企業が成長を続ける中で、事業再編や資産の整理が必要となることがあります。特に、特定の事業を他の企業に引き継ぐ際には、会社分割と事業譲渡という2つの主要な手法が選ばれることが多いです。これらの手法には、それぞれ異なる特徴、メリット、デメリットがあり、どの方法を選ぶかは企業の状況や戦略によって異なります。
本記事では、会社分割と事業譲渡の違いについて13のポイントに分けて詳しく解説します。また、それぞれの手法のメリットやデメリット、具体的な手続き方法についても紹介します。
- この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)
会社分割と事業譲渡の概要
企業が事業を引き継ぐ手法として、「会社分割」と「事業譲渡」があります。これらはどちらも事業承継の一環として利用される方法ですが、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあり、適用される場面や目的が異なります。本セクションでは、まず会社分割と事業譲渡がどのような手法であるかについて詳しく解説します。
会社分割とは
会社分割とは、企業がその事業を特定の単位で分割し、他の企業や新設された子会社に引き継ぐ手法です。会社分割は、さらに「吸収分割」と「新設分割」に分類されます。吸収分割とは、既存の企業が他の既存企業に対して事業を引き継ぐ方法で、新設分割とは、新たに設立した会社に事業を引き継ぐ方法です。
吸収分割の特徴は、引き継ぐ事業が既存の企業間で行われる点にあります。この方法では、譲渡対象となる事業の対価を元の会社の株主に支払うのか、元の会社自体に支払うのかによって、元の会社と移転先の企業との関係が変わることが特徴です。
一方、新設分割では、新たに設立された会社が事業を引き継ぎます。これにより、元の会社は分割された事業の対価を受け取るか、その株主が新設会社の株式を受け取るかのどちらかになります。新設分割は、元の会社の事業を新会社に引き継がせることで、組織の再編や特定事業の切り離しを効率的に行うことが可能です。
会社分割は、特にグループ企業内での再編手法として多く活用されます。グループ内で事業を再編する際に、会社分割を用いることで、効率的に資産や負債、従業員を移転させることができます。この手法は、企業グループ全体の組織力を強化し、経営資源を最適化するために非常に有効です。
会社分割の具体的な手順としては、まず分割計画書の策定および分割契約書の締結が行われます。続いて、事前開示書類の備置や社員への事前通知が必要となり、株主総会の特別決議が求められます。その後、債権者保護の手続きや登記申請が行われ、最終的に事後開示書類の備置が行われるという流れです。このように、会社分割には多くの手続きが必要であり、それぞれの手続きに時間と手間がかかる点が特徴です。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、企業がその事業の全部または一部を第三者に売却する手法です。事業譲渡は、特定の事業に関連する資産を個別に選択し、売買契約を通じて譲渡します。この手法は、会社全体ではなく、特定の事業のみを売却したい場合に有効です。事業譲渡の対象となる資産には、建物、在庫、債務、組織、人材、ノウハウ、ブランド、取引先との関係、顧客リストなどが含まれます。
事業譲渡の主な利点は、売り手企業が事業のスリム化やノンコア事業の切り離しを図ることができる点です。これにより、経営資源をコア事業に集中させ、企業の競争力を強化することができます。一方、買い手企業にとっては、事業の拡大や新規事業の取得、技術や人材の獲得などが目的となります。特に、小規模な事業の売買に適しており、スムーズな取引が可能です。
事業譲渡の手続きは、まず事業譲渡のプロジェクト化から始まります。次に、譲渡先を探し、交渉を進めます。この過程で秘密保持契約書を締結し、基本合意契約書を取り交わします。デューデリジェンスを実施した後、取締役会や株主総会を開催し、事業譲渡契約書を締結します。最終的には、譲渡資産の引き渡しが行われ、クロージングとなります。この一連の手続きには3~6カ月程度の時間がかかることが一般的です。
事業譲渡には、売却側と買収側の双方に税金が課される点や、株主総会の特別決議が求められるケースがある点、債務や契約の移転に際して債権者や取引先の同意が必要となる点など、注意すべき事項が多くあります。また、事業譲渡を行う売却側は、会社法で定められた競業避止義務を負うため、一定期間および地域において同種の事業を行うことができなくなる点も重要です。
このように、会社分割と事業譲渡はそれぞれ異なる特徴と手続きがあり、企業の状況や目的に応じて最適な手法を選択することが重要です。両者の違いを理解し、適切な方法を選ぶことで、事業承継や企業再編をスムーズに進めることができます。
