M&Aでの基本合意書とは?目的・記載タイミングや書き方を解説!

M&Aは、企業の成長戦略や市場拡大を実現するための重要な手段です。そのプロセスにおいて、基本合意書(Memorandum of Understanding、MOU)は欠かせない要素となります。基本合意書は、売り手と買い手の間で交わされる初期的な合意文書であり、取引の基本条件を整理し、今後の交渉を円滑に進めるための基盤を提供します。本記事では、基本合意書の目的や記載タイミング、そして作成手順について詳しく解説します。これからM&Aを検討している企業にとって、基本合意書の重要性とその効果的な活用方法を理解することは、成功への第一歩となるでしょう。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

M&Aでの基本合意書とは?

M&Aにおける基本合意書は、売り手と買い手がM&Aプロセスの初期段階で締結する重要な文書です。この書類は、最終契約の前に交渉された基本的な条件や理解を整理し、両者の認識を一致させることを目的としています。

基本合意書の定義

基本合意書は、M&Aの最終契約に先立って取り交わされる文書であり、譲渡価額、譲渡日、スケジュールなどの重要な取引条件を定めます。この書類は、これまでの交渉で合意に至った内容を整理し、文書として明文化することで、両者の認識を揃え、取引の進行をスムーズにします。基本合意書には、M&Aに関する基本的な事項が含まれており、特定の条件下での合意事項を記載しますが、通常、すべての条項に法的拘束力があるわけではありません。

具体的には、基本合意書は以下のような内容を含むことが一般的です。

1. 取引形態:M&Aの手法(株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割など)を明記します。

2. 取引対象:譲渡される資産や事業の範囲を定義します。

3. 譲渡価額:概算の買収価格や価格設定の基準を記載します。

4. 譲渡日:取引の実行日を設定します。

5. デューディリジェンス:買い手が行う詳細調査の範囲と手続きについて述べます。

6. 独占交渉権:特定の期間中、他の買い手との交渉を禁止する条項です。

7. 秘密保持:取引に関連する機密情報の保護に関する規定です。

8. スケジュール:最終契約の締結やクロージングに向けた主要な日程を含みます。

基本合意書の役割

基本合意書は、M&Aプロセスにおいて複数の重要な役割を果たします。まず、取引の基本的な枠組みを設定し、売り手と買い手が同じページにいることを確認することで、後の交渉を円滑に進める基盤を築きます。これにより、デューディリジェンスや最終契約書の作成など、後続のステップがスムーズに進行することが期待されます。

さらに、基本合意書には以下のような役割があります。

1. 重要な合意事項の整理

これまでの交渉で合意した内容を明確に整理し、文書として残すことで、双方の理解を統一します。

2. 取引のスムーズな進行

デューディリジェンスや最終契約書作成など、今後のプロセスが効率よく進むようにサポートします。

3. 法的拘束力の確立と限定

一部の重要な条項(例:独占交渉権、秘密保持義務)に法的拘束力を持たせることで、取引の信頼性を高めます。ただし、すべての条項に法的拘束力があるわけではないため、柔軟な対応が可能です。

4. 心理的拘束力の形成

基本合意書を締結することで、双方が取引成立に向けて前向きな姿勢を示し、心理的なコミットメントを強化します。

基本合意書は、M&Aプロセスの重要なマイルストーンであり、取引の成功に向けた重要な一歩となります。これにより、売り手と買い手が信頼関係を築き、共通の目標に向けて協力する基盤を確立することができます。

基本合意書の目的

基本合意書は、M&Aプロセスにおいて非常に重要な役割を果たします。この文書の主な目的は、売り手と買い手がこれまでの交渉で合意した内容を整理し、最終契約に向けた共通認識を確立することです。基本合意書を締結することで、双方が合意した重要な事項を明文化し、取引を円滑に進めるための基盤を築きます。以下では、基本合意書の具体的な目的について詳細に解説します。

重要な合意事項の整理

基本合意書の主要な目的の一つは、これまでの交渉で合意に至った重要な事項を整理することです。これにより、売り手と買い手の双方が同じ認識を持つことができ、後続の交渉や手続きをスムーズに進めることが可能となります。基本合意書に記載される重要な合意事項には、以下のような項目が含まれます。

