業文化の融合など、多岐にわたる作業が含まれます。買い手企業は、PMIの専門チームを設立し、統合計画の策定と実施に責任を持たせることが求められます。このチームは、財務、人事、法務、ITなど、さまざまな分野の専門家で構成されるべきであり、統合が円滑に進むように各部署と密接に連携を取ります。
PMIの成功は、買収後のシナジー効果の創出に直結します。例えば、経営資源の最適な配分、新製品や新市場への迅速な展開、コスト削減などの効果が期待できます。PMIチームは、これらのシナジー効果を具体的に実現するためのロードマップを作成し、定期的に進捗をレビューしながら必要な調整を行います。
組織統合のスムーズな推進方法
組織統合をスムーズに進めるためには、統合に伴う混乱を最小限に抑えることが重要です。これは、特に異なる企業文化や経営方針を持つ企業同士の統合において顕著です。買い手企業は、M&Aの初期段階から対象企業の文化や組織構造を理解し、それらを尊重した統合計画を策定することが求められます。また、統合後の新組織のビジョンや目標を明確にし、従業員全員がその目標に向かって協力するための一体感を醸成することが必要です。
このためには、組織間のコミュニケーションを密に保ち、従業員が統合プロセスに対して不安を感じないようにすることが重要です。統合の各段階で透明性を確保し、従業員からのフィードバックを積極的に取り入れることで、組織全体の抵抗感を減らし、統合をスムーズに進めることができます。
ロックアップ(キーマン条項)の重要性
M&Aにおいて、対象企業の重要な人材(キーマン)の離職は、統合プロセスやその後の事業運営に大きな悪影響を及ぼす可能性があります。これを防ぐために、買い手企業はロックアップ条項(キーマン条項)を設け、対象企業のキーマンを一定期間会社に留まらせるための契約を結ぶことが一般的です。この条項は、M&Aの初期段階で交渉に含めることが望ましく、キーマンが統合プロセスに積極的に参加し、企業の安定とシナジー効果の実現に寄与するよう取り組むことが求められます。
キーマンがM&A後に離職してしまうと、組織の知識やノウハウが失われ、PMIが失敗に終わるリスクが高まります。そのため、ロックアップ条項を通じて、キーマンのモチベーションを維持し、彼らの知識やリーダーシップが統合プロセスに活かされるようにすることが、買い手企業にとって非常に重要です。
売り手企業の体制構築ポイント
売り手企業にとっても、M&Aを成功に導くための体制構築が重要です。売り手企業は、買収される側として、自社の価値を最大限に発揮し、M&A後も事業が円滑に進行するようにする必要があります。適切な体制を整えることで、買い手企業との交渉力を高め、より良い条件での取引を実現することが可能です。
適切な引き継ぎ体制の構築
M&A後に事業がスムーズに継続するためには、売り手企業がしっかりとした引き継ぎ体制を構築することが不可欠です。これには、事業運営に関する重要な情報やプロセスの詳細なマニュアル化、キーマンの役割や責任の明確化などが含まれます。特に、業務の中核を担う人材がどのように業務を遂行しているかを把握し、それを新しい経営陣や次期リーダーにしっかりと引き継ぐことが求められます。
引き継ぎが不十分だと、買収後の事業に混乱をきたし、M&Aの目的が達成できない可能性があります。そのため、売り手企業は早い段階から引き継ぎ計画を立案し、必要な準備を整えることが重要です。また、売り手企業の従業員がM&Aのプロセスに前向きに関わるように、適切なインセンティブを提供することも有効です。
次期リーダーへの知識・ノウハウの継承
M&A後も事業が持続可能であるためには、売り手企業の次期リーダーが十分な知識とノウハウを持っていることが必要です。これには、経営戦略や事業の運営方針、顧客やサプライヤーとの関係性など、事業の成功に不可欠な要素をしっかりと理解し、継承することが求められます。売り手企業は、次期リーダーが新しい経営環境に迅速に適応し、事業を軌道に乗せることができるよう、必要な教育や支援を提供する必要があります。
また、次期リーダーがM&Aプロセスの初期段階から関与することは、M&A後の事業継続性を確保するために非常に重要です。これにより、買い手企業との協力関係を深め、事業の引き継ぎが円滑に進むようサポートすることができます。