会社分割の種類と手続き
会社分割は、企業がその事業を特定の単位で分割し、他の企業や新設された子会社に引き継ぐ手法です。この手法には、吸収分割と新設分割という二つの主要な種類があります。それぞれの種類には特徴や利点があり、企業の目的や状況に応じて適切に選択されます。また、会社分割を実施する際には、特定の手続きが必要です。以下では、会社分割の種類とそれに伴う手続きについて詳しく解説します。
吸収分割と新設分割
吸収分割と新設分割は、会社分割の二つの主要な種類です。これらは、企業が事業をどのように移転するかに応じて異なる方法を取ります。
吸収分割とは、既存の企業が他の既存企業に対して事業を引き継ぐ方法です。この方法では、譲渡対象となる事業の対価を、分割する企業の株主に支払う場合と、分割する企業自体に支払う場合があります。吸収分割の利点は、既存の企業間で事業を移転するため、新たな企業を設立する必要がなく、既存の組織や経営資源を有効活用できる点です。
一方、新設分割とは、新たに設立した会社に事業を引き継ぐ方法です。この方法では、元の会社は新設会社に対して事業を移転し、新設会社の株式を元の会社の株主に交付する場合と、元の会社自体に交付する場合があります。新設分割の利点は、新設会社が独立した経営体制を構築できる点や、組織のスリム化や事業の再編成が容易に行える点です。新設分割は、特定の事業を独立させて新たなビジネスチャンスを追求したり、特定事業の効率的な管理を目的とする場合に有効です。
会社分割の手順
会社分割を行う際には、多くの手続きが必要です。これらの手続きは、法的要件を満たすために重要であり、各手続きを適切に行うことで、スムーズな会社分割を実現できます。以下では、会社分割の主要な手順について詳しく説明します。
分割計画書の策定・分割契約書の締結
会社分割を実施するための最初のステップは、分割計画書の策定と分割契約書の締結です。分割計画書には、分割の目的や方法、分割後の組織構造、分割対象となる事業や資産の詳細などが記載されます。この計画書は、分割を実施する企業の取締役会で承認される必要があります。
分割契約書は、分割する企業と受け入れる企業(または新設される企業)との間で締結される契約書です。この契約書には、分割の詳細、資産や負債の移転方法、対価の支払い方法などが記載されます。分割契約書の締結により、分割の具体的な実施が確定されます。
事前開示書類の備置
分割計画書や分割契約書の内容は、事前開示書類として、分割を実施する企業の本店に備置されます。事前開示書類は、株主や債権者が分割の内容を確認できるようにするためのもので、透明性を確保するための重要な手続きです。これにより、関係者が分割の影響を十分に理解し、必要な対応を取ることが可能となります。
株主総会の特別決議
会社分割を実施するためには、分割を行う企業の株主総会で特別決議が必要です。特別決議とは、通常の決議よりも高い承認率が求められる決議であり、企業の重要な変更に対する承認を得るために行われます。株主総会では、分割計画書や分割契約書の内容が説明され、株主の投票によって分割の実施が正式に承認されます。この手続きにより、分割が法的に有効となります。
債権者保護の手続き
会社分割では、分割する企業の債権者保護手続きが必要です。債権者保護手続きとは、分割によって影響を受ける可能性のある債権者に対して、分割の内容を通知し、意見を述べる機会を提供する手続きです。この手続きは、分割により債権者の権利が侵害されないようにするために行われます。具体的には、官報に公告を掲載したり、債権者に対して個別に通知を行ったりします。
登記申請
会社分割が株主総会で承認され、債権者保護手続きが完了した後、分割の内容を法務局に登記申請します。登記申請は、分割の法的効力を発生させるために必要な手続きです。分割する企業と受け入れる企業(または新設する企業)の両方で登記を行う必要があります。登記が完了することで、分割が正式に実施されたことが法的に認められます。
事後開示書類の備置
分割が完了した後、事後開示書類として、分割の結果や影響についての情報を本店に備置します。事後開示書類は、分割後の企業の状況や分割による変化を関係者に説明するためのものであり、透明性を確保するための重要な手続きです。これにより、株主や債権者が分割の影響を把握し、適切な対応を取ることが可能となります。
以上のように、会社分割には多くの手続きが必要であり、それぞれの手続きには時間と手間がかかります。しかし、適切に手続きを進めることで、スムーズな分割が実現され、企業の再編成や事業の効率化が図られます。企業が会社分割を実施する際には、これらの手続きをしっかりと理解し、適切に進めることが重要です。