取引形態

M&Aの具体的な手法(例:株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割)を明確にします。

取引対象

譲渡される資産や事業の範囲を特定します。

譲渡価額

概算の買収価格や価格設定の基準を記載します。

譲渡日

取引の実行日を設定します。

デューディリジェンス

買い手が行う詳細調査の範囲と手続きについて述べます。

独占交渉権

特定の期間中、他の買い手との交渉を禁止する条項です。

秘密保持

取引に関連する機密情報の保護に関する規定です。

これらの合意事項を整理することで、取引の基本的な枠組みが確立され、双方の期待や理解が明確になります。これにより、取引の進行中に生じる可能性のある誤解や対立を未然に防ぐことができます。

取引のスムーズな進行

基本合意書は、M&A取引をスムーズに進行させるための重要なツールです。基本合意書を締結することで、双方の合意事項が明文化されるため、後続のプロセスが効率的に進む基盤が整います。特にデューディリジェンスや最終契約書の作成といった重要なステップが円滑に進行することが期待されます。

デューディリジェンスは、買い手が譲渡企業の財務、法務、税務などのリスクを詳細に調査するプロセスであり、この過程で多大な時間と費用がかかることが一般的です。基本合意書に基づいて調査を進めることで、双方の認識が一致した状態でリスク評価が行われ、取引の透明性と信頼性が高まります。また、基本合意書には、スケジュールや重要なマイルストーンが記載されるため、取引全体のタイムラインが明確になり、関係者全員が共通の目標に向かって効率的に進むことができます。

法的拘束力の確立と範囲の限定

基本合意書は、取引の一部の重要な項目に法的拘束力を持たせることができます。これにより、取引の信頼性と安定性が向上し、双方が合意した事項に対する遵守を確保します。ただし、基本合意書のすべての項目に法的拘束力があるわけではなく、通常は以下のような特定の条項に限定して法的拘束力を持たせます。

独占交渉権

基本合意書に規定された期間中、売り手が他の買い手候補と交渉することを禁止します。これにより、買い手は安心してデューディリジェンスを行うことができ、取引の進行を計画的に進めることができます。

秘密保持義務

取引に関連する機密情報が第三者に漏洩しないように、売り手と買い手の双方が情報の取扱いに関する厳格なルールを守ることを義務付けます。

デューディリジェンス協力義務

売り手がデューディリジェンスに必要な情報を提供し、買い手の調査に協力することを確約します。

これらの条項に法的拘束力を持たせることで、取引の安定性が高まり、双方が合意事項を遵守する責任を負います。一方で、価格やスケジュールのような柔軟性が必要な項目については、法的拘束力を持たせないことが一般的です。これにより、デューディリジェンスの結果や状況の変化に応じて取引条件を調整する余地を残すことができます。

取引への心理的拘束力の形成

基本合意書を締結することは、M&A取引において心理的な拘束力を形成する重要な手段です。基本合意書を交わすことで、売り手と買い手の双方が取引に対して真剣に取り組む姿勢を示し、相互の信頼を深めることができます。基本合意書の締結は、両者がM&A取引の成功に向けてコミットしている証拠となり、その後の交渉や手続きがより前向きに進む基盤となります。

心理的拘束力の形成には以下のような効果があります。

取引成立への期待感の醸成

基本合意書を締結することで、取引成立への期待感が高まり、双方が取引を成功させるために必要な努力を惜しまない姿勢を持つようになります。

交渉の円滑化

基本合意書が存在することで、両者の関係がより強固になり、後続の交渉が円滑に進むことが期待されます。特に、重要な合意事項が明文化されているため、取引条件に関する誤解や対立が減少し、建設的な話し合いが進められます。

信頼関係の強化

基本合意書を締結することで、双方が互いに対する信頼を深め、協力関係が強化されます。これにより、取引の進行中に生じる課題や問題に対しても、協力して解決する姿勢が醸成されます。

基本合意書は、単なる合意事項の確認書ではなく、取引を成功させるための重要なツールであり、その締結を通じて売り手と買い手の双方が取引の成功に向けて前向きに取り組む姿勢を示すことができます。これにより、M&Aプロセス全体がより円滑かつ効率的に進むことが期待されます。​

