M&Aのプロセスでは、予期せぬ追加資金が必要になることが多々あります。
そんな時に迅速に資金を調達できる手段として「ブリッジローン」が活用されています。ブリッジローンを活用すれば短期間での資金調達が可能な一方で、高金利である点には注意が必要です。
本記事では、M&Aにおけるブリッジローンの活用方法、メリット・デメリット、効果的な利用のポイントについて解説します。
- この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)
ブリッジローンとは
企業や個人が短期間で急な資金ニーズに対応するために利用されるのが「ブリッジローン」です。
一般的な融資では手続きに時間がかかる場合もありますが、ブリッジローンであれば迅速に資金を調達できるため、短期的な資金不足をカバーするのに適しています。
以下で、ブリッジローンの定義と特徴について説明します。
ブリッジローンの定義
ブリッジローンは、急な資金ニーズを短期間で満たすための融資形態です。
その名の通り、資金調達までの「橋渡し」をする役割を持ち、資金が必要な時期に応じて迅速に対応できる「つなぎ融資」として広く利用されています。通常の融資では時間がかかる場合でも、ブリッジローンであれば比較的短期間での資金調達が可能です。
特に企業が他社を買収する際や、個人が住宅を購入する際に、一時的に必要な資金をカバーするためによく用いられます。
ブリッジローンの特徴
ブリッジローンの最大の特徴は、短期間での資金調達が可能であることです。
通常、数カ月程度の期間で必要な資金を迅速に手に入れることができるため、急なキャッシュフローのニーズに対応しやすくなります。
ただし、一般的な融資に比べて金利が高い傾向にあるため、その分コストがかかる点には注意が必要です。
これは金融機関側が短期間の高リスク融資に対するリスクをカバーするためでもあります。
また、ブリッジローンは通常の融資と異なり、保証人が不要なケースが多いのも特徴の一つです。
保証人の手配に時間がかからず、手続きが迅速に進められるため、緊急の資金調達が求められる場面で特に役立ちます。
このように、ブリッジローンは資金調達の迅速性と柔軟性を重視した「つなぎ」の手段として、多くの企業や個人に活用されています。
M&Aにおけるブリッジローンの活用方法
M&Aのプロセスでは、企業買収に必要な資金を迅速に確保することが重要です。
しかし、通常の融資手段では時間がかかることも多く、特に予期しない資金ニーズが発生した場合には柔軟に対応する必要があります。
こうした場面で役立つのが「ブリッジローン」です。以下では、具体的な活用シーンやその手法、実際の事例について解説します。
ブリッジローンが使われるシーン
M&Aにおけるブリッジローンは、以下のようなシチュエーションで特に有効です。
買収対象企業の企業価値が予想以上に高く、追加資金が必要な場合
M&Aを進める中で、買収対象企業の価値が当初の見積もりよりも高く評価されることがあります。
このような場合、準備していた資金では不足してしまうため、追加の資金調達が必要です。ブリッジローンを活用すれば、迅速に資金を補填することが可能です。
緊急でキャッシュが必要だが、従来の融資手段では間に合わない場合
M&Aプロセス中には、急な資金ニーズが発生することがあります。
通常の銀行融資は審査や手続きに時間がかかるため、緊急時にはブリッジローンが役立ちます。
短期間で資金を調達できるため、M&Aの進行をスムーズに維持できます。
M&Aが完了するまでの一時的な資金不足を解消するために使用される
M&Aの最終契約までの間、キャッシュフローが不安定になることがあります。
そのような場合にブリッジローンを利用して、資金の不足を一時的に補うことで、取引が無事に完了するまでの「つなぎ」としての役割を果たします。
SPC(特別目的会社)との連携による活用
ブリッジローンは、特別目的会社(SPC)を活用することで、さらに効率的な資金調達を可能にします。
SPCとは、特定の目的のために設立された法人であり、以下のようにブリッジローンと連携して利用されることがあります。
SPCを活用した資金調達と返済の流れ
企業がM&Aを行う際、SPCがブリッジローンで買収資金を調達します。
