事業譲渡はM&Aと違う?メリット・手続きを解説!

事業譲渡とは、企業がその事業の一部または全部を他の企業に譲渡することを指します。事業譲渡は、買収や合併(M&A)とは異なり、特定の事業単位のみが対象となる点が特徴です。では、事業譲渡が企業戦略としてどのように機能するのでしょうか?また、M&Aと比較してどのようなメリットがあるのでしょうか?この記事では、事業譲渡の基本的な概念と手続き、それに伴うメリットと潜在的なデメリットについて詳しく解説します。

事業譲渡とは?

事業譲渡は、会社がその運営する事業の全部または一部を別の法人に移転することを指します。事業譲渡は、単なる資産の売却以上の意味を持ち、従業員の雇用、顧客関係、知的財産権といった無形資産も含む包括的な移転が特徴です。

事業譲渡の定義

事業譲渡とは、企業が自らの運営する事業の全体または重要な部分を、他の企業に譲渡する法的な取引を指します。譲渡される事業には、物理的な資産や設備のほか、従業員との雇用契約、顧客リスト、商標や特許などの知的財産、そして企業秘密やノウハウなどの無形資産も含まれることが一般的です。事業譲渡では、譲渡対象の事業が独立した運営を維持できるように必要なすべての要素を移転します。

M&A手法のなかで事業譲渡が選ばれるケースとその背景

事業譲渡が選ばれる主なケースは、企業が特定の事業領域からの撤退を望む場合や、戦略的再編を目的としている場合です。例えば、会社が多角化戦略を見直し、コアビジネスに集中したいと考えた場合、非コア事業の売却を通じて資本と経営資源を再配分することがあります。これにより、より効率的な運営と投資の最適化が図られ、企業価値の向上が期待できます。

また、事業譲渡は経営権を残しながら売却益を得ることができるため、資金調達の手段としても利用されます。別の事業への再投資や負債の返済に譲渡益を用いることで、企業の財務健全性が改善されることも一因です。さらに、技術進化が激しい業界においては、既存の事業モデルが時代遅れになりつつある場合に、新しい事業機会に集中するために古い事業を売却することもあります。

買い手側から見た場合、特定の事業や技術を迅速に取得し、市場での立ち位置を強化する戦略的動機も事業譲渡を選ぶ理由となります。このように、事業譲渡は売り手と買い手双方にとって多くの戦略的メリットをもたらすことが、選ばれる主な背景として挙げられます。

事業譲渡のメリット

ここからは、売り手側と買い手側に分けて事業譲渡のメリットを解説していきましょう。

売り手側のメリット

売り手にとっての事業譲渡のメリットは多岐にわたりますが、特に経営戦略の観点から重要なポイントを以下で解説します。

会社の存続と事業の選択的売却

事業譲渡は、会社が全体として存続しながらも、特定の事業部門を売却することを可能にします。このアプローチにより、会社は核となる事業に資源を集中させることができ、全体の運営効率を向上させることができます。例えば、特定の市場での競争が激化している場合や技術的に陳腐化している事業を売却することで、より成長が見込まれる新しい事業領域への投資を強化できます。このプロセスは、会社の将来の成長戦略と密接に関連しており、企業が市場の変化に柔軟に対応するための手段として利用されます。

株主からの同意が完全に必要でないケース

事業譲渡の際には、株式譲渡と比較して株主からの同意を完全に得る必要がない場合があります。特に、譲渡対象の事業が会社の総資産に占める割合が小さい場合や、特別決議によって事業譲渡が承認される場合には、全ての株主の同意を必要としないことが一般的です。このため、株主間の意見の対立がある場合でも、事業譲渡をスムーズに進めることが可能になることがあります。これにより、企業は迅速に戦略的な決断を下し、必要に応じて経営資源の再配置を行うことができます。

不採算事業の切り離しと資金調達

売り手にとっての大きなメリットの一つは、不採算事業を切り離すことにより、全体の経営効率を改善できる点です。不採算事業の売却は、それ自体が資金を生み出し、さらに企業が負担する維持コストを削減します。売却から得られる資金は、債務返済、他の事業への再投資、または株主への配当など、さまざまな方法で再利用することができます。これにより、企業は財務の健全性を高めるとともに、投資家に対するアピールを強化することが可能となります。

買い手側のメリット

事業譲渡は買い手にとっても魅力的な選択肢であり、特定の事業のみを選択的に取得することができるため、投資のリスクを管理しながら戦略的な成長を図ることが可能です。ここでは、買い手が事業譲渡から得られる主なメリットを掘り下げます。