事業譲渡の方法と手続き
事業譲渡とは、企業がその事業の全部または一部を第三者に売却する手法であり、事業資産を個別に選択し、売買契約を通じて譲渡します。この手法は、企業が全体を売却するのではなく、特定の事業のみを売却したい場合に有効です。事業譲渡の方法と手続きについて詳しく解説します。
事業譲渡の手順
事業譲渡を行う際には、さまざまな手続きが求められます。これらの手続きは、売却する事業のスムーズな移転を確実にするために重要です。事業譲渡の一般的な手順は以下の通りです。
事業譲渡のプロジェクト化
事業譲渡を成功させるための第一歩は、事業譲渡プロジェクトの立ち上げです。この段階では、事業譲渡の目的や範囲、スケジュール、関係者の役割などを明確にします。また、プロジェクトチームを編成し、各メンバーの責任と役割を定義します。このプロジェクト化により、事業譲渡の全体像が把握され、効果的な進行が可能となります。
相手先探し・交渉
次に、事業譲渡の相手先を探します。この段階では、事業譲渡の対象となる企業や個人を特定し、初期的な接触を行います。適切な相手先を見つけるためには、業界のネットワークや専門のM&A仲介会社を活用することが有効です。相手先が見つかったら、詳細な交渉を行います。この交渉では、譲渡の条件や対価、譲渡後の事業運営について詳細に話し合います。
秘密保持契約書の締結
相手先との交渉が進展すると、秘密保持契約書(NDA)を締結します。この契約書は、事業譲渡に関する情報が外部に漏れないようにするためのものであり、双方の信頼関係を築くために重要です。NDAの締結により、交渉が正式に始まり、詳細な情報の共有が可能となります。
基本合意契約書の締結
交渉が進み、主要な条件が合意に達すると、基本合意契約書(LOI)を締結します。LOIは、事業譲渡の基本的な枠組みや条件を記載した文書であり、法的拘束力は持たない場合が多いですが、双方の意図や方向性を確認するために重要です。この段階で、譲渡価格や主要な条件が明確になります。
デューデリジェンスの実施
LOIの締結後、買い手側はデューデリジェンス(Due Diligence、DD)を実施します。デューデリジェンスとは、売り手側の事業に関する詳細な調査を行うことであり、財務状況、法務、税務、人事、経営状況など、多岐にわたる項目が対象となります。この調査により、買い手側は事業譲渡に伴うリスクや潜在的な問題を把握し、最終的な決定を行います。
取締役会、株主総会の開催
デューデリジェンスが完了し、問題がなければ、売り手企業および買い手企業は取締役会および株主総会を開催します。事業譲渡の実施には、通常、株主総会の特別決議が必要です。取締役会と株主総会で事業譲渡の承認を得ることで、法的な手続きを完了させます。
事業譲渡契約書の締結
取締役会および株主総会の承認を得た後、事業譲渡契約書を正式に締結します。この契約書には、譲渡の詳細な条件、譲渡対象となる資産や負債、対価の支払い方法、譲渡後の事業運営に関する取り決めなどが記載されます。契約書の内容は、事業譲渡の成功を左右する重要な要素であるため、詳細に確認する必要があります。
クロージング
事業譲渡契約書の締結後、実際に事業資産を移転するクロージングが行われます。クロージングでは、譲渡対象となる資産や負債、契約などが買い手側に正式に移転されます。また、対価の支払いもこの段階で行われます。クロージングが完了することで、事業譲渡のプロセスが正式に終了し、買い手側が事業を運営する準備が整います。
以上が事業譲渡の方法と手続きです。これらの手続きを適切に行うことで、スムーズな事業譲渡が実現され、売り手側は事業のスリム化やノンコア事業の切り離し、買い手側は事業の拡大や新規事業の取得が可能となります。事業譲渡は、企業戦略の一環として重要な手法であり、その成功には綿密な計画と実行が求められます。
会社分割と事業譲渡の13個の違い
会社分割と事業譲渡は、企業の事業を他の会社に承継させる手法ですが、それぞれに特徴があり、適用される法規や手続き、メリット・デメリットが異なります。以下では、会社分割と事業譲渡の13個の違いについて解説します。
会社法の組織再編への該当
会社分割と事業譲渡の大きな違いの一つは、会社法上の組織再編行為に該当するかどうかです。会社分割は、会社法における組織再編行為に該当します。具体的には、合併や株式移転、株式交換と同様に、企業の組織構造を大きく変更する行為として認識されます。これに対して、事業譲渡は事業資産の個別売買行為であり、組織再編行為には該当しません。この法的な性質の違いにより、手続きや規制が異なります。
契約・承継対象
