「中小企業」と聞くと、規模の小さい企業や地域に根付いた企業を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、実はその明確な定義はありません。
中小企業には一応の基準として、資本金や従業員数を目安とする基準が定められていますが、これは補助金や助成金などの施策や政策の対象を決めるためのものです。そのため、制度や法律ごとに基準が異なり、企業によっては「みなし大企業」として中小企業の枠外とされるケースもあります。
本記事では、こうした中小企業の基準や、大企業との違い、支援施策の対象となるための要件などについて解説します。
- この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)
中小企業とは?基本の定義を確認
中小企業は、日本経済の重要な支柱として、企業全体の99.7%を占め、雇用や地域経済の活性化に貢献しています。
しかし、中小企業の範囲には法律や制度ごとに異なる基準があり、一般的なイメージだけで判断するのは難しい場合があります。
ここでは、中小企業基本法で定められている基準をもとに、中小企業の基本的な定義を確認します。
中小企業の定義が重要な理由
中小企業の定義は、各種の補助金や助成金制度の適用に直結します。
たとえば、新技術や設備導入を支援する「IT導入補助金」や「ものづくり補助金」などは、企業が制度上の「中小企業」に該当している場合のみ利用可能です。
制度ごとに中小企業の基準は異なるため、資本金や従業員数が基準を超える場合や、密接な関係を持つ「みなし大企業」として扱われた場合には、支援の対象から外れることがあります。
こうした支援制度を効果的に活用するには、中小企業としての定義をしっかりと理解しておくことが大切です。
さらに、法人税法における中小企業の軽減税率も適用基準があります。この軽減税率は、資本金1億円以下の企業に限定され、特定の支配関係や公益法人、協同組合は対象外です。
経営者や財務担当者は、このような基準の違いを踏まえて、企業が利用できる制度の範囲を正しく把握することが求められます。
中小企業基本法での「中小企業者」の定義
中小企業基本法では、中小企業の範囲を「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する従業員数」の基準で定義しています。
以下は、中小企業基本法に基づく業種ごとの基準です。
- 製造業・建設業・運輸業およびその他の業種:資本金3億円以下または従業員300人以下
- 卸売業:資本金1億円以下または従業員100人以下
- 小売業:資本金5千万円以下または従業員50人以下
- サービス業:資本金5千万円以下または従業員100人以下
この基準は中小企業基本法で定められた「原則的な範囲」として利用され、制度や法律によって異なる範囲が適用されることがあります。
また、「みなし大企業」として大企業と密接な関係にある場合、各種の補助金・助成金制度で対象外とされる場合があるため、利用する際には各制度の定義を確認することが大切です。
業種別中小企業の基準(人数・資本金)
中小企業基本法では、業種ごとに資本金または常時使用する従業員数の基準をもとに「中小企業者」として定義されており、この基準を理解することは、各種制度や助成金を活用するために欠かせません。
中小企業者の範囲は、以下の業種に分かれ、資本金の額または従業員数のいずれかが基準を満たしている場合に中小企業とみなされます。これにより、多様な業種や規模の企業がそれぞれの基準に従い「中小企業」として認定され、支援施策の対象となるかどうかを確認することができます。
製造業・建設業・運輸業における基準
製造業、建設業、運輸業は、業種としての活動内容が多岐にわたり、経済活動の基盤を支える業界です。これらの業種における中小企業の基準は以下の通りです。
- 資本金:3億円以下
- 従業員数:300人以下
たとえば、資本金が2億円で従業員が250名の企業は製造業の中小企業と見なされますが、資本金が3億円を超えると従業員数が基準を下回っていても中小企業とは認められません。
このような基準の設定は、業種特有の設備投資や規模の異なる人材配置などに合わせ、製造や建設といったインフラに関わる業種の特性を反映したものといえます。
また、製造業には「ゴム製品製造業」など特例が適用されるケースもあります。ゴム製品製造業では資本金3億円以下、または従業員数900人以下で中小企業とみなされ、基準が異なるため、詳細を確認することが重要です。
卸売業における基準
卸売業は、商品の流通を支える重要な業種であり、流通網や物流拠点を構築するための基準が設定されています。卸売業における中小企業の基準は以下の通りです。
- 資本金:1億円以下
- 従業員数:100人以下
卸売業の基準は、製造業などと比較しても小規模であり、特に流通業で求められる迅速な対応や、効率的な人員配置を反映しています。
たとえば、従業員が90名で資本金9,000万円の卸売業者は中小企業に該当しますが、資本金が1億円を超える場合は従業員数が100人以下でも中小企業とは認められません。
