クロスボーダーM&Aは、グローバルな事業展開を加速させ、企業の成長を促進する重要な手法です。国内市場の成長が鈍化する中、多くの日本企業が新たな成長機会を求め、海外進出を積極的に進めています。
しかし、成功を収めるには、リスクの管理や現地事情への理解が不可欠です。日本とは異なる商慣行がM&Aの障害となる可能性もあるので注意しなければなりません。
本記事では、クロスボーダーM&Aの手法やメリット、リスクについて解説し、成功のために必要なポイントを考察します。
- この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)
クロスボーダーM&Aとは
クロスボーダーM&Aは、企業が国境を越えて成長や新たな市場を追求するために行う重要な手法です。
国内市場の成長鈍化や人口減少が深刻化する中で、多くの日本企業が海外進出を目指しており、クロスボーダーM&Aがその手段として注目されています。
クロスボーダーM&Aの定義と背景
クロスボーダーM&Aとは、国境を越えて行われる企業の合併や買収を指します。具体的には、譲渡企業や譲受企業のどちらかが外国企業である場合に、この形態が用いられます。
国内市場が成熟し、成長が鈍化する中で、企業が成長を続けるためには新たな市場への進出が重要となってきます。特に、日本企業にとっては人口減少による国内市場の縮小が顕著であるため、海外市場への進出は企業にとって欠かせない戦略となっています。
企業がクロスボーダーM&Aを選ぶ背景には、コスト削減や成長市場への迅速なアクセスの必要性があります。日本国内の人件費や生産コストの上昇、加えて原材料費やエネルギーコストの高騰などが企業の利益を圧迫しています。
一方で、海外市場は比較的労働コストが低く、市場の成長率も高いため、多くの企業がこの手法を活用し、新たなビジネスチャンスを模索しています。
クロスボーダーM&Aは、国内市場だけでは得られない技術や人材、ネットワークを短期間で取得できる点も大きなメリットです。
自社にないリソースを持つ企業を買収することで、競争力を強化し、グローバル市場でのプレゼンスを高めることができます。
また、成功すれば新たな市場でのシェアを獲得し、持続的な成長を実現することができるため、企業にとって極めて戦略的な選択肢です。
日本企業におけるクロスボーダーM&Aの動
日本企業におけるクロスボーダーM&Aの件数は、近年大幅に増加しています。
特にASEAN地域への進出が顕著で、経済産業省や民間のデータでもその傾向が明らかになっています。ASEAN諸国は、経済成長が続く新興市場として注目されており、現地企業とのM&Aを通じてビジネスを拡大する日本企業が増えています。
株式会社レコフのデータによれば、2022年にはASEAN諸国の企業を対象とした日本企業によるM&A件数が前年比で127.9%増加しました。このような伸びは、ASEAN地域の経済成長に加え、欧米市場での成長が停滞していることも影響しています。
特にIN-OUT型のクロスボーダーM&A、つまり日本企業が海外企業を買収する形態のM&Aが増加しており、アジア市場を中心とした海外進出の加速が見られます。
また、ASEAN市場は規制が比較的緩和されており、労働力も豊富であるため、日本企業が現地で事業を展開しやすい環境が整っています。
これに加えて、現地の企業を買収することで、既存のネットワークや顧客基盤を活用し、市場への迅速な参入を実現できる点も、クロスボーダーM&Aを促進している要因です。
クロスボーダーM&Aのメリット
クロスボーダーM&Aは、企業が新たな市場に迅速に進出し、成長を加速させるための強力な手法です。
国内市場が成長の限界を迎える中、多くの企業が海外進出を通じて競争力を維持し、さらなる発展を目指しています。
クロスボーダーM&Aのメリットは、単なる市場拡大にとどまらず、技術や人材の取得、コスト削減など多岐にわたります。
新規市場への迅速な進出
クロスボーダーM&Aの最大の利点の一つは、新規市場への迅速な進出が可能になることです。
通常、新たな市場にゼロから進出する場合、現地に拠点を構え、ビジネスを立ち上げるまでに多くの時間とコストがかかります。
しかし、クロスボーダーM&Aを活用すれば、既存のリソースやインフラを持つ現地企業を買収することで、こうした初期コストを大幅に削減できます。
