M&Aにおける偶発債務について!買収価格との相関や具体例を公開!

M&A(合併・買収)を行う際、買収対象企業の財務状況やリスクを正確に把握することは成功の鍵を握ります。その中でも「偶発債務」は、表面には見えにくいものの、買収後に予期しない負担をもたらす重大なリスク要因です。偶発債務とは、現時点では発生していないが、将来の特定の条件が満たされた場合に発生する可能性のある債務のことを指します。このような債務が存在すると、企業の実際の価値に影響を与え、買収価格にも直接的な影響を及ぼします。この記事では、偶発債務の基本概念から、その具体的な種類や事例、買収価格との相関、そして偶発債務が発見された場合の対応策までを解説します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

M&Aにおける偶発債務とは?

M&A(合併・買収)において、偶発債務は取引の成否や買収価格に大きな影響を与える重要な要素です。偶発債務は現時点では発生していないものの、将来の特定の条件が満たされたときに発生する可能性がある債務を指します。そのため、企業の財務状況の評価やリスク分析において見逃せない存在となります。偶発債務は、負債として確定していないため貸借対照表には直接計上されず、通常は注記として記載されますが、その存在がM&Aの決定におけるリスク要因となります。ここではまず偶発債務の基本概念を解説していきましょう。

偶発債務の基本概念

偶発債務とは、現時点では債務として確定していないものの、将来の特定の条件が満たされたときに発生する可能性のある債務です。このため、偶発債務は「未確定の債務」とも呼ばれ、現在の財務諸表には反映されず、通常は注記として記載されます。例えば、債務保証や訴訟による損害賠償、未払い賃金、デリバティブ取引、割引手形・裏書手形などが偶発債務に該当します。

債務保証とは、ある会社が他社の借入金などの債務を保証するもので、保証対象の企業が債務不履行になった場合、保証した企業がその支払いを肩代わりしなければならなくなる可能性があります。これにより、偶発債務が発生することになります。また、訴訟において敗訴した場合には損害賠償の支払いが必要となり、これも偶発債務として認識されるべきものです。さらに、未払い賃金は、例えば従業員の労働時間管理が適切でなく、残業代の未払いが発生している場合に生じるもので、これも偶発債務に含まれます。

偶発債務は将来の特定の条件が成立するまで確定しないため、貸借対照表には負債として計上されません。しかし、企業の財政状態を正確に把握するためには、その存在と規模を把握することが重要です。注記として記載することで、株主やその他の利害関係者に対して情報が提供され、経営の透明性が向上します。偶発債務の存在が明らかになることで、M&Aのプロセスにおいても買い手側が適切なリスク評価を行えるようになります。

偶発債務がM&Aに与える影響

M&Aにおける偶発債務の影響は非常に大きく、取引の成功可否や買収価格に直接的に影響を及ぼします。偶発債務は通常、貸借対照表に計上されないため、表面上の財務状況だけを見ていては見過ごされがちです。しかし、これらの債務が将来的に実際の負債として確定する場合、買い手にとっては思わぬ支出となり、予期しない財務リスクを抱えることになります。

例えば、債務保証が実際に負債として発生した場合、その金額は予測できないことが多く、企業のキャッシュフローに深刻な影響を与える可能性があります。また、訴訟による損害賠償が発生した場合、その賠償金額や訴訟の長期化によるコストが買い手の経営に大きな負担となることがあります。このように、偶発債務が実際に発生する可能性がある場合、買収後に企業の価値を損なうリスクが高まります。

買い手側は、偶発債務のリスクを過小評価すると、想定外の負債を負担することになり、投資回収が困難になるケースも少なくありません。そのため、M&Aの初期段階から偶発債務の有無とその影響を慎重に評価することが不可欠です。デューデリジェンス(買収監査)を通じて、偶発債務の存在を確認し、その内容と金額、発生の可能性を詳細に調査することが重要です。デューデリジェンスの結果、偶発債務が見つかった場合には、価格調整や契約条件の変更、あるいはM&Aのスキーム変更を検討する必要があります。