基本合意書を締結するタイミング

基本合意書は、M&Aプロセスにおいて重要な役割を果たし、その締結のタイミングは取引の成功に大きく影響を与えます。適切なタイミングで基本合意書を締結することで、双方の認識を一致させ、後続のプロセスを円滑に進めることができます。以下では、基本合意書を締結するタイミングについて説明します。

トップ面談後の合意形成

基本合意書は通常、トップ面談後に締結されます。トップ面談は、売り手と買い手の経営陣が初めて顔を合わせ、互いのビジネスや企業文化、人間性を理解する重要な機会です。この面談を通じて、双方がM&A取引に対する意向を確認し、基本的な条件について合意することができます。

トップ面談の後、双方の認識が一致し、取引を進める意思が固まった段階で、基本合意書を締結します。このタイミングでの基本合意書の締結には以下のメリットがあります。

初期合意の明確化

トップ面談で合意した内容を文書化することで、双方の認識を明確にし、後続の交渉や手続きをスムーズに進める基盤を築きます。

信頼関係の強化

経営陣同士が直接会って話し合った結果、基本合意書を締結することで、相互の信頼関係が強化され、取引の進行が円滑になります。

取引条件の確認

トップ面談で話し合った取引条件や重要な事項を基本合意書に反映させることで、双方の期待や理解を統一し、取引の透明性を高めます。

デューディリジェンス前の締結

デューディリジェンスは、買い手が譲渡企業の財務、法務、税務などのリスクを詳細に調査するプロセスであり、M&A取引において非常に重要なステップです。基本合意書は、デューディリジェンスの前に締結されることが一般的です。このタイミングで基本合意書を締結することで、デューディリジェンスを円滑に進めるための基盤が整います。

基本合意書をデューディリジェンス前に締結する理由には以下の点があります:

調査範囲の明確化

基本合意書には、デューディリジェンスの範囲や手続きが明記されるため、調査の進行が計画的かつ効率的に行われます。

情報提供の確約

基本合意書に基づき、売り手がデューディリジェンスに必要な情報を提供し、買い手の調査に協力することを確約します。これにより、調査がスムーズに進行し、重要な情報が漏れなく提供されます。

独占交渉権の設定

デューディリジェンスの前に基本合意書を締結することで、買い手は独占交渉権を得ることができ、他の競合買い手との交渉を排除して安心して調査を進めることができます。

デューディリジェンスは多大な時間と費用がかかるため、基本合意書を締結してから調査を開始することで、双方が取引に対して真剣に取り組んでいることを示し、デューディリジェンスの結果を基にした最終契約の交渉が円滑に進むことが期待されます。

最終契約書との関係

基本合意書は、最終契約書(Definitive Agreement: DA)との関係においても重要な役割を果たします。基本合意書は、最終契約書に向けた準備段階であり、これまでの交渉で合意に至った基本的な条件や理解を文書化するものです。最終契約書との関係を明確にすることで、取引全体の流れをスムーズに進めることができます。

基本合意書と最終契約書の関係には以下のポイントがあります。

仮の合意から最終合意へ

基本合意書は、仮の合意を示すものであり、最終契約書はデューディリジェンスの結果や詳細な条件に基づいて締結される最終的な合意文書です。基本合意書に記載された内容を基に、最終契約書が作成されます。

調整と交渉の基盤

デューディリジェンスの結果や状況の変化に応じて、基本合意書に基づいて取引条件を調整し、最終契約書に反映させるための基盤を提供します。これにより、柔軟かつ現実的な取引条件が設定されます。

法的拘束力の違い

基本合意書は、取引の基本的な枠組みを設定するものであり、一部の重要な条項(例:独占交渉権、秘密保持義務)に法的拘束力を持たせます。一方、最終契約書は、取引の全体を確定させるものであり、すべての条項に法的拘束力があることが一般的です。

基本合意書の締結は、最終契約書に向けた重要なステップであり、取引の成功に向けた道筋を示します。基本合意書を適切なタイミングで締結し、デューディリジェンスや最終契約書作成のプロセスを計画的に進めることで、M&A取引全体の透明性と信頼性を高めることができます。

基本合意書の記載内容

基本合意書は、M&Aプロセスにおいて重要な要素を明確にし、取引のスムーズな進行を支える文書です。ここでは、基本合意書に記載されるべき具体的な内容について詳しく解説します。