会社分割では、分割される事業は包括的に承継されます。これは、事業全体が一つの単位として移転することを意味し、個別の契約を結ぶ必要がありません。一方、事業譲渡では、事業に関連する資産、負債、契約などを個別に承継します。これにより、譲渡対象となる各項目について個別に契約を結び直す必要があります。例えば、事業譲渡では、取引先との契約や許認可も個別に移転手続きを行う必要があります。
債権者保護
会社分割と事業譲渡では、債権者保護の取り扱いが異なります。会社分割は包括承継となるため、分割会社の債務も承継会社に引き継がれます。このため、債権者保護手続きが必要となり、官報公告や個別の債権者通知などが行われます。一方、事業譲渡では、債権者保護手続きは不要ですが、個別の債務については債権者の同意が必要です。これにより、事業譲渡では各債権者との調整が求められます。
債権者の事前承諾
会社分割では、包括承継のために債権者の個別の事前承諾は必要ありません。分割後の承継会社が全ての権利義務を引き継ぐためです。しかし、事業譲渡では、譲渡対象となる各資産や契約について、債権者の個別承諾が必要です。これにより、事業譲渡は多くの債権者がいる場合、承諾を得る手続きに時間と手間がかかることがあります。
簿外債務の引き継ぎ
会社分割では、事業を包括的に承継するため、簿外債務も引き継がれる可能性があります。簿外債務とは、帳簿に記載されていない債務のことを指します。事業譲渡では、基本的に負債は引き継がれないため、簿外債務を避けることができます。買い手側にとっては、簿外債務を引き継がないという点で事業譲渡が魅力的です。
従業員への対応
従業員への対応についても、会社分割と事業譲渡では異なります。会社分割の場合、労働契約承継法に基づいて、分割対象となる事業の従業員は自動的に承継会社に移転します。これにより、個別に労働契約を結び直す必要がありません。一方、事業譲渡では、従業員一人ひとりの同意が必要となり、個別に労働契約を結び直す必要があります。
登録免許税への対応
会社分割と事業譲渡では、登録免許税の取り扱いも異なります。会社分割の場合、一定の要件を満たすと登録免許税の軽減措置を受けることができます。これに対して、事業譲渡では、登録免許税の軽減措置は適用されません。分割会社の資本構成や事業の規模によっては、これが大きな経済的影響を及ぼす可能性があります。
不動産取得税への対応
会社分割では、一定の要件を満たすと不動産取得税の軽減措置を受けることができます。これは、組織再編行為として認められる場合の特例措置です。一方、事業譲渡では、不動産取得税の軽減措置はありません。不動産を含む事業譲渡の場合、取得税の負担が大きくなることが考えられます。
消費税に関する比較
会社分割と事業譲渡では、消費税の取り扱いも異なります。会社分割は組織再編行為とみなされるため、消費税は課されません。これに対して、事業譲渡は個別の資産取引として扱われるため、課税対象となります。特に、事業譲渡では有形固定資産(建物や設備など)や無形固定資産(商標権や特許権など)、棚卸資産、のれんなどに消費税が課されます。
支払われる対価
会社分割と事業譲渡では、支払われる対価の形態が異なります。会社分割の場合、対価として買い手企業の株式が支払われることが一般的です。これは、企業再編に伴う株式の移転が行われるためです。一方、事業譲渡では、対価は通常現金で支払われます。現金での支払いは、売り手企業にとって迅速に資金を調達できる利点があります。
取引先への対応
取引先との契約についても、会社分割と事業譲渡では異なります。会社分割では、包括承継のため、取引先との契約も自動的に承継されます。これにより、個別に契約を巻き直す必要がありません。一方、事業譲渡では、取引先との契約を個別に結び直す必要があります。取引先が多い場合、これが大きな負担となることがあります。
競業避止義務
事業譲渡には、競業避止義務が伴います。これは、事業譲渡を行った売り手側が一定期間、同地域で同種の事業を行わないことを約束するものです。これに違反した場合、賠償を求められることがあります。一方、会社分割には競業避止義務の取り決めは基本的にありません。この点も、両者の重要な違いの一つです。
以上のように、会社分割と事業譲渡にはそれぞれ特有の違いがあり、企業の状況や目的に応じて適切な手法を選択することが重要です。各手法の利点と欠点を理解し、慎重に検討することで、事業承継や企業再編の成功に繋がります。
会社分割のメリットとデメリット
会社分割は、企業がその事業を特定の単位で分割し、他の企業や新設された子会社に引き継ぐ手法です。この手法には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。以下では、会社分割の5つの主要なメリットと3つのデメリットについて詳しく解説します。
会社分割の5つのメリット
まずは、会社分割の5つのメリットについて解説していきましょう。