偶発債務の発見が遅れると、買収後の統合プロセスで問題が表面化し、経営計画の修正や予期しないコストの発生につながります。このため、偶発債務のリスクを事前に把握し、適切な対応策を講じることがM&Aの成功に直結する要因となります。

偶発債務の種類と具体例

M&Aにおいて偶発債務は、買い手が予想外の負担を抱える可能性があるため、その内容とリスクを正確に把握することが重要です。偶発債務には、債務保証、未払い賃金、デリバティブ取引、割引手形・裏書手形、訴訟による損害賠償債務などがあります。これらの偶発債務は、企業の財務状況に直接的な影響を及ぼすだけでなく、M&Aの買収価格や条件に大きな影響を与える可能性があります。以下では、それぞれの偶発債務について見ていきましょう。

債務保証

債務保証とは、企業が他の会社や個人の借入金や契約の債務について保証人となることで、万が一、債務者が支払いを行わない場合に、その債務を肩代わりする義務を負うことを指します。債務保証は取引先の信用を担保するために行われることが多く、特に取引先の信用度が低い場合や新興企業との取引においてよく見られます。しかし、保証対象となる企業や個人が債務不履行に陥った場合、保証している企業はその支払いを代行しなければならなくなるため、大きな財務リスクを抱えることになります。

具体例:債務保証が引き起こすリスク

例えば、ある企業が取引先の銀行借入の債務保証を行っていたとします。この場合、取引先が債務を履行できない場合、保証を行った企業が借入金の返済を求められることになります。債務の規模が大きい場合、保証企業のキャッシュフローや資金繰りに重大な影響を及ぼす可能性があります。特にM&Aの場面では、買い手企業がこれらの偶発債務の存在を把握していないと、買収後に予期せぬ負担を背負うことになり、投資回収が困難になるリスクが高まります。このようなリスクを軽減するためにも、買収前のデューデリジェンスで債務保証の内容やリスクの洗い出しが必要不可欠です。

未払い賃金

未払い賃金とは、企業が従業員に対して支払うべき給与や手当、残業代などを適切に支払っていない場合に発生する債務です。特に、中小企業や成長途上の企業においては、労働時間の管理が不十分であったり、労働法規に対する理解不足から未払い賃金が発生することが多く見られます。これらの未払い賃金は、企業の運営において重大な法的リスクを伴うだけでなく、M&Aにおける偶発債務として買い手企業に予期しない負担をもたらす可能性があります。

具体例:労働時間の未払いがもたらす影響

例えば、ある企業が従業員の残業時間を正確に記録しておらず、残業代の支払いが適正に行われていなかった場合、従業員からの訴えにより未払い賃金の支払いが求められる可能性があります。未払い賃金が発生していると、M&Aの交渉中にその事実が発覚した場合、買い手企業はその支払い義務を引き継ぐことになります。これにより、予期せぬコストが発生し、M&Aの合意条件や買収価格の再交渉が必要になることがあります。特に労働基準監督署からの指摘が入ると、企業の信用や評判にも影響を及ぼすため、未払い賃金のリスクを軽視することはできません。

デリバティブ取引

デリバティブ取引は、株式や債券などの基礎資産を基にした金融派生商品の取引を指します。代表的なデリバティブ取引には、先物取引、オプション取引、スワップ取引などがあります。これらの取引は、リスクヘッジや投資リターンの最大化を目的として行われますが、相場の変動や予期しない経済イベントにより、損失が発生するリスクも伴います。特に非上場企業の場合、デリバティブ取引が貸借対照表に反映されていないケースもあり、偶発債務として認識されることがあります。

具体例:デリバティブ取引による損失リスク

例えば、企業が為替リスクをヘッジするために行った為替予約取引において、契約時の為替レートと実際の為替レートに大きな差異が生じた場合、その差額が損失として発生します。こうした損失は、企業の財務状況に大きな影響を及ぼし、最悪の場合、企業の経営を圧迫する可能性があります。M&Aにおいて、買い手がこれらのリスクを見落としてしまうと、予期しない財務負担を抱えることになり、買収後の経営戦略に悪影響を及ぼすことが考えられます。デューデリジェンスの段階でデリバティブ取引の内容とリスクを詳細に評価することが求められます。