M&Aの取引形態

M&A取引の形態は、多様な手法が存在し、取引の性質や目的に応じて選択されます。基本合意書には、以下の取引形態が明記されることが一般的です。

株式譲渡

株式譲渡は、譲渡企業の株主が保有する株式を買い手に譲渡する形態です。これにより、買い手は企業の経営権を直接取得します。株式譲渡の利点は、企業全体の統制権を一括して取得できることです。また、株主構成が大きく変わるため、取引後のガバナンスも容易に調整できます。ただし、全株式を譲渡する場合は、株主全員の同意が必要となることが多いため、事前の調整が重要です。

事業譲渡

事業譲渡は、企業の特定の事業や資産を譲渡する形態です。これにより、買い手は特定の事業のみを取得し、その運営を引き継ぎます。事業譲渡のメリットは、譲渡対象が限定されているため、買い手が不要な負債やリスクを回避できる点にあります。具体的には、特定の部門や施設、技術などを譲渡対象とすることが一般的です。ただし、個別の契約や資産の移転手続きが必要となるため、手続きが煩雑になることがあります。

合併

合併は、二つ以上の企業が統合し、一つの新しい企業となる形態です。合併には吸収合併と新設合併の二種類があります。吸収合併では、一方の企業が他方を吸収し、新設合併では新しい法人が設立され、既存の企業が統合されます。合併の利点は、経営資源の統合によるシナジー効果が期待できる点です。特に、重複する部門の統合やコスト削減、新しい市場への参入が容易になります。しかし、統合プロセスには複雑な調整が必要であり、従業員やステークホルダーの調整も重要です。

会社分割

会社分割は、企業の一部を切り離し、新しい法人として設立する形態です。会社分割には、新設分割と吸収分割があります。新設分割では、新しい法人が設立され、吸収分割では既存の法人が分割された部分を吸収します。会社分割の利点は、特定の事業や資産を分離し、独立した法人として運営することで、事業の効率化やリスク管理が可能となる点です。これにより、事業の再編や戦略的な分割が容易になります。

M&Aの対象範囲

M&Aの対象範囲は、取引のスコープを明確にする重要な要素です。基本合意書には、どの範囲が取引の対象となるかが明記されます。

全社譲渡

全社譲渡は、企業全体を譲渡する形態です。これには、企業のすべての資産、負債、事業、契約などが含まれます。全社譲渡は、買い手が企業全体を包括的に取得するため、企業の一貫性を保ちながら運営を引き継ぐことができます。しかし、譲渡対象が広範囲であるため、デューディリジェンスや交渉が複雑になることがあります。

事業部門譲渡

事業部門譲渡は、企業の特定の事業部門や事業を譲渡する形態です。これにより、買い手は特定の事業のみを取得し、運営を引き継ぎます。事業部門譲渡の利点は、買い手が特定の事業に集中できる点です。これは、戦略的に特定の事業のみを取得したい場合や、特定のリスクを回避したい場合に有効です。一方で、事業部門譲渡には、対象範囲の明確化や資産・負債の切り分けが必要となります。

譲渡日

譲渡日は、M&A取引が正式に完了し、譲渡対象が買い手に移転する日を指します。基本合意書には、具体的な譲渡日が明記されます。

具体的な譲渡日の設定

具体的な譲渡日は、基本合意書において明確に設定されることが重要です。譲渡日は、取引のクロージング日とも呼ばれ、この日に取引が正式に完了し、譲渡対象が買い手に移転します。具体的な譲渡日の設定には、以下の要素が考慮されます。

法的手続きの完了

必要な法的手続きや許認可の取得が完了する日を基準に設定されます。

デューディリジェンスの完了

デューディリジェンスの結果を反映し、必要な調整を行った後に譲渡日を設定します。

スケジュールの調整

関係者全員のスケジュールを考慮し、最適な譲渡日を設定します。

譲渡価額

譲渡価額は、M&A取引の重要な要素であり、基本合意書には具体的な価額が記載されます。譲渡価額は、取引の価値を反映し、買い手と売り手の合意に基づいて設定されます。

価格の算定基準

譲渡価額の算定基準は、取引の公正な評価を行うために重要です。価格の算定基準には、以下の要素が考慮されます。

財務データ

企業の財務状況や業績を基に、適正な価額を算定します。

市場比較

類似企業の取引事例や市場価格を参考にします。

将来の収益

将来的な収益予測や成長ポテンシャルを考慮します。

価格レンジの設定

本合意書には、具体的な価格だけでなく、価格レンジが設定されることもあります。価格レンジは、デューディリジェンスの結果や交渉の進展に応じて調整されることがあり、取引の柔軟性を確保します。価格レンジの設定により、予期せぬリスクや変動要因に対応しやすくなります。

