海外M&Aのメリットとは?流れや違い・事例を紹介!

現代では、グローバル化が加速し、国境を越えた企業活動が日常化しています。特に経済の成熟と市場の飽和が進む先進国では、新たな成長機会を求める企業が増えている状況です。そうした環境のなかで、多くの企業が成長戦略として目を向けるのが「海外M&A」です。海外市場への迅速なアクセスや、技術・資源の獲得、そして文化的・経営的多様性の導入など、海外M&Aにはさまざまなメリットが存在します。本記事では、海外M&Aのメリットとその流れ、国による違い、そして実際の事例を紹介しながら、なぜ今、多くの企業が海外M&Aを重視するのかを明らかにします。

海外M&Aのメリット

海外M&Aは、日本国内での市場拡大の限界を感じている企業にとって、新たな成長機会を提供します。特に新興市場へのアクセスは、長期的なビジネス展開と収益の増大に直結する重要な戦略です。また、グローバル競争の中での生存と発展を図るためには、技術や資源の獲得、効率的な供給チェーンの構築が不可欠です。以下では、海外M&Aのメリットを詳しく解説します。

市場拡大: 新興市場へのアクセスとそれによる成長機会

海外M&Aを通じて新興市場に進出することは、日本企業にとって莫大な成長機会を意味します。新興国は人口が多く、経済成長率が高いため、消費者市場としてのポテンシャルが非常に大きいです。例えば、ASEAN諸国やインド、アフリカなどは、若い労働力人口が豊富で、中産階級の増加とともに消費市場が急速に拡大しています。

海外M&Aによる市場拡大は、単に製品を新しい市場に売り込むこと以上の意味を持ちます。地域に根ざした企業を買収することで、その市場の文化や消費者行動を深く理解し、市場ニーズに合わせた製品開発やマーケティング戦略を展開できます。これは、新興市場における持続可能なビジネスモデルを築く上で極めて効果的です。

さらに、現地企業との組み合わせによるシナジー効果は、ブランド認知度の向上、販売網の拡大、ローカルノウハウの獲得につながり、事業の迅速な立ち上げと市場での競争力を確保します。

競争力の向上: 技術や資源の獲得、効率的なグローバル供給チェーンの構築

海外M&Aは、技術や知的財産、自然資源などの重要な資産の獲得手段としても有効です。特にテクノロジー駆動型の産業では、革新的な技術や特許を持つ企業を買収することで、自社の製品やサービスを差別化し、市場でのリードを保つことが可能です。例えば、日本企業がITやデジタル分野での技術力を強化するために、シリコンバレーや他のテクノロジーハブに位置する企業をターゲットにするケースが増えています。

また、効率的なグローバル供給チェーンの構築は、コスト削減と運用効率の向上を実現します。地理的に戦略的な位置にある国でのM&Aは、製造拠点や物流の最適化に貢献し、全体のサプライチェーンを強化することができます。これにより、生産コストの削減、納期の短縮、顧客への迅速な対応が可能となり、グローバル市場における競争力がさらに強化されます。

このように、海外M&Aは市場の拡大だけでなく、競争力の根本的な強化にも寄与するため、多くの日本企業にとって重要な戦略選択肢となっています。

利益率の向上: コスト削減と収益性の高い市場への進出

海外M&Aは単に市場拡大や技術獲得の手段に留まらず、企業の利益率を向上させる強力な戦略でもあります。これは、コストの削減と収益性の高い市場への進出を通じて実現されます。日本企業が直面する国内市場の縮小や長期的なデフレ環境を考慮すると、利益率の向上は企業存続にとって非常に重要な課題です。

海外でのM&Aを進める際、特に新興国に目を向ける理由の一つが、コスト削減の機会を追求するためです。新興国は一般的に労働力コストが低く、生産設備の設立や運営コストも低いため、これらの地域での製造やサービス提供は著しくコスト効率が良いとされています。例えば、製造業の企業が東南アジアに生産拠点を設けることで、原材料の調達から組立、出荷に至るまでのコストを大幅に削減し、グローバル市場への製品供給をより効率的に行うことが可能です。

また、収益性の高い市場への進出も利益率向上の重要な要素です。新興市場は、その経済成長に伴い、消費者の購買力が向上しており、高い利益マージンを実現できる機会が増加しています。たとえば、インドや中国のような大規模な市場では、中産階級の増加により高価格帯の消費財やサービスへの需要が高まっています。これにより、これらの市場で事業を展開する企業は、高い価格設定が可能となり、それが直接利益率の向上に繋がります。

