【M&A】LBO(レバレッジドバイアウト)の仕組み・MBOの違いを解説!

LBO(レバレッジドバイアウト)は、企業買収を少ない自己資金で実現できるM&A手法の一つであり、譲渡企業の資産や将来のキャッシュフローを担保に資金を調達する仕組みです。

LBOは、譲受企業にとって高い投資効率をもたらす一方で、リスクも伴うため、成功させるには適切な戦略と入念な準備が求められます。

本記事では、LBOの仕組みや一般的な手法、MBO(マネジメント・バイアウト)との違いを解説し、LBOを活用する際のメリット・デメリット、そして成功のためのポイントを明らかにしていきます。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

LBO(レバレッジドバイアウト)とは?

LBOは、譲渡企業の資産や将来のキャッシュフローを担保として、譲受企業が金融機関などから資金を調達し、買収を行う手法です。

この方法は、少ない自己資本で買収を実現できる点が特徴で、主にプライベート・エクイティ(PE)ファンドによって多く活用されています。

LBOの基本概要

LBOは、譲受企業が自社の資金をほとんど使わずに企業買収を実現するための手法です。

譲受企業は、買収資金を調達する際に、譲渡企業の資産や将来的なキャッシュフローを担保にすることで、自己資金に対して何倍もの融資を受けることができます。

これにより、少ない自己資金で大規模な買収を行い、成長戦略を推進することが可能になります。

LBOは、経営陣が自社株を買い取るMBO(Management Buyout)や、従業員による経営権の取得を目的としたEBO(Employee Buyout)でもよく利用される手法です。

これらのケースでは、経営権の取得や経営の効率化を目的として、企業の価値を高めることが目指されます。

LBOの仕組み

LBOは、特別目的会社(SPC)を設立し、投資ファンドや金融機関から買収資金を調達するところから始まります。

調達された資金を用いて、譲渡企業の株式を買収し、その後SPCと譲渡企業が合併することで、譲渡企業が負債を引き継ぐ流れです。

こうした仕組みにより、譲受企業は自己資本を温存しながら、買収対象の企業を手に入れることができます。

LBOが活用される理由

LBOが選ばれる最大の理由は、少ない自己資本で大規模な企業買収ができることです。

これにより、譲受企業は資金負担を最小限に抑え、企業買収を通じて成長戦略を展開できます。また、買収後の返済は譲渡企業のキャッシュフローを原資とするため、譲受企業自身のリスクを軽減できるのもポイントです。

この手法は、特に成長可能性のある企業を対象に、企業価値を高めることで高い投資効果を狙うプライベート・エクイティ(PE)ファンドで多用されています。

MBOとの違いとは?

LBOとMBO(マネジメント・バイアウト)は、どちらも企業の買収手法ですが、買収の主体や目的に違いがあります。ここでは、MBOの定義とLBOとの違いを解説し、さらにEBO(エンプロイー・バイアウト)との比較を行います。

MBO(マネジメント・バイアウト)とは?

MBO(Management Buyout)とは、企業の経営陣が投資ファンドや金融機関から資金調達を行い、自社の株式や事業を買収して経営権を取得する手法を指します。

MBOの特徴は、既存の経営陣が買収主体となる点であり、現経営陣が引き続き企業経営を行いながら、所有権も手に入れることができることです。

この手法は、企業が組織再編や事業承継を行う際に、外部の第三者に経営権が移転することを防ぎ、経営の安定性を維持するためによく用いられます。また、企業がMBOを実施することで、経営者は独立した経営権を確保できるため、迅速な意思決定が可能になり、企業の成長や価値向上を目指しやすくなります。

MBOとLBOの主な違いは、誰が譲受主体となるかです。MBOでは経営陣が自ら譲受主体となり、経営権の取得を目的とするのに対し、LBOは第三者(通常は投資ファンドなど)が譲受主体となり、レバレッジを活用した資金調達を行う点が異なります。

例えば、経営陣が銀行や投資ファンドから融資を受け、自社株を取得して経営権を獲得するケースがMBOに該当します。

EBO(エンプロイー・バイアウト)との比較

EBO(Employee Buyout)とは、企業の従業員が株式や事業を買収して、経営権を取得する手法を指します。

EBOは、主に従業員による経営権の取得を目的としており、事業承継の場面や、親会社が子会社を売却する際に、従業員が自ら資金調達をして株式を取得し、経営権を持つケースで活用されます。