スケジュール

スケジュールは、M&A取引の進行を計画的に管理するために重要です。基本合意書には、主要なマイルストーンやデッドラインが記載されます。

デューディリジェンスのスケジュール

デューディリジェンスのスケジュールは、取引の透明性と信頼性を確保するために重要です。デューディリジェンスの具体的なスケジュールには、以下の要素が含まれます。

開始日

デューディリジェンスの調査開始日を設定します。

調査期間

調査の期間を明確にし、効率的な調査を行うためのスケジュールを設定します。

報告日

調査結果の報告日を設定し、結果に基づく対応策を迅速に講じます。

最終契約締結日

最終契約締結日は、デューディリジェンスの結果を反映した最終契約書が締結される日を指します。基本合意書には、最終契約締結日が明記され、取引の進行における重要なマイルストーンとして設定されます。これにより、デューディリジェンスの結果を基にした最終的な合意内容を確認し、正式な契約を締結するための準備が整います。

クロージング日

クロージング日は、M&A取引が正式に完了し、譲渡対象が買い手に移転する日です。クロージング日には、すべての条件が満たされ、必要な手続きが完了していることが前提となります。基本合意書には、クロージング日が明記され、取引の完了を確実にするためのスケジュールが設定されます。これにより、取引の最終的な手続きを円滑に進めることができます。

デューディリジェンス

デューディリジェンスは、買い手が譲渡企業の財務、法務、税務、業務などの実態を詳細に調査するプロセスです。基本合意書には、デューディリジェンスの範囲や手順が明記されます。

デューディリジェンスの目的

デューディリジェンスの主な目的は、譲渡企業の実態やリスクを正確に把握し、買い手が適正な判断を下せるようにすることです。具体的には、以下の点が調査の対象となります。

財務状況の確認

財務諸表やキャッシュフローの分析を通じて、企業の財務健全性を評価します。

法務リスクの評価

契約や訴訟リスク、法令遵守状況を確認します。

業務実態の把握

業務プロセスや運営状況を詳細に調査し、事業の健全性を評価します。

税務リスクの確認

過去の税務申告や税務リスクを確認し、潜在的な問題を把握します。

デューディリジェンスの範囲と手順

デューディリジェンスの範囲は、取引の内容や規模に応じて異なります。基本合意書には、具体的な調査範囲と手順が明記され、効率的な調査が行われるように計画されます。一般的な手順としては、以下のステップがあります。

1. 調査計画の策定:調査の目的や範囲、スケジュールを策定します。

2. 情報収集:必要な資料や情報を譲渡企業から収集します。

3. 現地調査:必要に応じて、譲渡企業の施設や事業所を訪問し、実態を確認します。

4. 分析と評価:収集した情報を分析し、リスクや問題点を評価します。

5. 報告書の作成:調査結果を報告書にまとめ、買い手に提供します。

独占交渉権

独占交渉権は、買い手が一定期間、譲渡企業と独占的に交渉を行う権利です。基本合意書には、独占交渉権の有無やその期間が明記されます。

独占交渉権の重要性

独占交渉権は、買い手にとって非常に重要です。これにより、他の買い手候補との競争を排除し、安心してデューディリジェンスや交渉を進めることができます。また、独占交渉権を設定することで、譲渡企業との信頼関係が強化され、取引の成功可能性が高まります。一方で、譲渡企業にとっては、特定の買い手との交渉に集中できるメリットがありますが、他の有利な条件を提示する買い手を排除するリスクも伴います。

