日本の中小企業が直面する事業承継問題は、経営者の高齢化や後継者不在といった課題が背景にあります。このような状況下で注目されているのが、事業承継型M&Aという解決手法です。事業承継型M&Aは、後継者がいない企業が事業を存続させるための一手段であり、近年、その重要性が増しています。
本記事では、事業承継型M&Aの基本的な定義や特徴、売り手企業・買い手企業それぞれにとってのメリット、従来の事業承継方法との違いなどについて解説します。また、成功させるための具体的なポイントやリスクへの対処方法についても触れ、中小企業の経営者や関係者にとって有益な情報を提供します。
- この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)
事業承継型M&Aとは?
事業承継型M&Aとは、会社の経営権、資産、負債などを次世代に引き継ぐ際に、第三者を譲受先として事業を承継する手法です。後継者不在に直面している中小企業が、事業の存続と成長を実現するために活用する手段として注目されています。
事業承継とM&Aの基本的な定義
事業承継とは、企業の経営権や資産、負債を次世代の経営者に引き継ぐプロセスです。日本の中小企業では、後継者不足が深刻化しており、事業承継の手法として親族内承継、社内承継、そして第三者承継(M&Aを含む)のいずれかが選ばれることが一般的です。
一方で、M&Aは「Mergers(合併)」と「Acquisitions(買収)」を指します。事業承継型M&Aでは、企業の経営権が譲渡されるだけでなく、譲受企業と売却企業の間でシナジー効果を生み出すことが期待されます。この方法は、単なる売却ではなく、事業を存続させるための重要な戦略手法として位置づけられています。
事業承継型M&Aが注目される理由
事業承継型M&Aは、以下のような点で注目されています。
- 後継者不在問題への解決策
日本の中小企業では、経営者の高齢化が進む一方で、後継者不足が深刻な問題となっています。2025年までに平均引退年齢を迎える経営者は約245万人に上り、事業承継型M&Aはこうした課題を解消する有効な手段となります。 - 従業員やブランドの引継ぎの重要性
事業承継型M&Aでは、従業員の雇用やブランド価値を維持することが重要です。特に中小企業では、企業の価値が従業員の技術やブランド力に依存しているケースが多く、これらの資産を適切に引き継ぐことが求められます。 - 日本の中小企業特有の事情を踏まえた解決策になる
日本の中小企業ではオーナー経営が多く、事業承継における課題が特有のものとなります。経営者個人の影響力が強い場合、新しい経営者がスムーズに統合を進められるかが重要な成功要因となります。また、無形資産の価値を定量的に示す準備も求められます。
なぜ日本の中小企業に事業承継型M&Aが必要とされるのか?
日本の中小企業は、日本経済の基盤として重要な役割を担っています。しかし、経営者の高齢化と後継者不足という深刻な課題に直面しており、事業承継型M&Aがその解決策として注目されています。以下では、日本の中小企業が抱える現状と課題、そして事業承継型M&Aの有用性について解説します。
日本における中小企業の現状
本の中小企業は、全企業数の約99%を占め、国内の雇用の約70%を支える重要な存在です。しかし、これらの中小企業が現在直面している大きな課題の一つが、経営者の高齢化と後継者不在問題です。中小企業庁のデータによると、2025年までに平均引退年齢である70歳を超える中小企業の経営者は約245万人に達するとされており、この中には後継者がいないため事業継続が難しいとされる企業が多数含まれています。
こうした状況が放置されると、2025年までに累計で約650万人の雇用が失われ、国内総生産(GDP)の約22兆円が損失する可能性があるとされています。中小企業は地域経済の基盤でもあり、その廃業が地域社会や日本全体に及ぼす影響は非常に深刻です。このような状況が、事業承継型M&Aを含む後継者問題の解決手段への関心を高めています。