この資金を用いて買収が完了した後、SPCと買収した企業を合併することで、ブリッジローンの返済が行われます。この手法は、M&A完了後の企業収益を借入金の返済に充てることができるため、資金調達のリスクを軽減するのがメリットです。
資金調達のリスクを自社で負わないメリット
SPCを活用することで、買収に伴う資金調達のリスクを自社に直接負わせることなく、ブリッジローンを利用することが可能です。これは、企業の財務状態に影響を与えることなく、M&Aを進められる大きな利点です。
実例:花王とカネボウ化粧品、パナソニックとブルーヨンダー
実際のM&Aにおいて、ブリッジローンがどのように活用されたのかを示す事例を紹介します。
花王とカネボウ化粧品の買収
2006年、花王株式会社は産業再生機構からカネボウ化粧品の株式を取得する際に、ブリッジローンを利用しました。買収に必要な資金は一部を手元資金で賄い、残りをブリッジローンで調達しました。
その後、三井住友銀行やゴールドマン・サックス証券などが共同主幹事を務めたシンジケート・ローンを利用し、ブリッジローンを返済しています。この事例から、買収をスムーズに進めるための短期的な資金調達手段としてブリッジローンが効果的に機能したことがわかります。
パナソニックとブルーヨンダーの買収
2021年、パナソニックは米ブルーヨンダーの株式を取得する際に、ブリッジローンを活用しました。パナソニックは当初からブルーヨンダーの20%の株式を保有していましたが、残りの80%を追加取得し完全子会社化するために、約71億ドルの買収資金を用意しました。
そのうち約35億ドルを手元資金で賄い、残りをブリッジローンで調達しています。パナソニックはブリッジローンを劣後債に借り換えることで、短期的な資金調達を長期の安定した資金に切り替えました。
事例から学べるポイント
これらの事例は、企業が急な資金ニーズに対処するためにブリッジローンをどのように活用できるかを示しています。
特に、M&Aプロセスにおいては迅速な資金調達が求められるため、ブリッジローンの柔軟性と即時性が非常に重要です。
また、パナソニックの例のように、後に他の資金調達手段に借り換えることでリスクを分散させる手法も有効です。
ブリッジローンのメリット
ブリッジローンは、急な資金ニーズに対応するために設けられた短期融資の手段として、特に企業経営やM&Aなどの場面で重要な役割を果たしています。ここでは、ブリッジローンを利用する際の主なメリットについて解説します。
迅速な資金調達
ブリッジローンの最大のメリットの一つは、その「迅速な資金調達能力」です。通常の銀行融資では、申請から資金が実際に手元に届くまでに、数週間から数カ月もの時間がかかることがあります。
これは、銀行が融資先の信用調査や返済能力の確認、担保の評価など、多くのステップを経る必要があるためです。
しかし、急な資金ニーズが発生した場合、このような時間をかけている余裕はありません。
ブリッジローンでは、こうした従来の融資に必要なプロセスが大幅に簡略化されており、短期間での審査・融資が可能です。資金調達にかかる時間が数日から数週間に短縮されるため、特にM&Aや新規プロジェクトの立ち上げ、予期せぬキャッシュフローの問題に対応する際に非常に有効です。
また、銀行融資に比べて書類の手続きが少なく、審査の過程も迅速に進むため、資金調達のスピードを優先する企業にとって魅力的な選択肢となります。
たとえば、M&Aの場面では、買収先企業の価値が予想以上に高まった場合や、競合が現れて早急に契約を完了させる必要がある場合、ブリッジローンがあることで迅速に追加資金を確保し、機会を逃さずに済むのです。
このように、スピードが要求される資金調達において、ブリッジローンの価値は非常に高いと言えます。
保証人不要
ブリッジローンのもう一つの大きなメリットは、「保証人が不要」である点です。
一般的な銀行融資では、融資先の信用力を補完するために、個人や企業が保証人として立つことが求められるケースが多くあります。
しかし、保証人を立てるには、その選定や交渉、さらに保証人の財務状況の確認など、時間と労力がかかるため、資金調達においてスムーズに進まないことも少なくありません。
一方、ブリッジローンは短期間の融資であり、緊急性が高い場面で利用されることが多いため、保証人を不要とする場合が一般的です。これにより、保証人の選定にかかる時間や手間を削減できるため、迅速な資金調達が可能になります。