独占交渉権の期間

独占交渉権の期間は、通常2〜3ヶ月程度が一般的です。この期間中に、買い手はデューデリジェンスを実施し、最終契約の条件を確定させます。期間が短すぎると十分な調査や交渉ができない恐れがあり、逆に長すぎると譲渡企業に不利な条件となる可能性があります。そのため、双方にとって合理的な期間を設定することが重要です。

秘密保持

M&A取引においては、機密情報の取り扱いが非常に重要です。基本合意書には、秘密保持に関する条項が含まれ、取引に関する情報漏洩リスクを回避します。

秘密保持義務の範囲

秘密保持義務の範囲には、デューディリジェンスで得た情報や交渉内容が含まれます。基本合意書には、具体的な情報の範囲と秘密保持の期間が明記されます。これにより、譲渡企業は安心して情報を提供でき、買い手も適切な情報に基づいて判断を下すことができます。秘密保持義務には、以下の要素が含まれます。

情報の範囲:秘密として扱う情報の具体的な範囲を明確にします。

保持期間:秘密保持義務の期間を設定し、取引終了後も一定期間は義務を継続させます。

違反時の措置:秘密保持義務に違反した場合の措置や罰則を定めます。

情報漏洩リスクの回避

情報漏洩リスクを回避するために、基本合意書には秘密保持義務が厳格に設定されます。これにより、取引に関する機密情報が第三者に漏洩するリスクを最小限に抑え、取引の信頼性を確保します。また、秘密保持義務は、取引が成立しなかった場合にも有効であり、情報漏洩による損害を防ぐ役割を果たします。

その他の合意事項

基本合意書には、取引の円滑な進行を確保するために、その他の合意事項も記載されます。

役員・従業員の処遇

譲渡後の役員や従業員の処遇は、M&A取引において重要な要素です。基本合意書には、譲渡後の役員や従業員の処遇について具体的に記載されます。これには、以下の内容が含まれます。

雇用維持:譲渡後も従業員の雇用を維持すること

役員の処遇:譲渡後の役員の役職や報酬についての取り決め

退職慰労金:役員の退職時の慰労金に関する取り決め

譲渡後の事業運営方針

譲渡後の事業運営方針についても基本合意書に記載されます。これにより、買い手と売り手が同じ方向性で事業を運営できるようにし、事業の一貫性を確保します。具体的には、以下の内容が含まれます:

事業計画:譲渡後の事業計画や戦略

運営体制:新たな経営陣や組織体制

事業方針:事業の方向性や重点分野

借入金の取り扱い

譲渡企業が抱える借入金の取り扱いについても、基本合意書に明記されます。これにより、譲渡後の財務リスクを管理し、円滑な資金運用を確保します。具体的には、以下の内容が含まれます。

借入金の返済方法:譲渡後の借入金返済計画

新規借入の取り扱い:譲渡後の新規借入に関する取り決め

借入金の引き継ぎ:買い手が借入金を引き継ぐ場合の条件

基本合意書の法的拘束力

基本合意書は、M&A取引において重要な役割を果たす文書ですが、そのすべての条項に法的拘束力があるわけではありません。法的拘束力を持つ項目と持たない項目があり、各項目の性質や目的に応じて明確に区別されることが一般的です。ここでは、基本合意書における法的拘束力のある項目とない項目について詳しく解説します。

法的拘束力を持たせる項目

基本合意書には、取引の信頼性や透明性を確保するために、法的拘束力を持たせる項目がいくつかあります。これらの項目は、譲渡企業と譲受企業双方にとって重要な意味を持ち、合意の履行を確実にするために法的拘束力を持たせる必要があります。

独占交渉権

独占交渉権は、譲受企業が譲渡企業と独占的に交渉を行う権利です。この権利を持つことで、譲受企業は他の買い手候補との競争を避け、安心してデューディリジェンスや詳細な交渉を進めることができます。独占交渉権の法的拘束力は以下の点で重要です。

交渉の独占性

独占交渉期間中、譲渡企業は他の潜在的買い手と交渉を行うことが禁止されます。これにより、譲受企業はデューディリジェンスや契約交渉を集中して行うことができます。

信頼関係の構築

独占交渉権を設定することで、譲受企業は譲渡企業との信頼関係を強化し、取引の成功確率を高めます。

秘密保持義務

秘密保持義務は、M&Aプロセスで取り扱われる機密情報の漏洩を防ぐための重要な条項です。法的拘束力を持たせることで、譲渡企業と譲受企業は互いに安心して情報を共有できる環境を整えます。秘密保持義務の具体的な内容は以下の通りです。

