株式譲渡は、企業経営や事業承継、M&Aなどの重要な場面で行われる手続きです。株式の譲渡に際しては、譲渡人(売り手)と譲受人(買い手)双方の権利と義務を明確にし、トラブルを未然に防ぐために「株式譲渡契約書」を作成することが必須となります。
しかし、株式譲渡契約書を作成するには、法的効力や譲渡手続きの流れ、必要事項を正確に把握しなければなりません。また、契約書作成時の注意点や印紙税の取り扱い、名義書換や税務処理まで、理解しておくべきポイントが多岐にわたります。
本記事では、株式譲渡契約書の作成方法を中心に、有償・無償取引のひな形サンプル、記載すべき重要事項、作成時の注意点、手続きの流れについて解説します。株式譲渡契約の基礎から実践的な内容までカバーしているので、契約書作成の際にぜひ参考にしてください。
- この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)
株式譲渡契約書とは?基本知識を解説
株式譲渡契約書とは、株主が自ら保有する株式を第三者に譲渡する際に、その取引の内容や条件を明確に定めた契約書のことです。企業経営にとって株式は重要な意味を持つものであり、株式の譲渡は単に株主の変更にとどまらず、経営権の移転や事業承継、M&A(合併・買収)といった場面でも行われます。そのため、株式譲渡契約書はトラブル防止や法的な拘束力を確保するために極めて重要な書類となります。
契約書を締結することで、譲渡人と譲受人双方の権利・義務を明確にし、譲渡内容の不一致や後の紛争を未然に防ぐ役割を果たします。また、株式の譲渡には「株主名簿の名義書換」や「譲渡制限株式の承認手続き」など法律に基づいた手続きが必要なケースがあり、それらも契約書に記載し、適切に進めることが求められます。
ここでは、「株式譲渡」とは何か、その目的や種類、さらに株式譲渡契約書がなぜ必要とされるのかを解説します。
株式譲渡とは?
株式譲渡とは、株主が保有する株式を他者に譲り渡すことを意味します。これにより、株式の所有権が譲受人に移転し、株主としての権利(配当を受ける権利や議決権など)も譲受人に移行します。株式譲渡は会社の支配権や経営権にも直結するため、企業活動において非常に重要な手続きです。
株式譲渡の目的
株式譲渡は以下のような目的で行われます。
- 家族や親族への事業承継
経営者が後継者として家族や親族に株式を譲渡し、事業の継続を図るケースです。中小企業では特に多く見られる事例です。 - 従業員への株式譲渡
会社の発展に貢献した従業員や経営幹部に株式を譲渡し、経営参加やインセンティブとして活用する目的があります。 - 外部協力者や投資家への譲渡
企業の成長や資金調達の一環として、外部投資家や協力者に株式を譲渡し、経営の支援を受けることがあります。 - 第三者への事業売却(M&A)
会社の株式を第三者に譲渡することで、事業を売却し経営権を移転することができます。M&Aでは株式譲渡が代表的な手法の一つです。
株式譲渡の種類:有償譲渡と無償譲渡
株式譲渡には大きく分けて「有償譲渡」と「無償譲渡」の2種類があります。
- 有償譲渡
株式の譲渡に際して、譲受人が対価として金銭を支払う譲渡です。一般的な株式譲渡契約はこの「有償譲渡」に該当し、具体的な譲渡価額や支払い方法について契約書に明記する必要があります。 - 無償譲渡
譲受人が対価を支払わずに株式を譲り受ける場合を「無償譲渡」と呼びます。主に家族や親族間で株式を引き継ぐ場合に行われ、贈与税など税務上の手続きが発生することがあるため注意が必要です。
株式譲渡契約書が必要な理由
株式譲渡契約書を作成する最大の理由は、株式の譲渡に関する権利・義務関係を明確にし、後のトラブルを防止するためです。株式譲渡は、株主という会社の重要なステークホルダーが変わる手続きであり、会社経営や事業継続に大きな影響を及ぼします。そのため、契約書による取引内容の文書化が極めて重要となります。
株式譲渡契約書の法的効力