また、中小企業基本法に基づく定義に加え、法人税軽減税率の適用を受けるための要件も異なるため、卸売業の基準を満たしていても支援施策の適用には注意が必要です。
小売業における基準
小売業は消費者との直接の接点を持ち、地域社会との結びつきが強い業種です。中小企業基本法においては、以下の基準が設けられています。
- 資本金:5,000万円以下
- 従業員数:50人以下
小売業の中小企業基準は、資本金の額および従業員数の基準が比較的小規模に設定されており、個人商店や中小規模のチェーン店などが支援対象となりやすくなっています。
たとえば、資本金4,500万円で従業員が45名の企業は、小売業の中小企業として見なされ、支援を受ける可能性が高いです。
このように、特に地域に根ざして営業する小売業には、柔軟な基準が設けられているため、個人経営から地域密着型の企業まで幅広い企業が支援を活用しやすくなっています。
サービス業における基準
サービス業は、その業態により非常に多岐にわたる業界であり、柔軟な基準が求められます。サービス業の中小企業に関する基準は以下の通りです。
- 資本金:5,000万円以下
- 従業員数:100人以下
たとえば、サービス業で従業員が90名、資本金が4,800万円の企業は中小企業に該当しますが、資本金が5,000万円を超える場合は、従業員数が基準を満たしていても中小企業から外れる可能性があります。
また、サービス業の中でも「ソフトウェア業」「情報処理サービス業」「旅館業」といった業種については、異なる基準が設けられることもあります。
具体的には、ソフトウェア業や情報処理サービス業では、資本金3億円以下または従業員数300人以下の基準が適用され、旅館業の場合は資本金5,000万円以下または従業員数200人以下が中小企業の基準です。
このようにサービス業は多様であるため、業種別に異なる基準が適用される場合があるため、事業内容に応じた基準を確認することが不可欠です。
小規模企業や個人事業主の定義
中小企業の中でも、特に小規模で地域密着型の企業や個人事業主に対しては、より適切な支援や施策が求められます。
中小企業基本法では、こうした小規模な企業や個人事業主も支援対象とするため、「小規模企業者」として、業種に応じた基準を設けています。
小規模企業や個人事業主は、地域経済を支える基盤であり、きめ細かな支援策を享受することで、事業の持続的な成長が期待されています。
小規模企業の基準(人数のみ)
中小企業基本法において「小規模企業者」とは、従業員数に基づいて分類される企業のことで、資本金の規模は問われません。
従業員数の基準は業種によって異なり、製造業・建設業・運輸業などの場合は20人以下、それ以外の業種では5人以下の企業が「小規模企業者」に該当します。
小規模企業の基準は次の通りです。
- 製造業・建設業・運輸業など:従業員数が20人以下
- 卸売業、小売業、サービス業:従業員数が5人以下
たとえば、製造業で従業員15人の工場は「小規模企業」とされ、地域支援や小規模事業者向けの施策の対象となります。
小売業やサービス業では、従業員が5人以下の小規模店舗や個人経営のサービス事業者が該当し、これにより少人数で経営している事業者も中小企業向けの補助金や助成金の対象として支援を受けやすくなっています。
小規模企業者の基準が人数のみによって決められているのは、規模の小さな事業者がより少ない資本で効率的に経営できるよう配慮しているためです。
また、この基準は地域密着型の小さな商店やサービス業が自らの規模に適した支援を受けやすくするためのものでもあり、地域経済の発展に寄与するための重要な枠組みといえます。
個人事業主の中小企業における位置づけ
個人事業主も、中小企業基本法のもとで中小企業の一部とみなされることが多く、特に従業員を雇用している場合には、中小企業の基準に基づいて「中小企業者」や「小規模企業者」としての支援を受けることができます。
個人事業主の中小企業における位置づけは、雇用する従業員の数により変わります。
- 製造業で20人以下の従業員を雇う個人事業主:小規模企業者に該当
- 製造業で300人以下の従業員を雇う個人事業主:中小企業者に該当
- 小売業で5人以下の従業員を雇う個人事業主:小規模企業者に該当
- 小売業で50人以下の従業員を雇う個人事業主:中小企業者に該当
たとえば、製造業で従業員10人を雇う個人事業主は「小規模企業者」となり、小売業で従業員が40人の個人事業主であれば「中小企業者」としての位置づけがされます。
この分類により、個人事業主も資本金を問わず従業員数に応じて中小企業者向けの補助金や助成金を利用することが可能です。
個人事業主は、法人とは異なる経営形態であるため、資本金の概念が存在しませんが、常時使用する従業員数を基準に、中小企業や小規模企業の枠組みに含まれます。
この位置づけによって個人事業主も支援施策を活用できるため、起業間もない事業者や、少人数で運営する事業者が成長しやすくなる環境が整えられています。
また、こうした基準に基づく支援は、個人事業主が持続可能な経営基盤を構築する上で不可欠であり、地域に根ざした経営や自営業の促進にもつながっています。
中小企業と大企業の違いとは?