割引手形・裏書手形

割引手形とは、取引先から受け取った約束手形を支払期日前に銀行で割引き、現金化する取引を指します。裏書手形は、受け取った手形を第三者に譲渡することで現金化する方法です。これらの手形取引は、資金繰りの改善に役立つ反面、手形の支払人が支払いを行わない場合には、手形を割引いた企業や裏書をした企業がその金額を支払う義務を負うことになります。

具体例:手形の不履行リスク

例えば、ある企業が割引手形を活用して資金調達を行っている場合、その手形の支払人が支払いを行わなかったとき、手形を割引いた企業が代わりに支払う必要があります。手形の金額が大きい場合、これは企業にとって重大な財務負担となり、場合によっては資金繰りに深刻な影響を及ぼす可能性があります。M&Aのプロセスでは、こうした手形に関連する偶発債務のリスクを見逃さないことが重要です。特に、割引手形や裏書手形の利用が頻繁な企業の場合、そのリスク評価は買収前に必ず行うべきです。

訴訟による損害賠償債務

訴訟による損害賠償債務は、企業が第三者から訴えられている場合に発生するリスクです。企業が被告となり、敗訴した場合には損害賠償金の支払いが必要となるため、偶発債務として認識されます。特に、訴訟の内容や賠償額が多額になる可能性がある場合、企業の財務状況に与える影響は甚大です。これにより、M&Aにおいても慎重なリスク評価が必要となります。

具体例:訴訟による財務リスク

例えば、企業が競争法違反や環境法規制違反で訴訟を受けている場合、敗訴によって多額の賠償金が課されるリスクがあります。これにより、買収後に想定外のコストが発生し、企業の財務健全性を損なう可能性があります。特に、訴訟が長引く場合には、訴訟関連費用が増大し、経営資源を大きく圧迫することも考えられます。このようなリスクを軽減するためには、M&Aの初期段階で訴訟リスクの有無を詳細に調査し、必要に応じて価格調整や契約条件の変更を検討することが求められます。

偶発債務と買収価格の相関

M&Aにおいて、偶発債務の存在は買収価格に直接的な影響を与える重要な要素です。偶発債務が適切に認識されない場合、買い手側は将来的な予期せぬ負担を抱えるリスクがあり、そのためにM&Aの取引条件や価格が大きく変動することがあります。偶発債務がどのように買収価格に影響を与え、それをどのように価格に反映するかを理解することは、買い手にとって非常に重要です。ここでは、偶発債務が買収価格に与える影響とその反映方法について解説します。

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偶発債務が買収価格に与える影響

偶発債務は、M&Aにおける買収価格の決定において重要な役割を果たします。通常、M&Aでは買収対象企業の純資産やキャッシュフロー、将来の成長可能性などが考慮されて買収価格が設定されます。しかし、偶発債務が存在する場合、その将来的な負担が企業の価値を減少させる要因となるため、買収価格にも反映させる必要があります。

偶発債務が買収価格に与える具体的な影響としては、企業の財務リスクの増加が挙げられます。例えば、債務保証や訴訟による損害賠償など、将来に発生する可能性のある負債が多い場合、そのリスクを織り込む形で買収価格が引き下げられることがあります。また、偶発債務が実際に発生した場合、企業のキャッシュフローに直接的な悪影響を及ぼすため、そのリスクを避けるためにも価格調整が必要となります。買い手側は、デューデリジェンスを通じて偶発債務の有無やその規模を確認し、適切にリスクを評価して買収価格を決定します。

加えて、偶発債務は買収後の統合プロセスにも影響を与えることがあります。例えば、未払い賃金やデリバティブ取引による損失リスクが存在する場合、これらが顕在化することで追加のコストが発生し、予定していた統合計画に支障をきたす可能性があります。このように、偶発債務の存在は買収価格だけでなく、M&A全体の成功に大きな影響を与える要因となります。

買収価格への反映方法

偶発債務を買収価格に反映するための方法はさまざまですが、一般的には以下のアプローチが取られます。まず、偶発債務が買収対象企業の株式価値にどのように影響するのかを評価し、次に具体的な価格調整の方法を検討します。