中小企業が抱える事業承継の課題
後継者不在の原因や親族内承継の減少、自社株問題、人材育成の不足といった課題が、中小企業の事業承継を難しくしています。これらの課題について具体的に解説します。
後継者不在の原因:親族内承継の減少
かつては事業の後継者として親族、特に子供が選ばれるのが一般的でしたが、現代では親族内承継が減少しています。理由としては、後継者候補の子供が事業継続に興味を持たない、あるいは他の職業に就いているケースが多いことが挙げられます。また、事業承継に伴う負債やリスクを敬遠する傾向も見られます。
自社株問題や人材不足の現状
経営者交代に際しては、自社株を後継者に引き継ぐ際の相続税や贈与税が大きな負担となることがあります。事業が好調であるほど、株式評価額が高騰し、後継者にとって過重な負担となる可能性があります。また、事業を支える人材の育成が不十分である場合、経営者が交代しても事業の持続可能性が低くなるリスクが高まります。
事業承継型M&Aの有用性
事業承継型M&Aは、中小企業にとって後継者不足を解決する重要な手段です。また、譲渡後のシナジー効果によって事業成長が期待できる点も見逃せません。ここでは、事業承継型M&Aが中小企業にどのような価値をもたらすのかを探ります。
後継者探しにおける選択肢の拡大
事業承継型M&Aは、親族や社内に後継者がいない場合に第三者を後継者として迎え入れる手段として注目されています。これにより、従来では考えられなかった他企業や投資家への事業承継が可能になり、事業の存続が確保されるだけでなく、さらなる発展が期待できます。たとえば、買い手企業が事業承継後に追加のリソースを投入し、事業を拡大させることも可能です。
シナジー効果による事業成長の可能性
M&Aにより買い手企業とのシナジーが生まれると、売り手企業のブランド力や技術力が買い手企業の経営資源と結びつき、双方の成長を促すことができます。特に、技術や製品ラインナップを補完し合える企業同士のM&Aでは、競争力の向上や市場シェアの拡大が期待されます。また、事業承継型M&Aを通じて従業員の雇用も維持され、地域経済への貢献も継続されることが多いです。
日本の中小企業特有の後継者問題を背景に、事業承継型M&Aは事業継続の重要な手段として今後ますます必要とされるでしょう。この手法は、単なる事業の存続ではなく、企業の価値向上や地域経済の安定にも寄与する有力な解決策となっています。
事業承継型M&Aのメリット
事業承継型M&Aは、単なる事業や経営権の移譲ではなく、売り手企業、買い手企業、さらには地域経済全体に多くのメリットをもたらします。これにより、後継者不足や事業存続の課題を克服し、日本の中小企業が抱える深刻な問題への解決策となっています。以下では、売り手企業、買い手企業、そして地域社会に分けて、事業承継型M&Aの具体的なメリットについて解説します。
売り手企業側のメリット
事業承継型M&Aは、売り手企業の経営者にとって多くのメリットがあります。特に後継者不在で事業継続が難しい場合、この手法は事業の存続を可能にするだけでなく、創業者や従業員にとっても大きな恩恵をもたらします。
従業員の雇用維持
従業員の雇用を守ることは、売り手企業の経営者にとって最大の懸念のひとつです。事業承継型M&Aでは、買い手企業が従業員の雇用を引き継ぐケースが多く、これにより長年会社を支えてきた従業員の生活が守られます。特に中小企業において、雇用の維持は地域経済や社会の安定にも直結します。
創業者利益の獲得
M&Aによる事業譲渡は、創業者にとって経済的利益をもたらします。譲渡によって得た資金を新たなビジネスへの投資や個人的な資産形成に活用することができます。また、売却益は引退後の安定した生活を支える財源ともなり、創業者にとって魅力的な選択肢です。
事業継続とブランドの保全