株式譲渡契約は、法律上「民法の売買契約」に該当します。つまり、契約当事者間での意思表示の合致があれば契約自体は成立しますが、その内容を明確にするためにも書面による契約書が必要です。契約書があれば、株式譲渡の取引内容や条件を証拠として残すことができ、法的な効力を確保することが可能です。
また、株式譲渡契約書には、譲渡対象株式の種類や株数、譲渡価額、支払い方法、名義書換、表明保証、解除事由など、譲渡に関わる重要事項が記載されます。これにより、双方の認識のズレを防ぎ、法的トラブルを未然に回避できるのです。
株式譲渡制限や株主名簿の名義書換の影響
会社法に基づき、非上場会社では株式の譲渡に「譲渡制限」が設けられている場合があります。譲渡制限とは、株式を譲渡する際に会社の承認が必要とされる仕組みです。これにより、不本意な第三者が株主となる事態を防ぐことができます。
譲渡制限株式を譲渡する場合、以下の手続きが必要です。
- 株式譲渡契約書の締結
- 会社(取締役会または株主総会)による譲渡承認
- 株主名簿の名義書換
株主名簿の名義書換とは、譲受人が正式に株主として認められるための手続きです。名義書換が完了しない限り、株式譲渡は会社や第三者に対して効力を持たず、譲受人は株主としての権利を行使することができません。そのため、株式譲渡契約書には、名義書換に関する条項も必ず盛り込むことが必要です。
このように、株式譲渡契約書は単なる契約書ではなく、株式譲渡の法的手続きをスムーズに進め、関係者の権利を保護する役割を果たす重要な書類であるといえます。
株式譲渡契約書を作成する目的
株式譲渡契約書は、株式を譲渡する際に譲渡人(売り手)と譲受人(買い手)の間で締結される契約書であり、株式取引の内容や条件を法的に明確化するために作成されます。株式譲渡は、単に株式の売買を行うだけでなく、経営権や会社の支配権が移転する可能性を持つため、企業経営や事業承継において極めて重要な手続きです。
契約書を作成することで、譲渡条件や双方の合意事項が文書として記録され、後々のトラブルを未然に防止できます。また、株式譲渡契約書には株式の種類・数、譲渡価額、支払方法、名義書換、契約解除条項など、譲渡に関連する具体的な事項が明記されます。これにより、譲渡当事者が安心して取引を進めることが可能となり、会社法に基づく必要な手続きも円滑に進められるようになります。
ここでは、株式譲渡契約書の主な締結目的やその重要性について解説します。
株式譲渡契約の締結目的
株式譲渡契約書が締結される目的は、主に以下の3つに分類されます。
1. 経営権を第三者に移転する
株式の譲渡は、企業の「経営権」や「支配権」に大きく関わる手続きです。企業の大株主が保有する株式を第三者に譲渡する場合、その第三者は新たな株主として企業の経営に影響を与えることができます。
例えば、M&A(合併・買収)において、企業の経営権を第三者に譲るためには株式譲渡が行われます。これにより、譲受人が株式を通じて議決権を取得し、事実上の経営者として企業を支配する形となるのです。特に非上場会社の場合、株式の大半を特定の株主が保有していることが多く、その譲渡は会社の経営体制そのものを変更する重大な契機となります。
2. 家族や従業員への株式譲渡
中小企業においては、経営者が自ら保有する株式を後継者となる家族や経営幹部、従業員に譲渡するケースが一般的です。これにより、次世代の経営者へ事業をスムーズに引き継ぐ「事業承継」の一手段として株式譲渡が利用されます。
例えば、事業承継で子供や親族に株式を譲渡すれば、後継者が経営権を持つことで事業の継続性が確保されます。また、従業員や経営幹部に譲渡する場合は、彼らのモチベーションや会社への忠誠心を高め、会社の安定的な成長につなげることができます。
3. 事業承継・M&Aとしての活用
企業の成長戦略や後継者不足の解決手段として「M&A(合併・買収)」が注目されています。M&Aでは、株式譲渡が最も一般的な手法として用いられ、株式を第三者に譲渡することで事業を売却し、経営権を移転します。
株式譲渡によるM&Aのメリットは、以下のような点にあります。