株式価値への影響

偶発債務は、企業の純資産に直接的な影響を及ぼします。純資産は企業の価値の基本的な指標であり、偶発債務が発生する可能性がある場合、その潜在的な負債が純資産を圧縮することになります。例えば、訴訟による損害賠償債務や債務保証が企業に存在する場合、そのリスクの大きさに応じて株式価値が減少することになります。この減少分を適切に買収価格に反映させることが重要です。

株式価値への影響を具体的に測るためには、偶発債務の発生確率や見積もられる損失額を詳細に評価する必要があります。この評価は、デューデリジェンスの過程で実施され、財務諸表には表れない簿外債務としても注記されることがあります。買い手はこれらの情報を基に、買収後のリスクを織り込んだ適正な株式価値を算定し、それに基づいて買収価格を設定します。

価格調整の方法

価格調整は、偶発債務のリスクを具体的に買収価格に反映させるための手段として非常に重要です。主な調整方法には、買収価格の引き下げや、一定の条件が満たされた場合に価格を変更するアーンアウト(Earn-out)条項の設定が含まれます。

例えば、買収前に発見された偶発債務が確実に発生すると見込まれる場合、その金額をそのまま買収価格から差し引くことが一般的です。これは、買い手が買収後にその負債を負担することを見越して、あらかじめリスク分を控除するという考え方です。また、発生の確率が不確定な場合や損失額が見積もりにくい場合には、買収後に偶発債務が確定した際に価格を調整するという形式の契約条項を設けることもあります。

さらに、買収契約の中で表明保証条項を設けることで、買い手が偶発債務のリスクを軽減することも可能です。表明保証条項とは、売り手が買収対象企業の状況について一定の事実を保証するもので、この保証が誤っていた場合には売り手が責任を負うという仕組みです。これにより、買い手はリスクが実現した際に損失を回避することができます。

偶発債務の評価と買収価格算定のポイント

偶発債務の評価とそれに基づく買収価格の算定は、M&Aの成否に直結する重要なプロセスです。偶発債務の評価では、まず発生の可能性とその範囲を正確に見積もることが求められます。このプロセスには、法務、財務、税務の各デューデリジェンスが関与し、偶発債務のリスクを総合的に評価します。

評価においては、偶発債務の発生可能性が高く、かつその金額が大きい場合には、慎重な対応が必要です。発生がほぼ確実である場合は、引当金として計上されることが適切ですが、発生可能性が低かったり金額が不確定である場合は、引当金として計上するのではなく注記に留めるケースもあります。この違いが買収価格に大きな影響を与えるため、評価の精度が求められます。

買収価格算定のポイントとして、偶発債務が企業のキャッシュフローに与える影響を十分に考慮することが挙げられます。偶発債務が企業の収益性や成長性を阻害する可能性がある場合、買い手はそのリスクを反映させたディスカウントを価格に加えるべきです。また、表明保証条項の活用や、価格調整メカニズムの設定を通じてリスクの分散を図ることも効果的です。

最終的に、偶発債務のリスクが適切に反映された買収価格の設定は、買い手にとって予期しない損失を防ぎ、投資回収の確実性を高める要因となります。そのため、偶発債務の評価と買収価格算定は、デューデリジェンスの段階から詳細に行い、適切な契約条件を設定することが不可欠です。M&Aの成功には、偶発債務リスクの的確な管理が欠かせないのです。

偶発債務の発生を避けるために欠かせないデューデリジェンス

M&Aにおいて、偶発債務は買収後に予期しない負担をもたらすリスク要因となるため、その発生を避けるための対策が非常に重要です。そのためには、デューデリジェンス(Due Diligence)が欠かせません。デューデリジェンスは、買収対象企業の財務状況や法的リスク、税務問題などを詳細に調査し、潜在的なリスクを特定するためのプロセスです。このプロセスを通じて、偶発債務の存在を明らかにし、適切な対応策を講じることで、買い手は取引の成功率を高め、予期しない負担を避けることができます。