中小企業と大企業の違いは、資本金や従業員数を基準とした規模の差だけでなく、法律や制度における扱いの違いも含まれます。
中小企業基本法に基づいて定められた中小企業は、事業規模に応じた支援や税制優遇を受ける対象となる一方で、大企業には適用されない場合が多くあります。
資本金や従業員数の違い
中小企業の定義は、資本金や従業員数が一定以下の企業を対象としていますが、これに対し、大企業の定義は会社法における「大会社」の基準に基づいています。
会社法上の「大会社」の定義は以下のいずれかを満たす企業とされています。
- 資本金が5億円以上
- 負債総額が200億円以上
この基準を満たす企業は、大きな経済的インパクトを持つとされ、中小企業とは異なる厳格な規制が適用されることが特徴です。
中小企業の定義とは異なり、従業員数では定義されていません。従業員数に関するまた、会社法上の「大会社」となることで、財務報告の義務や内部統制の強化など、社会的な信頼性を確保するための義務が増えます。
中小企業に分類される「みなし大企業」の定義
さらに、中小企業の規模に該当していても、大企業との密接な関係により中小企業としての支援が受けられない「みなし大企業」の概念もあります。
以下のいずれかに該当する場合、みなし大企業として扱われ、中小企業向けの補助金や税制優遇の対象から外れることが一般的です。
- 発行済株式や出資金額の50%以上を大企業が所有している
- 発行済株式や出資金額の3分の2以上を複数の大企業が所有している
- 大企業の役員が役員総数の過半数を占めている
このような基準があるため、支援を利用する際には、大企業との資本関係や役員構成も含めて確認することが重要です。
中小企業の数と割合:実際にはどれくらい?
日本の企業の大半を占める中小企業は、地域経済の基盤であり、国内の雇用や経済成長を支える重要な存在です。
実際、総務省と経済産業省の調査によると、日本における中小企業の割合は圧倒的に高く、全国の企業の大部分が中小企業に分類されます。
ここでは、日本全体に占める中小企業の割合と、その背景について解説します。
日本全体に占める中小企業の割合
中小企業庁が公表しているデータによれば、2021年時点で日本には約358.9万社の企業が存在し、そのうちの約99.7%が中小企業とされています。
この99.7%には、法人企業だけでなく、商店や小規模のサービス業、農業や漁業など多様な業種が含まれており、中小企業は全国に広く分布しています。
さらに、この中小企業のうち、特に小規模な事業者が大部分を占めています。
中小企業全体の約84.5%が従業員数や資本金規模の小さな「小規模事業者」とされており、地域に密着して個別ニーズに応え、地域経済や雇用機会の提供に寄与しています。
一方で、資本金や従業員数が大きく、社会的影響力の強い大企業は全体のわずか0.3%程度しかなく、日本において中小企業がいかに重要な位置を占めているかが分かります。
中小企業が多い理由と大企業との構成割合
日本における中小企業の多さは、歴史的背景や日本の経済構造が関係しています。
日本では、地域ごとに独自の商習慣や産業が根づいており、そのため多くの中小企業が地域密着型で活動しています。こうした企業は地域経済の発展に貢献し、地域住民の雇用機会を提供することで、地元の経済活動を支えています。
また、家族経営や小規模なサービス業、製造業など、日本独特の小規模事業者の多様性も中小企業の割合が高い理由の一つです。
規模の大きい大企業はグローバル市場への参入や大規模な投資を行う一方で、中小企業は地域の個別ニーズに応えたり、特定の分野で専門性を発揮したりするなど、大企業とは異なるアプローチで事業を展開しています。
さらに、大企業は資本金や従業員数に関する厳しい基準をクリアした企業のみであり、会社法上では資本金5億円以上または負債総額200億円以上の企業が「大会社」として扱われます。
このように、大企業と中小企業の構成割合は、資本や従業員数に関する法的基準にもよって明確に区別されており、日本の企業構造の中で中小企業がいかに大きな割合を占めているかが分かります。