- 会社全体を丸ごと譲り渡すことが可能
- 契約手続きが比較的シンプル
- 従業員や取引先との関係を維持しながら事業譲渡できる
これにより、企業オーナーが事業から退く際に、会社の価値を最大限に評価し、第三者へと売却することができます。
契約書作成の重要性
株式譲渡は、当事者間の合意だけでも成立する「諾成契約」ですが、契約書の作成は非常に重要です。その理由は以下の通りです。
1. トラブル防止の役割
株式譲渡は、譲渡対象株式の種類や株数、譲渡価額、支払方法など多くの条件を含む複雑な取引です。もし、口頭のみで取引を行った場合、後々の認識のズレや意見の食い違いが原因で、トラブルが発生する可能性が高くなります。
例えば、譲渡価額や支払い期日に関する合意が曖昧だと、代金の支払いや株式の引渡しを巡って紛争が発生することがあります。また、譲渡後に株主名簿の名義書換が行われない場合、譲受人が株主としての権利を行使できないという問題も生じかねません。
このようなトラブルを防ぐために、契約内容を文書として残し、当事者間で合意事項を明確にすることが必要です。契約書があれば、紛争発生時に証拠書類として効力を発揮し、問題の早期解決につなげることができます。
2. 譲渡条件や合意事項の明確化
株式譲渡契約書には、譲渡する株式の特定、譲渡価額、支払方法、株主名簿の名義書換、表明保証、契約解除事由、損害賠償といった多くの重要事項が記載されます。これにより、株式譲渡の取引内容や条件が明確になり、双方が安心して取引を進めることができます。
特に、株式譲渡の対象が「譲渡制限株式」である場合は、契約書に会社の承認手続きや条件を盛り込む必要があります。これを怠ると、譲渡手続きが無効となるリスクが生じます。また、譲受人の立場からすると、契約書に「表明保証」の条項が記載されていることで、譲渡対象株式や対象会社に隠れた瑕疵がないかを確認し、安心して取引に臨むことができます。
さらに、契約解除や損害賠償に関する条項が明記されていれば、万が一問題が発生した場合のリスク回避にも役立ちます。
まとめると、株式譲渡契約書の作成は、取引の安全性や確実性を担保し、双方が安心して株式譲渡を進めるために不可欠な手続きなのです。
株式譲渡契約書のひな形サンプル
株式譲渡契約書は、株式を売買・譲渡する際に必要な重要な書類です。内容としては、譲渡する株式の特定や譲渡代金、名義書換、表明保証、解除条項などが含まれます。しかし、具体的にどのような条項を盛り込めば良いのか、初めて作成する方にはイメージしづらいかもしれません。
そこで本項では、「有償取引」と「無償取引」の2つのケースに分けて、株式譲渡契約書のひな形サンプルをご紹介します。これを参考にしながら、契約書の作成イメージを掴んでいただければと思います。ただし、実際の取引に応じて内容は異なりますので、専門家のアドバイスを受けながら作成することをおすすめします。
有償取引の株式譲渡契約書サンプル
有償取引とは、株式を譲渡する対価として、金銭などを受け取る取引のことです。一般的な株式譲渡契約書はこの「有償取引」に基づいて作成され、具体的な条項や必要記載事項を盛り込みます。
見本の条項例
以下は、標準的な有償取引の株式譲渡契約書のひな形です。
株式譲渡契約書第1条(譲渡合意) 甲(譲渡人)と乙(譲受人)は、甲が保有する対象会社(〇〇株式会社)の普通株式〇〇株(以下「本件株式」という)を、乙に対し、以下の条件に基づき譲渡することに合意する。第2条(譲渡代金及び支払い方法)本件株式の譲渡代金は〇〇円(1株あたり〇〇円)とする。乙は、譲渡日までに、甲の指定する以下の銀行口座に譲渡代金全額を振り込むものとする。 【銀行名】〇〇銀行 【支店名】〇〇支店 【口座番号】******* 【口座名義】〇〇第3条(株主名簿の名義書換)甲および乙は、本件株式の譲渡後直ちに、対象会社に対し名義書換を請求するものとする。甲は、本契約締結前に、対象会社から本件株式譲渡の承認を得るものとする。第4条(表明保証)甲は、本件株式について、第三者の権利が一切存在せず、甲が正当な所有者であることを保証する。