創業者が築き上げたブランドや技術、ノウハウを守ることができます。廃業を選択する場合、それらの無形資産は失われてしまう可能性がありますが、M&Aを通じて新しい経営者に引き継がれることで、ブランドや事業の価値を次世代に継承することが可能です。
買い手企業側のメリット
買い手企業にとって、事業承継型M&Aは事業拡大やリソースの有効活用、新たな市場への進出のための有力な手段です。
短期間で事業拡大が可能
ゼロから新規事業を立ち上げる場合と比較して、M&Aを活用すれば短期間での事業拡大が可能です。既存の顧客基盤や従業員、設備をそのまま活用できるため、時間とコストを大幅に節約できます。特に中小企業では、地域密着型の市場をスムーズに獲得できることが魅力です。
経営リソースの活用と新規市場の開拓
買い手企業は売り手企業が持つ技術、ノウハウ、ブランド力を活用できます。これにより、自社の経営資源を効率よく活用しながら、事業の幅を広げることが可能です。また、売り手企業の既存顧客ネットワークを活用することで、新規市場への進出もスムーズに行えます。
地域経済・社会へのメリット
事業承継型M&Aの影響は売り手・買い手だけでなく、地域社会や経済全体に及びます。これにより、地域に根ざした中小企業の価値が維持され、地域全体の発展が促進されます。
雇用の維持による地域活性化
中小企業は地域の雇用の受け皿となっており、その存続は地域経済の安定に直結します。M&Aによって企業が存続すれば、雇用が維持され、地域住民の生活基盤が守られます。これにより、地域社会全体が活性化し、過疎化の進行を防ぐ効果も期待できます。
中小企業の価値を後世に残す
日本の中小企業には独自の技術やノウハウを持つ企業が多く存在します。これらは単なる事業価値を超えて、地域文化や産業の象徴でもあります。事業承継型M&Aを通じて、その価値を後世に伝えることができれば、地域社会の持続的な発展にも大きく寄与します。
事業承継型M&Aのデメリットとリスク
事業承継型M&Aは多くのメリットを提供する一方で、売り手企業や買い手企業にとってリスクや課題も伴います。これらを正しく理解し、適切な対策を講じることで、M&Aを成功に導くことが可能です。以下では、売り手企業、買い手企業それぞれが直面する課題とリスク、さらにそれらを軽減するためのポイントを解説します。
売り手企業側の課題
まずは、売り手企業側の課題について解説します。
適切な買い手企業の選定の難しさ
事業承継型M&Aにおいて、売り手企業にとって最も重要な課題のひとつが、適切な買い手企業の選定です。特に中小企業では、自社の価値を正当に評価してくれる買い手企業を見つけることが難しい場合があります。さらに、買い手企業の経営方針やビジョンが売り手企業の価値観と一致しない場合、従業員や取引先との関係性に悪影響を及ぼす可能性もあります。
経営方針の変化と従業員の不安
M&A後、新しい経営者による経営方針の変更が行われることがあります。この変化は、従業員に不安を与え、最悪の場合、離職につながるリスクを伴います。特に長期間にわたり、既存の経営者の指導のもとで働いてきた従業員にとって、突然の変化はストレス要因となります。また、取引先や顧客が経営方針の変化に否定的な反応を示す場合、売上や信頼性に悪影響を及ぼす可能性もあります。
買い手企業側のリスク
次に、買い手企業側の課題について解説します。
経営統合に伴うシナジー未達成の可能性
M&Aの主な目的のひとつに、売り手企業と買い手企業間のシナジー効果が挙げられます。しかし、事前の期待通りにシナジーが得られない場合、買い手企業は投資回収の計画が狂い、経営全体の安定性に悪影響を及ぼします。特に、買い手企業が売り手企業の事業構造や市場環境を正確に把握していない場合、統合後の収益性が低下するリスクが高まります。
人材流出のリスク