さらに、海外M&Aは現地でのブランド認知度向上や市場へのアクセスが容易になるため、新たな顧客層を確保し、売上高を増加させることも可能です。これは、特に高い利益率を求めるプレミアム製品や特化した技術を持つ企業にとって有効な戦略と言えます。企業が海外市場での地位を確立することに成功すれば、その地域内での独占的な立場や価格設定権を持つことができ、より高い利益を実現することが可能になります。

このように、海外M&Aを通じてコストの削減と収益性の高い市場への進出を図ることは、企業の利益率を効果的に向上させるための重要な手段です。これにより、企業は国内市場の縮小や競争の激化に対抗し、持続可能な成長を達成することができるでしょう。

海外M&Aの流れ

海外M&Aは複雑なプロセスを伴います。成功を確実なものにするためには、準備段階から実行、そして統合に至るまでの各フェーズを慎重に進める必要があります。ここでは、海外M&Aの主要な段階について解説します。

準備段階: 戦略立案、対象市場と企業の選定

海外M&Aの成功は、準備段階での戦略立案に大きく依存します。まず、企業は自身の長期的なビジョンとM&Aの目的を明確に設定する必要があります。これには市場の成長性、技術の取得、生産能力の拡大などが含まれることが多いです。次に、ターゲットとする市場を特定し、そこで活動する潜在的な買収候補企業を選定します。

対象市場の選定には、経済的安定性、市場の成長率、政治リスク、文化的要因など、多角的な分析が求められます。また、買収候補の選定には、財務健全性、市場での位置づけ、技術力、経営陣の質などを詳細に調査します。この段階では、可能な限り多くの情報を収集し、戦略に合致するかを検証することが重要です。

評価・交渉: 企業価値の評価、デューデリジェンス、交渉プロセス

対象企業が決定した後、その企業の価値を正確に評価することが求められます。この評価プロセスには、財務諸表の分析、市場評価、競合分析などが含まれます。そして、デューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスでは、財務、法務、ビジネス、環境、HRなど、多岐にわたる調査が行われ、隠れたリスクを洗い出します。

交渉プロセスは、デューデリジェンスの結果を踏まえて行います。買収価格の決定、支払い条件、買収後の経営権の取り扱いなど、多数の要素について双方が合意に達する必要があります。このプロセスはしばしば複雑であり、時には専門の法律家や財務アドバイザーの介入を要することもあります。

実行・統合: 買収後の統合計画と実行、カルチャーフィットと組織の調和

買収が完了した後、最も挑戦的なフェーズの一つが統合です。統合計画には、組織構造の再編、システムの統合、カルチャーフィットの確保などが含まれます。買収した企業の従業員との調和を図りながら、オペレーションの効率化を図る必要があります。この過程で、両社の文化的違いを尊重し、コミュニケーションを最大化することが重要です。

カルチャーフィットは特に注意が必要で、異なる企業文化が衝突することは、統合の失敗に直結します。したがって、初期段階から従業員へのコミュニケーションを開始し、一体感を育む取り組みが不可欠です。統合の成功は、戦略的な視点と丁寧な実行によってのみ実現可能です。

このように、海外M&Aのプロセスは複雑で多面的な取り組みが必要ですが、それを成功させた企業は顕著な成長と競争優位を獲得することができます。

海外M&Aの違いと課題

海外M&Aは国内M&Aと比べて多くの違いがあり、これには法律や規制、文化的な差異、政治的・経済的リスクが含まれます。これらの違いと課題を理解し、適切に対応することが、国際的なビジネス展開の成功には不可欠です。

法律・規制の違い: 各国の法律、税制、労働法の違いへの対応

海外でのM&Aを進める際、各国の法律や税制、労働法の違いに適切に対応することは極めて重要です。例えば、対象国の企業買収に関する法律、外資投資に関する規制、独占禁止法など、買収プロセスに直接的な影響を及ぼす要素が数多く存在します。これらの法律は国によって大きく異なり、時には買収を困難にする原因ともなり得ます。

税制の違いもまた、海外M&Aにおいて重要な考慮事項です。買収後の経営合理化や資産の再評価、利益の国外送金に関わる税金の問題は、事前に専門家の意見を聞くことが推奨されます。また、労働法に関しては、従業員の解雇規制や労働組合との関係が、M&Aの成功に大きく影響することがあります。

