M&A業界は、「高年収」と「やりがいのある仕事」として注目される一方で、長時間労働や激しいプレッシャーから「残業だらけの超ブラック」といったイメージが付きまといます。
実際のところ、M&A業界の働き方は激務の一言で片付けられるほど単純ではありません。
本記事では、業界の働き方の実態を解説し、繁忙期と閑散期の労働時間の違いや業務の流れ、激務でも人気を集める理由、さらには働き方改革による環境の変化などについて掘り下げます。
- この記事を監修した人：福住優（M&A情報館 代表取締役）
M&A業界は本当に残業だらけの超ブラックなのか？
M&A業界は高収入を狙える業界である一方、「激務」「残業だらけ」「ブラック企業スレスレ」といったイメージがつきまといます。しかし、これは実際のところどうなのでしょうか？本記事では、M&A業界の実態や働き方について深掘りし、真の姿を明らかにします。
M&A業界の一般的なイメージとその背景
M&A業界は、多くの人々にとって「高収入だが激務」というイメージが根強く存在します。
この背景には、M&A業務が複雑で長期間にわたるプロジェクトが多いため、常に時間に追われる仕事であるという現実があります。
例えば、案件が立て込むときには深夜まで業務が続くこともあり、繁忙期には月の残業時間が200時間を超えることもあると言われています。
特にクライアントが経営陣や重要な関係者である場合、業務はさらに緊張感を増し、対応スピードが求められます。
しかし、すべての企業やプロジェクトが同じわけではありません。
企業規模や働き方改革の影響で、リモートワークやフレックス制を導入している企業も増え、労働環境は徐々に改善されています。特に小規模な企業や新興企業では、比較的自由な働き方が許容されることもあるため、一概に「残業だらけのブラック」とは言えない側面もあります。
業界の特殊性がもたらす労働環境の課題
M&A業界は、その特性上、独自の労働環境に課題を抱えています。
まず、M&Aプロジェクトは多くのプロセスを含み、初回の案件ヒアリングからクロージングまで、平均して8か月以上かかる長期的な業務が一般的です。
その過程では、企業価値評価、デューデリジェンス、契約書作成、交渉など、各ステップにおいて高い専門知識と集中力が必要です。このため、時間管理が難しく、業務量が増加する傾向があります。
さらに、M&A業界は成果主義が浸透しており、個々の成果が年収や評価に直結します。そのため、多くのアドバイザーはインセンティブを得るために長時間働くことをいとわず、競争が激しい環境で高いパフォーマンスを求められます。
これにより、常に自分の知識を更新し、クライアントに適切なアドバイスを行うための自己研鑽も欠かせません。
また、M&Aは売り手企業や買い手企業にとって重大な意思決定を伴うため、経営陣とのやり取りや交渉の場面では迅速な対応が求められます。これが、夜間や週末の仕事に繋がり、労働時間が長引く一因となっています。
このように、M&A業界はその特殊性ゆえに労働環境に課題を抱えているものの、最近では働き方改革の波に乗って、業界内の一部企業が残業時間削減やフレキシブルな働き方の導入を進めています。
M&A業界が「激務」と言われる理由
M&A業界が「激務」と称される背景には、業界独特の働き方や仕事の性質が影響しています。
これから、案件数と労働時間の関係、成果主義が生むプレッシャー、業務内容の複雑さ、そして求められる専門知識の必要性について見ていきます。
案件数と労働時間の相関関係
M&A業界では、1人のアドバイザーが同時に複数の案件を担当することが一般的です。このため、案件数が増えると、自然と労働時間も長くなります。
特に、繁忙期には平均残業時間が80～90時間を超え、200時間を超えるケースもあると言われています。
プロジェクトの進捗に応じて労働時間が急増することもあり、案件の規模や内容に応じて時間を費やす必要があるため、長時間労働が避けられない状況が生まれます。
案件が複数進行している時は、各案件の進捗管理、クライアント対応、社内外での調整など多岐にわたる業務が重なるため、残業や休日出勤が必要になることも少なくありません。
このような点が、「激務」というイメージに結びついています。
成果主義が生むプレッシャーと労働量
M&A業界は成果主義が浸透している業界です。業績が評価や年収に直結するため、アドバイザーは常に高い成果を出し続けることが求められます。