甲は、対象会社の財務状況や法的事項について、別紙1「表明保証事項」に定める事項が真実かつ正確であることを保証する。第5条(契約解除)甲または乙が本契約に違反した場合、相手方は本契約を解除し、損害賠償を請求することができる。前条の表明保証に反する事実が発覚した場合、乙は本契約を解除し、甲に対して損害賠償を請求することができる。第6条(協議解決) 本契約に定めのない事項および疑義が生じた場合は、甲乙誠意をもって協議の上解決するものとする。第7条(管轄裁判所) 本契約に関する紛争が生じた場合、〇〇地方裁判所を第一審の専属的管轄裁判所とする。作成年月日 甲(譲渡人) 住所:〇〇 氏名:〇〇 印 乙(譲受人) 住所:〇〇 氏名:〇〇 印 |
必要記載事項の解説
有償取引の株式譲渡契約書には、以下の項目が欠かせません。
- 譲渡合意:譲渡する株式の種類、株数、譲渡対象会社を特定する条項です。
- 譲渡代金及び支払い方法:代金額とその支払い期日、方法(銀行振込など)を明確にします。
- 名義書換:株主名簿への記載を請求し、譲受人が正式に株主となるための手続きを記載します。
- 表明保証:譲渡対象株式に関して、譲渡人が正当な所有者であり、第三者の権利が存在しないことを保証する内容です。
- 契約解除および損害賠償:契約違反や表明保証違反があった場合の対処方法を記載します。
無償取引の株式譲渡契約書サンプル
無償取引とは、譲渡人が譲受人に株式を譲り渡す際に対価を求めない取引のことです。主に家族間や親族間で事業承継の一環として行われます。
見本の条項例
以下は無償取引の株式譲渡契約書のひな形です。
株式譲渡契約書(無償譲渡)第1条(譲渡の合意) 甲(譲渡人)と乙(譲受人)は、甲が保有する対象会社(〇〇株式会社)の普通株式〇〇株を、無償で乙に譲渡することに合意する。第2条(株式の引渡し) 甲は、本契約締結後直ちに、乙に対し対象株式を引き渡すものとする。第3条(株主名簿の名義書換) 甲および乙は、対象会社に対して速やかに株主名簿の名義書換を請求するものとする。第4条(表明保証) 甲は、本件株式について、第三者の権利が存在せず、甲が正当な所有者であることを保証する。第5条(協議解決) 本契約に定めのない事項については、甲乙誠意をもって協議し解決するものとする。作成年月日 甲(譲渡人) 住所:〇〇 氏名:〇〇 印 乙(譲受人) 住所:〇〇 氏名:〇〇 印 |
無償取引の注意点
無償譲渡の場合、譲渡人は対価を得ませんが、税務上の「贈与」とみなされることがあるため注意が必要です。贈与税が発生する可能性があるため、専門家のアドバイスを受けながら手続きを進めることが重要です。また、譲受人が株式を譲り受けることによって会社経営に関わることも多く、契約書を通じて譲渡の内容をしっかりと明確にしておく必要があります。
無償取引でも、譲渡後の株主名簿の名義書換や株主としての権利行使が関わるため、契約書の作成は必ず行いましょう。
株式譲渡契約書に記載すべき重要事項
株式譲渡契約書は、譲渡人と譲受人が株式を売買または譲渡する際に取り交わす重要な書類です。契約内容や条項に不備があると、後々のトラブルの原因になりかねません。譲渡する株式の特定や譲渡代金、名義書換請求、表明保証、競業避止義務など、株式譲渡契約書に記載すべきポイントをしっかり押さえ、明確に記載することが求められます。
以下では、契約書作成の際に必ず盛り込むべき重要事項を解説します。
1. 譲渡する株式の特定
契約書には、譲渡する株式を明確に特定するための情報を記載する必要があります。株式の特定が曖昧だと、譲渡対象が不明確となり、契約自体の有効性に問題が生じる可能性があります。
具体的には、次の情報を記載します。
- 株式の種類:普通株式や優先株式などの種類
- 株数:譲渡する株式の具体的な株数
- 発行会社の情報:会社名、所在地、登記情報
たとえば、「〇〇株式会社の普通株式100株を譲渡する」というように、契約書内で明確に記載します。特に非上場会社の場合、発行株式数が限られていることが多いため、契約書において対象株式の詳細情報を記載し、誤解や紛争を防ぐことが重要です。
