事業承継と事業継承は違う!使い分け・成功のポイントを解説!

近年、経営者の高齢化や後継者不足といった問題から、事業承継が注目されるようになっています。しかし、「事業承継」と似た言葉に「事業継承」があり、これらの違いに戸惑う方も少なくありません。実は、事業承継と事業継承には明確な意味の違いがあり、使い分けが求められる場面も多いのです。

本記事では、事業承継と事業継承の違いをわかりやすく解説し、なぜ「事業承継」が正しいのかについて深掘りしていきます。また、事業承継の重要性や現状、成功させるためのポイントについても詳しく紹介します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

事業承継と事業継承の違いとは

「事業承継」と「事業継承」は、言葉として非常に似ているため、混同されることが少なくありません。しかし、両者には明確な意味の違いがあります。事業を次世代へ引き継ぐプロセスを正確に理解するためにも、それぞれの言葉の持つ意味や使われ方についてしっかりと区別する必要があります。

企業経営の現場や法制度の中では「事業承継」という言葉が一般的に用いられますが、なぜこの表現が適切なのでしょうか。その背景や理由について詳しく見ていきます。

「承継」と「継承」の言葉の意味

「承継」と「継承」はどちらも「受け継ぐ」という意味を持つ言葉ですが、具体的な使い方や対象に違いがあります。

「承継」とは何を受け継ぐのか?

「承継」は、精神的・抽象的なものや、法律的に受け継ぐべき権利・義務も含めて引き継ぐ場合に使われます。たとえば、企業経営における事業承継では、経営理念、技術、ノウハウ、人脈、信頼関係といった「無形の資産」も対象になります。企業を存続・発展させるためには、単に財産や資産を引き継ぐだけでなく、企業文化や経営者の思いを後継者に伝えることが不可欠です。

「継承」とはどのような場合に使われるのか?

一方で「継承」は、具体的な権利や財産、地位など、目に見えるものや経済的価値のあるものを受け継ぐ場合に使われます。歴史的な文脈では「王位継承」や「伝統の継承」といった表現で使われることが多く、資格や地位の引き継ぎを意味することが一般的です。

両者のニュアンスの違いを比較表で解説

項目承継継承
意味精神・理念・技術など抽象的なものを引き継ぐ地位・資格・財産など具体的なものを引き継ぐ
対象経営理念、ノウハウ、権利、義務財産、権利、伝統、地位
使われ方事業承継、相続の承継王位継承、伝統継承
ニュアンス法律的・抽象的経済的・具体的

このように、企業経営や事業の引き継ぎにおいては、経営者の精神や企業理念、従業員や取引先との信頼関係など、目に見えない要素も引き継ぐ必要があるため、「承継」という言葉が適切だとされています。

なぜ「事業承継」が正しいのか

「事業承継」が正しい表現である理由は、事業の引き継ぎが有形・無形のあらゆる要素を含むからです。会社や事業の存続には、目に見える資産(財産、株式、不動産)だけでなく、目に見えない資産(経営理念、技術、ノウハウ、人脈など)が欠かせません。それら全てを包括的に引き継ぐことを「承継」と表現するのです。

抽象的・無形のものも引き継ぐ「承継」の意味

事業承継において最も重要なのは、企業の「存在価値」を次世代へ引き継ぐことです。これには、以下のような要素が含まれます。

  • 経営理念:創業者や経営者の思い、企業が大切にしてきた価値観
  • 技術やノウハウ:製品製造やサービス提供における独自の技術、知見
  • 顧客との信頼関係:長年築き上げた顧客との関係性や取引の信用
  • 従業員との関係性:組織としての文化や働く環境

これらの無形資産は、書類上での引き継ぎでは不十分であり、経営者の言葉や行動を通じて次世代の後継者へ伝える必要があります。

法律用語として「承継」が使われる理由

「承継」という言葉が事業承継に用いられる背景には、法的な意味合いも関係しています。法律上、「承継」という言葉は、権利や義務を引き継ぐことを指し、財産権や法律上の地位の移転において使われる表現です。

