M&Aにおけるソーシングは、候補企業を見つけ出し、交渉へと進めるための重要なプロセスです。M&Aソーシングとは、M&A取引前の交渉のプロセス全体を指す言葉です。交渉がうまくまとまらない限り、M&A取引を成功させることは難しくなるでしょう。
本記事では、ソーシングの意味やその手順、そして2つの代表的な手法であるプル型ソーシングとプッシュ型ソーシングについて解説します。
さらに、M&A仲介会社にソーシングを依頼する際のポイントも紹介し、M&Aを成功させるための実践的なアドバイスを提供するので、ぜひ参考にしてください。
- この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)
M&Aにおけるソーシングとは?
M&Aにおけるソーシングは、M&Aプロセスの最初のステップであり、企業が買収または売却のために候補企業を見つけ、交渉に至るまでの一連の流れを指します。
ソーシングは、M&Aの成否を左右する重要な要素であり、買い手と売り手の双方にとって納得のいく取引を実現するためには適切な企業の選定が不可欠です。
ここでは、ソーシングの意味とその重要性について解説します。
ソーシングの意味
M&Aにおけるソーシングとは、候補企業を見つけるための情報収集から交渉に至るまでのプロセス全体を指す言葉です。
具体的には、買い手側や売り手側の条件に合う企業をリサーチし、その企業の財務状況や市場でのポジション、経営戦略などを分析した上で絞り込む作業を行います。
この段階での候補選定が、M&A全体の成功を左右するため、特に入念な準備と戦略的な選定が求められます。
また、ソーシングでは、取引のニーズに合致する企業を効率的に探し出し、最適な取引相手との交渉に進むための計画が必要です。
取引先の選定から交渉までの流れを体系化して進めることが、スムーズなM&Aを実現するための第一歩となります。
ソーシングの重要性
M&Aにおいてソーシングは、買い手企業と売り手企業のニーズが合致し、最適な相手を見つけるために非常に重要なプロセスです。
買い手側は事業拡大や新規事業の創出、技術や人材の獲得を目的とすることが多く、売り手側は後継者問題の解決や従業員の雇用維持、創業者利益の確保などを目的としています。
これらの異なるニーズを持つ双方が満足するためには、条件が一致する相手を的確に選び出すことが必要です。
特に、M&Aの交渉が進む中で双方の条件が合わない場合、取引が破談になるリスクが高まります。そのため、ソーシングの段階でしっかりと候補企業を選定し、互いのニーズが合致しているかどうかを確認することが重要です。
この段階での失敗は、後の交渉プロセス全体に悪影響を与えかねません。
加えて、ソーシングには広範なネットワークと専門知識が求められます。特に中小企業のM&Aでは、企業の情報を多角的に収集し、精緻な分析を行うことが成功への鍵です。
そのため、多くのケースではM&A仲介会社のような専門家が関与し、買い手・売り手双方にとって最適な相手を見つけ出すサポートを行っています。これにより、取引のスムーズな進行と満足のいく結果を得ることができます。
M&Aにおけるソーシングの手順
M&Aのソーシングは、M&Aプロセスの成功を左右する重要なステップです。
ここでは、ソーシングの手順を順を追って説明します。目的と条件の明確化から始まり、情報収集、ロングリストとショートリストの作成、候補企業との交渉までの一連の流れを理解することが、M&Aの成功に繋がります。
1. M&Aの目的と条件の明確化
M&Aプロセスの最初のステップは、取引を行う目的や条件を明確にすることです。
明確な目的や条件を持つことで、交渉相手を見つけやすくなり、最終的な成功に繋がります。目的が曖昧なままだと、選定プロセスが混乱し、時間やコストが無駄になってしまう可能性があります。
売り手側の目的
売り手企業はさまざまな理由でM&Aを検討します。以下のような目的が典型的です:
- 後継者不在問題の解決: 後継者がいないため、M&Aを通じて企業を次世代に引き継ぐ。
- 従業員の雇用維持: 会社の存続が厳しい場合、M&Aで強力な企業に引き継ぐことで、従業員の雇用を守る。
- 創業者利益の確保: 創業者が会社の売却によって得られる利益を最大化するための選択肢としてM&Aを検討する。
買い手側の目的
一方、買い手企業も異なる目的を持ってM&Aを検討します。以下のような目標が代表的です:
- 新規事業の創出: 既存事業とのシナジー効果を期待し、新たな分野に進出するためにM&Aを活用する。
- 人材やノウハウの獲得: 特定のスキルや技術を持った企業を買収し、自社の成長を促進する。
- 事業規模の拡大: 市場シェアを広げ、競争力を強化するために、他企業を吸収・合併する。
目的を明確にすることで、その後の選定プロセスがスムーズになり、交渉も効果的に進められます。
2. 候補企業の情報収集
次に行うのが、候補企業の情報収集です。
この段階では、業界トレンドや競合他社の動向、そして候補企業の財務状況や市場ポジションなどの詳細なデータを収集します。M&A仲介会社のネットワークや専門家の助けを借りながら、より広範な情報を得ることが成功のカギとなります。
情報収集は、単なる候補企業リストの作成ではなく、自社の目的に合致する企業がどのような条件にあるかを把握するための重要なプロセスです。これにより、候補企業の数を増やすだけでなく、質の高い企業をリストアップすることができます。