買収後に売り手企業の従業員が離職するリスクは、買い手企業にとって大きな問題となります。従業員の離職は、知識やスキルの流出につながり、企業運営に直接的な悪影響を及ぼします。また、売り手企業の従業員が新しい経営方針に不満を抱く場合、統合後のチームの結束力が低下し、事業運営が滞る可能性もあります。
リスク軽減のためのポイント
事業承継型M&Aを実施する場合は、上記の課題・リスクを踏まえて、以下のポイントに注意しましょう。
事前準備の重要性
売り手企業、買い手企業の双方にとって、事前準備は成功の鍵を握ります。売り手企業は、自社の財務状況や事業の強みを明確にし、魅力的な売却先としての準備を整えることが重要です。一方、買い手企業は、デューデリジェンス(DD)を通じて売り手企業のリスクを把握し、統合計画を詳細に策定する必要があります。
信頼できる仲介業者やアドバイザーの活用
専門的な知識や経験を持つ仲介業者やアドバイザーを活用することは、リスク軽減に有効です。仲介業者は売り手と買い手のマッチングを支援し、適切な買収価格や条件の設定に関する助言を提供します。また、アドバイザーは交渉の円滑化や法的手続きのサポートを行い、複雑なM&Aプロセスを成功に導く役割を果たします。
事業承継型M&Aの具体的な流れ
事業承継型M&Aを成功させるためには、準備から完了・統合までの一連の流れを体系的に進めることが重要です。それぞれの段階において異なるタスクがあり、それぞれがM&A全体の成功を左右します。以下では、準備段階、実行段階、完了・統合段階に分けて具体的な流れを解説します。
準備段階
事業承継型M&Aの準備段階では、成功のための基盤を築くための計画や調整が行われます。売り手企業と買い手企業の双方にとって、この段階での的確な準備が、後のプロセスをスムーズに進める鍵となります。
M&A戦略の立案
まずは、M&Aの目的を明確にすることが重要です。売り手企業にとっては、後継者不在問題の解決や事業価値の維持、買い手企業にとっては事業拡大や新規市場への参入が目的となる場合が一般的です。この段階では、事業承継型M&Aが本当に自社に適した方法であるかを検討し、経営者や関係者間での合意形成を図ります。
また、買い手企業側では、対象企業の業界動向や市場価値を分析し、具体的なM&A戦略を立案します。この戦略には、取得後の統合計画やシナジーの見込みについての仮説も含まれます。
売り手企業と買い手企業のマッチング
次に、売り手企業と買い手企業を結びつけるプロセスが行われます。ここでは、マッチングサイトの活用や仲介業者の支援が役立ちます。売り手企業にとっては、自社の価値を正当に評価してくれる買い手を見つけることが重要です。一方、買い手企業は、自社の戦略や目標に合致するターゲット企業を選定します。
マッチングの過程では、秘密保持契約(NDA)が締結され、売り手企業の基本情報が買い手企業に提供されます。この段階で信頼関係を築くことが、後の交渉を円滑に進めるための基盤となります。
実行段階
実行段階では、具体的な取引条件の決定や対象企業の詳細な評価が行われます。この段階は、双方にとって重要な意思決定の連続となります。
企業価値算定と交渉
企業価値算定(バリュエーション)は、M&Aの成功を左右する重要なプロセスです。買い手企業は、売り手企業の財務状況、事業内容、市場ポジションを分析し、公正な買収価格を算定します。この算定には、DCF法や市場価格法などのさまざまな手法が用いられます。
その後、双方が納得できる条件で交渉を行います。交渉では、買収価格だけでなく、従業員の処遇や事業方針、統合計画などの条件も議題となります。この段階で、信頼関係を維持しながら合意に至ることが重要です。
基本合意とデューデリジェンス
交渉がまとまると、基本合意書(MOU)が締結されます。基本合意書は、法的拘束力は限定的ですが、重要な条件を確認し、交渉を進めるうえでの基準となります。
