後継者がいない仕事の事例5選!跡継ぎ不足の原因や業種とは?

日本経済を支える多くの業界で、後継者不足が顕著な問題となっています。地方の医療施設から都市の小売店まで、多様な業種で後継者が見つからず、事業の継続が困難になっているのが現状です。この問題は、単に個々の事業者にとっての課題に留まらず、地域社会や国全体の経済活動にも大きな影響を及ぼしています。本記事では、特に後継者がいないことで知られる五つの業種を取り上げ、その原因や現状、そして可能な解決策を詳細に掘り下げていきます。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

事例1:建設業

建設業界は、後継者不在率が特に高い業種として知られています。この業界の困難さは、厳しい労働条件と相対的に低い賃金に起因しており、特に若年層の従業員にとって魅力を感じにくい環境となっています。これらの条件は、長時間の労働、物理的な負担の大きさ、そして業務の危険性が伴うことが多いため、新しい人材の確保が難しい状況です。

現場での事例と具体的な課題

具体的な現場の事例を見ると、多くの建設現場では経験豊富な高齢の職人が中心となって働いており、これが若手の育成機会の欠如につながっています。また、技術の伝承が不十分であるために、新技術の導入が遅れがちであるという問題も存在します。例えば、ある地方都市の建設会社では、技術革新を進めようにも技術を理解し実践できる若手が不足しており、プロジェクトの効率化が困難になっている状況が報告されています。

対策としての若手育成プログラムや技術革新の紹介

このような状況に対処するため、多くの建設会社では若手の育成プログラムと技術革新の導入に力を入れています。具体的には、職業訓練学校と連携して実地に即した研修を行うことで、実務で即戦力となるスキルを持った若手を育成する取り組みが増えています。また、VR(バーチャルリアリティ)技術を利用したシミュレーションによる安全教育プログラムや、ドローンを使った現場管理技術の導入など、最新技術を活用した労働環境の改善が進められています。

これらの対策は、若手労働者に建設業の魅力を再認識させると共に、業界全体の生産性向上にも寄与することが期待されています。建設業界におけるこれらの革新的な取り組みは、後継者問題の解決だけでなく、業界の持続可能な発展を支える基盤となるでしょう。

事例2:農業

日本の農業は深刻な高齢化と若手労働力の不足に直面しています。全国的に見ても、農業従事者の平均年齢は上昇を続け、多くの農家では70歳を超える高齢者が現役で作業を行っています。若手の不足は、新たな技術やアイデアの導入が遅れる一因となり、農業全体の生産性向上や持続可能性に影響を与えています。

事例としての家族経営の農園

家族経営の農園における具体的な事例を見ると、後継者の不在が顕著です。例えば、ある地方の小規模な農園では、現在80歳に近い農家主が一人で果樹園を運営しています。彼の子どもたちは農業に関心を持たず都市部での仕事を選んだため、彼の引退後の農園の行方は未定となっています。このような状況は、日本全国の多くの農園で共通しており、伝統的な農業の知識と技術が途絶える恐れがあります。

対策としてのスマート農業の導入や新規就農者支援策

このような問題に対応するため、スマート農業の導入が積極的に推進されています。スマート農業とは、ICT(情報通信技術)を駆使した農業のことで、土壌や気象条件をリアルタイムで分析し、最適な農薬の散布タイミングや水やりを自動で行うシステムが含まれます。これにより、労働力の不足を技術で補い、より少ない労力で高い生産性を実現できます。

また、新規就農者支援策も充実してきています。政府や地方自治体は、就農希望者に対して研修プログラムや補助金、低利の融資などを提供しています。特に若者や女性、都市部からの移住者を対象にしたプログラムは、新たな人材を農業に引きつけるための重要な施策です。これらの支援を通じて、農業への新しい流入を促し、農業の持続可能な発展を目指しています。

農業の事例から見ると、伝統的な方法だけでなく、最新の技術を取り入れることや新たな支援策の提供が、後継者不足という課題に対して非常に有効であることがわかります。これらの取り組みが今後の農業界における若手の育成と持続可能な業界の構築につながることを期待されています。

事例3:漁業

日本の漁業もまた、後継者不在という深刻な問題に直面しています。特に沿岸漁業を主とする小規模事業者では、後継者の確保が難しく、業界全体の高齢化が進行しています。この現状が地域経済に与える影響は計り知れず、地方の漁村は特に厳しい状況に置かれています。