デューデリジェンスの役割

デューデリジェンスの主な役割は、買収対象企業の実態を正確に把握し、潜在的なリスクを洗い出すことにあります。特に、偶発債務の発見は重要な目的の一つであり、これがM&A取引の成功に直接的に影響を及ぼします。デューデリジェンスによって、偶発債務の有無やその規模、発生可能性を特定することができ、これに基づいて買収価格の調整や契約条件の見直しが行われます。

デューデリジェンスは、法務、財務、税務、人事、ITなど多岐にわたる分野で実施され、それぞれが異なるリスク要因を評価します。例えば、法務デューデリジェンスでは訴訟リスクや契約上の問題点を洗い出し、財務デューデリジェンスでは偶発債務や簿外債務、会計上の問題を確認します。税務デューデリジェンスでは、過去の税務申告や税務リスクを精査し、税務上の偶発債務を特定します。これらの評価結果を総合的に判断し、買収決定に役立てることがデューデリジェンスの役割です。

偶発債務を発見するためのデューデリジェンスの手法

偶発債務を発見するためのデューデリジェンスは、多面的な手法を用いて実施されます。以下に代表的なデューデリジェンスの手法を説明します。

法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンスは、買収対象企業の法的リスクを評価するために行われます。具体的には、企業が過去に締結した契約、現在進行中の訴訟やクレーム、規制遵守状況などを精査し、法的に問題があるかどうかを確認します。例えば、訴訟による損害賠償債務の可能性がある場合、どのような事案で訴えられているのか、その結果としてどの程度の負担が予想されるのかを調査します。これにより、将来の債務リスクを正確に把握し、偶発債務としてのリスクを特定することができます。

法務デューデリジェンスでは、特に契約の内容に注目します。企業が過去に締結した契約の中で、特定の条件下で発生する可能性のある債務(例えば、保証契約や賠償責任条項など)が含まれていないかを精査します。これらの調査を通じて、将来の偶発債務として顕在化する可能性のあるリスクを明らかにし、買収価格の調整や契約条項の変更につなげます。

財務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスは、買収対象企業の財務諸表や帳簿を精査し、財務リスクや不正会計、隠れた債務などを発見するために行われます。特に、偶発債務が貸借対照表に計上されていない簿外債務として存在する場合、これを発見することが重要です。財務デューデリジェンスでは、未払い賃金、割引手形・裏書手形、デリバティブ取引など、通常の会計処理では見落とされがちな項目も含めて詳細に検証します。

例えば、未払い賃金に関するリスクがある場合、過去の給与支払いの履歴や残業代の支払い状況を精査し、労働基準に基づいて適正に処理されているかを確認します。また、デリバティブ取引については、そのリスク評価や適切なヘッジが行われているかどうかを検証します。これにより、偶発債務が発生する可能性がある場合には、そのリスクを適切に反映させるための価格調整やリスク軽減策を検討することができます。

税務デューデリジェンス

税務デューデリジェンスは、買収対象企業の税務リスクを評価するために実施されます。過去の税務申告状況や税務調査の結果、未払税金や税務上の偶発債務の存在などを詳細に調査し、潜在的な税務リスクを特定します。特に、過去の税務申告に誤りがあった場合や、税務調査で未解決の問題が残っている場合には、将来的に追徴課税や罰金などのリスクが発生する可能性があり、これを偶発債務として認識します。

税務デューデリジェンスでは、企業が利用している税務戦略や税務ポジションを確認し、それが法的に問題ないかどうかを精査します。例えば、税務上の優遇措置を利用している場合、その適用が適切であるかどうかを検証し、万が一不適切である場合には将来的な税務リスクとして偶発債務に該当することがあります。このようなリスクを把握し、必要に応じて買収契約に反映させることが重要です。

成功するデューデリジェンスのポイント

デューデリジェンスの成功は、M&Aの成否に直結します。特に、偶発債務のリスクを適切に把握し、買収価格や契約条件に反映させることが重要です。成功するデューデリジェンスのためには、いくつかの重要なポイントがあります。

インタビューと資料調査の重要性

デューデリジェンスの中でも、インタビューと資料調査は非常に重要です。インタビューは、買収対象企業の経営陣や関係者との直接的なやり取りを通じて、企業内部の実態や偶発債務の有無を確認するための手法です。インタビューでは、経営陣の意図や企業の将来計画、過去の問題対応の状況など、資料では得られない重要な情報を収集することができます。