2. 譲渡代金と支払い方法
譲渡代金および支払い方法は、有償取引の場合に必ず記載する重要事項です。代金額や支払い期日、支払方法が明確にされていないと、後にトラブルが発生する原因になります。
有償取引の場合
以下の点を明記します。
- 譲渡代金の金額:1株あたりの価格と総額
- 支払い期日:代金の支払いをいつまでに行うか
- 支払い方法:銀行振込の場合は振込先口座情報(銀行名、支店名、口座番号、名義人)
例文
「乙(譲受人)は、甲(譲渡人)に対し、譲渡代金として総額100万円(1株あたり1万円)を、〇年〇月〇日までに、甲の指定する以下の銀行口座に振り込むものとする。」
無償譲渡の場合
無償譲渡では譲渡代金の設定がないため、該当条項は省略するか、「無償で譲渡する」旨を明記します。
例文
「甲は、乙に対し、〇〇株式会社の普通株式100株を無償で譲渡する。」
3. 株主名簿の名義書換請求
株主名簿の名義書換は、株式譲渡後に譲受人が正式に株主として認められるための手続きです。名義書換が完了しなければ、譲受人は株主としての権利(議決権や配当の受領権)を行使できません。
名義書換の手続きと必要事項
- 株式譲渡後、直ちに譲渡人と譲受人が共同で名義書換を請求すること
- 株主名簿の記載内容(譲受人の氏名、住所など)
例文
「甲および乙は、本件株式の譲渡後直ちに、対象会社に対し株主名簿の名義書換を請求するものとする。」
譲渡制限株式の場合は、会社の承認を得たことも記載し、手続きの確実性を高めます。
4. 表明保証
表明保証とは、売主が譲受人に対して株式や対象会社に関する重要な事項が「真実かつ正確であること」を保証する条項です。譲受人が安心して株式を取得できるように、以下の内容が一般的に記載されます
売主に関する表明保証事項
- 売主が対象株式を適法に所有しており、第三者の権利がないこと
- 対象株式の譲渡に関して、法令違反や訴訟リスクがないこと
対象会社に関する表明保証事項
- 対象会社の財務状況が適正であり、隠れた債務や法的トラブルがないこと
- 許認可や登記内容が適法に管理されていること
例文
「甲は、乙に対し、本契約締結日において対象株式が第三者の権利の対象ではなく、甲が正当な所有者であることを保証する。」
5. 契約解除と損害賠償
契約解除と損害賠償の条項は、契約違反や表明保証違反が発生した場合に、契約を解除し、損害を請求できる旨を明確にするものです。
解除事由の設定
- 支払いの遅延や不履行があった場合
- 表明保証が真実でないことが判明した場合
損害賠償の対応
損害の範囲や賠償金額の上限をあらかじめ設定しておくことで、後の紛争を防止します。
例文
「本契約に違反した当事者は、相手方に生じた一切の損害を賠償する責任を負う。」
6. 競業避止義務
競業避止義務とは、株式譲渡後に譲渡人が対象会社と同一の事業を行うことを制限する条項です。これは、譲受人が対象会社の経営を安定させるために必要です。
具体的な内容
- 同一事業の範囲(業種や地域)
- 制限期間(例:3年間)
例文
「甲は、本件株式譲渡後、対象会社と同一または類似の事業を〇年間行わないものとする。」
7. 合意管轄
合意管轄とは、契約に関して訴訟が必要となった場合に、どの裁判所を管轄とするかをあらかじめ定める条項です。トラブルが発生した際に、裁判所の指定で揉めることを防ぎます。
例文
「本契約に関する紛争については、〇〇地方裁判所を第一審の専属的管轄裁判所とする。」
一般的には譲受人の所在地にある裁判所を指定するケースが多いです。
株式譲渡契約書には、譲渡内容や手続きの流れを明確にし、トラブルを未然に防ぐために上記の事項をしっかりと盛り込む必要があります。特に譲渡する株式の特定や表明保証は重要であり、契約締結後のリスク回避にもつながります。契約書の内容については専門家のアドバイスを受け、適切に作成することをおすすめします。
株式譲渡契約書作成時の注意点
