M&Aでの銀行融資のポイントとは?銀行の役割・融資制度を解説!

M&Aを進めるには、多額の資金が必要であり、銀行融資はその重要な調達方法の一つです。特に中小企業が事業承継や規模拡大のためにM&Aを検討する際、自己資金だけでは不十分な場合も多く、銀行からの支援が欠かせません。

しかし、銀行融資を引き出すには、金融機関の審査基準や内部事情を把握し、適切な準備と交渉が必要です。

本記事では、M&Aにおける銀行の役割や融資制度の仕組み、資金調達の成功に向けた交渉ポイントについて解説します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

M&Aにおける銀行融資の役割とは?

M&Aを進める上で、銀行は単なる資金提供者以上の役割を果たします。

中小企業が事業拡大や事業承継を目指してM&Aに挑む際、資金の確保は重要であり、銀行融資が大きな助けになります。しかし、銀行の役割は資金提供だけにとどまらず、債権者やアドバイザーとしての立場でも企業のM&Aを支えています。

M&Aで銀行が果たす3つの役割

銀行がM&Aで果たす主要な役割のひとつは、資金調達を提供することです。特に手元資金だけでの買収が難しい場合、銀行融資の確保がM&A実行の成否を左右します。銀行は企業の信用力や事業計画をもとに、適切な金利や返済条件を設定し、企業が買収資金を安定的に調達できるようサポートします。

また、銀行は債権者としてもM&Aに関与する場合があります。

例えば、債務超過にある企業を買収する際、銀行は債権放棄や債務を株式に転換するなどの対応で、M&Aの成立を後押しすることもあります。こうした場合、会社法では銀行などの債権者保護に関する規定があり、銀行は保護の観点から売り手や買い手の双方に関与し、事業の安定化に寄与します。

さらに、銀行はM&Aの初期段階から企業のアドバイザーとしての役割も果たします。企業がまず取引銀行にM&Aの相談を持ちかけることが多いため、銀行は事業承継や企業間のマッチングなど、成功に向けた助言を提供します。

しかし、銀行がM&Aの仲介を行う場合、利益相反のリスクもあるため、銀行法に基づいた管理体制が求められます。銀行が提供するアドバイザリー業務は手数料体系や案件規模に応じて多様であり、企業にとって信頼できるパートナーとなります。

銀行融資の利用が重要な理由

M&Aを進める上で、企業は自己資金と銀行融資をどのように組み合わせるかを慎重に考える必要があります。自己資金が豊富な場合、売り手やアドバイザーからの信頼が得やすくなり、交渉がスムーズに進むことが期待されますが、特に大規模なM&Aにおいては銀行融資との併用が多く見られます。

このように自己資金と銀行融資のバランスを取ることで、企業のリスクを適切に管理しながら事業計画の実現を支えることが可能です。

銀行融資が必要とされる場面には、事業の拡大を目的とするM&Aや、後継者不足を解消するための事業承継が含まれます。銀行融資は企業が経営の安定性を保ちながら資金を確保できる有効な手段であり、M&Aの初期段階から銀行に相談しておくと、進行中の取引が滞るリスクを低減できます。

銀行のサポートを得ることで、資金調達手続きを効率的に進め、長期的な事業運営の基盤をより強固にできることも大きなメリットです。

銀行融資の基本的な種類とM&A特有の審査基準

M&Aに必要な資金を調達する方法として、銀行融資は非常に重要です。企業がM&Aを円滑に進めるためには、適切な融資制度を活用し、その審査基準を理解することが成功の鍵となります。

銀行融資には、一般的な融資制度とM&Aや事業承継に特化した制度が存在し、それぞれに特徴的な審査ポイントがあります。

銀行融資の種類:資金調達の方法を理解する

銀行融資には、一般的な融資制度とともに、M&Aや事業承継を目的とした特別な融資制度もあります。

一般的な銀行融資では、企業の信用力や収益性、返済能力を基に審査が行われ、条件が整えば企業の成長支援として資金が提供されます。

一方で、M&A特有の支援として利用されるのが日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」です。

この制度は、事業承継やM&Aによる事業再編を行う企業を支援するための融資制度であり、通常の融資よりも金利が低く設定されています。企業の経営状況や事業承継計画を基に審査が行われるため、資金調達が難しい中小企業にとっては大きな支援となります。

この支援制度は、無担保での融資が可能な「国民生活事業」や、大規模な事業承継を行う「中小企業事業」などの選択肢があり、企業の規模や必要資金に応じて活用されます。

M&Aにおける銀行審査のポイント

M&A資金の融資を受けるためには、通常の融資審査とは異なるM&A特有の審査基準が存在します。

特に重視されるのが、返済能力や収益性、買収後の事業計画の合理性、そして担保と信用力の評価です。

まず、銀行は企業の返済能力と収益性を厳密にチェックします。M&Aでは多額の資金が必要となるため、買収後のキャッシュフローや利益創出能力が求められます。

また、買収後の事業計画とシナジー効果も審査の重要なポイントです。

銀行は、買収による相乗効果が実現可能か、またその効果が返済能力にどう貢献するかを確認します。具体的な成長戦略やシナジー効果の説明が説得力を持つことが、審査通過の鍵となります。