また、資料調査では、取締役会の議事録、契約書、訴訟記録、財務諸表、税務申告書などの関連資料を入念に確認します。資料調査は、インタビューの内容を裏付けるためにも必要不可欠です。資料に記載された内容とインタビューの内容が一致しない場合、その原因を明確にするための追加調査が求められます。これにより、偶発債務の発見やリスク評価の精度を高めることができます。

専門家の活用

デューデリジェンスでは、各分野の専門家の活用が成功の鍵を握ります。例えば、法務リスクには弁護士、財務リスクには公認会計士や財務アナリスト、税務リスクには税理士が関与することで、各分野のリスクを詳細に評価することができます。専門家は、その分野に特化した知識と経験を持ち、偶発債務の見落としを防ぎ、リスクを適切に評価するための視点を提供してくれます。

また、専門家の活用は、買い手が気づきにくいリスクを発見するためにも重要です。例えば、法律の細かな違反や、財務諸表上では見えない隠れた負債、税務上のグレーゾーンなど、専門的な知識が必要な領域において、専門家の視点から偶発債務のリスクを特定します。これにより、デューデリジェンスの精度を向上させ、M&Aのリスクを最小限に抑えることが可能となります。

成功するデューデリジェンスは、偶発債務のリスクを正確に把握し、それをもとに買収価格の調整や契約条件の設定を行うことで、買い手にとってのリスクを軽減し、M&Aの成功に大きく貢献します。したがって、デューデリジェンスを怠ることなく、十分な準備と専門的な支援を受けるようにしましょう。

偶発債務が発見された場合の対応策

M&Aの過程で偶発債務が発見された場合、買い手企業は予期せぬ財務リスクを回避するために迅速かつ適切な対応が求められます。偶発債務の存在は、買収後のキャッシュフローや企業の財務健全性に大きな影響を及ぼす可能性があるため、これを無視することはできません。偶発債務が発見された際の対応策としては、M&Aスキームの見直し、表明保証条項の活用、そして買収価格の再交渉が考えられます。これらの対応策を通じて、買い手は偶発債務に伴うリスクを最小限に抑え、M&Aの成功確率を高めることができます。

M&Aスキームの見直し

偶発債務が発見された場合、M&Aのスキームを見直すことが重要な対応策の一つです。スキームの見直しにより、買い手企業がリスクを直接引き継ぐことなく、M&Aを進める方法を検討することが可能です。特に、株式譲渡から事業譲渡へのスキーム変更は、偶発債務のリスクを回避する効果的な手段となります。

事業譲渡によるリスク回避

事業譲渡とは、企業が所有する特定の事業や資産、負債を切り出して譲渡するスキームであり、株式譲渡とは異なり、包括的な負債の引き継ぎを避けることができます。株式譲渡では、企業のすべての資産と負債がそのまま引き継がれるため、偶発債務も買い手が引き継ぐリスクが伴います。しかし、事業譲渡の場合、譲渡対象を特定の事業や資産に限定できるため、偶発債務を切り離して取引を行うことが可能です。

例えば、売り手企業に訴訟リスクや債務保証がある場合、事業譲渡を選択することで、これらの偶発債務を含めずに必要な事業のみを取得することができます。これにより、買い手企業は不要なリスクを排除し、必要な資産と収益源を取得することが可能となります。また、事業譲渡では、契約時に譲渡対象となる資産や負債を明確に特定できるため、取引の透明性が高まり、偶発債務に対する懸念を効果的に解消することができます。

表明保証条項の活用

表明保証条項(Representations and Warranties)は、M&A契約において売り手が買い手に対して、企業の状況や取引対象の内容について一定の事実を表明し、その内容が正確であることを保証する条項です。この条項を活用することで、偶発債務に関するリスクを適切に管理し、買い手の保護を図ることができます。

表明保証条項とは?