また、保証人が不要なことで、特に中小企業やスタートアップ企業など、信用力に課題がある企業にとっても利用しやすくなるのが利点です。
さらに、ブリッジローンでは、保証人を立てる代わりに、資金の返済を短期間で行うことが求められます。これはリスクが高いというデメリットもあるものの、迅速に資金を確保したい場合には非常に有効です。
特に、取引先との支払い条件の変更や、一時的なキャッシュフローの問題に対処するためには、ブリッジローンが持つ「保証人不要」という特性が役立ちます。
このように、ブリッジローンは短期間での資金調達を可能にし、急な資金ニーズに柔軟に対応できる手段です。保証人を必要としない点や手続きの簡便さなどのメリットから、企業や個人が多様なシーンでブリッジローンを活用している理由が理解できるでしょう。
ブリッジローンのデメリット
ブリッジローンは迅速に資金を調達できるメリットがありますが、一方で利用にあたってのデメリットも少なくありません。
特に、金利や返済条件に関するリスクが大きいため、利用する際には慎重な計画が求められます。
ここでは、ブリッジローンの代表的なデメリットについて説明します。
高金利と短期返済
ブリッジローンの最大のデメリットは、その「高金利」と「短期返済」の条件です。通常の銀行融資に比べて金利が非常に高く設定されることが多く、これは金融機関が短期間での融資に対するリスクをカバーするためです。
たとえば、通常の融資であれば数%程度の金利で済むところが、ブリッジローンでは10%以上の高金利が設定されるケースも少なくありません。
このため、借り手は短期間で多額の利息を支払わなければならず、結果的に資金コストが非常に高くなる可能性があります。
さらに、ブリッジローンは短期での返済が求められることが一般的です。
通常、3カ月から1年以内に一括返済が必要とされるため、借り手はその期間内に資金を返済する見通しを立てておく必要があります。
しかし、事業の収益が見込めなかったり、予定していた資金調達が滞ったりすると、短期での返済が難しくなり、資金繰りに苦労することになります。
このように、一括返済のプレッシャーと高金利の負担が、ブリッジローンを利用する際の大きなリスク要因となります。
遅延損害金や手数料のリスク
ブリッジローンには、高金利だけでなく、返済が遅れた際に「遅延損害金」や「高額な手数料」が発生するリスクもあります。
ブリッジローンは緊急時の資金調達手段であるため、金融機関は短期間での返済を強く求めます。そのため、返済が遅れた場合には高額な遅延損害金が課されることがあり、これにより借り手の負担がさらに大きくなります。
たとえば、返済が1日でも遅れると、通常の融資に比べて高い損害金が発生し、元々高い金利に加えて、さらに余計なコストが増えることになります。
また、事務手数料も通常の融資よりも高額に設定されることがあり、借り入れの際にはこの手数料が追加費用として発生します。
これらの手数料や遅延損害金は、短期間での返済が前提のブリッジローンならではの特徴であり、万が一返済が遅れた場合のリスクを事前にしっかりと把握しておく必要があります。
これらのコストは、ブリッジローンの利便性を上回るリスクとして捉えられることがあり、特に資金繰りに余裕がない場合には慎重に検討するべきポイントです。
このように、ブリッジローンは迅速な資金調達を可能にする一方で、高金利と厳しい返済条件がデメリットとして存在します。短期での資金不足を補うために利用する場合には、返済計画をしっかりと立て、遅延や追加コストのリスクを最小限に抑える対策が必要です。
利用する際には、これらのデメリットを十分に理解した上で、最適な資金調達手段かどうかを慎重に判断することが重要です。
ブリッジローンを活用する際のポイント
ブリッジローンは短期間で急な資金ニーズに応える有効な手段ですが、その反面、高金利や短期返済といったデメリットも存在します。
これらの特徴を考慮し、ブリッジローンを適切に活用するためには、事前の準備やリスク管理が非常に重要です。
以下に、ブリッジローンを利用する際のポイントを解説します。
明確な目的と返済計画の策定
ブリッジローンを利用する際には、明確な目的と返済計画を策定することが不可欠です。