EBOは、MBOと同様に社内の人間が買収主体となる点では共通していますが、MBOが経営陣による買収であるのに対し、EBOは従業員による買収である点が異なります。

従業員が主導するEBOの場合、従業員が自社株を購入するための資金を確保する必要があるため、金融機関や投資ファンドから融資を受けるケースも多いです。

EBOは、従業員が自ら出資して企業の所有権を持つことで、企業の経営方針に従業員の意見が反映されやすくなるといったメリットがあります。

ただし、従業員が株式を購入するための十分な資金を用意することが難しいため、実施される事例は限られています。

LBOとMBO、EBOの違いをわかりやすく解説

LBO、MBO、EBOの違いは、買収を行う主体とその目的にあります。

  • LBO(レバレッジド・バイアウト)
    • 買収主体:外部の第三者(通常は投資ファンドや金融機関)
    • 資金調達:譲渡企業の資産やキャッシュフローを担保にして融資を受ける
    • 目的:少ない自己資金で企業買収を行い、企業価値を向上させること
    • 例:プライベート・エクイティ(PE)ファンドによる企業買収
  • MBO(マネジメント・バイアウト)
    • 買収主体:企業の経営陣
    • 資金調達:経営陣が銀行や投資ファンドから融資を受けて株式を買い取る
    • 目的:経営権の取得、独立経営の実現、迅速な意思決定
    • 例:経営陣が自社株を買い取り、独立した経営を行うケース
  • EBO(エンプロイー・バイアウト)
    • 買収主体:企業の従業員
    • 資金調達:従業員が金融機関や投資ファンドから融資を受けて株式を買い取る
    • 目的:経営権の取得、従業員による経営方針の反映
    • 例:従業員が出資して経営権を持ち、経営方針の決定に関与するケース

このように、LBO、MBO、EBOはそれぞれ異なる目的を持っており、対象企業や買収の目的に応じて使い分けられます。

例えば、MBOは現経営陣による経営権の強化を目指す際に活用され、EBOは従業員主導での事業承継や経営参加を実現する際に適しています。

一方、LBOは外部の第三者が譲渡企業の価値を高めることを目的として行われ、主に成長の余地が大きい企業や再生が可能な企業を対象に実施されることが多いです。

また、LBOでは譲渡企業の資産やキャッシュフローを担保に資金調達を行うため、自己資金のレバレッジ効果を最大限に活用できるのも特徴です。

一方で、MBOやEBOは主に譲受企業の内部者が主体となって実施されるため、企業の安定性や独立性を保ちながら所有権を移転できる点に優れています。

LBOの手法とフロー

LBOを実施する際には、特有の手法とフローに従って買収が行われます。

ここでは、LBOの基本的な手法、特別目的会社(SPC)を活用した資金調達の仕組み、さらに買収プロセスから統合までの流れについて解説します。

LBOは通常のM&Aとは異なり、資金調達に譲渡企業の資産やキャッシュフローを活用することで、少ない自己資金での買収を可能にします。そのため、LBOのフローを理解することは、成功するM&Aの実現に不可欠です。

LBOの一般的な手法

LBOは、譲渡企業の資産やキャッシュフローを担保に、譲受企業が金融機関などから買収資金を調達し、譲渡企業を買収する手法です。通常のM&Aでは譲受企業が自己資金を投入して企業を買収しますが、LBOでは少ない自己資金での買収を実現することができるため、資金効率の面で優れています。

LBOの一般的な手法は、以下のようなプロセスに分かれます。

1. 特別目的会社(SPC)の設立  

買収を行う前に、まず譲受企業は特別目的会社(SPC: Special Purpose Company)を設立します。SPCは、LBOを実施するための受け皿として機能し、融資を組成するための法人格を持ちます。SPCの設立により、譲受企業と買収資金調達の責任を分離することができ、リスクの軽減が図れます。

2. 金融機関や投資ファンドからの融資の組成  

設立されたSPCは、金融機関や投資ファンドから資金調達を行います。

資金調達の際、SPCは譲渡企業の資産やキャッシュフローを担保として提供するため、譲受企業自身の信用力に依拠する必要がありません。このため、譲渡企業が有する資産の価値や将来の収益性が高く評価されるほど、より多くの資金を調達することが可能になります。

3. 譲渡企業の買収  

調達した資金を用いて、SPCが譲渡企業の株式を取得し、買収を完了させます。買収完了時には、譲渡企業の株主から全株式を取得することを目指し、買収に応じなかった少数株主を排除するために、スクイーズアウト(強制取得手続き)などを行うこともあります。