さらに、現地企業のノウハウや人材、顧客基盤を即座に手に入れることができるため、事業の立ち上げがスムーズに行える点が大きな魅力です。
企業のグローバルなプレゼンス向上
クロスボーダーM&Aは、企業の国際的な認知度やブランド価値を一気に高める手段としても有効です。
新たな市場に進出し、競争力を持つ現地企業を買収することで、競合他社に対する優位性を確保しつつ、企業の信頼性や市場でのプレゼンスを高めることができます。
特に、アジアや欧米の市場でブランドの認知度を向上させることで、企業のグローバルな競争力が強化され、さらなる成長が期待できるでしょう。グローバル展開において、クロスボーダーM&Aは自社の存在感を一気に高める重要なステップです。
技術、人材、ネットワークの取得
クロスボーダーM&Aを通じて、買収先の企業が持つ技術や人材、販売ネットワークを自社に取り込むことができるという大きなメリットもあります。
たとえば、先端技術を持つ企業を買収することで、自社の技術力を短期間で強化することができ、競争力を高めることが可能です。
また、優秀な人材や現地の販売ネットワークを引き継ぐことで、事業運営が効率的に行え、迅速な市場拡大も期待されます。特に、技術革新が求められる業界や地域において、このメリットは企業の成長に不可欠な要素となります。
コスト削減と効率化
クロスボーダーM&Aは、コスト削減と効率化の観点からも大きな利点があります。
海外の地域、特に人件費や生産コストが日本よりも低い地域での事業展開を通じて、企業はコストの大幅な削減が可能です。生産拠点を海外に移すことで、現地の安価な労働力や原材料を活用し、国内での生産コストを抑えることができます。
また、法人税など税率が低い国に拠点を設置することで、税負担を軽減し、全体の事業効率を向上させることも可能です。このように、クロスボーダーM&Aを活用することで、企業は持続的なコスト削減と競争力の強化を実現できます。
クロスボーダーM&Aのリスクとデメリット
クロスボーダーM&Aは新しい市場に迅速に進出する効果的な手段ですが、その一方でさまざまなリスクやデメリットが存在します。
これらのリスクを正しく理解し、慎重に対応することが重要です。以下では、クロスボーダーM&Aに伴う代表的なリスクについて説明します。
政治・地政学的リスク
クロスボーダーM&Aを行う際、進出先国の政治や地政学的リスクを考慮しなければなりません。
特に、新興国や政情不安定な国での事業展開は、予期しないリスクに直面する可能性が高まります。
たとえば、ある国で政権交代や新たな政策が導入されると、外資系企業に対する規制が強化されたり、貿易制限や税率の引き上げなどが急に実施されることがあります。また、地政学的な問題や地域紛争も、事業活動に深刻な影響を与える要因となります。
ASEAN諸国や中東地域など、急速に成長している市場ではあるものの、こうした政治・地政学的リスクを事前に評価し、対策を講じることが不可欠です。
文化や言語の違いによるPMIの難しさ
クロスボーダーM&Aのもう一つの大きな課題は、文化や言語の違いによるPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)の難しさです。
企業同士の統合後、組織の文化や価値観が大きく異なる場合、従業員のモチベーション低下や業務の非効率化が起こる可能性があります。特に、言語の壁が存在する場合、コミュニケーションが円滑に進まず、意思疎通に時間がかかることがあります。
また、経営方針やビジネス慣行が異なることで、双方の企業が持つ強みを融合させることが難しくなります。日本企業がASEAN地域の企業を買収する際、現地の文化やビジネス習慣を理解することがPMI成功の鍵となりますが、このプロセスは通常、長い時間と労力を要します。
財務・法務リスク
クロスボーダーM&Aでは、買収先企業の財務情報や法的な透明性が不十分である場合、想定外のリスクを抱える可能性があります。
特に、経済や法制度が未成熟な国では、企業の財務情報が不正確だったり、法的な手続きが複雑であったりすることがあります。そのため、買収を検討する際には、徹底的なデューデリジェンスが不可欠です。
財務や法務の透明性が低い国では、デューデリジェンスに時間とコストをかけ、リスクを最小限に抑えるための措置が求められます。また、情報不足や不正確なデータがもたらすリスクを事前に評価し、適切な対策を講じることが重要です。