後継者不在の現状とその影響

水産庁のデータによると、漁業就業人口は年々減少を続けており、特に若年層の減少が顕著です。この労働力不足は漁獲量の減少を招き、地域の食文化や経済に大きな影響を及ぼしています。後継者がいないことで、多くの漁業技術や地域に根ざした知識が失われつつあるのです。

地域ごとの事例紹介

例えば、北海道のある漁村では、かつては数百隻の漁船が活動していたものが、現在はその半数以下に減少しています。この地域では特にサケやカニの漁獲が盛んでしたが、後継者不足により漁師の数が減少し、漁獲量も大きく落ち込んでいます。また、鳥取県では、地元の海産物を活かした加工業が盛んでしたが、こちらも同様の理由で衰退の一途を辿っています。

対策としての技能実習生の活用や地域連携の強化

これらの課題に対処するために、一部の地域では外国からの技能実習生を活用する取り組みが始まっています。これは、国内で足りない労働力を補い、同時に国際的な交流を促進することを目的としています。技能実習生は、日本の漁業技術を学びながら実際の作業に従事し、地域経済の活性化にも貢献しています。

さらに、地域連携を強化することも重要な戦略とされています。例えば、異業種の企業とのコラボレーションにより、新しい商品開発を行ったり、地域の観光資源として漁業を前面に出したりすることが挙げられます。これにより、漁業が持続可能な産業として存続できるような環境作りが進められています。

漁業の後継者不在問題は、単なる労働力の問題に留まらず、地域文化や伝統の継承、そして食の安全保障という観点からも国家的な課題です。これらの対策が、漁業の未来を明るくするための一助となることが期待されています。

事例4:小売業

日本の小売業界では、デジタル化の遅れと市場競争の激化が深刻な課題となっており、これらの問題は特に中小企業にとって後継者不足の一因となっています。低賃金という労働環境も若年層の業界離れを加速させ、多くの小売業者が事業継続に苦労しています。

デジタル化の遅れと競争の激化

多くの中小小売業者は、大手チェーンやECサイトとの競争に直面しています。特にデジタル技術の導入が遅れているため、顧客のニーズに迅速に応えることが困難で、市場での競争力が低下しています。例えば、在庫管理や顧客管理のデジタル化が不十分なため、効率的な運営ができず、コスト削減や顧客満足度の向上が阻害されています。

低賃金

小売業の低賃金問題は、特に若手労働者の離職率を高め、業界全体の人手不足を悪化させています。低賃金により、キャリアとしての魅力が低下し、経営者自身も後継者を見つけることが難しくなっています。これが、業界の持続可能性に対する脅威となり、多くの小売店が廃業を選択せざるを得ない状況に追い込まれています。

具体的な中小企業の事例

具体的な事例として、東京都内で30年続いた老舗文房具店があります。この店は、デジタル化の波に乗り遅れ、大手オンラインストアとの価格競争に敗れてしまいました。店主は後継者を見つけることができず、高齢化と共に店を閉じる決断をしました。このようなケースは小売業界において珍しくなく、多くの中小企業が同様の課題に直面しています。

対策としてのオンライン移行支援や新しいビジネスモデルの提案

対策として、政府や業界団体は中小企業のデジタル化を支援するプログラムを展開しています。これには、オンライン販売への移行支援や、SNSを活用したマーケティングの導入が含まれます。また、新しいビジネスモデルとして、サブスクリプションサービスや地域限定商品の開発が推進されています。これにより、特定のニッチ市場をターゲットにして持続可能な経営が可能になり、新たな顧客層を開拓することが期待されています。

小売業における後継者不足の問題解決には、これらの対策が欠かせません。デジタル化の推進と新しいビジネスモデルの採用により、小売業界の魅力を高め、次世代の経営者に希望を与えることが求められています。

事例5:医療業

日本の医療業界では、特に地方を中心に医師や看護師の高齢化とその結果としての人手不足が深刻な問題となっています。この問題は、地方医療施設の後継者不足に直結し、多くの地域で医療サービスの質の低下や、医療提供体制の崩壊を招いています。

高齢化に伴う医師や看護師の不足

多くの地方医療施設では、高齢化した医師や看護師が依然として現役で働いていますが、後継者が不足しているために新たな人材が確保できずにいます。特に医師の場合、長年にわたる専門的な訓練が必要とされるため、若手の確保が一段と困難となっています。看護師も同様に、過酷な労働条件と相対的に低い給与水準が後継者不足を助長しています。