多くの企業では、インセンティブ制度が導入されており、成績が優れた社員は高年収を得られる一方、成果を出せなければ年収が大幅に下がる可能性もあります。このような成果主義の環境は、仕事へのプレッシャーを増大させる要因です。
また、業績を上げるためには、クライアントとの信頼関係を築き、案件を成功に導く必要があります。結果として、アドバイザーたちはインセンティブを得るために長時間働くことを厭わず、労働量が増える傾向にあります。
成果主義が生むこのようなプレッシャーが、業界の「激務」として認識される要因となっています。
複雑な業務プロセスと多岐にわたる業務内容
M&Aのプロセスは複雑で、多岐にわたる業務が求められます。
案件開始から成約までには、企業価値評価、買い手・売り手企業の選定、契約書の作成、デューデリジェンス対応、交渉など、さまざまなステップが含まれます。これらは全て異なるスキルセットと高度な専門知識を必要とし、それぞれのプロセスが長時間労働の要因となります。
特にデューデリジェンスは1か月以上かかることも多く、この間は集中的な作業が求められます。案件が進行する中で、予期せぬ問題が発生することもあり、その都度迅速に対応しなければならないため、業務時間は延びがちです。こうした複雑で多面的な業務が、激務の一因となっています。
専門知識の必要性と日々の自己研鑽
M&A業界で成功するためには、高度な専門知識が欠かせません。
アドバイザーは、会計、税務、法務、金融など、多岐にわたる分野の知識を持つことが求められます。さらに、経済状況や業界動向についても常に最新の情報を把握しておく必要があります。
このような背景から、日々の自己研鑽は不可欠です。平日の業務時間だけでは知識をカバーしきれないため、アドバイザーたちは休日や業務後の時間を使って勉強や情報収集を行うことが一般的です。これにより、仕事時間だけでなく、プライベートの時間も圧迫されることが多く、業界の激務の印象を強めています。
このように、M&A業界は案件数の多さ、成果主義によるプレッシャー、複雑な業務プロセス、そして専門知識の必要性によって、「激務」という印象が定着しています。しかし、働き方改革の波により、一部の企業では労働環境の改善が進んでいることも事実です。
実態を数値で見る：M&A業界の残業事情
M&A業界が激務とされる背景には、残業時間の長さが挙げられますが、その具体的な実態を数値で確認することで、業界の働き方の真実に迫ります。ここでは、業界の残業時間の平均、繁忙期と閑散期の違い、そしてプロジェクト進捗に伴う労働時間の波について解説します。
業界の残業時間の平均とバリエーション
M&A業界の残業時間は企業や部署によって異なりますが、一般的に月の平均残業時間は80～90時間とされています。繁忙期にはこれがさらに増加し、200時間を超える場合も珍しくありません。
一方で、一部の企業や特定のプロジェクトでは、残業時間が10～20時間程度と比較的少ないケースも報告されています。このバリエーションは、企業の規模、業務内容、案件の難易度、そして業務プロセスの分業制の有無により大きく異なります。
大手企業では、チーム制や分業制を導入することで個々の担当者の業務負担を分散し、残業時間の軽減を図ることもありますが、一方で、中小規模の企業や急成長中の企業では、少人数のスタッフで多くの案件を同時に処理する必要があるため、残業時間が長くなりがちです。
繁忙期と閑散期の違い
M&A業界は、年間を通じて労働量に波がある業界です。繁忙期は通常、案件が集中する時期にあたります。
例えば、年度末や企業の決算期に合わせてM&A案件が増加し、残業時間は急増します。この時期には、1人が担当する案件数が増えるため、残業が連日深夜まで続くこともあります。結果として、1か月の残業時間が200時間を超えることもあります。
一方で、閑散期には残業時間が比較的少なくなり、定時で帰宅できることも多いです。この時期を活用して、アドバイザーたちは自己研鑽に励んだり、次のプロジェクトに備えて準備を整えたりすることが一般的です。
繁忙期と閑散期がはっきりしていることで、M&A業界における労働環境は「波がある」と表現されることが多いのです。
労働時間の波：プロジェクトの進捗による影響
M&A業務の労働時間は、プロジェクトの進捗状況によって大きく変動します。
案件の初期段階では、相手先候補の選定や企業価値評価の算出など、調査や準備に多くの時間を費やすことが必要です。これらの業務は、正確さと迅速な対応が求められるため、結果として労働時間が増加します。