買収後のシナジー創出にかかるコストと時間
クロスボーダーM&Aで成功を収めるには、買収後にシナジーを生み出すための適切な計画が必要です。
しかし、統合プロセスにおいては、シナジー創出に多くのコストと時間がかかることがしばしばあります。
特に、企業文化やビジネスモデルの違いを調整し、従業員の教育や新たな業務フローの導入に時間を費やす必要があります。これにより、当初期待していたシナジー効果を実現するまでに、想定以上の時間がかかるケースも少なくありません。
また、統合の失敗が続けば、買収そのものが企業にとって負担となり、投資回収の遅れや業績低下を招く可能性もあります。
そのため、買収前からシナジーを実現するための戦略を明確にし、コストやリソースを適切に配分することが求められます。
クロスボーダーM&Aの手法
クロスボーダーM&Aにおいて、企業の買収・統合を実現するためには、さまざまな手法が活用されます。
これらの手法は、企業間の経済的・法的な結びつきをどう構築するかによって選ばれ、取引の性質や目的、進出先の国の法制度に応じて最適な方法が選定されます。
以下では、代表的な手法である「株式譲渡」「事業譲渡」および「三角合併と逆三角合併」について、各手法の特徴やメリット・デメリットを解説します。
株式譲渡による買収
株式譲渡は、クロスボーダーM&Aにおいて最も多く用いられる手法の一つです。
この方法は、譲渡企業の株主が所有する株式を譲受企業に譲渡することで、譲渡企業の経営権を取得し、企業を支配下に置くというものです。
株式譲渡は、手続きが比較的シンプルであることから、多くの企業が選ぶ手法となっています。
メリット
株式譲渡の最大の利点は、譲渡企業の経営権をスムーズに移転できる点です。
全株式を譲渡することで、譲受企業は譲渡企業の経営権を完全に取得し、企業全体をコントロールすることが可能です。また、譲渡企業の事業や資産、負債、人材、技術などを一度に引き継ぐことができるため、短期間での企業統合が可能です。
そのため、新規市場への迅速な参入や、既存のビジネスに新しい技術や資産を加えたい場合に適しています。
デメリット
一方で、株式譲渡にはいくつかのデメリットも存在します。
譲受企業は、譲渡企業が抱えるすべての負債や法的義務を引き継ぐため、デューデリジェンスによって事前にリスクを十分に評価する必要があります。特に、財務や法務の不透明さが残る場合、譲渡後に想定外のコストや問題が発生するリスクが高まります。
また、クロスボーダーM&Aの場合、進出先国の外資規制により、株式取得が制限されることがあります。このような法的制約を事前に把握しておくことが重要です。
手続きの複雑さ
株式譲渡は比較的簡易な手続きで行える一方で、クロスボーダー取引では国ごとに異なる法制度や税制、規制が関わるため、手続きが複雑化することがあります。
特に、外資規制が厳しい国では、株式取得の制限や政府の許認可が必要になる場合があり、慎重な対応が求められます。
また、株式の譲渡に伴う税務処理も国ごとに異なるため、現地の法律や会計制度に精通した専門家の支援を受けることが成功へのカギとなります。
事業譲渡による買収
事業譲渡は、譲渡企業の特定の事業部門や資産を譲受企業に譲り渡す方法です。
株式譲渡とは異なり、会社全体を引き継ぐのではなく、事業や資産、負債、従業員など、必要な部分のみを選択して取得することができます。この手法は、特定の事業領域や資産にのみ興味がある場合に有効です。
メリット
事業譲渡の最大のメリットは、必要な部分だけを選択して取得できる点です。
譲受企業は、譲渡企業の特定の事業や資産のみを引き継ぐことができ、不要な負債や事業リスクを回避できます。これにより、買収後の経営効率を高め、リスクを最小限に抑えることができます。また、譲受企業にとっては、事業譲渡を通じて自社の既存事業に最も適した資産や人材、技術を迅速に取り込むことができるため、事業戦略に柔軟に対応できるという利点があります。
デメリット
一方で、事業譲渡にはいくつかのデメリットもあります。
事業譲渡では、個別に資産や負債、契約関係を移転する必要があり、その手続きが非常に煩雑になることがしばしばあります。
特に、契約や権利義務関係の整理が重要となり、全ての契約やライセンスの移転手続きを行うためには、多くの時間と労力を要します。