最後に、担保と信用力の評価も重要です。銀行は、融資先企業の信用力や担保として利用できる資産を重視し、特に時価評価が可能な土地や建物、有価証券などの流動資産を担保として求める場合があります。

M&A資金調達のポイントと成功のための準備

M&Aを成功させるためには、適切な資金調達が不可欠です。特に銀行融資を利用する際には、十分な準備が求められます。

審査を通過するための具体的な資料の準備や銀行との信頼関係の構築に注力することが、資金調達のスムーズな実現につながります。

ここでは、銀行審査のための具体的な準備と、信頼を得るためのアプローチについて解説します。

銀行審査を通すための準備事項

銀行の審査を通過するには、決算書や事業計画書の準備が重要です。

決算書は直近3期分を用意し、会社の経営状況や財務の安定性を示すことが求められます。特に、買収後のシナジー効果や成長見込みを明確に示す事業計画書が必要です。

銀行は、買収による相乗効果が実現可能かを慎重に評価するため、シナジー効果が具体的かつ説得力を持って説明されることで、銀行の判断材料として有利に働きます。

また、資金計画に基づいた具体的な返済計画も重要です。無理のない返済が可能であることを示すことで、銀行にとってリスクの低い融資先であるという印象を与えられます。

返済計画には、キャッシュフローの見込みや万が一のリスク対応策も盛り込むことで、銀行の安心感を高めることができます。

銀行からの信頼を得るためのアプローチ

銀行からの信頼を得るためには、長期的な関係構築が効果的です。

特にメインバンクとして取引を重ねている銀行がある場合、日頃から関係を築き、M&Aについて早い段階で相談を行うと、理解を得やすくなります。M&Aを計画した時点でメインバンクに相談しておくと、銀行側も進捗を把握し、資金調達の流れがスムーズになります。

さらに、複数の銀行に相談することも資金調達の成功率を高めます。

複数の銀行と交渉を進めることで、他行が融資を検討している事実が後押しとなり、融資が実現しやすくなる効果があります。紹介制度を利用して、既存取引先や信頼のおける第三者からの紹介を受けることで、銀行側の信頼が増し、審査も通りやすくなります。

このような紹介制度の活用は、銀行に対して「優良な取引先である」という安心感を与え、資金調達の成否を大きく左右する要因となります。

銀行の融資判断に影響する内部要因

銀行によるM&A融資の判断には、企業側の財務状況や事業計画に加え、銀行内部の事情も大きな影響を与えます。

特に法人営業部や支店の営業成績、また銀行内部の評価制度が融資判断を左右することがあり、これにより同じ案件でも判断結果が異なることがあります。

ここでは、銀行内の営業成績や支店ごとの違い、評価制度による影響について解説します。

銀行の営業成績や支店による違い

銀行の融資判断は、法人営業部や支店ごとの業績や融資目標によって大きく変わることがあります。各支店や営業部門には年度ごとに融資目標が設定されており、目標が未達の部門では積極的に融資を行う傾向が強まります。

反対に、既に目標を達成している支店や部門では、慎重な判断が優先される場合が多く、M&A融資の承認も厳しくなることが少なくありません。

また、法人営業部や支店長の考え方やリスク許容度も重要です。

例えば、積極的に融資を進める営業部長がいる支店では、与信リスクを多少取ってでも融資を進める傾向がありますが、慎重な支店長のもとでは基準が厳しくなり、融資審査が通りにくくなることもあります。

このように、融資判断は各部門の営業成績や支店長のスタンスによって異なり、銀行の都合が企業のM&A資金調達の成否に影響することがあるのです。

銀行内の評価制度が融資に及ぼす影響

銀行内部の評価制度も、融資判断に影響を与える要因のひとつです。

銀行内では支店や法人営業部が業績に基づいて評価されるため、優秀な成績を残すと高評価を得られる一方で、業績が振るわない部門や支店は評価が低くなります。

特に業績が低迷している支店では、評価を改善するために積極的に融資を進めることが多く、目標達成のために通常よりも融資審査のハードルを下げるケースもあります。

加えて、支店のランクによっても融資の判断基準に差が生じます。上位ランクの支店は評価が高く、融資判断も慎重に行われる傾向がありますが、下位ランクの支店は逆に融資に積極的であることが一般的です。