負債の引き継ぎリスクの軽減

事業譲渡の最大のメリットの一つは、選択的な資産の引き継ぎにより、譲渡企業の負債や潜在的な負債を引き受けるリスクを軽減できることです。株式譲渡の場合、買い手は企業全体を引き継ぐため、未知の負債や簿外債務に対するリスクも一緒に引き受ける必要があります。一方で、事業譲渡では、具体的な資産や事業セグメントのみを対象とするため、負債の範囲を明確にし、それを引き継ぐかどうかを選択できます。これにより、買い手は財務リスクを事前に把握し、管理することが可能となり、より安全な投資判断を下すことができます。

節税対策としての効果

事業譲渡は節税対策としても有効です。事業譲渡で生じる「のれん」は、買い手が支払う買収金額と事業の時価純資産との差額で発生し、こののれんは税務上の資産として処理され、通常は数年間にわたって償却が可能です。この償却は買い手の税負担を減少させる効果があり、特に長期にわたる戦略的投資で重要な利点となります。のれんの償却により、税務上の調整が行われるため、初期の財務負担が軽減され、投資回収期間の短縮が期待できます。

必要な事業のみを選択して引き継ぎ可能

買い手にとってもう一つの重要なメリットは、事業譲渡により企業全体ではなく、必要な事業部門のみを選択して引き継ぐことができる点です。これにより、買い手は自社の戦略に合わせて特定の資産や技術、市場アクセスを獲得でき、全体的な経営資源の効率化が図れます。また、不要な事業部門や資産を引き継がずに済むため、統合後の組織のスリム化や運営の効率化が実現可能です。この選択性は、特に多角化された市場や迅速な技術変化が特徴の業界において、企業の競争力を維持・強化するために重要です。

事業譲渡の手続き

事業譲渡を行う際には法的な手続きが必要です。これらの手続きは複雑で時間を要する可能性があり、適切な準備と理解が不可欠です。ここでは、事業譲渡の基本的な流れ、手続きのステップ、関連する法規、そして株主総会での特別決議の必要性を詳しく説明します。

基本的な流れ

事業譲渡のプロセスは、初期の準備から契約の締結、最終的な移転まで複数の段階を含みます。最初のステップとして、売り手と買い手は事業譲渡の範囲と条件について交渉を行います。これには、譲渡される事業の資産、負債の範囲、価格設定、支払条件などが含まれます。合意に達した後、両者は事業譲渡契約を締結し、具体的な譲渡条件や期日、後続の手続きが定められます。

次に、譲渡対象の事業に関連する資産や契約の詳細な調査が行われるデューデリジェンスが実施されます。この調査は、買い手が投資のリスクを評価し、必要に応じて交渉条件を調整するために重要です。調査の結果に基づいて、最終的な契約が修正され、両者の承認を経てクロージングが行われます。

手続きのステップと関連法規

事業譲渡には、多くの法的要件が伴います。これには、契約法、会社法、税法、場合によっては特定の業界に適用される規制法が含まれることがあります。具体的な手続きとしては、まず、譲渡会社と譲受会社は取締役会の承認を経て、事業譲渡契約を締結します。この契約には、譲渡される事業の具体的な範囲、移転される資産と負債、取引の条件、効力発生日などが明記されます。

また、特定の法律により、事業譲渡が特定の閾値を超える場合(たとえば、譲渡される資産が会社総資産の一定割合を超える場合など)、株主総会の承認が必要とされます。これは、関連する法規や規則に基づいた必要性です。加えて、契約後には資産や契約上の地位の移転手続きが必要となり、これには適切な登記や第三者への通知が伴います。

株主総会と特別決議の必要性

事業譲渡を完遂するためには、通常、売り手会社の株主総会での特別決議が必要となります。これは、事業譲渡が会社にとって重要な変更を伴うためで、株主たちがこの変更を承認する機会を持つことが会社法により要求されています。特別決議では、出席株主の過半数の出席と、出席株主の議決権の三分の二以上の賛成票が必要です。

このプロセスは、事業譲渡が株主にとって重大な影響を与える可能性があるため、株主の利益を保護するために設けられています。特に、譲渡される事業部が会社の主要部分を構成している場合や、大きな財務影響が予想される場合には、この手続きが特に重要です。