株式譲渡契約書は、株式譲渡に関する権利や義務を明確にする重要な書類です。しかし、契約書を作成する際には、株式の種類や会社の状況によって注意すべきポイントがいくつか存在します。特に「株式譲渡制限」や「株券の有無」、「収入印紙の要否」などは、法的な手続きに関わるため正確に把握する必要があります。
また、契約書は後のトラブル防止や証拠書類として機能するため、適切な保管や押印手続き、承認手続きが欠かせません。ここでは、株式譲渡契約書を作成する際に注意すべき6つのポイントを解説します。
1. 株式譲渡制限の有無
株式譲渡契約書を作成する前に、対象となる株式に「譲渡制限」があるかを必ず確認しましょう。株式譲渡制限とは、会社が定款で定めた「株式を譲渡する際に会社の承認が必要」という制限のことです。日本の非上場会社では、ほとんどの会社が株式の譲渡制限を設けています。
定款における譲渡制限の確認
譲渡制限の有無は、会社の「定款」または「登記事項証明書」に記載されています。具体的には、登記事項証明書の「株式の譲渡制限に関する規定」の項目を確認することで判断できます。
承認手続きの流れ
譲渡制限株式を譲渡する場合、次の承認手続きが必要です。
- 取締役会設置会社の場合:取締役会での承認が必要です。
- 取締役会がない会社の場合:株主総会で承認を得る必要があります。
- 定款で別途規定がある場合:定款に従った承認手続きが求められます。
譲渡制限株式を承認なく譲渡した場合、譲渡は無効になる可能性があるため注意が必要です。契約書には「承認手続きを経たこと」や「承認の取得を譲渡人が保証する」旨を明記しておきましょう。
2. 株券の発行有無
株式譲渡契約書を作成する際は、対象となる株式の「株券」が発行されているかどうかを確認する必要があります。株券の発行有無により、譲渡手続きの内容や効力が異なるためです。
株券発行会社と株券不発行会社の違い
- 株券発行会社:会社が株券を発行している場合、株式譲渡には株券の交付が必要です。譲渡手続きとして株券の引渡しが行われなければ、株式の譲渡は効力を持ちません。
- 株券不発行会社:現在では株券不発行が原則とされており、多くの会社が株券を発行していません。この場合は、株式譲渡契約書の締結および株主名簿の名義書換が手続きの中心となります。
株券の発行有無は会社の「定款」や「登記事項証明書」で確認できます。株券発行会社の場合は、契約書に株券の引渡しについての条項も盛り込む必要があります。
3. 株式譲渡契約書への収入印紙
株式譲渡契約書には、収入印紙が必要な場合と不要な場合があります。原則として、株式譲渡契約書は「印紙税の対象外」とされていますが、取引の内容によっては収入印紙が必要となるため注意が必要です。
収入印紙が必要なケースと金額一覧
契約書に「金銭の受領」に関する記載があり、受領金額が明記されている場合、印紙税が課される可能性があります。以下は印紙税の金額一覧です。
受領金額 | 印紙税額 |
5万円未満 | 非課税 |
5万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円超200万円以下 | 400円 |
200万円超300万円以下 | 600円 |
300万円超500万円以下 | 1,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 2,000円 |
1,000万円超2,000万円以下 | 4,000円 |
印紙税の例外と注意点
収入印紙が不要な場合でも、授受した代金が契約書に記載されていると印紙税が発生する可能性があります。無用なトラブルを防ぐためにも、契約書の記載内容には十分注意しましょう。
4. 契約書の保管期間と方法
株式譲渡契約書は、法的効力を証明する重要な書類です。契約締結後は、適切な方法で一定期間保管する必要があります。
法人の場合
法人が作成する契約書は「法人税法」に基づき、7年間の保管が義務付けられています。欠損金が発生した場合は、保管期間が10年間に延長される点にも注意が必要です。