日本における中小企業の数とその多様性は、地域経済の活性化や多様なニーズに対応するために不可欠なものであり、国や地方自治体もさまざまな中小企業支援策を展開しています。こうした背景が、日本の企業構成において中小企業が多くの割合を占める理由といえるでしょう。
中小企業の強みとメリット
日本の中小企業は、その規模ならではの強みを活かし、地域経済や特定分野での事業展開において、大企業とは異なる価値を生み出しています。中小企業ならではの柔軟性や経営者との近い距離感、専門性の高さは、従業員の働きがいや顧客の満足度に大きく貢献しています。ここでは、中小企業が持つ強みとメリットを見ていきましょう。
柔軟な経営と迅速な意思決定
中小企業の特徴の一つは、経営の柔軟性と意思決定のスピードです。
企業の規模が比較的小さいため、意思決定に関わる人員が少なく、トップ層の判断が現場に即座に反映されやすい点がメリットです。
大企業の場合、意思決定には複数の部門や稟議の承認が必要になるため、変化への対応が遅くなりがちですが、中小企業では迅速な対応が可能であり、市場や顧客のニーズに素早く適応できます。
たとえば、新製品を導入する際、大企業では市場調査や社内承認が必要ですが、中小企業では経営層の判断によってすぐに導入が決まる場合も多く、顧客のニーズにいち早く対応できるというメリットがあります。
このような柔軟な経営ができるのは、中小企業ならではの特徴であり、競争の激しい市場環境で大きな強みとなります。
経営者との距離が近い職場環境
中小企業のもう一つの強みは、経営者と従業員の距離が近い職場環境です。
中小企業では、経営者が日常的に現場と直接コミュニケーションをとることが多く、従業員が意見やアイデアを直接伝える機会が多いのが特徴です。この近い距離感により、従業員が会社に対して主体的な意識を持ち、組織全体の一体感を感じやすくなります。
経営者が従業員の意見や提案を積極的に受け入れることで、現場の課題解決に役立つアイデアが採用されやすく、従業員も自己の役割にやりがいを感じやすくなります。
また、経営者のビジョンや価値観が従業員に直接伝わるため、企業の方針や目標が共有されやすく、企業全体が一体となって目標に向かう環境が整います。
専門性や地域密着性を活かした事業展開
中小企業の多くは、特定の分野での専門性や地域密着型のサービスを強みとしています。
中小企業は大企業と違って、特定の地域や分野に特化した事業を展開することが多く、地域に根差した経営を通じて顧客の信頼を築き上げています。
たとえば、地域の特色を活かした商品開発やサービス提供、地元のニーズに応える独自のサポートを展開することで、他社との差別化を図り、顧客からの信頼を高めることが可能です。
このような専門性や地域密着性を強みにすることで、大企業が手を広げるのが難しい市場にも深く入り込み、持続的な顧客基盤を築くことができます。特に地方やニッチ市場において、迅速で柔軟な対応力や、地域社会との密接な関係が信頼を呼び、中小企業ならではの価値が認識されやすくなっています。
中小企業の弱みとデメリット
中小企業には柔軟性や地域密着性などの強みがある一方で、資源の限界や認知度の問題などの弱みやデメリットも存在します。中小企業が持続的に成長していくためには、これらの課題に対処し、競争力を高めることが不可欠です。
ここでは、中小企業が抱える主な弱みとデメリットについて説明します。
経営資源が限定されている点
中小企業の多くは、大企業に比べて経営資源が限られており、特に人材、資金、技術などが不足しがちです。これにより、事業の拡大や新たな市場開拓を行う際に制約が生じやすく、経営の選択肢が狭まることがあります。
たとえば、新しい設備投資を行いたい場合にも、大企業であれば即時に対応できる一方で、中小企業では十分な資金調達が難しく、計画の先延ばしを余儀なくされることがあります。
また、人的資源の面でも、一人一人にかかる業務の負担が大きくなりやすく、業務の効率化や専門性の向上に取り組むのが難しい場合があります。
特に、ITやマーケティングの専門人材を確保することが困難な企業も多く、これがビジネスの発展に影響を与える要因となっています。
経営資源が限定されている点は、競争が激しい市場での生き残りを困難にする要因の一つであり、外部からの支援や効率的な経営戦略の策定が重要です。