その後、買い手企業が売り手企業の詳細な調査を行うデューデリジェンス(DD)が実施されます。DDでは、財務、法務、税務、人事、事業運営など多角的な観点からリスクや潜在的な課題を特定します。この調査結果は、最終契約の内容に直接影響を与えます。
完了・統合段階
最終的な契約締結から統合プロセスに至るまでが、M&Aの最終段階です。この段階での取り組みが、M&A後の成功を決定づけます。
最終契約とクロージング
DDの結果を踏まえ、買収条件の最終調整を行い、売り手企業と買い手企業が合意に達すると、最終契約が締結されます。この契約では、買収価格や条件、債権・債務の扱いなど、詳細な内容が記載されます。
その後、株式や資産の譲渡、対価の支払いなどが行われるクロージングのプロセスに進みます。クロージングは、買収スキームや関係する法的要件によって手続きが異なり、慎重な進行が求められます。
PMI(経営統合)の実施と成功の秘訣
クロージング後、M&Aの本当の成功を決定づけるのがPMI(Post-Merger Integration)です。PMIでは、買収後の組織やシステムの統合、文化の融合が進められます。この段階での遅れや失敗は、M&A全体の価値を損なうリスクを伴います。
PMIを成功させるためには、事前に策定された「100日プラン」の実行が重要です。この計画には、売り手企業の従業員との協力や買い手企業の支援が含まれ、双方の目標が一致するよう調整が行われます。組織の透明性を保ち、従業員の信頼を得ることが、PMI成功の鍵となります。
事業承継型M&A以外の解決策
事業承継問題を解決する手段はM&Aだけではありません。親族内承継や従業員承継、IPO(株式公開)、そして最終的な廃業といった選択肢も存在します。それぞれの方法には固有のメリットやデメリットがあり、企業の状況や経営者の意向によって最適な方法を選ぶことが重要です。以下でそれぞれの解決策について解説します。
親族内承継と従業員承継
親族内承継と従業員承継は、長年日本の中小企業で主流とされてきた事業承継の方法です。しかし、それぞれの方法には独自のメリットと課題があります。
親族内承継は、経営者の親族、特に子供や兄弟姉妹が後継者となる形態です。この方法では、次の経営者が親族であるため、従業員や取引先からの受け入れが比較的スムーズに進むことが多いです。また、家族間での承継であるため、経営理念や価値観が継承されやすいというメリットもあります。一方で、後継者の能力や意欲が不足している場合、事業の存続が危ぶまれることがあります。また、自社株の相続に伴う相続税の負担が課題となることも少なくありません。
従業員承継は、現在の経営者が親族以外の従業員を後継者に指名する方法です。この方法では、すでに会社の運営に詳しい人材が後を引き継ぐため、経営の移行がスムーズに進む可能性が高いです。また、後継者の選択肢が広がるため、親族内承継よりも柔軟性があります。ただし、従業員承継には会社の資産や株式の買い取り資金を準備する必要があり、後継者の負担が大きくなる場合があります。
IPO(株式公開)
IPO(Initial Public Offering)は、企業が株式を公開し、多くの投資家から資金を調達する手法です。この方法は、企業の規模や成長性が一定以上である場合に適しており、企業価値を市場で評価してもらえる点が魅力です。また、経営者が株式を売却することで資金を得ることができ、事業の継続に向けた新たな選択肢が生まれます。
しかし、IPOには多くの準備とコストが伴います。例えば、財務諸表の整備や法的要件の遵守、証券取引所への上場申請などが必要です。また、上場後は市場のプレッシャーにさらされ、短期的な業績改善が求められることが多いです。M&Aとの違いとして、IPOは事業を第三者に売却するのではなく、資金調達と透明性向上を目的とする点が挙げられます。事業承継が主な目的であれば、IPOよりもM&Aが適している場合も多いです。
廃業という選択肢