組み合わせに決まりはないため、総合的な組織強化が可能
会社分割の大きなメリットの一つは、組み合わせに決まりがないため、総合的な組織強化が可能である点です。企業は複数の事業を分割して、それぞれを独立した法人に移転することができます。このプロセスにより、企業は特定の事業に集中し、それ以外の事業を適切なパートナーに引き継ぐことが可能です。また、新設会社を設立して、新しい事業領域でのビジネス展開を図ることもできます。これにより、企業全体の競争力を向上させることができます。
買収資金が不要
会社分割では、対価として買い手企業の株式が支払われることが一般的です。これにより、現金を用意する必要がありません。株式を対価にすることで、買収資金が不要となり、買い手企業は資金負担を軽減することができます。特に、資金繰りに余裕がない企業にとって、この点は大きなメリットとなります。株式交換による会社分割は、資金調達の負担を軽減しながら、事業拡大や新規市場参入を実現する手段となります。
債権者の同意が不要
会社分割の場合、包括承継となるため、債権者の個別の同意を得る必要がありません。これは、債務も含めた全ての権利義務が自動的に移転するためです。このプロセスにより、債権者の同意を得るための手続きが省略され、手続きの簡素化と迅速化が図れます。大規模な企業再編や多くの債権者が関与する場合でも、スムーズに進めることが可能です。
消費税の課税対象が基本的にはない
会社分割は、会社法に基づく組織再編行為とみなされるため、消費税は課せられません。これは、事業譲渡のように個別資産の売買ではなく、組織全体の再編として扱われるためです。このため、会社分割を行う際には、消費税の負担を考慮する必要がありません。特に、大規模な資産移転が伴う場合、消費税の負担がないことは大きな経済的メリットとなります。
資産移転などの手続きが簡単
会社分割では、資産移転や契約の引き継ぎが包括的に行われるため、個別に契約を巻き直す必要がありません。これにより、手続きが大幅に簡素化されます。特に、取引先や顧客との契約、許認可の引き継ぎなど、多くの手続きを一度に済ませることができるため、事業の連続性を確保しながらスムーズに再編を進めることができます。手続きの簡素化により、再編にかかる時間とコストを削減することが可能です。
会社分割の3つのデメリット
会社分割は企業再編や事業承継において非常に有用な手法ですが、いくつかのデメリットも存在します。以下では、会社分割の3つの主要なデメリットについて詳しく解説します。
簿外債務などの負債も引き継ぐ可能性がある
会社分割の大きなデメリットの一つは、簿外債務などの負債も引き継ぐ可能性がある点です。会社分割は包括承継となるため、分割対象となる事業の全ての資産と負債が新しい会社に移転します。この包括承継には、帳簿に記載されていない簿外債務も含まれます。簿外債務とは、企業の帳簿に記載されていない、未払いの債務や潜在的な負債のことを指します。これにより、買い手企業は予期せぬ負債を抱えるリスクがあります。例えば、将来的な訴訟リスクや保証債務などが含まれることがあり、これらが事業運営に対して予期せぬ障害となる可能性があります。このため、買い手企業はデューデリジェンス(企業監査)を徹底して行い、可能な限り簿外債務の存在を確認する必要があります。しかし、完全にリスクを排除することは難しいため、この点が会社分割の大きなデメリットとなります。
買収先の株主が自社の株を持つ
会社分割では、対価として株式を交付することが一般的です。このため、買収先の株主が自社の株を保有することになります。これは、買収側企業にとって重要な経営判断を行う際に、株主構成の変化が影響を及ぼす可能性があることを意味します。特に、株式保有割合が大きくなると、買収先の株主が経営に対して強い発言権を持つことになり、意思決定の過程において影響力を持つことが考えられます。このような状況は、特に戦略的な経営判断が求められる場面で問題となる可能性があります。さらに、買収先の株主が経営方針に異議を唱える場合、企業の一貫した経営戦略を維持することが難しくなることがあります。したがって、株主構成の変化が企業の経営にどのような影響を及ぼすかを慎重に評価することが必要です。
非上場会社が買収側の場合は株式の現金化が難しい
会社分割の対価として交付される株式は、通常は市場で自由に取引されるものではありません。特に、非上場会社が買収側の場合、その株式の現金化が難しいというデメリットがあります。非上場株式は市場での流動性が低いため、売却して現金化することが難しい場合があります。これは、売却希望者がすぐに買い手を見つけることが困難であることを意味します。そのため、受け取った株式の価値がすぐに現金として活用できないという問題があります。この現金化の難しさは、売り手企業にとって資金繰りの面で不利に働く可能性があります。例えば、企業が急な資金需要に直面した場合、非上場株式では必要な資金を迅速に調達することができないため、流動性リスクが高まります。このため、非上場企業の株式を対価とする会社分割を検討する際には、株式の流動性や市場での評価を慎重に考慮することが重要です。