4. 譲渡企業とSPCの合併  

買収が完了した後、SPCは譲渡企業と合併し、最終的に1つの企業体となります。この際、SPCが消滅会社、譲渡企業が存続会社として存続するのが一般的です。これにより、譲渡企業がSPCの債権債務を引き継ぎ、金融機関に対する返済を開始します。

SPC(特別目的会社)を用いた資金調達の仕組み

SPCはLBOを実施する際に設立される特別な会社で、買収のための資金調達を行う役割を担います。SPCは通常、以下の目的で設立されます。

1. 資金調達の主体となること  

SPCは譲受企業と譲渡企業の間に位置する法人格として、買収の際に金融機関や投資ファンドから資金を調達します。これにより、譲受企業は買収に必要な資金調達に直接関与することなく、SPCがすべての資金調達を担うことができます。

2. リスクの限定化  

SPCが設立されることにより、買収に伴うリスクはSPCの範囲内に限定されます。例えば、融資の返済義務はSPCが負うことになり、譲受企業の自己資金や資産には影響を及ぼしません。これにより、譲受企業は自身の経営基盤を守りつつ、LBOを通じた企業買収を実施することが可能となります。

3. 税務メリットの享受

SPCを設立することにより、融資の際に発生する金利を経費として計上できる場合があり、法人税の節税効果を得られることがあります。また、SPCを用いることで、LBOの全体的なコストを抑えつつ資金調達の効率性を高めることが可能です。

LBOにおける資金調達方法

LBOにおいては、以下のような資金調達手法が用いられます。各手法は資金調達の規模や返済リスクの観点から使い分けられ、LBOの成否に大きな影響を与えます。

1. 銀行融資(デットファイナンス)  

銀行融資は、最も一般的なLBOの資金調達方法です。銀行は譲渡企業の資産やキャッシュフローを担保に融資を行い、返済は最終的に譲渡企業が行います。銀行融資を用いることで、SPCは譲渡企業の収益をもとに金融機関に返済を行い、譲受企業は自己資金を最小限に抑えながら買収を実施できます。

2. ノンリコースローン(非遡及型融資)  

ノンリコースローンとは、融資の返済がSPCや譲渡企業の資産に限定され、譲受企業には返済義務が生じないタイプの融資です。このローンは、譲受企業のリスクを限定することができるため、LBOの資金調達に適しています。ノンリコースローンを利用することで、譲受企業は出資額以上のリスクを負うことなく買収を実施することが可能です。

3. デット・エクイティ・スワップ(DES)  

デット・エクイティ・スワップ(DES)とは、譲渡企業の債務を株式に転換し、譲受企業が出資者として債権を引き受ける手法です。この方法を用いることで、譲渡企業の負債を圧縮し、譲受企業の株主としての権利を確立することができます。DESはLBOの資金調達において、負債比率の最適化や、財務の健全化に役立ちます。

LBOでの買収から統合(PMI)までのプロセス

LBOの成功は、買収後の統合プロセス(PMI: Post-Merger Integration)をどのように進めるかによって左右されます。PMIとは、買収後の譲渡企業と譲受企業の経営・財務・組織を効果的に統合し、シナジー効果を最大限に引き出すプロセスを指します。

1. 統合計画の策定  

LBOが実施された後、譲受企業は譲渡企業とSPCの合併を行い、1つの法人としての経営体制を整えます。この際、統合計画を策定し、財務面や組織面での統合を進めることが重要です。統合計画には、経営資源の再配置、人員の調整、業務プロセスの見直しなどが含まれます。

2. 財務・資本構造の最適化  

PMIの過程では、譲渡企業の負債状況や資本構造の見直しを行い、最適な財務体制を構築することが求められます。特に、LBOによって生じた負債の返済計画や、今後のキャッシュフロー見通しを踏まえた資本構成の再編が重要です。

3. 経営体制の整備とシナジー効果の創出  

PMIの最終段階では、経営体制を整え、譲受企業と譲渡企業の経営資源を活用してシナジー効果を創出します。具体的には、事業の再構築、新規事業の開発、コスト削減策の実施などを通じて、企業価値の向上を目指します。

PMIを成功させるためには、譲渡企業の経営陣や従業員との連携を密にし、経営方針や戦略の統一を図ることが重要です。特に、文化や価値観の統合、従業員のモチベーション維持などのソフト面での統合が、LBOの成功においては大きなカギとなります。