さらに、デューデリジェンスや契約交渉のフェーズでは、売り手企業や買い手企業、弁護士や会計士などの関係者と連携を密に取りながら進める必要があり、ここでも労働時間は増える傾向にあります。
案件が進むにつれて予期せぬ問題が発生することもあり、それに対処するために深夜や週末に作業を続けることも少なくありません。
プロジェクトが終盤に差し掛かると、最終合意に向けた契約書の作成や細かな条件調整が必要になります。この段階では、クライアントのスケジュールに合わせて対応することもあり、労働時間が長くなることがあります。
一方で、プロジェクトが終わった後には比較的まとまった休暇を取得することもできるため、案件ごとの労働時間の波が激しいという特徴が見られます。
このように、M&A業界の残業事情は、案件の数や進行状況、関わる人材の数とスキルに左右されます。働く環境は厳しい一方で、その経験がもたらす高収入や成長機会が業界の魅力となっていることも事実です。
M&A業界の「働き方改革」と今後の動向
近年、M&A業界にも「働き方改革」の波が訪れています。
これにより、長時間労働や激務のイメージが強いこの業界にも新たな風が吹き込み、働き方に変化が見られるようになりました。ここでは、リモートワークの導入状況やフレックスタイム制の導入、若手社員の意見を反映した新しい労働環境の変化について解説します。
リモートワークの導入状況
M&A業界においても、リモートワークは徐々に取り入れられつつあります。コロナ禍をきっかけにリモートワークが普及し、多くの企業がこの新しい働き方を導入しました。リモートワークは、特に業務の一部である資料作成やリサーチなどの作業に適しており、これにより業務効率が向上するケースも見られます。
ただし、M&A業務はクライアントとの直接的な対話や関係構築が重要な場面が多いため、完全にリモートでの業務が成立するわけではありません。クライアントや経営陣との交渉や重要な会議は、まだ対面で行われることが多いです。
そのため、リモートワークは業務内容に応じたハイブリッドな形態が主流となりつつあります。
フレックスタイム制や働き方の柔軟性の増加
M&A業界では、プロジェクトごとに業務量や必要な労働時間が大きく変動することから、フレックスタイム制を導入する企業も増えてきました。
フレックスタイム制は、従業員が自分の業務時間をある程度自由に設定できる制度であり、業務のピーク時とそうでない時期の労働バランスを自ら調整できる利点があります。
これにより、社員は自分のライフスタイルに合わせて効率的に働くことができ、長時間労働が続く中でも一息つく時間を確保しやすくなりました。特に若手社員や新しい働き方を求める世代には、この柔軟な働き方が好まれる傾向にあります。結果として、業界内での離職率の低下や生産性の向上が期待されています。
若手社員の意見を反映した新しい労働環境
若手社員の声を反映した取り組みも増加しています。
これには、仕事とプライベートの両立を重視した働き方を導入しようとする企業の姿勢が含まれます。
若手社員はキャリアアップやスキル向上を求める一方で、ライフワークバランスも重視する傾向があります。これに応えるため、M&A業界でも週休二日制の厳守や、有給取得の促進などの施策が採用されています。
また、働き方改革の一環として、従業員のフィードバックを基にした改善策が企業文化に取り入れられるようになりました。社員の意見を取り入れることで、柔軟な労働環境を築き、各個人が最大限に能力を発揮できる職場づくりを目指しています。
例えば、案件の繁忙期には負担を分散するチーム体制の見直しや、学習・スキルアップの時間を意識的に確保する取り組みも行われています。
このように、M&A業界でも働き方改革の流れが進んでおり、従来の「激務」のイメージから、より持続可能で生産的な働き方へと変化しつつあります。今後もこの動きは続き、さらなる労働環境の改善が期待されるでしょう。
M&A業界が激務でも人気の理由
M&A業界は、その激務と長時間労働で知られている一方、多くのプロフェッショナルたちを惹きつける要素があります。
ここでは、激務であるにもかかわらず、M&A業界が高い人気を誇る理由を見ていきます。業界の魅力には高年収やスキルの向上、キャリアの広がり、そして社会に大きな影響を与えるやりがいがあります。
高年収と魅力的なインセンティブ制度
M&A業界の人気の要因として、まず挙げられるのが「高年収」と「魅力的なインセンティブ制度」です。多くのM&A企業では、基本給に加えて、成績に応じたインセンティブが支給される制度が採用されています。