情報の範囲

デューディリジェンスで得た情報や交渉内容が秘密として扱われます。

保持期間

秘密保持義務の期間を明確に設定し、取引終了後も一定期間は義務が継続します。

違反時の措置

秘密保持義務に違反した場合の罰則や賠償責任が定められます。

デューディリジェンスに関する協力義務

デューディリジェンスは、譲受企業が譲渡企業の財務、法務、税務、業務などの実態を詳細に調査するプロセスです。デューディリジェンスに関する協力義務に法的拘束力を持たせることで、譲渡企業は誠実に情報を提供し、調査に協力する義務を負います。この義務は以下の要素を含みます。

情報提供

譲渡企業は必要な情報や資料を迅速かつ正確に提供する義務があります。

現地調査の受け入れ

譲渡企業は譲受企業やその代理人が現地調査を行う際に協力しなければなりません。

協力の範囲

デューディリジェンスの範囲や手順について明確に定められます。

法的拘束力を持たせない項目

基本合意書には、柔軟な対応が求められる項目も含まれます。これらの項目には、取引条件が変動する可能性があるため、法的拘束力を持たせないことが一般的です。以下は、法的拘束力を持たせない項目の具体例です。

譲渡価額の調整

譲渡価額は、デューディリジェンスの結果や交渉の進展に応じて変動する可能性があります。そのため、基本合意書における譲渡価額は目安として設定され、最終的な価額はデューディリジェンス終了後に確定します。譲渡価額の調整に関する具体的な内容は以下の通りです。

価格のレンジ

譲渡価額は一定のレンジで設定され、デューディリジェンスの結果に基づき最終的に確定します。

調整の条件

デューディリジェンスで重大な問題が発覚した場合、譲渡価額を調整する条件が明記されます。

スケジュール

M&A取引の進行スケジュールは、多くの要因によって変動する可能性があります。デューディリジェンスの期間、最終契約締結日、クロージング日など、基本合意書に記載されたスケジュールはあくまで目安とされ、法的拘束力を持たせないことが一般的です。スケジュールの柔軟性に関する具体的な内容は以下の通りです。

調整の余地

スケジュールは、両社の協議により調整可能とする条項が含まれます。

変更の手続き

スケジュール変更が必要な場合の手続きや条件が明記されます。

基本合意書は、M&A取引の成功に向けて重要な役割を果たす文書ですが、そのすべての項目に法的拘束力があるわけではありません。法的拘束力を持たせる項目と持たせない項目を明確に区別し、取引の信頼性と柔軟性をバランス良く保つことが重要です。

基本合意書の作成手順

基本合意書の作成は、M&Aプロセスの重要なステップです。基本合意書を効果的に作成するためには、交渉と合意のプロセスをしっかりと進め、専門家の関与を適切に取り入れることが不可欠です。以下に、基本合意書の作成手順について詳しく説明します。

交渉と合意のプロセス

基本合意書の作成には、段階的な交渉と合意形成が必要です。このプロセスを通じて、取引の条件や期待を明確にし、双方が納得する形で基本合意書を作成します。

初期交渉

初期交渉は、M&Aプロセスの最初のステップです。この段階では、譲渡企業と譲受企業が互いのニーズや期待を共有し、基本的な取引条件について話し合います。初期交渉では以下のポイントが重要です。

相互理解の確立

譲渡企業と譲受企業がそれぞれのビジネスモデル、戦略、目標を理解し合うことが重要です。これにより、双方が合意に達しやすくなります。

基本条件の提示

譲受企業が譲渡企業に対して初期的な買収条件や価格のレンジを提示します。これに基づいて、譲渡企業が取引を進めるかどうかを判断します。

初期交渉は、双方の信頼関係を構築するための重要な段階であり、この段階での合意が後の詳細な交渉をスムーズに進める基盤となります。

合意形成

初期交渉が成功した後、次に具体的な取引条件についての合意形成に進みます。この段階では、詳細な条件や取引の枠組みについて交渉し、最終的な基本合意を形成します。合意形成の主なポイントは以下の通りです。