個人の場合
個人間で株式譲渡契約を締結した場合、法律上の定めはありませんが、確定申告に契約書を利用した場合は5年間の保管が必要です。
保管方法比較
保管方法 | メリット | デメリット |
紙 | シンプルで誰でも管理可能 | スペースが必要、紛失リスクあり |
マイクロフィルム | 長期保存が可能 | 特別な機器やスペースが必要 |
電子データ | コスト削減、検索が容易 | 導入コストや維持費がかかる |
電子データで保存する場合は「電子帳簿保存法」に準拠する必要があるため、導入時には注意しましょう。
5. 契約書への押印
株式譲渡契約書に押印する印鑑は、法律上必ずしも実印である必要はありませんが、後のトラブルを防ぐために実印の押印を強く推奨します。
実印の重要性と印鑑証明書
- 実印を使用することで、契約書に押印した人物が確実に当事者であることを証明できます。
- 実印を押印する場合、印鑑証明書を添付することで契約書の信頼性がさらに高まります。
認印でも契約は成立しますが、重要な株式取引であるため、実印を使用し、印鑑証明書を添付することで法的効力を確保することが重要です。
6. みなし承認規定
株式譲渡制限がある場合、会社の承認が必要ですが、「みなし承認規定」が定められている場合があります。
承認手続きと期間
- 株式譲渡の承認は通常、会社から2週間以内に通知されます。
- 2週間以内に通知がない場合、「承認されたものとみなす」という規定が「みなし承認規定」です。
この規定により、承認手続きがスムーズに進むケースがあります。ただし、定款において別の定めがある場合はその定款が優先されるため、必ず確認しましょう。
以上の注意点を踏まえて株式譲渡契約書を作成することで、手続きの漏れを防ぎ、トラブルを未然に回避できます。契約書は法的な根拠としても重要な書類ですので、慎重に作成し、必要に応じて専門家のサポートを受けるようにしましょう。
株式譲渡契約の手続きの流れ
株式譲渡契約は、単に契約書を作成して締結すれば完了するものではなく、その後の手続きも非常に重要です。契約内容の確認から株式の引渡し、名義書換、登記、税務処理まで、適切なフローを経ることで法的なトラブルを防ぎ、株式の移転が正式に成立します。特に非上場会社の場合、譲渡制限や承認手続きが絡むことが多いため、慎重に進めることが求められます。
ここでは、株式譲渡契約の具体的な手続きの流れを解説します。
手続きの大まかな流れ
株式譲渡の手続きは、以下のステップで進められます。
- 意向の確認
- 契約書の草案作成
- デューデリジェンス(調査)
- 契約内容の最終確認
- 株式譲渡契約の締結
- 株式の引渡し
- 株主名簿の名義書換
- 登記手続き・税務処理
1. 意向の確認
株式譲渡の第一段階として、譲渡人(売り手)と譲受人(買い手)の双方の意向を確認します。この段階では、以下の内容について大まかに合意します。
- 譲渡対象株式の内容:株式の種類、株数、対象会社
- 譲渡の目的:事業承継、M&A、経営権の移転など
- 譲渡価額:株式の評価額や売買の条件
意向が合致しない限り、株式譲渡は進められません。特にM&Aのような大規模な取引では、この段階で譲受人の経営意図や今後の方針などをすり合わせることが重要です。
2. 契約書の草案作成
意向が確認された後、株式譲渡契約書の草案を作成します。草案には、以下の基本的な項目を盛り込みます。
- 譲渡対象株式の特定(種類、株数、対象会社)
- 譲渡価額と支払い方法
- 表明保証条項
- 契約解除事由と損害賠償責任
- 株主名簿の名義書換に関する事項
草案作成の段階では、譲渡人と譲受人が認識の違いを最小限に抑えられるよう、双方の意見を反映させることが重要です。また、譲渡制限株式の場合は、対象会社の承認手続きについても条項に記載します。
3. デューデリジェンス(調査)
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、株式譲渡に先立って、譲受人が譲渡対象会社について行う詳細な調査のことです。譲受人は、以下の事項について確認します。