例えば、「中小企業経営承継円滑化法」や「事業承継税制」など、法律や制度でも「承継」が用いられています。これらの法律は、経営者から後継者へ経営権や資産を引き継ぐ際の支援や税制優遇措置を目的としており、事業承継のプロセスを法的に支える仕組みとして機能しています。

実際に法律や税制で使用される表現の事例

「事業承継」が適切な表現として定着している理由の一つは、実際に法律や税制において正式に使用されているからです。以下に代表的な例を挙げます。

  • 中小企業経営承継円滑化法
     事業承継をスムーズに進めるために制定された法律であり、相続や贈与による株式の移転を支援する制度が含まれています。
  • 事業承継税制
     後継者が事業を引き継ぐ際に発生する相続税や贈与税の納税を猶予・免除する特例制度です。
  • 相続の承継
     法律用語として「承継」は、相続による権利・義務の引き継ぎに用いられます。例えば、債務や契約の引き継ぎを「債務承継」と呼びます。

これらの事例からもわかるように、「承継」という表現は、企業の経営や事業の引き継ぎを法的に支える際にも正式に使用されている言葉です。

このように、「事業承継」は単なる財産や地位の引き継ぎではなく、経営者の思いや無形資産、企業の存続と発展を支える要素を次世代へ包括的に引き継ぐプロセスを表す適切な表現なのです。

事業承継の重要性と現状

事業承継は企業の存続と発展にとって不可欠なプロセスですが、近年では特にその重要性が増しています。背景には経営者の高齢化や後継者不足といった深刻な課題が存在し、事業承継の遅れが企業の存続危機や廃業へとつながるケースも少なくありません。ここでは、事業承継が必要とされる理由と、企業を取り巻く現状について詳しく解説します。

事業承継が必要とされる理由

事業承継が必要とされることにはいくつかの理由があります。以下では、その理由を解説していきましょう。

経営者の高齢化と後継者問題

日本の中小企業は、現在、経営者の高齢化という大きな問題に直面しています。中小企業庁の調査によれば、経営者の年齢のピークは過去20年で大幅に上昇しており、2000年~2005年の時点では50代が中心だったものの、2020年には75歳以上が経営者年齢のピークを占めるようになりました。

これはつまり、多くの企業で経営者が高齢化しているにも関わらず、事業承継が進んでいないことを示しています。経営者が後継者を見つけられない、あるいは準備が遅れているといった問題が、企業の存続に大きな影響を及ぼしています。

さらに、経営者が急病や不慮の事故で経営の第一線から退く事態が発生した場合、事前の準備がなければ事業承継がスムーズに行われず、企業が経営危機に陥る可能性も高まります。このため、経営者の高齢化が進む今、事業承継の必要性はこれまで以上に高まっているのです。

会社の存続と発展に不可欠なプロセス

事業承継は単なる経営権の引き継ぎではなく、会社の存続と発展を支える極めて重要なプロセスです。事業承継を行わずに経営者が引退してしまえば、企業の技術やノウハウ、人材、顧客との信頼関係といった無形の資産も途絶えてしまう危険があります。

また、企業が持つ技術やサービスは地域経済や雇用にも大きく貢献しているため、事業承継が実現しないことは社会全体にも悪影響を及ぼします。中小企業は特に、地域経済の基盤を支える存在であり、事業承継によってその価値が次世代へと引き継がれていくことが求められています。

経営者が事業承継を進めることで、以下のようなメリットが期待されます。

  • 企業の存続と発展:後継者が経営の舵を取り、企業をさらに成長させる。
  • 雇用の維持:従業員の雇用が守られ、生活基盤が確保される。
  • 地域経済の安定:地域社会における取引関係や経済活動が継続される。

事業承継は企業の未来を守るために欠かせない要素なのです。

事業承継を取り巻く現状

次に、事業承継を取り巻く近年の状況について解説していきましょう。

経営者の高齢化データ

中小企業庁が発表した「中小企業白書」によれば、経営者の平均年齢は年々上昇しており、2020年には60代後半から70代に達しています。さらに、帝国データバンクの調査によると、経営者年齢が「75歳以上」の企業が全体の約4割を占めていることがわかりました。