また、事業譲渡後も譲渡企業が存続するため、譲受企業が譲渡企業と競争関係に陥るリスクもあります。
適用シチュエーション
事業譲渡は、譲受企業が特定の事業領域にのみ興味がある場合や、譲渡企業が事業の一部を整理・縮小したい場合に適しています。
たとえば、企業が主力事業以外の事業を売却し、事業集中を図りたい場合や、譲受企業が特定の技術や市場を持つ事業を取得し、シナジー効果を狙う場合に有効な手法です。
三角合併と逆三角合併
三角合併は、クロスボーダーM&Aにおいて、特殊な手法の一つです。
この手法は、譲受企業が直接譲渡企業と合併するのではなく、譲受企業の子会社を通じて譲渡企業を買収する仕組みを指します。
具体的には、譲受企業が所有する子会社が譲渡企業を吸収合併し、その対価として譲受企業の親会社の株式が譲渡企業の株主に交付されます。
これにより、現金を用意せずにM&Aが成立するため、資金繰りの柔軟性が向上します。
メリット
三角合併の最大のメリットは、譲受企業が現金を用意しなくても、親会社の株式を対価としてM&Aを実行できる点です。
これにより、資金調達の手間を省き、迅速にM&Aを進めることができます。
また、譲受企業は譲渡企業の経営資源をすぐに活用でき、シナジー効果を早期に実現できる可能性があります。
特に、海外進出を目指す日本企業にとって、三角合併は有効な手段として活用されています。
逆三角合併
逆三角合併は、三角合併の一形態で、譲渡企業が存続し、譲受企業の子会社が消滅する合併方式です。
これにより、譲渡企業が持つブランドや法的許認可を維持しながら、譲受企業がその経営権を取得することが可能です。
特に、譲渡企業が強いブランド力や市場シェアを持っている場合、この手法が選ばれることが多いです。
デメリット
一方で、三角合併や逆三角合併には、法的手続きが複雑になるというデメリットがあります。
日本では2007年に三角合併が導入されましたが、外国企業が日本企業を買収する場合には、さまざまな規制が適用されるため、事前に十分な法的検討が必要です。
また、譲渡企業の株主に対する合意形成が難しい場合もあり、交渉に時間がかかることがあります。
適用シチュエーション
三角合併は、特に現金が十分に確保できない場合や、譲渡企業の株主が譲受企業の株式を受け取ることに同意している場合に有効です。
また、逆三角合併は、譲渡企業のブランドや市場シェアを維持しながら、譲受企業がその経営権を取得したい場合に適しています。
この手法は、譲受企業が新市場に迅速に参入し、現地でのビジネスを拡大する際に強力なツールとなります。
クロスボーダーM&Aの成功事例
クロスボーダーM&Aは、その複雑さやリスクの高さから、全ての企業が成功するわけではありません。
しかし、適切な戦略と準備があれば、企業の成長に大きく寄与する強力な手段となります。
ここでは、日本企業が成功したクロスボーダーM&Aの事例として、オキツモ株式会社とセブン&アイホールディングスのケースを取り上げ、各社がどのようにしてこの手法を活用して成果を上げたのかを解説します。
日本企業の成功事例(オキツモ株式会社)
オキツモ株式会社は、耐熱塗料の分野で高いシェアを誇る日本企業で、1990年代から積極的な海外展開を行ってきました。
同社のクロスボーダーM&Aによる成功事例として特筆すべきは、ASEAN地域での事業拡大においてタイの現地企業との提携が重要な役割を果たしました。
背景と経緯
オキツモは、タイ市場での事業拡大を目指し、同国の塗料製造企業Bu社とのM&Aを実施しました。
Bu社は、ガスボンベ塗料というニッチな分野で強力な顧客基盤を持っており、特に現地市場での信頼が厚かったことがポイントです。オキツモにとって、このクロスボーダーM&Aは、既存の顧客基盤を活かしながらタイ国内での事業拡大を迅速に進める大きな機会となりました。
成功要因
このM&Aの成功要因は、以下の点にあります。
- 現地企業の強みの活用
Bu社は現地市場に精通しており、既に大手企業との取引関係を築いていました。これにより、オキツモは新規参入に伴うリスクを低減し、現地での事業基盤を強化することができました。
- 迅速なシナジー創出
買収後、オキツモは自社の技術力と現地の市場知識を掛け合わせ、製品開発と販売において迅速にシナジーを生み出しました。特に、塗料製品の現地市場での認知度向上と新規取引先の獲得に成功しました。