3. ロングリストとショートリストの作成
収集した情報をもとに、候補企業を絞り込む段階に移ります。この段階では、ロングリストとショートリストという2つのリストを作成します。
ロングリストの作成
ロングリストは、条件に合う多くの候補企業をピックアップしたものです。
通常、数十社から百社以上の企業がリストアップされることが一般的です。ロングリストでは、企業規模や業種、地理的条件、財務状況など、比較的広い条件で候補企業を選定します。
この段階では、可能な限り多くの企業をリストに含め、絞り込みを行う前の広範な情報収集が行われます。ロングリストの精度がその後のショートリストに大きく影響を与えるため、ここでのリスト作成は慎重に進める必要があります。
ショートリストの作成
ロングリストからさらに絞り込んだのがショートリストです。
ショートリストは、最終的に交渉相手となり得る企業のリストであり、条件に最も合致する企業を数社選びます。ここでは、売り手・買い手双方の条件がより明確に反映されている企業が選定されます。
ショートリストに絞り込むことで、実際の交渉に進む準備が整います。この段階で慎重に候補を選定しないと、後の交渉で問題が発生するリスクが高まるため、最適な企業を選び出すことが求められます。
4. 候補企業との交渉
ショートリストに基づいて、候補企業との交渉が始まります。この段階では、双方の条件をすり合わせ、具体的な取引条件の調整が行われますが、情報管理が特に重要です。
交渉を進める際には、秘密保持契約(NDA)を締結することで、取引に関する機密情報が外部に漏れないように保護します。
NDA締結後、具体的な企業情報を開示し、条件交渉を開始します。このプロセスでは、双方のニーズを踏まえた譲歩や調整が行われ、最終的なM&A契約へと進むための重要な段階となります。
交渉を円滑に進めるためには、細かな条件のすり合わせや、双方の利益を考慮した譲歩が必要です。この段階で合意に至るかどうかが、M&Aの成功に直結します。
M&Aにおけるソーシングの2つの手法
M&Aにおけるソーシングには、一般的に「プル型」と「プッシュ型」の2つの手法があります。
それぞれの手法には独自の特徴があり、どちらを選ぶかは、企業の状況やM&Aの目的に応じて異なります。ここでは、それぞれの手法の具体的な内容とメリット・デメリットについて解説します。
プル型ソーシングとは?
プル型ソーシングとは、M&A仲介会社やコンサルタントなどの外部専門家を利用して、候補企業を引き込む手法です。この方法では、企業自身が直接候補企業にアプローチするのではなく、仲介会社がその役割を担います。
M&A仲介会社は膨大な企業リストや業界における豊富なネットワークを駆使して、多数の候補企業をリストアップします。
プル型ソーシングの特徴は、専門家の支援を受けることで、M&Aのプロセスがスムーズに進む点です。特にM&Aの経験が浅い企業や、自社での情報収集が困難な場合には、非常に有効な手法です。
また、候補企業のリストを幅広く収集し、適切な選定を行うため、条件に合う企業を見つけやすくなります。これは、仲介会社の持つ広範なデータベースやネットワークが活用されるためです。
プル型ソーシングのメリット
プル型ソーシングの最大のメリットは、M&Aに精通した専門家のサポートを受けられる点です。
M&A仲介会社は、過去の成功事例や失敗事例を通じて培った豊富な知識を持ち、候補企業の選定から交渉までをスムーズに進めるノウハウを有しています。
また、仲介会社が多くの候補企業をリストアップしてくれるため、自社だけでは見つけられなかった候補企業に出会える可能性が高まります。
さらに、仲介会社を介することで、情報の精度も向上します。専門家が候補企業の財務状況や経営状態など、詳細な情報を提供してくれるため、買収リスクを事前に把握することが可能です。
これにより、M&Aの成功率が高まり、交渉プロセスも効率的に進められるでしょう。
- 仲介会社のサポートが得られる: M&Aの経験が少ない企業でも、専門家のサポートを受けることでプロセスを円滑に進められます。
- 多くの候補企業から選定できる: 仲介会社の広範なネットワークとデータベースにより、自社の条件に合う候補企業を広範囲から選定することができます。
プル型ソーシングのデメリット
一方で、プル型ソーシングにはデメリットも存在します。
まず、仲介会社を利用するため、手数料やコストが発生する点です。特に中小企業にとっては、これらの費用が負担になることもあります。
さらに、仲介会社とのコミュニケーションが重要であり、自社の希望や目的を正確に伝えなければ、適切な候補企業を見つけることが難しくなる可能性もあります。
仲介会社は多数の案件を同時に扱っているため、自社の案件に対する優先度が下がってしまうリスクも存在します。このため、仲介会社との緊密な連携が必要となり、コミュニケーションの質が成功のカギを握ることになります。
- 手数料やコストが発生する: 仲介会社を介するため、手数料や初期費用が必要となり、特に中小企業にとっては負担になることがあります。
- 仲介会社とのコミュニケーションが重要: 自社のニーズやM&Aの目的を仲介会社に的確に伝えられなければ、適切な候補企業を見つけることが難しくなる可能性があります。
プッシュ型ソーシングとは?