これは過去20年間で経営者の高齢化が急激に進行したことを示しており、事業承継がいかに喫緊の課題であるかが理解できます。経営者が事業承継の準備を怠ると、経営者本人の健康問題や予期せぬ事態によって、会社が廃業へと追い込まれるリスクが高まります。

後継者不在率の実態

後継者不足も、事業承継が進まない大きな要因です。帝国データバンクの「後継者不在率動向調査(2022年)」によると、後継者が決まっていない企業は 57.2% にも上ります。これは10年前と比べると改善傾向にあるものの、依然として過半数の企業が後継者不在の状態にあります。

特に中小企業においては、経営者の子供が後継者候補となるケースが減少しており、「後継者候補がいない」「子供が事業を継ぎたがらない」といった問題が顕在化しています。

後継者が見つからないまま経営者が引退してしまうと、企業は廃業を余儀なくされる可能性が高まります。廃業は企業単体の問題にとどまらず、従業員の雇用喪失や地域経済の衰退といった影響を引き起こします。

親族内事業承継の減少と「脱ファミリー化」の進行

かつては親族内事業承継が一般的でしたが、近年ではその割合が減少し、「脱ファミリー化」が進んでいます。中小企業庁や帝国データバンクの調査結果によると、親族内承継の割合は2000年代初頭には 50%以上 でしたが、2022年には 34.0% まで低下しています。

背景には以下のような要因が考えられます。

  • 少子化の影響:子供の数が減少し、後継者候補がいないケースが増加。
  • 価値観の多様化:子供が家業を継がず、自分の道を選ぶケースが増えた。
  • 経営者の意識変化:「無理に子供に継がせたくない」という考えを持つ経営者が増えた。

親族内事業承継の減少に代わり、現在では 社内承継(従業員や役員への引き継ぎ)や M&A(第三者への引き継ぎ)といった形が増加傾向にあります。特にM&Aは後継者不在の問題を解決する手段として注目されており、近年ではM&Aによる事業承継件数が急増しています。

「脱ファミリー化」によって、企業が存続するための事業承継の手段が多様化している一方で、経営者がその手段を正しく理解し、計画的に進めなければ成功は難しいのが現実です。

このように、経営者の高齢化や後継者不在といった課題が深刻化している中、事業承継は企業の存続を守るために極めて重要な取り組みとなっています。親族内承継が減少する現代においては、M&Aや社内承継などの手段も視野に入れながら、経営者が早い段階で準備を進めることが求められています。

事業承継の3つの構成要素

事業承継には、経営権や資産、企業の理念や技術など、さまざまな要素を引き継ぐ必要があります。これらは企業の存続と発展に不可欠な要素であり、いずれもバランスよく後継者に継承することが求められます。以下では、事業承継を構成する3つの要素について詳しく解説します。

経営権(人)の承継

経営権の承継は、現経営者が持つ会社の意思決定権やリーダーシップを後継者に引き継ぐプロセスです。後継者選びから育成に至るまで、計画的に進めることが事業承継成功の鍵となります。

経営者教育と後継者育成の重要性

事業承継において、後継者が経営をスムーズに担えるように育成することは欠かせません。後継者は、現場での経験や経営判断力の養成を通じて、経営者としての自覚と責任感を育んでいきます。特に次の3つのステップが重要です。

  • 基礎知識の習得:財務・人材管理、マーケティングの基本を学ぶ。
  • 現場経験の積み重ね:従業員や取引先との関係構築を実践する。
  • 意思決定能力の向上:経営の現場で責任ある立場に立つことで養成される。

これらの育成には時間がかかります。中小企業では特に、5~10年を目安に育成を進めるのが理想とされており、現経営者が主体となって後継者を支える姿勢が重要です。

後継者選定のポイント

適切な後継者を選定することは、事業承継の第一歩です。後継者選定の際には、以下のポイントが考慮されます。

  • 経営者としての資質:リーダーシップ、判断力、実行力を兼ね備えているか。
  • 企業理念への理解:経営方針や企業文化を尊重し、継承する意思があるか。
  • 実務経験:現場経験や事業運営への理解が十分であるか。