このように、銀行の内部評価が融資判断に直接影響するため、企業にとっては銀行内の状況を理解し、融資交渉の際にこの実情を意識することが有利に働く場合があります。

M&A融資を引き出すための交渉ポイント

M&Aを成功させるためには、銀行から融資を引き出すための交渉力が必要です。

銀行側が納得できる根拠と計画を提示することで、資金調達の実現性が大きく向上します。ここでは、融資交渉を円滑に進めるための重要ポイントと、交渉の際に銀行との対話で生じるよくある質問への対応策について解説します。

買収資金を引き出すための3つの重要ポイント

銀行から買収資金の融資を引き出すには、説得力のある事業計画と具体的な返済計画、そして経営者保証の有無に対する銀行側の理解を得ることが必要です。

まず、事業計画の説得力と具体性が非常に重要です。

銀行は、M&Aによって得られるシナジー効果や成長見込みに注目し、企業が買収後にいかに発展するかを判断材料としています。そのため、事業計画では、M&Aの目的、買収後の運営方針、事業成長の目標と具体的なアプローチを明確に記載しなければなりません。

特に、シナジー効果の説明には説得力が必要であり、銀行が「融資が将来の収益につながる」と確信できる内容が求められます。

また、事業計画書には、買収先企業の財務情報と事業内容の詳細も含めることで、銀行が実現可能性を確信しやすくなるでしょう。

次に、返済計画とリスクマネジメントが融資交渉の鍵となります。

銀行は、融資が確実に返済されるかどうかを最も重視するため、現実的な返済計画を示す必要があります。キャッシュフローの予測や返済シミュレーションを行い、無理のない返済計画を立案することで、銀行側の安心感を高められます。

さらに、リスクマネジメントについても言及し、想定される経営リスクに対する対応策を事前に準備しておくと、融資交渉がより円滑に進みます。

例えば、業績悪化時の対応策や収益が下振れした場合の再構築計画など、リスクを意識した返済計画があれば、銀行は融資のリスクが抑えられると判断しやすくなります。

最後に、経営者保証の有無とその必要性についての理解を得ることも重要です。

銀行は、特に中小企業のM&Aでは経営者の個人保証を求める傾向がありますが、場合によっては保証を緩和できることもあります。経営者の個人保証を提供することで信用力が補完され、融資審査が通りやすくなりますが、保証が難しい場合は、代わりの担保や保証人の設定も交渉材料となります。

経営者保証を提供する場合は、経営者の資産状況や個人の返済能力についても説明することで、銀行にリスクを抑えた提案が可能です。

銀行との対話でよくある質問と対応策

銀行との融資交渉では、買収対象企業の収益性や決算書に関する質問がよくあります。

ここでは、これらの質問に対する効果的な対応策について解説していきましょう。

まず、買収対象企業の利益規模に関する質問がよく挙げられます。

銀行は、企業の収益力や利益規模が返済能力に直接影響するため、買収先企業の規模や業績を重要視しています。銀行に対しては、買収先企業の過去数年の決算書や財務指標を準備し、具体的な収益力や成長の見込みを説明することが必要です。

また、利益規模が小さい場合でも、シナジー効果により収益が増加する可能性があると具体的に説明することで、銀行の理解を得やすくなります。

次に、融資審査の際に重視される決算書や事業計画の項目についての質問も頻繁にあります。

銀行は特に、決算書の中で利益率や内部留保、キャッシュフローの安定性を重視しています。また、スコアリング審査が行われる場合、一定基準を満たさなければ融資が難しくなるため、必要なスコアをクリアするために重要な項目について把握しておくことが求められます。

さらに、銀行が特に重視するのは経常利益や内部留保の額、そして経営者の個人保証が付されているかどうかです。これらのポイントに基づいて対話を進めると、銀行にとってもリスクが少ないと判断されやすくなります。

加えて、事業計画書の内容に対する指摘にどのように対応するかも重要です。銀行から事業計画について指摘があった場合、それは融資の可能性がある証拠とも言えます。

多忙な銀行担当者は、そもそも見込みが低い案件には詳細な指摘を行わない傾向があるため、指摘があった際は改善点を修正し、再度相談することが推奨されます。

事業計画書を修正し、改善された内容を示すことで、銀行との信頼関係が強化され、融資が実現しやすくなるでしょう。

まとめ:M&A融資での成功のポイントをおさえよう!

M&Aにおける銀行融資の成功には、銀行との信頼関係の構築と徹底的な準備が必要です。

銀行の内部事情や審査基準を理解し、説得力のある事業計画や返済計画を整えることで、スムーズな資金調達が可能になります。一般的な融資に加えて、M&Aに適した制度を活用することが重要で、審査では企業の返済能力や買収後のシナジー効果が重視されます。

また、銀行の融資判断は法人営業部や支店の業績、評価制度に左右されるため、交渉相手の銀行や担当者のスタンスを把握して進めるとよいでしょう。

さらに、買収後の具体的な事業計画やリスク管理の体制を示すこと、経営者保証の有無についての対話を行うことで、銀行の安心感を高められます。

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