詳細条件の交渉

譲渡価額、譲渡日、デューディリジェンスの範囲など、具体的な取引条件について詳細に交渉します。

独占交渉権の設定

譲受企業が独占交渉権を求める場合、その期間や条件について合意します。独占交渉権は、譲受企業が他の買い手候補と競争することなく交渉を進めるための重要な要素です。

秘密保持義務の確認

取引に関する機密情報の漏洩を防ぐため、秘密保持義務について合意します。

この段階では、双方が納得する形で基本的な取引条件が合意され、これを基に基本合意書の草案が作成されます。

書面作成と確認

合意形成が完了した後、次に基本合意書の書面作成と確認に進みます。この段階では、合意された条件を正式な文書にまとめ、双方が確認・署名します。書面作成と確認のポイントは以下の通りです。

草案の作成

合意された条件に基づいて基本合意書の草案を作成します。この草案には、取引条件、独占交渉権、秘密保持義務、デューディリジェンスの範囲など、すべての重要な要素が含まれます。

専門家によるレビュー

作成された草案は、弁護士、公認会計士、税理士などの専門家によってレビューされます。これにより、法的・財務的なリスクを最小限に抑えることができます。

最終確認と署名

専門家のレビューを経て、最終的な確認が行われます。双方が内容に納得した上で、基本合意書に署名し、正式に締結します。

基本合意書の書面作成と確認は、取引の透明性と信頼性を確保するために重要なステップです。

基本合意書作成には専門家の関与が必要

基本合意書の作成には、法務・財務・税務の各分野で専門的な知識が必要です。専門家の関与により、取引のリスクを最小限に抑え、スムーズな進行を確保することができます。

弁護士

弁護士は、基本合意書の法的側面を担当します。具体的な役割は以下の通りです。

法的アドバイス

取引の法的リスクを評価し、必要な法的措置を提案します。

契約書の作成とレビュー

基本合意書の草案を作成し、法的に問題がないかを確認します。また、法的拘束力を持たせる項目の設定や、秘密保持義務などの条項を明確にします。

交渉サポート

交渉の際に法的な観点からサポートし、取引条件が適切に設定されるよう助言します。

公認会計士

公認会計士は、基本合意書の財務的側面を担当します。具体的な役割は以下の通りです。

財務デューディリジェンス

譲渡企業の財務状況を詳細に調査し、潜在的なリスクや問題点を洗い出します。

価値評価

企業価値の算定を行い、譲渡価額の適正性を評価します。これにより、双方が納得できる価格を設定します。

財務アドバイス

取引の財務的な影響について助言し、財務戦略の策定をサポートします。

税理士

税理士は、基本合意書の税務的側面を担当します。具体的な役割は以下の通りです。

税務デューディリジェンス

譲渡企業の税務状況を調査し、潜在的な税務リスクを特定します。

税務アドバイス

取引に伴う税務リスクや節税対策について助言します。これにより、取引後の税務負担を最小限に抑えます。

税務コンプライアンス

取引が税法に準拠して行われるように支援し、必要な税務手続きをサポートします。

専門家の関与により、基本合意書の作成は法的・財務的・税務的に適切に進行し、取引のリスクを最小限に抑えることができます。これにより、M&Aプロセス全体が円滑に進み、双方にとって最適な結果を得ることが可能となります。

まとめ: 基本合意書の重要性を再確認しよう!

基本合意書は、M&Aプロセスにおいて非常に重要な役割を果たします。取引の基本条件を明確にし、双方の信頼関係を構築するために不可欠なステップです。基本合意書は、交渉の円滑化に寄与し、初期交渉から合意形成、書面作成と確認のプロセスを経ることで、双方の意図や条件を明確にし、誤解や摩擦を避けることができます。また、弁護士、公認会計士、税理士などの専門家の助言を受けることで、法的・財務的・税務的なリスクを最小限に抑え、取引の成功率を高めます。さらに、基本合意書の締結により、取引に対する双方の真剣な意図が明示され、心理的な拘束力が働きます。これにより、M&Aプロセスがより確実に進行することが期待できます。M&Aにおいて成功を収めるためには、基本合意書をしっかりと理解し、適切に活用することが不可欠であることをしっかり認識しておきましょう。

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