親族内、社内、外部候補者といった選択肢の中から最適な後継者を見つけ、適切に育成することで、経営の安定性を高めることができます。

資産の承継

資産の承継では、会社が持つ具体的な資産、株式、資金、事業用資産などの引き継ぎが中心となります。これらを適切に後継者に移転することで、経営の継続性が保たれます。また、税負担を考慮した計画的な対策が欠かせません。

株式・事業用資産・資金の引き継ぎ

資産の承継では、主に以下の要素が対象となります。

  • 株式の引き継ぎ:会社の支配権を後継者に譲り渡すために不可欠です。
  • 事業用資産:設備や不動産、機械類を引き継ぎ、事業の運営に支障がないようにします。
  • 資金の承継:運転資金や借入金も含まれ、後継者が経営を安定して行うための重要な要素です。

資産の承継には計画的な準備が必要であり、特に株式の分散を防ぐために、法的な手続きや事前の調整が欠かせません。

税金対策の必要性(相続税・贈与税)

資産を引き継ぐ際に問題となるのが税金です。特に中小企業では、株式評価額が高額になる場合が多く、相続税や贈与税が事業承継の大きなハードルとなります。

税負担を軽減するためには、以下の対策が有効です。

  • 事業承継税制の活用:要件を満たせば、税金の納付猶予や免除が受けられます。
  • 早期の計画実施:生前贈与や分割相続を活用することで税負担を分散できます。

専門家と連携し、現状の資産状況を把握したうえで税務対策を進めることが、後継者の負担軽減に繋がります。

無形資産の承継

無形資産の承継は、事業の競争力や信頼性を支える重要なプロセスです。経営理念や技術、顧客との信頼関係といった目に見えない要素を確実に引き継ぐことで、企業の価値を維持し、さらなる成長を目指します。

経営理念や技術、ノウハウの引き継ぎ

経営理念は、企業の方向性や価値観を示し、従業員や顧客にとっての信頼の基盤となります。これを後継者が理解し継承することで、事業の一貫性が保たれます。また、技術やノウハウの引き継ぎも同様に重要です。

  • 経営理念:現経営者が言葉や行動を通して後継者に伝える。
  • 技術・ノウハウ:業務マニュアルの作成やシステム化により、属人化を防ぐ。

経営理念や技術は企業の強みであり、これを後継者にしっかりと引き継ぐことで、事業の継続と発展が可能になります。

顧客との信頼関係や人脈を維持する重要性

顧客や取引先との信頼関係、人脈は、企業経営において無形ながら極めて重要な資産です。これらを維持するために、現経営者が後継者と共に取引先を訪問し、関係構築を支援する取り組みが必要です。

具体的には以下の対策が効果的です。

  • 顧客への事業承継の周知:現経営者が後継者を紹介し、信頼関係をスムーズに引き継ぐ。
  • 定期的なフォロー:後継者が主体となり顧客との関係強化を図る。

無形資産の継承が不十分だと、顧客離れや事業低迷のリスクが高まります。そのため、現経営者のサポートを受けながら、後継者が顧客や取引先との信頼関係を築くことが大切です。

事業承継の3つの方法

事業承継を進める際には「誰に引き継ぐのか」が最大の課題となります。事業承継の方法には「親族内事業承継」「社内承継(親族外承継)」「M&Aによる事業承継」の3つの選択肢があり、それぞれの特徴を理解して最適な方法を選ぶことが重要です。以下では、それぞれの方法について詳しく解説します。

親族内事業承継

親族内事業承継は、経営者の子どもや配偶者、兄弟姉妹など、家族や親族に事業を引き継ぐ方法です。従来から最も一般的な事業承継の方法として行われてきましたが、少子化や価値観の多様化によって課題も増えています。ここでは親族内承継のメリットやデメリット、成功のためのポイントについて見ていきましょう。