プッシュ型ソーシングは、企業が自社のリソースやネットワークを活用して、積極的に候補企業にアプローチする手法です。この手法では、仲介会社を介さずに、自社の経営者や担当者が直接候補企業と交渉を進めていきます。
プッシュ型ソーシングは、独自のネットワークを活かしてターゲット企業を見つけるため、コストが抑えられる点が特徴です。
プッシュ型ソーシングは、迅速な意思決定が求められる場合や、特定の企業に対して直接アプローチしたい場合に有効です。
また、仲介会社を利用しないことで、情報の漏洩リスクを軽減し、自社で交渉プロセスをコントロールできるという利点があります。自社で関係性を築いてきた企業との間でM&Aを進める場合、この手法が適していることが多いです。
プッシュ型ソーシングのメリット
プッシュ型ソーシングの最大のメリットは、コストを抑えられる点です。仲介会社を介さないため、手数料やコンサルタント料が発生せず、M&Aにかかる全体的なコストを削減できます。また、自社のネットワークや営業力を活かして直接交渉を行うことで、迅速な意思決定が可能です。
さらに、プッシュ型ソーシングでは、仲介者が介在しないため、交渉がスムーズに進む場合が多いです。企業間の直接的なコミュニケーションが図れるため、細かい条件の調整やニーズのすり合わせが迅速に行われ、結果として交渉がスピーディに進行します。
- コストを抑えられる: 仲介会社を介さないため、手数料やコストが削減され、M&Aの予算を効率的に使うことができます。
- 交渉を迅速に進められる: 自社のネットワークを活用して、直接交渉が進むため、意思決定のスピードが速く、タイムリーな取引が実現します。
プッシュ型ソーシングのデメリット
一方で、プッシュ型ソーシングにはリスクも伴います。
まず、自社のネットワークに限られた候補企業しか含まれていない場合、最適なターゲットを見つけることが難しくなる可能性があります。仲介会社が持つ広範なデータベースを活用できないため、候補企業の範囲が限定されてしまうのです。
また、M&Aに関する専門知識が不足している企業では、契約の細部や法的な手続きでリスクを抱えることがあります。特に、法務や財務に関する専門的なサポートがない状態で進めると、交渉や契約時に不利な状況に陥る可能性があります。
こうしたリスクを避けるためには、プッシュ型ソーシングを行う際に、専門家のアドバイスを適切に受けることが重要です。
- 候補企業が限られる: 自社のネットワークに頼るため、候補企業の選択肢が限られ、最適な相手を見つけることが難しくなる可能性があります。
- 専門知識の不足がリスクになる: M&Aに関する専門知識が不足していると、契約や交渉で不利な状況に陥る可能性があり、リスクが増大します。
M&A仲介会社にソーシングを依頼する際のポイント
M&Aを成功させるためには、適切な仲介会社を選び、準備を整えて進めることが重要です。ここでは、仲介会社にソーシングを依頼する際に押さえておくべき重要なポイントを解説します。
1. M&Aの目的と戦略を明確にする
M&A仲介会社に依頼する前に、まず自社のM&Aの目的と戦略を明確にすることが不可欠です。
M&Aは目的を達成するための手段にすぎず、その目的が明確でなければ、仲介会社もどのような候補企業を選定すべきか判断が難しくなります。
たとえば、売り手側の企業であれば「後継者不在問題の解決」や「従業員の雇用維持」、買い手側であれば「事業規模の拡大」や「新規事業への参入」といった具体的な目的を設定することが必要です。目的が定まっていれば、その後の交渉や企業選定もスムーズに進められるでしょう。
さらに、どのような条件でM&Aを成功とするか、優先順位を整理しておくことも大切です。
価格が最重要なのか、あるいは従業員の雇用や企業文化の維持が優先されるのか、といった点を明確にすることで、戦略が具体化します。目的と戦略が明確であれば、仲介会社に正確な指示を出せ、結果的に満足のいくM&Aの成立へとつながります。
2. 自社の業種や規模に合った仲介会社を選ぶ
M&A仲介会社を選ぶ際には、自社の業種や規模に合った会社を選定することが重要です。仲介会社には大手から中小規模のものまでさまざまなタイプがあり、それぞれ得意とする業種や規模が異なります。