事業譲渡のメリットとデメリット
事業譲渡は、企業が特定の事業を他の企業に売却する手法であり、多くのメリットを提供する一方で、いくつかのデメリットも伴います。以下では、事業譲渡の主要なメリットとデメリットについて詳しく解説します。
事業譲渡の4つのメリット
事業譲渡には、以下のような4つのメリットがあります。
事業のみを譲渡するため注力したい事業を残せる
事業譲渡の大きなメリットの一つは、企業が不要な事業を切り離し、注力したい事業を残すことができる点です。これにより、企業は経営資源を最も成長可能性の高い事業に集中させることができます。例えば、ノンコア事業や不採算事業を売却し、得られた資金やリソースをコア事業の強化に投入することが可能です。これにより、企業全体の競争力を高めることができます。事業譲渡は、企業の戦略的リストラや経営再編の一環として非常に有効な手段となります。
簿外債務などの負債を引き継がない
事業譲渡では、譲渡対象となる事業の資産と負債を個別に選択して承継するため、簿外債務などの負債を引き継がないことが可能です。簿外債務とは、帳簿に記載されていない隠れた負債のことを指します。このような負債を引き継がないことで、買い手企業は予期せぬ債務リスクを回避できます。これにより、買い手企業は安心して事業を取得することができ、財務リスクを最小限に抑えることができます。
譲渡益を得ることが可能
事業譲渡では、売却対価として現金を受け取ることができます。この現金は、新規事業の立ち上げや既存事業の拡大、借入金の返済など、企業の戦略的な目的に利用することができます。特に、資金調達が困難な中小企業にとって、事業譲渡は重要な資金源となります。現金の流動性が高いため、企業は迅速に資金を活用することができます。
後継者問題が解決できる
近年、中小企業の多くが後継者不在に悩んでいます。事業譲渡は、この問題を解決する有効な手段です。事業譲渡により、企業の事業を第三者に承継することができ、企業の存続を確保することができます。これにより、後継者不在による事業継続のリスクを回避することができます。また、事業譲渡により、現経営者は引退後も企業の繁栄を見守ることができるため、安心して次のステージに進むことができます。
事業譲渡の5つのデメリット
事業譲渡には以下のような5つのデメリットがあります。これらに注意しながら、事業譲渡を検討することが大切です。
債権者の同意が必要となる
事業譲渡のデメリットの一つは、債権者の個別同意が必要となる点です。事業譲渡では、譲渡する資産や契約に関して、各債権者からの同意を得る必要があります。これは、債務の引き継ぎや契約の継続に対する保証を求めるためです。債権者が多い場合、この手続きは非常に煩雑であり、交渉に時間と労力を要することがあります。また、全ての債権者から同意を得ることができない場合、取引が成立しないリスクもあります。
買収資金が必要となる
事業譲渡では、買い手企業が現金を用意する必要があります。これにより、買収資金の確保が課題となります。十分な内部留保がない企業にとって、金融機関からの借り入れや資本調達が必要となる場合があります。これには、利息負担や返済義務が伴うため、資金繰りの面で大きな負担となることがあります。また、資金調達がうまくいかない場合、取引自体が実現しない可能性もあります。
消費税の課税対象が多い
事業譲渡では、譲渡する資産に対して消費税が課せられます。具体的には、有形固定資産(土地を除く建物や設備など)、無形固定資産(商標権や特許権など)、棚卸資産、のれんなどが課税対象となります。このため、取引金額が大きくなるほど消費税の負担も大きくなります。消費税の課税は、売り手企業にとって大きな財務負担となるため、取引のコストを慎重に計算する必要があります。
資産移転などの手続きが面倒
事業譲渡では、資産の移転や契約の再締結が必要です。これには、多くの手続きと時間がかかります。例えば、取引先との契約や顧客リストの移転、設備や不動産の名義変更など、個別に手続きを行わなければなりません。また、許認可の再取得も必要となる場合があり、これに伴う手続きも煩雑です。これらの手続きがスムーズに進まないと、事業の継続性に影響を及ぼす可能性があります。
従業員や取引先と個別承継を行う必要がある