案件の成約数やその規模に応じてインセンティブが決まるため、トップパフォーマーは若いうちから年収1,000万円を超えることも珍しくありません。さらに、成果主義の色が濃い企業では、実績次第で数千万円以上の年収を得ることも可能です。
この報酬体系は、個々の努力がダイレクトに収入に反映されるため、努力を惜しまない意欲的な人材にとっては非常に魅力的です。
M&A業界において、年齢や所属年数に関わらず、成果を上げれば若手でも高収入を得られるという点が、優秀な人材を集める要因となっています。
結果として、このインセンティブ制度が、長時間労働やプレッシャーを抱える日常に耐えるモチベーションとなるのです。
成長機会の多さとスキルアップの場
M&A業界のもう一つの大きな魅力は、「成長機会の多さ」と「スキルアップの場」である点です。
M&Aプロジェクトは複雑で多岐にわたる業務を含み、関わる業界も多種多様です。案件を担当するたびに、新しい知識を吸収し、財務分析や企業価値評価、法務、税務などの専門知識を深めることができます。
これにより、アドバイザーとしての市場価値が高まり、他のコンサルティング業界や金融業界でも通用するスキルが身につきます。
さらに、プロジェクトごとに異なる経営課題に直面することで、問題解決能力やクリエイティブな戦略立案力も養われます。
M&A業界で培ったスキルは、経営企画や事業戦略といった他の職種に転職する際にも大きな武器となるでしょう。
加えて、業界全体として情報のアップデートが不可欠なため、常に最新のトレンドを学び続ける文化が根付いており、個々の成長を促進する土壌が整っています。
経営者視点が身につくキャリアの広がり
M&A業界で働くことで得られるもう一つの大きなメリットは、「経営者視点が身につく」という点です。M&Aプロジェクトは、企業の売却や買収を通じて、事業全体の成長や戦略を大きく変える役割を担います。
アドバイザーは、案件を進める中で経営陣と直接やり取りし、企業のビジョンや長期的な成長戦略を理解する機会を得ます。これにより、単なる専門知識だけでなく、企業経営全体を俯瞰して見る視点が養われます。
この経営者視点は、将来的に起業を目指す人や、自ら事業の中核を担いたいと考える人にとって大変貴重な経験となります。M&A業界での経験を経て、経営層や社内の戦略立案部門に移る人も多く、キャリアの選択肢が広がります。
また、専門的なスキルを生かし、独立してM&Aコンサルタントとして活動することも可能です。M&A業界で培われる経営者視点は、その後のキャリアを大きく広げる鍵となります。
社会に与える影響とやりがい
M&A業界が持つ特筆すべき魅力として、「社会に与える影響」と「やりがい」があります。
M&Aは、企業の成長戦略や事業承継を支える重要な手段であり、企業そのものだけでなく、従業員や地域経済にも大きな影響を与えます。
M&Aプロジェクトを成功に導くことで、クライアントからの感謝の言葉を受けるだけでなく、会社が新たな一歩を踏み出すのをサポートしたという達成感を得られます。こうした成功体験は、他の業界では味わいにくい大きなやりがいとなります。
また、M&Aは経済全体の成長を促進する一因にもなります。中小企業の事業承継問題や後継者不足といった課題に対する解決策として、M&Aが活用されることが多いため、業界で働くことは社会貢献にもつながります。
経済的に困難な状況にある企業が新しいパートナーを見つけ、持続可能な経営を続けられるよう支援する役割を担えるのは、大きな使命感とやりがいを伴います。
このように、M&A業界はその厳しい労働環境にもかかわらず、高年収、成長機会、経営者視点の習得、そして社会に与える影響といった要素が魅力的で、多くのプロフェッショナルを引きつけているのです。
M&A業界の実際の働き方
M&A業界はその激務さが知られていますが、その働き方は時期やプロジェクトの進行度、案件数、チーム体制などの要素によって大きく変わります。
ここでは、繁忙期と閑散期における一日のスケジュール、プロジェクトの進行に伴う労働時間の変化、そして案件数とチーム体制が労働環境に与える影響について解説します。
一日のスケジュール例：繁忙期と閑散期の比較
M&A業界の働き方は、繁忙期と閑散期で大きく異なります。繁忙期には、朝から深夜まで働くことが日常的になり、業務内容も複雑さを増します。以下は、繁忙期と閑散期の典型的な一日のスケジュール例です。
繁忙期のスケジュール例
- 9:00～9:30 出社、メールの確認
- 9:30～10:30 チームミーティングで案件進捗状況の確認