ブリッジローンは通常、短期間での返済が求められるため、事前に具体的な資金の使い道を明確にしておかなければ、借り入れが認められないこともあります。
たとえば、M&Aのための資金調達、事業拡大のための一時的な資金確保、あるいは新しいプロジェクトの立ち上げなど、目的が具体的であればあるほど、金融機関も融資の可否を判断しやすくなります。
また、ブリッジローンの返済には短期間での一括返済が求められることが多いため、綿密な返済計画を立てることが重要です。
返済のための資金調達が見込めるタイミングや、他の融資に切り替える計画など、確実に返済できる根拠を示すことができれば、融資の申請も通りやすくなります。
無計画にブリッジローンを利用すると、返済期限が迫っても資金が用意できず、追加のコストや損害が発生するリスクが高まるため、事前準備を怠らないことが成功の鍵です。
ハイリスクハイリターンを理解する
ブリッジローンは短期間で大きな資金を調達できるというメリットがありますが、その反面、リスクも非常に高いです。
高金利での借り入れが一般的であり、万が一返済が遅れた場合には遅延損害金が発生するなど、コストが急増するリスクがあります。
こうした特性から、ブリッジローンを利用する際には、ハイリスクハイリターンな性質を十分に理解しておくことが求められます。
特に「急いで資金を調達したい」「他の方法では間に合わない」といった状況でブリッジローンが選ばれるケースが多いため、リスクをコントロールするための計画が重要です。
たとえば、返済に必要な資金の目処を早めに立てることや、最悪のシナリオも考慮して代替策を用意しておくことが有効です。適切なリスクマネジメントができなければ、ブリッジローンの利便性がかえって大きな負担となる可能性があるため、事前の準備を怠らないようにしましょう。
他の資金調達手段との比較検討
ブリッジローンを選択する前に、他の資金調達方法との比較検討を行うことも重要です。ブリッジローンは高金利で短期返済が求められるため、場合によっては他の手段がより適していることもあります。
たとえば、企業が資金を調達する際には、公募増資や第三者割当増資、LBO(レバレッジド・バイアウト)など、さまざまな選択肢があります。
特にM&Aにおいては、複数の資金調達方法を組み合わせることで、資金調達のコストを抑えたり、リスクを分散したりすることが可能です。
たとえば、第三者割当増資を利用して株式を特定の投資家に引き受けてもらう方法や、LBOを利用して買収先企業の将来のキャッシュフローを担保に資金を調達する方法などがあります。
これらの選択肢を検討する際には、それぞれの方法の特性やコスト、リスクを総合的に評価し、自社にとって最適な手段を選ぶことが重要です。
専門家のサポートを受ける
ブリッジローンを含む資金調達の方法については、専門家のサポートを受けることが非常に有効です。
資金調達やM&Aに関する豊富な知識と経験を持つ専門家であれば、状況に応じた最適な資金調達の手段を見つける手助けをしてくれます。
特に、M&Aプロセスは複雑であり、法律や財務、税務など多岐にわたる知識が必要です。専門家の助言を得ることで、資金調達に伴うリスクを減少させ、M&Aをスムーズに進めることができます。
また、専門家のサポートを受けることで、ブリッジローンの活用に関するリスクを事前に把握し、適切な対策を講じることが可能です。たとえば、金融アドバイザーや弁護士、会計士といった専門家は、資金調達の法的側面や契約条件の詳細を確認し、必要に応じて交渉をサポートしてくれます。
これにより、ブリッジローンを活用する際のトラブルを回避し、資金調達の成功率を高めることができるのです。
このように、ブリッジローンを有効に活用するためには、事前の計画とリスクの把握、他の資金調達手段との比較検討、そして専門家のサポートが欠かせません。
これらのポイントをしっかりと押さえることで、ブリッジローンのメリットを最大限に活かし、成功へとつなげることができるでしょう。
まとめ: ブリッジローンは賢く活用しよう!
ブリッジローンは、急な資金ニーズに対応できる便利な手段ですが、高金利や短期返済などのリスクもあります。
明確な目的と返済計画を立て、他の資金調達手段と比較検討しながら利用することで、その効果を最大限に引き出すことが可能です。
M&Aをスムーズに進めるために、ブリッジローンの特性を理解し、賢く活用していきましょう。