事業譲渡では、従業員や取引先との契約も個別に承継する必要があります。従業員に対しては、新たに労働契約を結び直す必要があり、全員の同意を得ることが求められます。従業員の中には、事業譲渡に対して不安を感じる者もおり、全員から同意を得ることは容易ではありません。また、取引先との契約も再締結が必要であり、これには時間と労力がかかります。特に、取引先が多い場合、手続きの負担が大きくなります。
以上のように、事業譲渡には多くのメリットがある一方で、手続きの煩雑さや財務負担などのデメリットも存在します。企業が事業譲渡を検討する際には、これらのメリットとデメリットを十分に理解し、慎重に計画を立てることが重要です。企業の戦略や目的に応じて、最適な手法を選択することで、事業譲渡の成功を目指しましょう。
会社分割と事業譲渡を選ぶポイント
会社分割と事業譲渡は、企業が事業の再編や資産の整理を行う際に利用される主要な手法です。それぞれに特徴やメリット・デメリットがあるため、状況に応じて最適な方法を選択することが重要です。以下では、会社分割と事業譲渡を選ぶ際のポイントについて詳しく解説します。
会社分割を選ぶべきケース
会社分割は、企業内の事業を再編成するための効果的な手法です。特に以下のようなケースでは、会社分割が適しています。
売り手側
売り手側としては、以下のような場合に会社分割が向いていると言えるでしょう。
課税額をなるべく抑えたい
会社分割は、適格要件を満たすことで課税を繰り延べることが可能です。具体的には、分割会社が新設会社や承継会社の株式を受け取る形式の場合、譲渡益が発生せず、課税対象とならないことがあります。これにより、企業は一時的な税負担を避け、財務上の安定を維持することができます。適格要件を満たすためには、特定の条件をクリアする必要がありますが、これにより大幅な節税効果が期待できます。
手続きの手間を抑えたい
会社分割では、事業の権利義務を包括的に承継できるため、個別に契約を巻き直す必要がありません。これにより、手続きが簡略化されます。例えば、従業員との労働契約や取引先との契約が自動的に引き継がれるため、手続きの煩雑さが軽減されます。特に、多数の契約や許認可が絡む場合、包括承継のメリットは大きく、手続きを迅速かつ効率的に進めることが可能です。」
買い手側
一方で、買い手側としては、以下のような場合に会社分割が向いていると言えるでしょう。
グループ企業内の承継である
会社分割は、グループ企業内の再編に非常に有効です。親子会社間や兄弟会社間での事業承継を円滑に進めることができ、グループ全体の戦略に応じた再編を実現します。例えば、特定の事業を新設会社に分割し、親会社の傘下に置くことで、グループ全体のシナジーを高めることができます。
現金を用意できない
会社分割では、対価として株式を交付することが一般的です。これにより、買い手側は現金を用意する必要がなくなります。現金の流動性が低い場合や、資金繰りに余裕がない場合でも、株式を対価とすることで事業承継を実現できます。特に、スタートアップや新興企業にとっては、この方法が資金負担を軽減する重要な手段となります。
対象の事業規模が大きい
会社分割は、大規模な事業再編に適しています。多くの従業員や複数の事業部門を含む大規模な事業を対象とする場合、包括承継の手法は非常に効果的です。例えば、製造業で複数の工場や販売拠点を含む事業を分割する場合、全ての契約や資産を包括的に承継できるため、手続きがスムーズに進行します。
事業譲渡を選ぶべきケース
事業譲渡は、特定の事業を選択的に売却するための手法であり、以下のようなケースで有効です。
売り手側
売り手側としては、以下のような場合に事業譲渡が向いていると言えるでしょう。
譲渡資産を詳細に選択したい
事業譲渡では、譲渡する資産や負債を個別に選択することができます。これにより、企業は特定の事業資産のみを売却し、不要な負債やリスクを引き継がせずに済みます。例えば、特定のブランドや技術を保有する事業のみを譲渡する場合、他の負債や資産を除外して交渉することができます。この柔軟性は、企業が戦略的に資産を整理する際に非常に有利です。
すぐに現金を得たい
事業譲渡では、売却対価として現金を受け取ることができます。これにより、企業は迅速に資金を調達し、緊急の資金需要に対応することができます。特に、キャッシュフローが逼迫している場合や新たな投資機会に迅速に対応したい場合、事業譲渡は効果的な手段となります。
買い手側
一方で、買い手側としては、以下のような場合に事業譲渡が向いていると言えるでしょう。
譲受資産を詳細に選択したい
買い手側にとっても、事業譲渡は譲受資産を詳細に選択することができる点が大きなメリットです。必要な資産のみを取得し、不要な負債やリスクを回避することができます。例えば、新規市場への参入を目指す場合、特定の技術や顧客リストのみを取得し、他のリスク要素を避けることが可能です。
負債を引き継ぎたくない