M&A交渉段階からの買い手との連携
売り手企業は、M&A交渉の段階から買い手企業と緊密に連携することが重要です。これは、取引条件や企業価値の評価において、売り手側の意図や状況を正確に伝えるためだけでなく、M&A後のスムーズな統合のためにも必要です。交渉の段階で買い手企業の戦略や統合計画を理解し、それに対する自社の立場を明確にしておくことで、取引後のギャップを最小限に抑えることができます。
また、売り手企業が積極的にM&Aプロセスに関与し、買い手企業のニーズに応じた情報提供や協力を行うことで、M&Aの交渉がより円滑に進みやすくなります。これにより、買い手企業に対して自社の価値を最大限にアピールでき、取引条件を有利に進めることが可能となります。
買い手企業と売り手企業の双方が、適切な体制を構築し、M&Aプロセスに積極的に関与することが、取引の成功を左右する重要な要素です。買い手企業はPMIの体制を整え、シナジー効果を創出することに注力し、売り手企業は適切な引き継ぎと次期リーダーへのノウハウ継承を確保することで、M&A後のスムーズな事業運営を実現します。これにより、双方がM&Aの最大の成果を享受できるようになるでしょう。
M&Aで専門家に相談する重要性
M&Aのプロセスは非常に複雑であり、法務、財務、税務など多岐にわたる専門知識が求められます。このため、企業が内部だけでこれらの全てを網羅することは難しく、またリスクも伴います。そこで、M&Aの成功率を高めるためには、専門家の支援を受けることが重要となります。専門家の活用により、M&Aの各プロセスを効率的かつ効果的に進めることができ、企業にとって最適な結果を得ることが可能になります。
専門家の活用によるメリット
M&Aにおいて各種専門家を活用することには以下のようなメリットがあります。
適正な売買価格での取引の実現
M&Aにおいて適正な売買価格を設定することは、売り手と買い手の双方にとって極めて重要です。適正な価格が設定されなければ、どちらかが不利益を被る可能性が高くなり、最終的には取引が成立しないリスクもあります。専門家の支援を受けることで、市場の動向や企業の財務状況を的確に評価し、公平な企業価値を算定することができます。特に公認会計士や税理士のような財務の専門家は、詳細なデューデリジェンスを行い、隠れたリスクや価値の過小評価を防ぐ役割を果たします。これにより、売り手と買い手の双方が納得できる価格で取引を進めることが可能となります。
マッチングやM&A交渉の円滑化
M&Aは単なる売買ではなく、企業同士の戦略的な結びつきであり、相互のニーズや期待に応えることが重要です。専門家の支援を受けることで、最適なマッチングを実現し、両者の条件をスムーズに調整することが可能です。M&A仲介会社やアドバイザリー会社は、多くのM&A案件を扱っているため、売り手と買い手のニーズを正確に把握し、最適なマッチングを行う能力があります。さらに、交渉においても専門家のサポートがあれば、相手方との意見の相違を解消し、取引を成功に導くための戦略的なアドバイスを提供してくれます。これにより、交渉の長期化を防ぎ、取引の円滑化が図られます。
不利な条件を避けるためのサポート
M&Aの契約内容は非常に複雑で、法的なリスクが伴います。経験の浅い企業がM&Aを進める場合、契約書の内容や条項の意味を正確に理解できず、不利な条件を受け入れてしまうリスクがあります。ここで、弁護士などの法務の専門家が関与することが重要です。弁護士は契約書の作成・チェックや法務デューデリジェンスを通じて、潜在的なリスクを見抜き、適切な対応を提案してくれます。これにより、将来的な訴訟リスクを回避し、不当な条件を押し付けられることを防ぎます。さらに、M&Aの交渉段階でも弁護士の支援により、法的に有利な立場で交渉を進めることができ、不利益を被ることなく取引を完遂することができます。
M&Aの相談先・専門家の種類