手続き上の留意点

事業譲渡を成功させるためには、さまざまな手続き上の留意点が存在します。特に、資産と負債の移転手続きや、従業員や取引先との再契約は、譲渡の過程で特に注意を払うべき手続きです。これらの手続きは、事業のスムーズな移行を確保し、法的な問題や未来の負担を避けるために重要となります。

資産と負債の移転手続き

事業譲渡においては、資産と負債の適切な移転が不可欠です。このプロセスには、物理的な資産の引き渡しと法的な権利の移転が含まれます。物理的な資産については、譲渡契約に基づいて適切な時点での引渡しを行う必要があります。これには、機械や設備、在庫などの動産だけでなく、不動産の登記変更も含まれることがあります。

法的な権利の移転には、特に注意が必要です。契約に基づく権利や義務の移転は、関連する第三者への通知や同意が必要な場合があります。例えば、リース契約や供給契約が存在する場合、これらの契約の地位を譲受人に移すためには、契約の相手方の同意を得る必要があるかもしれません。また、譲渡される事業に関連する負債については、買い手がこれを引き受ける意向がない限り、売り手が責任を持ち続けることになります。

従業員や取引先との再契約

事業譲渡のプロセスにおいて、従業員や取引先との関係は特にデリケートな問題です。従業員に関しては、彼らの雇用契約をどのように扱うかが重要です。従業員の同意なく勤務条件を変更することはできないため、新しい雇用主としての買い手は、従業員との間で新たな雇用契約を結ぶか、既存の契約を継続するかを決定しなければなりません。これは、従業員の権利と士気に直接影響を及ぼし、事業の連続性を保つためにはスムーズな移行が求められます。

取引先との関係についても、類似の注意が必要です。既存の契約をどのように扱うか、特に供給契約や顧客契約が譲渡対象となる場合、新たな事業主として買い手はこれらの契約を再確認し、必要に応じて新たな契約条項を交渉する必要があります。これには、信頼の構築と取引先との良好な関係の維持が含まれます。

事業譲渡と他のM&A手法との違い

事業譲渡はM&Aの一形態であり、他のM&A手法とは異なる特徴があります。特に、事業譲渡と株式譲渡、会社分割との違いが顕著です。また、会社分割には新設分割と吸収分割の2つの方法があり、それぞれの違いも理解しておくことが重要です。

事業譲渡と株式譲渡

まずは、最も似たM&A手法の一つである事業譲渡と株式譲渡の違いについて明らかにしていきます。

譲渡の対象となる権利義務の違い

事業譲渡と株式譲渡の主な違いは、譲渡の対象となる権利義務です。事業譲渡では、会社が保有する事業の一部または全体が譲渡されます。これに対して、株式譲渡では、株主が保有する株式が譲渡されますが、会社の資産や負債は直接変わりません。したがって、事業譲渡は事業単位での移転であり、株式譲渡は株主間での所有権の移転です。

経営権の移動と税務上の影響

事業譲渡における経営権の移動は、譲渡された事業の経営権が売り手から買い手に移ります。これに対して、株式譲渡では会社の経営権は変わらず、株主のみが変更されます。税務上の影響も異なります。事業譲渡では、譲渡益や譲渡損が発生し、それに応じて課税されます。一方、株式譲渡では、譲渡益や損失が株主個々人に影響します。

事業譲渡と会社分割

事業譲渡と会社分割も、M&Aの手法として類似していますが、異なるアプローチが取られます。事業譲渡では、会社が持つ一部または全部の事業を他の会社に譲渡します。一方、会社分割では、会社が持つ事業を新たな会社に移管するプロセスです。会社分割には、新設分割と吸収分割の2つの方法があり、それぞれ異なる特徴を持ちます。

新設分割と吸収分割の違い

新設分割では、親会社が新たに分割される会社を設立し、一部の事業を移管します。これに対して、吸収分割では、親会社が既存の会社に事業を移管します。新設分割では新たな会社が誕生するため、吸収分割よりも手続きが複雑になる傾向があります。どちらの方法を選択するかは、会社の戦略や法的要件に応じて異なります。

まとめ: メリットを理解して事業譲渡を活用しよう!

事業譲渡は、企業の成長戦略やリストラクチャリング(事業編成)の一環として有効な手段です。事業譲渡は、企業が不要な事業部を手放すことで資源を再配分し、コア事業に集中することを可能にします。また、事業譲渡は買収や合併と比較して手続きが簡潔であるため、実行までの時間とコストを削減できるメリットがあります。しかし、事業譲渡には適切な戦略立案と、財務・法務に関する専門知識が不可欠であることを理解しておきましょう。