地方の医療施設の事例

ある地方都市の公立病院では、退職予定の医師が後継者を見つけられずに定年延長を重ねています。この病院では、地域住民にとって唯一の救急医療提供施設であり、医師不足が地域全体の健康リスクを高めている状況です。また、看護師の離職率が高く、新人の教育と育成が追い付かず、質の高い医療サービスの提供が困難になっています。

対策としてのテレメディスンの導入や外国人医師の活用

これらの課題に対処するため、テレメディスン(遠隔医療)の導入が進められています。テレメディスンにより、地方の医療施設でも都市部の医師と連携し、遠隔地からでも専門的な診断や治療の提供が可能となります。これにより、地方の患者も質の高い医療を受けることができるようになります。

また、外国人医師の活用も一つの解決策として注目されています。外国からの医師や看護師を積極的に採用することで、人手不足を補いつつ、多様な医療技術の導入が期待されます。言語や文化の違いを乗り越えるための研修プログラムも整備されつつあり、これらの施策が地方医療施設の人材不足解消に寄与しています。

医療業界における後継者問題の解決には、これらの革新的な対策が欠かせません。テクノロジーの活用と国際協力により、日本の医療業界は新たな展開を迎えることが期待されています。

後継者がいない業種一覧

帝国データバンクは、毎年、「後継者不在率」動向調査を実施しています。以下の表は、2022年と2023年の後継者不在率に関するデータをまとめた表です。各業種中分類ごとの数値と前年比の変化を示しています。なお、後継者不在率は、帝国データバンクが行ったアンケート調査のうち、「後継者がいない」または「未定」と回答した企業で計算されています。

業種中分類2022年 (%)2023年 (%)前年比変化 (Δ)
自動車・自転車小売66.766.4-0.3
医療業68.065.3-2.7
職別工事業67.164.6-2.5
専門サービス68.163.4-4.7
郵便・電気通信65.361.9-3.4
広告・調査・情報サービス65.761.4-4.3
設備工事業63.761.0-2.7
家庭用機械器具小売62.760.7-2.0
飲食店63.360.0-3.3
自動車整備など62.659.7-2.9
自動車・付属品卸売59.556.8-2.7
総合工事業59.656.2-3.4
衣服等身の回り品小売59.855.4-4.4
皮革・毛皮製造54.755.4+0.7
不動産業57.554.5-3.0
機械器具卸売58.254.5-3.7
その他小売57.354.1-3.2
家具・建具・什器卸売56.252.5-3.7
飲食料品小売54.452.2-2.2
その他サービス54.450.9-3.5
繊維製品卸売57.150.8-6.3
家具製造51.050.4-0.6
貴金属製品卸売55.450.3-5.1
農業・林業・漁業52.350.3-2.0
娯楽業55.349.8-5.5
各種商品卸売51.849.6-2.2
運輸業53.249.6-3.6
出版関連52.749.2-3.5
木材・木製品製造52.149.2-2.9
木材・建築材料卸売52.148.8-3.3
その他卸売53.048.7-4.3
飲食料品卸売51.348.3-3.0
旅館等宿泊業51.148.0-3.1
各種商品小売51.847.6-4.2
一般機械器具製造50.847.3-3.5
繊維製品製造50.046.8-3.2
その他製造51.146.7-4.4
鉄鋼製品等製造50.046.5-3.5
電気機械器具製造49.946.4-3.5
教育49.646.1-3.5
ゴム製品製造45.344.3-1.0
鉱業53.143.9-9.2
輸送用機械器具製造47.043.6-3.4
飲食料品製造47.243.4-3.8
窯業・土木製品製造46.642.1-4.5
パルプ・紙製品製造44.839.0-5.8
金融・保険41.338.0-3.3
化学工業・石油製品等製造43.337.6-5.7

出典: 帝国データバンク 「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)

まとめ: 後継者がいない仕事も社会に欠かせない!

後継者不足は、ただ単に次世代が不足しているということ以上の深刻な問題を含んでいます。厳しい労働条件、技術の遅れ、経済状況の変化など、多くの要因が絡み合っており、これらの問題には業界ごとのカスタマイズされたアプローチが必要です。技術革新や新しいビジネスモデルの導入、教育プログラムの充実など、様々な解決策が提案されていますが、それらを実行に移すためには業界全体の協力と、時には国の支援も必要とされます。今後も持続可能な事業継承を可能にするためには、社会全体で後継者不足の問題に取り組む必要があると言えるでしょう。

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