M&Aにおける成功のためには、適切な専門家の支援を受けることが不可欠です。それぞれの専門家は異なる分野での知識とスキルを持ち、M&Aの様々な側面をサポートします。以下に、主要な相談先としての専門家の種類とその役割について説明します。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、売り手と買い手の間に立ち、中立的な立場から両者の条件を調整し、取引を成功に導く役割を担います。仲介会社の強みは、その中立性にあり、売り手と買い手の双方にとって最適な解決策を提案することができます。また、仲介会社は多くのM&A案件を取り扱っているため、豊富な市場情報を持ち、的確なマッチングを実現することが可能です。これにより、早期の成約を目指すことができ、また手数料も双方から徴収するため、売り手・買い手の負担が軽減されるというメリットもあります。仲介会社は、取引の円滑化とスピーディーな進行をサポートし、M&Aを成功に導く重要なパートナーとなります。
M&Aアドバイザリー会社
M&Aアドバイザリー会社は、依頼者の利益を最大化することを目指して活動します。これは仲介会社とは異なり、アドバイザリー会社は売り手か買い手のどちらか一方と契約し、その依頼者のために最適な戦略を策定します。アドバイザリー会社は、M&Aの全体戦略の立案から、デューデリジェンス、交渉、クロージングまでの一貫した支援を提供します。依頼者の立場に立って、取引の全ての段階で助言を行い、最良の結果を得るためのサポートをします。特に、買収資金の調達や事業計画の策定など、複雑なプロセスにおいても専門的な支援を提供するため、依頼者が直面する課題に対して迅速かつ効果的に対応できます。
公認会計士・税理士
M&Aにおける財務面の評価と税務リスクの管理は、取引の成功にとって極めて重要です。公認会計士や税理士は、財務デューデリジェンスを通じて対象企業の財務状況を詳細に分析し、企業価値を正確に算定する役割を担います。これにより、売り手と買い手の双方が納得できる取引価格を設定することが可能となります。また、税理士はM&Aスキームの選定において、税務上の最適な選択肢を提案し、税負担の最小化を図ることで取引を有利に進めることを支援します。これにより、取引における潜在的な税務リスクを回避し、企業にとって最も有利な結果を引き出すことができます。
弁護士
M&Aにおける法的リスクの管理は、取引の成否に大きく影響を与えます。弁護士は、契約書の作成やチェックを行い、取引に関連するあらゆる法的リスクを精査する専門家です。法務デューデリジェンスでは、対象企業の法的状況を詳細に調査し、訴訟リスクや契約上の問題点を洗い出します。これにより、取引が合法かつ適切に進行するようにサポートします。さらに、交渉の場面でも弁護士が加わることで、法的な観点から有利な条件を引き出すことができ、企業が不利な立場に立たないようにします。弁護士の支援により、契約書に不備がなく、取引後のリスクが最小化されたM&Aを実現することが可能です。
金融機関
金融機関は、M&Aの資金調達を支援するだけでなく、全体のスキーム策定にも重要な役割を果たします。金融機関は、買収資金の融資やFA(ファイナンシャルアドバイザー)業務を提供し、企業が必要な資金を確保するための支援を行います。また、金融機関は案件の紹介やマーケットの動向に関する情報提供なども行い、M&Aの戦略策定においても重要な情報源となります。金融機関のネットワークを活用することで、企業はより多くの選択肢から最適な取引相手を見つけることができ、M&Aのプロセスをスムーズに進めることができます。
まとめ: M&Aの成功は適切な体制構築から
M&Aは、単なる企業の合併や買収にとどまらず、統合後の運営が成功の鍵を握っています。適切な体制構築は、M&Aプロセス全体を通じてリスクを最小限に抑え、シナジー効果を最大化するための重要なステップです。買い手企業においては、PMIの整備と組織統合の推進が求められ、売り手企業においては、適切な引き継ぎ体制の構築と次期リーダーへのノウハウ継承が成功のポイントとなります。また、M&Aの各フェーズで専門家を活用することで、適正な売買価格の設定、交渉の円滑化、不利な条件の回避が可能となり、企業の利益を最大化することができます。
M&Aの成功は決して偶然の産物ではなく、計画的かつ戦略的な体制構築によって得られるものです。この記事で紹介した各部署の役割と体制構築のポイントを参考に、自社のM&A戦略を強化し、企業の持続的な成長を実現していきましょう。