文化的差異: 経営文化やビジネス慣行の違い、コミュニケーションの課題

文化的な差異は、海外M&Aにおいて非常に微妙かつ影響力のある要因です。経営文化やビジネス慣行の違いは、しばしばM&A後の統合プロセスにおいて障害となり得ます。異なる文化背景を持つ従業員間でのコミュニケーションのギャップは、業務の効率性を損なうだけでなく、職場の士気にも影響を及ぼす可能性があります。

コミュニケーションの課題に対処するには、相互理解を深めるためのトレーニングやチームビルディング活動が効果的です。また、異文化間のブリッジ役となる人材を配置することも一つの解決策となり得ます。

政治・経済のリスク: 政治的不安定性、為替変動リスク

政治的な不安定性や経済の変動は、海外M&Aのリスクを大きく左右します。特に新興国では政治情勢の変動が激しく、突然の政策変更や政府の介入が事業の予測を困難にすることがあります。これらのリスクは、事業の持続可能性や利益率に直接的な影響を及ぼすため、高い注意が必要です。

為替変動もまた、海外M&Aにおいて無視できないリスクです。特に長期にわたるプロジェクトでは、為替レートの変動が投資収益に大きな影響を与えることがあります。これを管理するためには、為替ヘッジ戦略を用いるなどの対策が考えられます。

海外M&Aの成功事例の紹介

以下では、近年行われた海外M&A事例を3つ紹介していきます。

ホシザキ、フィリピンのTLX社およびHKR社を買収

ホシザキ株式会社は、2024年4月、その国際的なビジネス展開をさらに拡大する一環として、フィリピンにおける戦略的な海外M&Aを実施しました。

同社の連結子会社、HOSHIZAKI SOUTHEAST ASIA HOLDINGS PTE. LTD. を通じて、フィリピン共和国に本拠を置くフードサービス機器の輸入販売企業であるTECHNOLUX EQUIPMENT AND SUPPLY CORPORATION(以下、TLX社)の全株式およびHKR EQUIPMENT CORPORATION(以下、HKR社)の一部株式を取得し、これらの企業をホシザキの新たな子会社としました。

今回の海外M&Aの主目的は、フィリピンおよび東南アジア市場においてホシザキの売上高と市場シェアを増加させ、同地域でのビジネス拡大を図ることにあります。TLX社とHKR社は、フィリピンで最も大規模なフードサービス機器の輸入販売業者として知られており、多数のホテルチェーンや外食チェーンへの製品納入実績があります。これらの企業が提供する優れたアフターサービスと機器メンテナンスは市場から高く評価されており、ホシザキにとって価値ある資産となるでしょう。

ホシザキはこのM&Aを通じて、既存顧客層への製品販売を拡大すると同時に、現地経営陣と協力し、フィリピン及び東南アジア地域での事業展開を加速していく計画です。これにより、ホシザキはグローバル市場における競争力をさらに強化し、持続的な成長を目指します。

出典: https://www.hoshizaki.co.jp/topics/240411-2.pdf

メディカルネット、タイAVision社を買収

株式会社メディカルネットは、2024年3月14日に開催された取締役会において、タイのAVision Co., Ltd.(以下、「AVision社」)の発行済株式の49%をメディカルネットが、残りの51%を同社の連結子会社であるNU-DENT Co., Ltd.(以下、「NU-DENT社」)が取得することを決議しました。この取得により、AVision社はメディカルネットの新たな連結子会社となっています。

メディカルネットは、インターネットを活用した医療・生活関連情報サービスを提供しており、特に歯科医療情報ポータルサイトの運営や歯科クリニックの経営支援、歯科関連企業へのマーケティング支援といった歯科医療の総合ビジネス(プラットフォームビジネス)を展開している企業です。一方、NU-DENT社はタイ・バンコクで歯科器械材料・医薬品販売事業を手掛けています。

AVision社はタイにおいて小売業、製造業、病院向けにPOSシステムの開発、導入、メンテナンス事業を展開しており、地域のIT化に貢献している企業です。今回の株式取得は、メディカルネットグループがタイにおける歯科プラットフォームの構築を強化し、タイ市場でのプレゼンスを拡大する戦略の一環です。

今回の海外M&Aにより、メディカルネットグループは、AVision社の高度なIT技術を活用してタイの歯科クリニックのIT化を促進し、NU-DENT社が展開する歯科商社事業のデジタル変革(DX)を加速させる計画です。これにより、タイ国内でNo.1の歯科商社を目指し、タイでの事業領域の拡大を図っていく方針です。このM&Aは、メディカルネットグループにとって、地域内での競争力を強化し、持続可能な成長を実現するための重要なステップとなるでしょう。