- 財務状況の確認:対象会社の貸借対照表、損益計算書、キャッシュフローの分析
- 法務確認:契約書や登記事項、未解決の訴訟や法的リスクの有無
- 労務管理:従業員の雇用条件や未払い残業代の有無
- その他のリスク:隠れた債務、不正行為、取引先とのトラブル
デューデリジェンスは株式譲渡後に予期しないリスクを抱えないための重要なプロセスです。特にM&Aの場合、専門家(弁護士、公認会計士)による詳細な調査が不可欠です。
4. 契約内容の最終確認
デューデリジェンスが完了し、譲受人が譲渡対象会社に問題がないと判断すれば、契約内容の最終確認を行います。草案に基づき、双方が以下の点について合意します。
- 譲渡条件(株式の特定、譲渡価額、支払い期日)
- 表明保証の範囲
- 契約解除事由と違反時の対応
- 競業避止義務や損害賠償責任
双方が合意に至ったら、契約書の最終版を作成し、署名・押印の準備を進めます。
5. 株式譲渡契約の締結
契約内容が最終的に合意されたら、譲渡人と譲受人が株式譲渡契約書に署名・押印し、正式に契約を締結します。この際、以下の点に注意しましょう。
- 印鑑:実印を押印することで契約の信頼性を高めます。
- 印鑑証明書:実印の証明として印鑑証明書を添付します。
契約締結によって株式譲渡の法的効力が発生しますが、次の手続き(株式の引渡しや名義書換)が完了しないと譲受人は正式な株主とはなりません。
6. 株式の引渡し
株式譲渡契約の締結後、譲渡人から譲受人に株式を引き渡します。株券が発行されている場合は、株券の交付が必要です。株券が発行されていない場合は、契約書や名義書換の請求をもって株式の引渡しとします。
7. 株主名簿の名義書換
株式の引渡しが完了したら、譲受人は対象会社に対して「株主名簿の名義書換」を請求します。名義書換が行われることで、譲受人は正式に株主として認められ、株主権を行使できるようになります。
譲渡制限株式の場合、対象会社の承認を得ることが名義書換の前提条件となりますので、事前に承認手続きを完了させておくことが重要です。
8. 登記手続き・税務処理
株式譲渡に伴い、必要に応じて商業登記の変更手続きや税務処理を行います。
- 登記手続き:役員変更や大株主の変更がある場合、登記変更が必要となります。
- 税務処理:譲渡人には株式譲渡益が発生する場合があり、譲渡益に対する税金(所得税、法人税)の申告が求められます。
税務申告が遅れるとペナルティが発生することもあるため、税理士などの専門家と連携し、適切に処理を進めましょう。
株式譲渡契約の手続きは複数のステップを経て進められ、手続きの漏れや不備があると法的な効力が失われるリスクがあります。特に名義書換や登記手続き、税務処理は慎重に対応し、必要に応じて専門家のサポートを受けることが望ましいです。
まとめ: 株式譲渡契約書を正しく作成し、確実に手続きを進めよう
株式譲渡は、会社の経営権や支配権を移転する重要な取引です。そのため、株式譲渡契約書を作成することで、取引内容を明確にし、双方の権利・義務をしっかりと定めておくことが欠かせません。
契約書には、譲渡する株式の特定や譲渡代金、名義書換手続き、表明保証、契約解除条項などを正確に記載することが求められます。また、印紙税の取り扱いや契約書の保管期間、押印の手続きにも注意が必要です。契約締結後も、株式の引渡しや株主名簿の名義書換、税務申告などの手続きを適切に進めることで、株式譲渡が正式に完了します。
特に非上場会社の場合は、譲渡制限や会社の承認手続きが絡むケースが多いため、手続きの漏れがないよう慎重に進めることが重要です。複雑な手続きが不安な場合は、弁護士や税理士といった専門家のサポートを受けると安心でしょう。
株式譲渡契約書は、事業承継やM&Aなど企業の将来に大きく関わる取引の基盤です。ひな形を参考にしながら、個別の状況に合わせて適切な契約書を作成し、確実に手続きを進めることで、スムーズな株式譲渡を実現しましょう。