- 10:30～12:30 クライアント向け資料の作成、デューデリジェンス対応
- 12:30～13:30 簡単な昼食をとりつつ、メールや書類を確認
- 13:30～17:00 商談やクライアントとのミーティング
- 17:00～21:00 資料作成や企業価値評価、契約書のドラフト作成
- 21:00～22:00 夕食をオフィスで取りながら作業の続行
- 22:00～23:30 翌日の準備やメールの返信、データの整理
- 23:30 退社（時には深夜を超えることも）
閑散期のスケジュール例
- 9:00～9:30 出社、メールの確認
- 10:00～12:00 資料作成や簡単な案件フォロー
- 12:00～13:00 昼食、社員同士の交流
- 13:00～15:00 業務研修や自己学習の時間
- 15:00～18:00 クライアント対応やリサーチ業務
- 18:00～19:00 退社準備、早めの退社も可能
繁忙期には、クライアントとの頻繁なやり取りや複雑な交渉のため、長時間労働が避けられません。一方で、閑散期は新たなスキル習得や自己研鑽に充てる時間があり、比較的落ち着いて業務に取り組むことができます。このように、M&A業界は業務内容や働き方が時期によって大きく異なるのが特徴です。
プロジェクトの進行と労働時間の変化
M&Aプロジェクトの進行状況によっても労働時間は大きく変動します。
案件がスタートした初期段階では、情報収集やリサーチ、企業価値評価のためのデータ分析などが中心となり、比較的業務は穏やかですが、注意深い作業が求められます。
中盤から終盤にかけて、デューデリジェンスや交渉のフェーズに入ると、関係者との会議や契約条件の調整などが増え、時間の制約が厳しくなります。
特に、企業価値評価や買い手・売り手との条件調整、契約書作成といった作業は、細心の注意と多方面の知識を必要とするため、労働時間が一気に長くなる傾向にあります。
最終段階では、最終合意のための準備が進み、短期間に多くの資料を完成させたり、契約書を確認したりする必要があります。この段階では、労働時間が日常的に夜遅くまで延び、週末も稼働することがあります。
一方で、案件が完了すると一息つける時間が増え、プロジェクトが終了したタイミングでまとまった休暇を取得する社員もいます。
案件数とチーム体制の影響
M&A業界における労働時間は、担当する案件数とチームの体制によっても大きく影響されます。
一般的には、アドバイザー1人が同時に複数の案件を担当することが多く、その案件数が増えるほど、労働時間や労働負荷が増加します。
複数のプロジェクトを並行して進める中で、それぞれの進捗管理やクライアント対応が求められるため、労働環境が非常に厳しくなることもあります。
チーム体制は業務負担を大きく左右します。大手のM&A企業では、プロジェクトごとに専門チームを組むことが一般的で、業務を分担しながら進めるため、各担当者の負担が軽減される傾向があります。
一方、中小規模のM&A企業やスタートアップでは、限られた人数で複数の案件を進めなければならず、個々の社員に求められる労働量が多くなります。
また、業界内では分業制を導入している企業も増えており、例えば、デューデリジェンスは別の専門チームが担当し、アドバイザーはクライアント対応や交渉に集中できるようにする体制が整えられることもあります。
これにより、労働時間の調整がしやすくなるケースも見られますが、一方で分業制が十分でない企業では、各プロセスを個人が全て担当しなければならないため、労働負荷が増大します。
このように、M&A業界の働き方は時期や案件の状況、チーム体制によって大きく異なります。激務であることは否めませんが、適切なチームワークや効率的な労働体制の導入により、働きやすさの向上を図る企業も増えてきているのが現状です。
M&A業界で働くことのメリットとデメリット
M&A業界での仕事は、激務やプレッシャーと引き換えに、多くの魅力的なメリットも提供しています。高い収入、専門性を高めるスキルアップの機会、キャリアの多様性などがその主な例です。
一方で、長時間労働、激しいプレッシャー、そしてライフワークバランスの確保が難しいというデメリットも存在します。
ここでは、M&A業界で働くことのメリットとデメリット、そして個人の価値観に合った働き方が重要である理由について解説します。
メリット：高収入、スキルアップ、キャリアの多様性
M&A業界で働く最大のメリットは、「高収入」です。多くの企業では、成果主義に基づくインセンティブ制度が導入されており、成果を上げた分だけ報酬に反映されます。