出典: AVision Co., Ltd.の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

花王、オーストラリアのBondi Sands社を買収

花王株式会社は、2023年7月27日、子会社であるKao USA Inc.(花王USA)、Kao Australia Pty. Limited(花王オーストラリア)と共に、オーストラリア・ビクトリア州メルボルンに本社を置くプレミアムスキンケアブランド、Bondi Sands Australia Pty Ltd(以下ボンダイサンズ社)の買収契約を締結しました。

ボンダイサンズ社は、セルフタンニング製品、日焼け止め、スキンケア商品を主力とし、オーストラリア、イギリス、アメリカを含む32カ国で展開しています。この会社は製品の品質の高さと持続可能な取り組みで消費者から広く支持を受けており、特に日焼け防止意識が高いオーストラリア市場で、セルフタンニングセグメントにおいてNo.1のシェアを誇っています。

花王グループは中期経営計画の中でスキンケア事業を成長の主力として位置づけており、今回のボンダイサンズ社の買収により、特に紫外線など外部環境から肌を守る「スキンプロテクション領域」に焦点を当て、世界市場での位置をさらに強化します。花王が日本で培ったUVケア技術とアメリカでのセルフタンニング技術を組み合わせることで、グローバルな事業展開を拡大し、事業の成長を加速させることを目指します。

出典: 花王、オーストラリアのBondi Sands社を買収

中小企業における海外M&Aの特徴と戦略

中小企業が海外M&Aに取り組む際には、大企業に比べて資源が限られているため、戦略的かつ創造的なアプローチが求められます。こうした企業が成功するためには、パートナーシップの活用、アライアンスの形成、そして各種支援機関との積極的な連携が鍵となります。

資源が限られている中での戦略的アプローチ

中小企業が海外M&Aを進める際、資本力や人的資源、経営リソースが限られているため、選択と集中の戦略が不可欠です。このため、対象とする市場や業種を厳選し、自社のコアコンピタンスを活かせる領域での買収を目指すことが多く見られます。例えば、自社の製品やサービスが容易に適応可能な地域、あるいは技術的なシナジーが期待できる企業を選定することが重要です。

また、費用対効果の高いデューデリジェンスを行うために、限られた予算内で最大限の情報を得るための工夫が求められます。これには、地域に精通した法律事務所やコンサルティングファームといった外部の専門家との協力が効果的です。

パートナーシップとアライアンスの活用

中小企業にとって、海外の市場や業界に精通したパートナーとのアライアンスは、M&A成功のカギを握ります。現地の企業や既に市場に浸透している企業との合弁事業や業務提携は、市場へのアクセスを提供し、文化的な障壁を乗り越える支援となります。これにより、現地でのビジネスの立ち上げや運営がスムーズに進むだけでなく、事業拡大に必要な地域特有の知識やリソースの確保も可能になります。

支援機関との連携

国内外の支援機関との連携も、中小企業にとって重要です。例えば、日本の経済産業省やJETRO(日本貿易振興機構)などは、海外でのビジネスチャンスを探る中小企業に対して、情報提供や財務支援、現地でのネットワーキングサポートを提供しています。これらの機関は、海外市場のリサーチデータや法規制の情報を提供し、貿易展やビジネスマッチングの機会を通じて、企業が必要とする外部リソースへのアクセスを助けます。

また、地域に根ざした中小企業支援機関や商工会議所との連携も有効です。これらの機関はしばしば、費用効率の良い方法で海外マーケットへの進出支援を行い、具体的な展開戦略の策定から実行までをサポートします。

まとめ: 海外M&Aが急速な成長の鍵となる!

海外M&Aは、単なる市場拡大の手段を超え、企業の競争力強化、利益率の向上、さらには文化的な多様性とイノベーションの促進に貢献する戦略です。準備段階から実行・統合に至るまでの一連のプロセスを適切に管理することで、成功へと導くことが可能です。ただし、法律や規制の違い、文化的差異、政治的・経済的リスクなど、多くの課題も存在します。これらの課題を乗り越え、海外M&Aを成功させるためには、綿密な市場調査と戦略的計画、そして適切なパートナーとの連携が不可欠です。中小企業にとっても、適切な支援機関との連携により、海外M&Aは現実的な成長機会となり得ます。企業がグローバル市場で持続的に成長を遂げるためには、国際的な視野を持ち、柔軟な戦略的アプローチが求められることでしょう。