メリットとデメリット

親族内事業承継には、次のような利点と課題があります。

メリット

  • 関係者の理解が得やすい:親族が後継者になることで、従業員や取引先の信頼を得やすい。
  • 経営理念の継続:家族内で事業を引き継ぐことで、経営理念や価値観を忠実に継続できる。
  • 計画的な準備が可能:早期に後継者を決定することで、長期間にわたって育成する余裕がある。

デメリット

  • 後継者不足:少子化や子どもの意欲の低下により、後継者がいないケースが増えている。
  • 経営資質の問題:親族だからといって経営能力があるとは限らない。
  • 相続トラブルの可能性:株式や資産の分配が原因で親族間のトラブルに発展する場合がある。

後継者選定と教育のポイント

親族内事業承継を成功させるためには、後継者の選定と育成が欠かせません。

  • 後継者を早期に選定する:経営者教育には時間がかかるため、できるだけ早い段階で後継者候補を確定させる。
  • 実務経験を積ませる:後継者には現場を経験させ、実際の経営を学ばせることが重要。
  • 第三者の教育サポートを活用:外部の経営者教育プログラムや専門家のサポートを受けることで、経営者としてのスキルを高める。

社内承継(親族外承継)

社内承継は、会社の従業員や役員といった親族以外の人材に事業を引き継ぐ方法です。親族内に後継者がいない場合や、優秀な社内人材を後継者として育成するケースで選ばれます。ここでは、社内承継のメリットやデメリット、株式譲渡における課題と対策について解説します。

社内人材を後継者とするメリット・デメリット

社内承継では、会社の役員や従業員から後継者を選定することになりますが、この方法にもさまざまな利点と課題があります。社内人材だからこそ得られるメリットと、乗り越えるべきデメリットを理解しておくことが重要です。

メリット

  • 事業運営の理解が深い:社内人材は業務や会社の状況を熟知しているため、引き継ぎがスムーズ。
  • 後継者の資質を見極めやすい:日々の業務や実績から後継者候補の資質や適性を判断できる。
  • 育成コストや期間の短縮:既に会社に馴染んでいるため、教育にかかる時間やコストを削減できる。

デメリット

  • 株式譲渡に伴う資金問題:親族ではないため、後継者は株式を買い取る必要があり、資金調達が課題となる。
  • 後継者候補の不在:社内に経営能力や意欲を持った人材がいない場合もある。
  • 個人保証の引き継ぎ:経営者が個人保証をしている場合、後継者がその保証を引き継ぐことに抵抗を感じることがある。

株式譲渡の問題点と対策

社内承継において最も大きな課題は、後継者が株式を買い取るための資金調達です。以下のような対策が有効です。

  • 事業承継税制の活用:税負担を軽減し、後継者がスムーズに株式を引き継げるようにする。
  • 第三者による支援:金融機関や専門家のサポートを受け、資金調達の問題を解決する。
  • 従業員持株会の設立:従業員全体で株式を保有することで、後継者の負担を軽減する。

M&Aによる事業承継

M&Aは、後継者不在の企業が第三者に事業を引き継ぐ方法です。近年、後継者問題の解決手段として注目されており、従業員の雇用維持や事業の発展を期待する企業にとって有効な選択肢となっています。

後継者不在の解決策としてのM&A

M&Aは、後継者候補が社内や親族にいない場合でも事業を継続させることができる手段です。事業を外部の企業に譲渡することで、経営者が抱える後継者問題を解決し、従業員の雇用や事業の存続を図ることが可能です。

M&Aのメリットとデメリット

M&Aによる事業承継は、後継者不在に悩む企業にとって有効な選択肢です。しかし、すべての企業にとって万能な手段ではなく、M&Aにはメリットだけでなくデメリットも存在します。ここでは、M&Aの利点と注意すべきポイントを解説します。

メリット

  • 後継者不在でも承継可能:親族や社内に後継者がいなくても事業承継が実現できる。
  • 事業の発展が期待できる:買い手企業の資金力やノウハウを活用することで、事業の成長が見込める。
  • 従業員の雇用維持:事業の譲渡先が存続することで、従業員の雇用を守ることができる。