表明保証条項とは、売り手が企業の財務状況、法的リスク、契約関係、環境遵守状況などに関する情報を買い手に対して表明し、その内容が事実と異なる場合には、売り手が責任を負うことを定めた契約条項です。この条項は、買収後に発覚したリスクや偶発債務に対して、買い手が損害賠償や補償を求めるための基盤となります。

具体的には、売り手が企業の財務諸表に含まれない偶発債務が存在しないことを保証した場合、もし買収後に未払い賃金や訴訟リスクなどの偶発債務が発覚した際には、売り手がその責任を負い、買い手に対して補償を行う義務が生じます。これにより、買い手は予期せぬ負担を回避でき、偶発債務のリスクを軽減することができます。

表明保証条項の具体例

表明保証条項の具体例としては、以下のような内容が含まれます。

  • 財務健全性の保証

売り手は、財務諸表が企業の財政状態を正確に反映しており、重大な誤りや偶発債務がないことを保証する。

  • 訴訟リスクの保証

売り手は、現在進行中または予測される訴訟やクレームがないこと、あるいは訴訟があったとしてもその結果が企業に重大な影響を与えることはないと保証する。

  • 債務保証の明示

売り手は、取引に含まれるすべての債務保証を明示し、それ以外の保証が存在しないことを保証する。

これらの表明保証条項により、買い手は偶発債務のリスクを事前に認識し、そのリスクが顕在化した場合には売り手に対して補償を求めることができます。こうした保証を活用することで、買い手は安心して取引を進めることができ、偶発債務のリスクを契約上の保護を通じて軽減することが可能です。

買収価格の再交渉

偶発債務が発見された場合、買収価格の再交渉は避けて通れない対応策の一つです。偶発債務の存在は、企業の実際の価値を下げる要因となり、買収価格にその影響を反映させる必要があります。再交渉によって、偶発債務に伴うリスクを価格に適切に反映し、買い手が過大なリスクを負わないようにすることが重要です。

リスクを反映した価格調整

買収価格の調整は、偶発債務のリスクを反映させるために行われます。具体的には、デューデリジェンスで特定された偶発債務の発生確率やその規模に基づき、価格を引き下げる形で調整が行われます。例えば、デューデリジェンスの過程で多額の未払い賃金が発見された場合、その金額を見積もり、買収価格から差し引くことが一般的です。

価格調整の方法としては、固定的な価格引き下げだけでなく、変動条件付きの価格設定(アーンアウト条項など)も利用されることがあります。アーンアウト条項とは、買収後の業績や特定の条件の達成度合いに応じて、最終的な買収価格を変動させる仕組みであり、偶発債務が発生しなければ高い価格が支払われる一方、リスクが顕在化した場合には価格が調整されるといった形式です。これにより、偶発債務のリスクを共有し、双方にとって公平な価格設定が可能となります。

また、場合によっては買収価格の再交渉が難航することもありますが、適切な価格調整が行われない場合、買い手は過大なリスクを負い、M&Aの成功が危ぶまれることになります。したがって、偶発債務が発見された場合には、速やかに価格交渉を行い、そのリスクを適切に反映させることが必要不可欠です。これにより、買い手は健全な財務状況を保ちつつ、M&Aのメリットを最大限に享受することが可能となります。

まとめ: 偶発債務の存在はM&A取引に大きな影響を与える!

偶発債務は、現時点では発生していないが、将来特定の条件が成立した際に発生する可能性のある債務です。M&Aにおいては、これらのリスクを見落とすと、買収後に予期せぬ負担を抱えることになります。デューデリジェンスを通じて偶発債務の有無や規模を確認し、適切にリスクを評価することが取引の成功に不可欠です。

偶発債務の存在は、買収対象企業の株式の価値を押し下げる要因となります。企業の純資産やキャッシュフローに対する負の影響を適切に見積もり、買収価格に反映させることが重要です。表明保証条項や価格調整メカニズムを活用することで、買い手のリスクを軽減し、より公平な取引条件を設定することが可能です。

買い手は、適切なデューデリジェンスとリスク評価を行い、発見された偶発債務に対して適切な対応策を講じることで、M&Aの成功確率を大きく向上させることができます。偶発債務への対策を怠らず、リスクを最小限に抑えることで、安定した経営統合を実現しましょう。

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