例えば、全国規模で業務を展開している大手仲介会社であれば、豊富なリソースや広範なネットワークを持っており、規模の大きな案件や多業種に対応できる強みがあります。
一方、中小規模の仲介会社や特定の業種に特化している仲介会社は、特定の分野で深い知識や経験を持ち、よりニッチな市場でのM&Aに強みを発揮することがあります。
選定の際には、過去の実績や専門性、仲介会社がどのような業種・規模の案件を得意としているかを確認することが必要です。自社のM&Aニーズに合った会社を選ぶことで、より効果的なソーシングが可能となり、成約率も高まるでしょう。
3. 手数料の体系を確認する
M&A仲介会社に依頼する際には、手数料の体系について事前に確認しておくことが重要です。手数料には、相談料や着手金、中間金、成功報酬などが含まれており、仲介会社によってこれらの料金体系が異なります。
多くの仲介会社では、最終的な契約が成立した際に成功報酬が発生しますが、契約前にも着手金や中間金が必要になる場合があります。特に着手金は、契約開始時に支払うことが多く、これが無料の場合や固定額の場合もあるため、料金体系を詳細に把握しておくことが重要です。
また、仲介会社によっては「レーマン方式」と呼ばれる、取引金額に応じて段階的に手数料が決まる方式を採用している場合が多く、この計算方法も事前に確認しておく必要があります。予算に応じた適切な仲介会社を選び、思わぬ費用の増加を避けるためにも、料金体系についてしっかりと理解しておきましょう。
4. 秘密保持契約(NDA)を締結する
M&Aにおいては、売り手側・買い手側ともに機密情報がやり取りされます。そのため、仲介会社や候補企業と交渉を始める前に、必ず秘密保持契約(NDA)を締結することが非常に重要です。
NDAを結ぶことで、相手方が機密情報を第三者に漏らすことを防ぎ、取引における情報の安全性を確保できます。
特に、M&Aの交渉が進行中であることが外部に知られてしまうと、企業の評判に悪影響を与えたり、従業員や取引先に不安をもたらすリスクがあります。こうしたリスクを最小限に抑えるためにも、NDAは早い段階で締結しておくことが必須です。
また、M&Aの進行過程で提供される情報は非常に機密性の高いものが多いため、情報漏洩によるリスクを未然に防ぐためにも、NDAの締結は欠かせません。契約内容については、法律の専門家と相談しながら慎重に進めるようにしましょう。
5. 自社の正確な情報を開示できるよう準備する
仲介会社と候補企業に対して正確な情報を伝えるために、事前に自社の情報を整理し、必要な書類や資料を準備しておくことが重要です。
正確な情報が提供されなければ、候補企業との交渉がスムーズに進まず、場合によっては交渉が不成立に終わる可能性もあります。
具体的には、会社概要や財務諸表、定款、株主名簿、組織図、主要な契約書、許認可証などを事前に整理し、いつでも提供できるように準備しておきましょう。
また、事業の強みや競争優位性だけでなく、弱みや課題についても正直に開示することが求められます。これにより、候補企業との信頼関係を築き、M&Aの成功につながります。
さらに、仲介会社に対しても自社の現状や目的、課題を正確に伝えることで、より的確なサポートを受けることができます。交渉が始まる前に、必要な資料やデータをしっかりと準備しておくことで、M&Aプロセスをスムーズに進めることが可能となるでしょう。
まとめ: ソーシングを成功させるための実践的ポイントをおさえよう!
M&Aにおけるソーシングは、M&Aプロセスの第一歩であり、候補企業の選定と交渉がその成功を左右します。
プル型ソーシングでは仲介会社の専門的なサポートを受け、広範な候補企業から選定することができる一方、プッシュ型ソーシングではコストを抑えつつ自社で交渉を進めることができます。
どちらの手法を選ぶにしても、目的の明確化、適切な仲介会社の選定、正確な情報の開示などがM&Aの成功に不可欠です。これからM&Aを進める企業は、各手法の特徴を理解し、自社の状況に合ったアプローチを選びながら、万全の準備を整えましょう。