デメリット

  • 希望通りの買い手が見つからない可能性:M&Aには一定の時間と労力が必要。
  • 専門的知識が必要:法務や税務の手続きが複雑であり、専門家の支援が不可欠。
  • 関係者への説明が必要:従業員や取引先に対して丁寧な説明を行わなければ、不安を招く可能性がある。

M&A成功のために専門家の活用が重要

M&Aを成功させるためには、専門家(M&A仲介会社や税理士、弁護士)のサポートが不可欠です。専門家は以下のサポートを提供します。

  • 企業価値の評価:適切な価格での売却を実現するための評価を行う。
  • 買い手企業のマッチング:企業の強みや希望条件に合う買い手を見つける。
  • 法務・税務サポート:契約手続きや税金対策などの専門的な手続きを支援する。

M&Aを活用することで、事業の存続と成長を実現し、次世代にバトンを渡すことが可能となります。

事業承継の3つの方法

事業承継を進める際には「誰に引き継ぐのか」が重要な課題となります。後継者の選定においては、「親族内事業承継」「社内承継(親族外承継)」「M&Aによる事業承継」という3つの方法があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。ここでは各方法について詳しく解説し、事業承継を成功に導くポイントを考えます。

親族内事業承継

親族内事業承継は、経営者の家族や親族に事業を引き継ぐ方法です。従来の日本企業では最も一般的な承継方法でしたが、少子化や後継者不足などの問題が浮き彫りとなり、選択が難しくなっている企業も増えています。

メリットとデメリット

親族内事業承継には以下のような利点と課題が存在します。

メリット

  • 関係者の理解が得やすい:親族が後継者となることで従業員や取引先の信頼を維持しやすい。
  • 経営理念や企業文化の継続:家族だからこそ経営理念や企業文化を深く理解し、忠実に引き継げる。
  • 準備期間を確保しやすい:後継者を早期に選定できるため、長期間の育成や引き継ぎが可能になる。

デメリット

  • 後継者が不在の場合がある:少子化や子どもの価値観の変化により、後継者がいないケースも増えている。
  • 経営者の資質が不足する場合がある:親族であっても経営能力が保証されるわけではない。
  • 相続トラブルの発生:株式や資産の分配で親族間の争いに発展するリスクがある。

後継者選定と教育のポイント

親族内事業承継を成功させるには、後継者選定と育成が鍵となります。

  • 早期の後継者選定:後継者教育には長い時間がかかるため、できるだけ早い段階で候補を選定する。
  • 実践的な経営経験を積ませる:後継者には実務経験を積ませ、現場の理解を深めるとともに経営能力を高める。
  • 第三者の力を借りる:外部の研修や経営塾、専門家のサポートを活用することで、後継者の能力向上を図る。

社内承継(親族外承継)

社内承継は、経営者が親族以外の役員や従業員に事業を引き継ぐ方法です。近年、親族内承継が減少する一方で、社内の優秀な人材を後継者にするケースが増加しています。ここでは、社内承継のメリット・デメリットや成功のための課題について解説します。

社内人材を後継者とするメリット・デメリット

社内承継では、会社の役員や従業員から後継者を選定することになりますが、この方法にもさまざまな利点と課題があります。社内人材だからこそ得られるメリットと、乗り越えるべきデメリットを理解しておくことが重要です。

メリット

  • 事業運営の理解が深い:社内人材は会社の業務や状況を熟知しているため、引き継ぎがスムーズ。
  • 後継者の資質を見極めやすい:日々の業務を通じて、後継者候補の経営能力や適性を確認できる。
  • 教育コストを抑えられる:社内の業務経験があるため、後継者教育に必要な期間やコストが短縮できる。

デメリット

  • 後継者候補がいない場合もある:社内に適任者が見つからないケースもあり、後継者不在のリスクが残る。
  • 株式譲渡に資金が必要:親族ではないため、後継者が株式を取得する資金を調達する必要がある。
  • 個人保証の引き継ぎ問題:経営者が行っている借入金の個人保証を後継者が引き継ぐことに抵抗がある場合がある。