大企業に比べて給与や福利厚生面で劣る傾向
中小企業のもう一つの課題は、大企業に比べて給与や福利厚生が劣る傾向がある点です。
大企業では豊富な資金を背景に、充実した給与や福利厚生制度を整えることが可能であり、社員に対して年金や医療などの手厚い保障が提供されることが多いです。
これに対して中小企業では、運営資金に限りがあるため、給与水準が相対的に低くなりがちで、福利厚生の充実も十分に実現できない場合が多いです。
たとえば、国税庁の調査によると、事業規模の大きい企業ほど平均給与は高い傾向にあり、中小企業においては長時間労働が発生しやすく、有給休暇の取得率も低くなる傾向があります。
このような待遇の差が、特に若い世代の優秀な人材の確保において不利に働くことがあり、結果として人材不足や定着率の低下につながることもあります。
知名度の低さによる採用面での課題
中小企業は大企業と比べて知名度が低いことが多く、これが採用活動における大きな課題となることが多いです。
特に新卒採用や転職市場においては、知名度が高い大企業が学生や求職者から好まれる傾向にあるため、中小企業はその影に隠れてしまう場合が多いです。
知名度が低いことで、企業としての魅力や業務内容を効果的に伝えられず、求職者に選ばれにくいというデメリットがあります。
そのため、優秀な人材の確保が難しく、場合によっては採用が長期化することも珍しくありません。また、企業の存在が広く認知されていないことで、業務内容や働く環境について誤解されるリスクもあり、採用の効率が下がる原因にもなります。
こうした課題を克服するためには、自社の強みを活かした採用戦略や、地域でのイベント参加、インターンシップの提供などによって知名度を高めていく取り組みが重要です。
以上のように、中小企業は大企業に比べて資源や知名度、待遇面での課題を抱える場合が多く、これが事業の発展や優秀な人材の確保に影響を与えることが多いです。
しかし、これらの弱みを補うために、柔軟な経営や地域密着型の採用活動など、独自の戦略を構築することが、競争力の向上に役立つと言えるでしょう。
中小企業で働くメリット・デメリット
中小企業で働くことには、大企業にはない魅力やメリットがある一方で、特有のデメリットや課題もあります。
中小企業では、従業員が幅広い業務を経験できるため、スキルの成長やキャリアアップの機会が多い一方で、業務負担が増えることや人材・資源が限られることもあります。
ここでは、中小企業ならではのメリット・デメリットを具体的に見ていきましょう。
幅広い業務経験が積める環境
中小企業では、従業員一人ひとりに大きな裁量が与えられる傾向があり、業務範囲も幅広くなることが多いです。
大企業では専門的な職務に限定されがちな業務も、中小企業では幅広く任されることがあり、若いうちから経理、営業、マーケティングといったさまざまな業務に携わる機会があります。
このように、多くの職務経験を通してスキルの幅を広げることができるため、ゼネラリストを目指す方には中小企業の職場環境が向いています。
また、入社間もない段階から責任ある仕事を任されることも珍しくなく、実践的なスキルが身に付きやすいことも特徴です。
自身の成長を実感しやすく、キャリアを築くうえで強みとなる総合的な経験を積むことができる点は、中小企業で働く大きなメリットといえるでしょう。
昇進のチャンスが多い一方で業務負担が大きいことも
中小企業では、従業員数が比較的少ないため、昇進のチャンスが多く、成果が評価されやすい環境です。
特に、年功序列よりも実力主義の傾向が強いため、若い従業員でも成果や貢献が認められれば、早期に昇進することが可能です。
こうした環境は、上昇志向が強く、積極的にリーダーシップを発揮したい方には非常に向いています。
しかし、業務負担が大きくなることもデメリットです。
多岐にわたる業務を担当することや、少人数で複数の役割をカバーする必要があるため、一人あたりの業務負荷が重くなる傾向があります。
特に忙しい時期には、長時間労働が求められることもあり、ワークライフバランスを重視する人にとっては負担になることも考えられます。