若い年次でも、高いパフォーマンスを発揮すれば年収1,000万円以上を目指すことが可能であり、トップパフォーマーは数千万円の年収を得ることもあります。業界全体での収入水準が高いため、金銭面でのモチベーションを持つ人々にとって大変魅力的な選択肢です。
さらに、M&A業界では幅広い専門スキルを身につけることができます。財務分析、企業価値評価、法務、税務などの専門知識は他業界でも高く評価されるスキルです。
プロジェクトを通じて、これらのスキルを体系的かつ実践的に習得できるため、働きながら市場価値を高めることができます。これにより、M&A業界だけでなく、経営戦略やコンサルティング、起業などの新たなキャリアパスへとつながる可能性も広がります。
M&A業務は、経営者との対話や戦略的な交渉を通じて、経営視点を自然と身につけることができます。これにより、将来的に経営者としての役割を目指す人や、自分自身のビジネスを立ち上げる際の基盤を築くことができ、キャリアの多様性を実現します。
M&A業界での経験は、どの業界でも通用する普遍的なスキルとリーダーシップ能力を養うのに適した場といえるでしょう。
デメリット：長時間労働、プレッシャー、ライフワークバランス
一方で、M&A業界には避けがたいデメリットも存在します。第一に、「長時間労働」が挙げられます。案件が繁忙期に入ると、労働時間は深夜まで続くことが多く、月の残業時間が100時間を超えることもあります。
これは、複雑なプロジェクトの進行やデューデリジェンス、契約交渉など多岐にわたる業務の進捗に合わせて、どうしても労働時間が長引いてしまうからです。
案件の進行具合に応じて、週末や休日に仕事をすることも避けられません。
また、M&A業界は成果主義が強く、個々の成果が評価に大きく影響を与えます。
これにより、「プレッシャー」は常に存在し、業績を上げ続けることが求められます。高い成果を達成し続けなければならないという環境は、精神的な負担を増大させ、ストレスを感じることも多いでしょう。
このような状況が続くと、体調を崩したり、燃え尽き症候群に陥るリスクも増加します。
「ライフワークバランス」もM&A業界では課題となることが多いです。
長時間労働と高いプレッシャーにより、家族や友人との時間を確保することが難しくなることが少なくありません。さらに、仕事とプライベートの境界が曖昧になることが多く、案件の重要度に応じて、休日や夜間に緊急対応を求められることもあります。
このような状況が、ライフワークバランスの確保を困難にしている要因です。
個人の価値観に合った働き方が求められる理由
M&A業界で成功するためには、「個人の価値観に合った働き方」を見つけることが非常に重要です。業界は高い報酬やキャリアの機会を提供しますが、長時間労働やプレッシャーに耐え続けるには、自分自身の動機や目標を明確にする必要があります。
例えば、経済的な成功を第一に考える人であれば、激務に耐えながらも高年収を得ることに価値を見出せるでしょう。
一方で、家族との時間やプライベートを大切にする人には、業務量を調整できる企業や柔軟な働き方を提供する職場を選ぶことが大切です。
また、M&A業界で求められるスキルや知識は日々の努力と学習によって習得されるものです。
常に情報をアップデートし、自己研鑽を続けることが必要なため、学び続けることに意義を感じられる人でなければ、長期的な成長は難しいでしょう。
さらに、プレッシャーに対する耐性も重要です。
厳しい環境での働き方に耐えられるメンタルの強さと、自分を律してバランスをとる能力が求められます。
M&A業界では、ただ収入を得るだけではなく、自己実現や成長、社会に貢献することに価値を見出せる人材が成功を収めやすいといえます。自分の価値観を見極め、それに合った職場を選ぶことが、この業界でのキャリアを長続きさせる鍵となります。
まとめ：M&A業界で働くことは「ブラック」か、それとも挑戦する価値があるのか？
M&A業界は確かに激務であり、長時間労働やプレッシャーは避けられないものです。しかし、その背景には高年収や専門的なスキルの習得、幅広いキャリアの選択肢など、多くの魅力が隠されています。
働き方改革が進む中、リモートワークや柔軟な勤務形態を取り入れる企業も増えており、業界全体としても働き方の見直しが進んでいます。M&A業界での成功は、自己の価値観や目標に合った働き方を見つけることが鍵です。
高い報酬や成長の機会を求める人には、多くの挑戦と報いが待つ業界といえるでしょう。