- 柔軟な経営統合
文化や経営スタイルの違いを理解し、現地従業員とのコミュニケーションを重視した柔軟なPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を行ったことも、統合後のスムーズな事業運営に寄与しました。
この事例は、日本企業が海外市場でクロスボーダーM&Aを通じて成功するために、現地企業との協力と迅速な統合が鍵となることを示しています。オキツモのように、現地の知見と自社の強みを組み合わせることで、競争優位性を確保し、グローバル展開を加速させることが可能です。
日本企業の成功事例(セブン&アイホールディングス)
セブン&アイホールディングスは、コンビニエンスストア事業で知られる日本の大手企業で、国内外で大規模な事業展開を行っています。
特に、米国市場への進出におけるクロスボーダーM&Aは同社の成長戦略に大きく寄与しました。
米国市場でのセブンイレブンの成功は、M&Aによって事業拡大を達成した典型的なケースです。
背景と経緯
2018年、セブン&アイホールディングスは、米国の中堅コンビニエンスストアであるスノコLP社から、同社のコンビニエンスストア事業とガソリン小売事業を約3,650億円で買収しました。
このM&Aの狙いは、既に成熟した日本市場とは異なり、成長余地のある米国市場でのシェア拡大と、新たな収益源を確保することでした。
成功要因
セブン&アイホールディングスがこのクロスボーダーM&Aで成功を収めた理由は、以下の点に集約されます。
- 米国市場における戦略的拡大
米国は広大な市場を持つため、M&Aを通じて現地の既存事業を取得することで、迅速かつ大規模に市場シェアを拡大できました。特に、スノコLP社の買収により、ガソリン販売とコンビニエンスストアの複合モデルを取り込むことができ、収益の多様化が図られました。
- 既存ネットワークの活用
スノコLP社が持っていた店舗網をそのまま活用することで、米国市場における足場を強化しました。新規出店よりも短期間で効果的に市場シェアを確保し、現地の消費者基盤をすばやく取り込むことが可能となりました。
- ガソリン小売事業とのシナジー効果
コンビニエンスストアとガソリン小売事業を統合したビジネスモデルは、米国の消費者にとって便利なサービス提供が可能となり、売上の増加に貢献しました。このシナジー効果は、既存事業に新たな収益源を加えた形で表れました。
海外展開のポイント
この成功事例から見えてくるのは、セブン&アイホールディングスが米国市場において、既存の事業基盤を活用しつつ、効率的に収益を上げるための戦略を練っていた点です。
特に、M&Aを活用してスピーディに市場に参入し、既存のインフラを活用することで、ローコストで収益を拡大する手法は、他の企業にとっても参考になるでしょう。
クロスボーダーM&Aを成功させるためには、現地市場への深い理解と戦略的な判断が重要です。セブン&アイホールディングスのケースは、成長著しい市場での迅速な対応と、既存のリソースを効果的に活用することが、成功に導くカギであることを示しています。
クロスボーダーM&Aを成功させるためのポイント
クロスボーダーM&Aは、国内M&Aに比べて多くの複雑な要素が絡むため、成功させるためには事前準備や戦略的な計画が不可欠です。
言語や文化、法制度の違いに加えて、相手企業との信頼関係や、現地の専門知識が成功のカギとなります。
ここでは、クロスボーダーM&Aを成功に導くための重要なポイントを2つ取り上げます。
信頼関係の構築と企業評価
クロスボーダーM&Aの成功において最も重要な要素のひとつが、譲渡企業との信頼関係の構築です。
異なる国や文化の間で取引を行うため、単なる契約書上の取り決めだけではなく、経営者同士の信頼が取引全体の成功を左右することがあります。
特に、アジアなどの新興国では、ビジネスにおいて信頼関係が重視される文化が根強く、譲渡企業のオーナーと譲受企業のトップがいかに信頼を築けるかが、その後の統合プロセスや事業の成功に大きく影響します。
信頼関係の構築の重要性
信頼関係を築くためには、初期段階から相手企業に対して誠実で透明なコミュニケーションを行うことが大切です。
クロスボーダーM&Aでは、異なる文化やビジネス慣習を理解し、お互いの立場を尊重する姿勢が特に重要です。