株式譲渡の問題点と対策

社内承継における最大の課題は、株式の譲渡にかかる資金の確保です。これを解決するためには、次の対策が考えられます。

  • 事業承継税制の活用:相続税や贈与税の負担を軽減する制度を活用し、円滑な株式移転を実現する。
  • 金融機関の融資支援:後継者が株式を取得するための資金調達について、金融機関の協力を得る。
  • 分割譲渡の検討:株式を一度に譲渡するのではなく、複数回に分けて譲渡することで後継者の負担を軽減する。

M&Aによる事業承継

M&Aを活用した事業承継は、後継者が見つからない企業にとって有力な選択肢です。外部の企業や第三者に事業を引き継ぐことで、会社の存続と発展を実現できるケースが増えています。

後継者不在の解決策としてのM&A

M&Aは、親族や社内に適切な後継者がいない場合でも事業承継を可能にします。経営者が引退した後も、事業が継続されるため、従業員の雇用を守ると同時に取引先にも安心感を与えます。

M&Aのメリットとデメリット

M&Aによる事業承継は、後継者不在に悩む企業にとって有効な選択肢です。しかし、すべての企業にとって万能な手段ではなく、M&Aにはメリットだけでなくデメリットも存在します。ここでは、M&Aの利点と注意すべきポイントを解説します。

メリット

  • 後継者問題の解決:第三者に事業を譲ることで、後継者不在の課題を解決できる。
  • 事業の成長が期待できる:買い手企業の資金力やノウハウを活用し、事業のさらなる発展が期待できる。
  • 経営者のリタイア資金を確保:売却益を得ることで経営者の老後資金や新しい挑戦のための資金が確保できる。

デメリット

  • 条件に合う買い手が見つからない可能性:M&Aは時間がかかり、希望する条件での譲渡が難しいこともある。
  • 専門知識が必要:契約書の作成や税務手続きなど、専門的な知識が求められる。
  • 従業員や取引先への配慮が必要:M&Aの実施にあたっては、従業員や取引先への丁寧な説明が欠かせない。

M&A成功のために専門家の活用が重要

M&Aは複雑な手続きが多く、成功させるには専門家のサポートが不可欠です。M&A仲介会社や税理士、弁護士などの専門家は次のような支援を行います。

  • 企業価値の算定:適正な価格での譲渡をサポート。
  • 相手先のマッチング:買い手企業の選定や交渉を代行し、スムーズにM&Aを進める。
  • 法務・税務の手続き:契約書作成や税務対策のサポートを行い、安心して手続きを進められる。

M&Aを活用すれば、後継者不在という課題を解決し、会社の未来を第三者に託すことが可能になります。

事業承継を成功させるポイント

事業承継は、経営者が築いてきた会社や事業を次世代に引き継ぎ、存続・発展させる重要なプロセスです。しかし、事業承継が成功するかどうかは、経営者の計画性や適切な準備にかかっています。本章では、事業承継を成功させるために欠かせない4つのポイントについて解説します。

早い段階から準備を始める

事業承継を成功させるためには、早い段階から準備を始めることが何よりも重要です。事業承継には、後継者の選定・育成、資産の引き継ぎ、税金対策といった多岐にわたる課題があり、それぞれに多くの時間がかかります。

後継者教育にかかる時間

後継者が経営者としての資質やスキルを身につけるには、5年から10年の育成期間が必要とされています。後継者が経営理念やノウハウをしっかりと理解し、実際の経営に携わることで、スムーズな事業承継が実現します。例えば、現経営者が後継者に役員や幹部職を経験させることで、現場の業務や経営判断力を養うことができます。

税金対策には長期的な視点が必要

株式や事業用資産を引き継ぐ際には、相続税や贈与税が発生します。これらの税負担を軽減するには、事前の対策が不可欠です。早めに税理士など専門家に相談し、事業承継税制や節税対策を検討することで、承継後の経営に大きな負担を残さないようにできます。