このため、昇進やキャリアの成長が期待できる一方で、業務負荷がかかりやすい環境がデメリットとなり得ます。
定住志向に向いた就労環境
中小企業は、地域に根ざした事業を展開していることが多く、全国転勤が少ない、あるいはほとんどない環境が一般的です。
多くの中小企業では、地域の顧客や取引先との関係を重視するため、拠点を広げずに地元に密着した事業展開を行う傾向があります。そのため、生活拠点を変えずに働き続けたい、家族との時間を大切にしたいといった定住志向の強い方には、最適な環境といえます。
また、転勤が少ないため、長期的に一つの地域で働くことで、地域のネットワークを築きやすく、地域社会での信頼や影響力を高めることも可能です。家庭の事情や地元での生活に重きを置きたい人にとっては、定住志向に合った中小企業での就労環境は大きなメリットといえるでしょう。
中小企業が活用できる国の支援施策
中小企業は、大企業に比べて資源が限られている分、成長や経営基盤の強化において国の支援施策が大変重要です。
政府や自治体は、中小企業の発展を促進するため、資金調達、技術開発、事業承継など多岐にわたる支援制度を提供しています。
これらの施策を活用することで、中小企業は事業の持続可能性を高め、新たな分野への進出や効率的な運営が可能になります。
補助金・助成金制度の活用
中小企業にとって、資金の調達は事業成長の基盤であり、国の補助金や助成金制度は特に重要な支援の一つです。
こうした補助金・助成金は、資金を直接的に提供することで中小企業の負担を軽減し、技術導入や新しい設備の導入など、事業拡大を支えるための資金として活用できます。
代表的な補助金制度には、「ものづくり補助金」や「商業・サービス生産性向上促進補助金」などがあり、これらは新技術や新製品の開発、生産効率の改善に対する支援を目的としています。
また、創業や起業に対する助成金もあり、これにより新たに事業を始める企業もサポートを受けられます。中小企業が新しい技術や設備を導入しやすくすることで、競争力向上を図ることができるのが、補助金・助成金制度の大きなメリットです。
経営革新やIT導入支援の制度
中小企業の成長には、経営の革新やITの導入による効率化が不可欠です。これをサポートするために、国は「IT導入補助金」などの支援制度を提供しています。IT導入補助金は、企業の業務効率化や生産性向上を図るため、ソフトウェアやクラウドサービスの導入に対する補助を行うもので、デジタル化による業務改善を支援しています。
また、「経営革新計画」などの制度も用意されており、中小企業が新たな事業計画や製品開発を進める際に、計画を提出することで、金融機関からの優遇融資や税制優遇が受けられる可能性があります。
これらの制度は、中小企業が新しいビジネスモデルを構築し、効率的な経営を実現するための後押しとなり、長期的な競争力の向上に貢献しています。
事業承継支援制度と中小企業向け税制優遇
中小企業の存続には、スムーズな事業承継が重要です。特に経営者の高齢化が進む中、後継者不足が深刻な課題となっており、国は事業承継を支援するためにさまざまな制度を整備しています。
たとえば、「事業承継・引継ぎ支援センター」や「事業承継補助金」などがあり、これらは後継者に対して事業承継のための資金やノウハウ提供を行い、スムーズな引き継ぎをサポートします。
さらに、中小企業向けの税制優遇策として、事業承継税制が設けられています。
これにより、事業承継の際に発生する相続税や贈与税の負担を軽減し、経営者交代を円滑に進めることが可能です。この税制は、一定の要件を満たすことで、相続や贈与による株式取得に関わる税負担を猶予し、後継者が負担を軽減しながら事業を継続できるよう支援しています。
まとめ:自社が中小企業に当てはまるか確認しよう
中小企業は、日本経済を支える重要な存在であり、地域社会や特定分野において独自の価値を提供しています。
資本金や従業員数によって定義される中小企業の基準を理解することで、企業が利用できる支援施策の内容や大企業との違いも明確になります。
この記事で紹介した情報をもとに、自社がどの分類に該当するかを確認し、活用可能な支援制度や助成金を見逃さないようにしましょう。