最終的な選択肢として、廃業が挙げられます。事業承継が難しい場合、廃業は企業の負債を整理し、経営者がリタイアするための手段となります。ただし、廃業には多くの損失が伴います。
まず、廃業は雇用の喪失を引き起こします。従業員は新たな雇用先を探さなければならず、地域経済にも悪影響を及ぼす可能性があります。また、廃業によって企業がこれまで築いてきた取引先や顧客基盤、ブランド価値が失われるため、社会的損失が大きいです。
これを避けるためには、早期に他の承継方法を検討することが重要です。例えば、事業承継型M&Aを活用すれば、企業価値を最大限に活かしながら、事業を第三者に引き継ぐことが可能です。また、親族内承継や従業員承継の選択肢を検討するために、信頼できるアドバイザーや専門家に相談することも有効です。
事業承継型M&Aを成功させるためのポイント
事業承継型M&Aを成功させるためには、入念な準備と計画、信頼できる専門家の活用、そして買い手企業との良好なコミュニケーションが不可欠です。これらのポイントをしっかり押さえることで、円滑な事業承継を実現し、企業価値を最大限に引き継ぐことが可能になります。それぞれの要素について解説します。
適切な準備と計画
事業承継型M&Aの成功には、適切な準備と計画が鍵を握ります。まず、企業価値を高める取り組みが必要です。具体的には、財務状況の改善、不採算事業の整理、ブランド力や技術力の強化などが挙げられます。これにより、買い手企業にとって魅力的な買収対象となり、交渉を有利に進めることができます。
さらに、後継者問題には早期から対応することが重要です。中小企業庁のデータによると、2025年までに平均引退年齢である70歳を超える経営者が多数存在する一方で、後継者不在の問題が深刻化しています。このような状況を踏まえ、早い段階で事業承継の方向性を明確にし、社内外の利害関係者と協議を重ねる必要があります。早期準備により、選択肢を広げ、より良い結果を得る可能性が高まります。
信頼できる専門家の活用
事業承継型M&Aでは、専門家のサポートが大きな助けとなります。特に仲介業者やM&Aアドバイザーの選定は、プロセス全体の成否に直結します。これらの専門家は、企業価値の算定や買い手企業のマッチング、デューデリジェンスのサポートなど、M&Aにおける重要な業務を担います。
信頼できる専門家を選ぶ際には、実績や専門性を重視することがポイントです。また、企業の特性やニーズに合わせた提案ができるかどうかも確認するべきです。M&Aプロセスの各段階で適切な助言を受けることで、リスクを軽減し、スムーズな進行が可能となります。
買い手企業との良好なコミュニケーション
M&Aを成功させるには、買い手企業とのコミュニケーションも重要な要素です。特に、透明性を確保することで、双方の信頼関係を築きやすくなります。例えば、企業価値や事業内容に関する情報を正確に開示することで、買い手企業は適切な判断を下しやすくなります。
また、買い手企業との合意形成をスムーズに進めるためには、双方の期待や懸念を丁寧に話し合うことが求められます。経営統合後の方針や従業員の処遇についても、事前に具体的な計画を立てて共有することで、潜在的な摩擦を減らすことができます。
まとめ: 事業承継を活用して会社を後世に残そう!
事業承継型M&Aは、後継者不在問題や事業の継続に悩む中小企業にとって有力な解決策です。その特徴として、単なる事業譲渡ではなく、企業価値やブランドを維持しながら新たな経営者に引き継ぐ柔軟性が挙げられます。また、売り手企業にとっては従業員の雇用維持や創業者利益の獲得、買い手企業にとっては事業拡大や新市場開拓の機会を提供するなど、双方にメリットがあります。
一方で、適切な買い手企業の選定や経営統合のリスクなどの課題も存在します。これらを乗り越えるためには、早期からの準備や信頼できる専門家の活用が欠かせません。事業承継型M&Aは、地域経済や社会にも好影響を与え、中小企業の価値を後世に残す手段として注目されています。