たとえば、譲渡側の企業オーナーが引き続きその企業の経営に関わる場合、相手の経営方針やビジョンを共有し、信頼感を持ってもらうことが、取引の円滑な進行につながります。
企業評価の方法と買収監査の重要性
企業評価においては、通常、財務状況や市場における競争力、将来の成長性などが重要なポイントとなります。
クロスボーダーM&Aにおいても、同様に徹底したデューデリジェンス(買収監査)が必要です。
しかし、海外企業の財務や法的環境は、日本企業とは大きく異なる場合が多く、現地の情報の透明性や信頼性にもばらつきがあります。
そのため、買収監査では、財務監査や法務監査、事業監査に加え、環境や労務などのさまざまなリスク要因を慎重に検討することが重要です。
特に、現地の法制度や税制が異なる場合、正確な情報収集と理解が欠かせません。
例えば、ASEAN諸国の多くでは、日本と異なる商習慣や規制が存在しており、それらを踏まえた適切な企業評価を行わないと、後々の問題を招く可能性があります。
信頼関係の構築と企業評価の正確さは、M&Aの初期段階での成功に大きく関わってくるため、これらを怠ることなく進めることが、クロスボーダーM&Aの成功の鍵となります。
現地の専門家やアドバイザーの活用
クロスボーダーM&Aを成功させるためには、現地の法務や財務に精通した専門家やM&Aアドバイザーの活用が不可欠です。
異なる法制度や税制、商習慣を理解することは、日本企業にとって非常に困難であり、適切なアドバイザーがいなければ、M&Aのプロセスは複雑で不透明なものとなりがちです。
現地の専門家を活用することで、こうしたリスクを最小限に抑え、M&Aプロセスを円滑に進めることができます。
現地の専門家の重要性
クロスボーダーM&Aには、各国ごとの法律、税制、労働規制など、国内M&Aには存在しない特有のリスクが伴います。
これらのリスクを軽減するためには、現地の事情に精通した弁護士や公認会計士、税理士などの専門家の力を借りることが重要です。
例えば、ASEAN地域の多くの国では、企業の財務情報や法務情報の透明性が日本ほど高くない場合が多いため、現地の専門家のアドバイスなしでは、適切な判断を下すのが難しくなります。
また、現地での法的手続きやデューデリジェンスの実施には、時間やコストがかかることが一般的です。
適切なアドバイザーを選定し、これらの手続きに精通した専門家のサポートを受けることで、手続きの効率化とリスクの軽減が可能になります。
例えば、ASEAN地域では、マネーロンダリングや資金調達に関する規制が厳しく、法務手続きが遅延するケースもあるため、事前に適切な専門家を介して準備を進めることが重要です。
M&Aアドバイザーの活用によるメリット
さらに、M&Aアドバイザーの活用も非常に有効です。
M&Aアドバイザーは、譲渡企業と譲受企業の間に立ち、双方のニーズを調整しながら交渉をスムーズに進める役割を担います。
特にクロスボーダーM&Aでは、言語や文化の壁が大きな障害となることが多いため、これを円滑に乗り越えるためにも、アドバイザーの役割は非常に重要です。
また、現地での企業評価や交渉において、アドバイザーの持つネットワークや情報が大きな武器となります。
例えば、現地の企業との交渉では、相手企業のオーナーや経営者との関係構築が非常に重要となるケースが多く、アドバイザーを通じて相手方の信頼を得ることで、交渉が円滑に進むこともあります。
加えて、クロスボーダーM&Aでは、デューデリジェンスの範囲や深さが国によって異なるため、どの範囲まで確認するかを事前に決めておく必要があります。この際、アドバイザーの経験や知識が大いに役立ち、最適な買収戦略を策定するための助言を得ることができます。
まとめ: クロスボーダーM&Aにチャレンジしてみよう!
クロスボーダーM&Aは、海外市場への迅速な進出や技術・人材の獲得、企業のグローバルなプレゼンス向上を可能にする一方、政治的リスクやPMIの難しさなどのリスクも伴います。
これらのリスクを最小限に抑えるためには、現地の専門家やアドバイザーの活用が不可欠です。
信頼関係を構築し、正確な企業評価を行うことが、クロスボーダーM&Aを成功に導く鍵となります。
適切な戦略を持って、この複雑なプロセスに挑むことが、グローバルでの成長を実現するための重要なステップです。