適切な後継者を選ぶ

後継者の選定は、事業承継を成功させるための最重要課題の一つです。後継者には、親族、社内人材、第三者(M&A) という3つの選択肢があり、それぞれに特徴とポイントがあります。

親族への事業承継

親族内承継は、経営者の子供や親族が事業を引き継ぐ方法で、従業員や取引先からも心情的に受け入れられやすいというメリットがあります。しかし、親族内に経営者としての資質を持つ人材がいない場合は、承継がうまくいかない可能性もあります。

社内人材への事業承継

社内承継(親族外承継)は、役員や従業員の中から後継者を選ぶ方法です。事業内容や企業文化を理解している社内人材なら、スムーズに事業を引き継げる可能性が高まります。ただし、株式の譲渡資金が不足するケースも多いため、対策が必要です。

M&Aによる第三者への事業承継

親族や社内に後継者がいない場合、M&Aによる事業承継が選択肢となります。第三者への事業譲渡は、従業員の雇用を守りながら会社を存続させる手段です。買い手企業の資金力やノウハウを活用することで、事業のさらなる発展も期待できます。

税金や資金対策をしっかり行う

事業承継には、多額の税金や資金が必要となることが多いため、税金や資金対策をしっかりと行うことが欠かせません。

事業承継税制の活用

事業承継時にかかる贈与税や相続税の負担を軽減するために、「事業承継税制」が設けられています。この制度を活用することで、一定の条件を満たせば、相続税や贈与税の納税が猶予・免除されるため、税負担を大幅に軽減できます。ただし、制度を利用するには専門的な手続きが必要になるため、税理士などの専門家に相談することが推奨されます。

補助金の活用

国や自治体では、事業承継を支援する補助金制度が設けられています。例えば「事業承継・引継ぎ補助金」は、M&Aを活用した事業承継や、事業承継後の設備投資などに対する補助金です。これらの補助金を活用することで、承継に伴う資金負担を抑え、後継者の負担を軽減できます。

資金の確保

事業承継では、株式の買い取りや事業用資産の引き継ぎに多額の資金が必要となります。親族や社内人材への承継では、後継者が資金を用意できないケースも多いため、融資制度や補助金の活用を検討することが大切です。

専門家に相談する

事業承継は、経営権や資産、経営理念など多岐にわたる要素が絡み合う複雑なプロセスです。そのため、専門的な知識や経験がなければ、適切に進めることが難しい場合があります。そこで、事業承継のサポートを行う専門家に相談することが、成功の鍵となります。

専門家の役割

専門家は、事業承継の計画立案から後継者の選定・育成、税金対策、M&Aの実行支援まで、幅広いサポートを提供します。具体的には、以下のような専門家が事業承継を支援します。

  • 税理士:相続税・贈与税対策、事業承継税制の活用
  • 弁護士:株式譲渡契約や法的手続きのサポート
  • 中小企業診断士:事業承継計画の立案と経営支援
  • M&Aアドバイザー:第三者への事業譲渡支援

専門家を活用するメリット

専門家に依頼することで、税金や法的手続きに関するリスクを最小限に抑えることができます。また、M&Aを活用する場合には、専門家が買い手企業の選定から交渉までをサポートしてくれるため、スムーズに事業承継を進めることが可能です。

まとめ: 事業承継を確実に進め、会社の未来を守ろう

事業承継は、会社の経営権や資産だけでなく、理念や技術、人脈といった無形資産も含めて次世代へ引き継ぐ重要なプロセスです。事業継承とは異なり、経営者の想いや経営の土台を未来につなげるため、計画的な準備が欠かせません。

事業承継を成功させるためには、早い段階からの準備、後継者の適切な選定、税金や資金対策の実施がポイントです。さらに、専門家のサポートを受けることで、複雑な手続きをスムーズに進めることができます。

事業承継は経営者が築いた会社の未来を守るための大切な取り組みです。しっかりと計画し、次世代へバトンをつなげましょう。

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