事業譲渡では、譲渡する資産と負債を個別に選択できるため、負債を引き継がずに済むことができます。これにより、買い手企業は財務リスクを最小限に抑えた形で事業を取得できます。特に、財務状態が健全でない企業からの事業買収を検討する場合、負債を回避できる点は非常に重要です。
対象の事業規模が小さい
事業譲渡は、小規模な事業の売買に適しています。比較的小規模な事業の場合、包括承継よりも個別に資産を選択して承継する方が手続きが簡素化され、取引がスムーズに進行します。例えば、特定の店舗や事業部門のみを譲渡する場合、事業譲渡の方が効率的です。
以上のように、会社分割と事業譲渡にはそれぞれ異なる特徴と利点があります。企業がどちらの手法を選択するかは、具体的な状況や目的に応じて慎重に判断する必要があります。両者の特性を理解し、適切なアプローチを選択することで、企業の戦略的目標を効果的に達成することが可能です。
会社分割・事業譲渡の相談先
企業が会社分割や事業譲渡を検討する際、適切な専門家のサポートを受けることは非常に重要です。これらの手続きは複雑であり、法務、税務、財務など多岐にわたる専門知識が求められます。以下では、会社分割や事業譲渡の相談先として考えられる主要な専門家について詳しく解説します。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、企業の合併や買収、事業譲渡、会社分割などの手続きに精通した専門家です。M&A仲介会社は、売り手と買い手の間に立ち、適切な交渉を進める役割を果たします。M&A仲介会社を利用するメリットは、以下の点です。
- 豊富な経験と知識
M&A仲介会社は、多くの取引経験を持ち、最新の市場動向や法規制についても熟知しています。これにより、企業のニーズに合わせた最適な戦略を提案することができます。
- ネットワークの広さ
広範なネットワークを持ち、適切な買い手や売り手を迅速に見つけることができます。これにより、取引のスピードと成功率が向上します。
- 交渉力の強化
M&A仲介会社の専門家が交渉をサポートすることで、公正かつ有利な条件での取引を実現することができます。
専門コンサルタント
M&A専門のコンサルタントは、会社分割や事業譲渡の戦略立案から実行まで、包括的なサポートを提供します。コンサルタントは、企業の内部事情を深く理解し、個別のニーズに応じたカスタマイズされたサービスを提供します。具体的なメリットとしては以下があります。
- 戦略的アドバイス
企業の長期的なビジョンに基づいた戦略的なアドバイスを提供し、会社分割や事業譲渡の成功に向けた計画を立てます。
- リスク管理
取引に伴うリスクを事前に特定し、適切な対策を講じることで、予期せぬ問題を回避します。
- プロジェクトマネジメント
プロジェクト全体の進行管理を行い、スムーズな手続きをサポートします。
弁護士
会社分割や事業譲渡には、法的手続きが不可欠です。弁護士は、これらの手続きを法的に適正に進めるために必要なサポートを提供します。弁護士を利用するメリットは以下の通りです。
- 法的コンプライアンス
弁護士は、会社法や契約法、税法などの法的規制に基づき、取引が適法に行われるようにサポートします。
- 契約書の作成・チェック
事業譲渡契約書や会社分割契約書の作成・チェックを行い、法的リスクを最小限に抑えます。
- 紛争解決
取引の過程で生じる可能性のある紛争に対して、適切な法的対応を行います。
公認会計士・税理士
会社分割や事業譲渡には、財務・税務面での専門的な知識が必要です。公認会計士や税理士は、財務分析や税務対策に関するサポートを提供します。具体的なメリットとしては以下があります。
- 財務分析
企業の財務状況を詳細に分析し、会社分割や事業譲渡の適切な評価を行います。
- 税務対策
税務リスクを軽減するための対策を講じ、取引が税務上有利になるようにサポートします。
- 会計処理
会社分割や事業譲渡に伴う会計処理を適正に行い、財務報告の透明性を確保します。
まとめ: 戦略に合わせて適切な方法を選択しよう!
会社分割と事業譲渡は、企業が事業再編や資産の整理を行う際に非常に有効な手法です。会社分割は、事業を包括的に承継できるため、手続きの簡素化や税務上のメリットがあり、大規模な事業再編やグループ企業内の承継に適しています。一方、事業譲渡は、譲渡資産を詳細に選択できる柔軟性があり、負債を引き継がないため、財務リスクを抑えた取引が可能です。企業がどちらの手法を選択するかは、具体的な状況や目的によって異なります。それぞれの特徴や利点を理解し、専門家のアドバイスを受けることで、最適な戦略を立てることができるでしょう。企業が成功するためには、戦略的な事業再編や資産の整理が不可欠です。会社分割や事業譲渡を効果的に活用し、企業の競争力を高め、持続的な成長を実現していきましょう。