LBOを活用するメリット

LBOは、企業買収を行う際に少ない自己資金で大規模な買収を実現できるという点で大きなメリットを持っています。

また、LBOは資金調達の返済リスクを軽減し、レバレッジ効果による投資効率の向上や、税務上の優遇効果を得ることも可能です。ここでは、LBOを活用する具体的なメリットについて、各観点から解説していきます。

少ない自己資金で買収を実現できる

LBOの最も大きなメリットは、譲受企業が少ない自己資金で企業を買収できることです。

通常、企業買収では譲受企業が自己資金や外部からの出資を使って買収資金を調達しますが、LBOでは譲渡企業(買収対象企業)の資産や将来のキャッシュフローを担保として、金融機関などから資金を調達します。これにより、譲受企業は自社の資産を担保にする必要がなく、リスクを限定した形で買収を行うことが可能です。

特にノンリコースローン(非遡及型融資)を用いた資金調達は、LBOにおいて重要な手法の一つです。ノンリコースローンとは、融資の返済が譲渡企業の資産やキャッシュフローに限定され、融資の返済義務が譲受企業に及ばないタイプの融資です。

この仕組みによって、譲受企業はSPC(特別目的会社)を通じて買収を実行し、出資額以上のリスクを負わない状態で企業買収を進められるため、自己資本を最小限に抑えた買収を実現できるのです。

さらに、譲渡企業が安定したキャッシュフローや有形資産を有している場合、金融機関からの資金調達がしやすくなり、結果として少ない自己資金でも大規模な買収が可能となります。このため、LBOは買収対象企業の価値を十分に見極めた上で実行することが求められます。

資金調達の返済リスクを軽減できる

LBOのもう一つの大きなメリットは、資金調達に伴う返済リスクを軽減できる点です。

LBOでは、買収資金の返済は主に譲渡企業のキャッシュフローを原資として行われるため、譲受企業が返済の負担を直接負う必要がありません。具体的には、譲渡企業の営業活動から生まれるキャッシュフローをもとに、金融機関からの借入金を段階的に返済していきます。

この仕組みによって、譲受企業は自己資金の投入を抑えつつ、譲渡企業の収益力を最大限に活用して返済を行うことができます。例えば、譲渡企業が安定的に高いキャッシュフローを生み出せる企業であれば、融資の返済を無理なく行えるため、譲受企業は自己資金を温存しながら長期的な成長戦略を描くことが可能です。

また、融資条件によっては返済のスケジュールを柔軟に設定することができるため、買収後に経済情勢や市場環境の変化があっても、キャッシュフローの変動に応じた対応がしやすくなります。このような資金調達のリスク軽減効果により、LBOはM&Aにおける重要な手法として幅広く活用されています。

レバレッジ効果による高い投資効率

LBOの特徴であるレバレッジ効果は、少ない自己資金に対して大きな融資を受けることで、投資効率を高めることができる点にあります。

レバレッジ効果とは、金融機関からの借入金を活用することによって、自己資金だけでは実現できない規模の買収や投資を行い、その結果として自己資金に対して大きなリターンを得ることができる仕組みです。

例えば、自己資金1億円と金融機関からの融資9億円を合わせて、合計10億円の企業買収を実施したとします。この企業の価値が数年後に20億円に増加した場合、投資総額に対するリターンは2倍ですが、自己資金に対するリターンは10倍となります。このように、融資を活用することで自己資本比率を引き上げることができるため、LBOはハイリターンな投資を実現できる手法として広く採用されているのです。

ただし、レバレッジ効果はリスクも伴うため、企業価値の上昇を見込める場合にのみ活用することが求められます。

万が一、買収した企業の業績が悪化した場合、借入金の返済が困難となり、最悪の場合には譲渡企業の財務状況が悪化して倒産に至るケースもあります。このため、LBOを実行する際には、対象企業の価値評価と将来のキャッシュフロー見通しを慎重に行う必要があります。

財務シナジー効果と税務メリット

LBOを活用することで得られるもう一つの大きなメリットは、財務シナジー効果と税務メリットです。LBOでは、買収に際して金融機関からの融資を受けるため、譲渡企業は買収後に多額の金利支払い義務を負うことになります。

しかし、この金利支払いは経費として計上できるため、譲渡企業の法人税負担を軽減する効果があります。特に、企業規模が大きく、多額の金利支払いが見込まれる場合には、節税効果が顕著となります。

また、譲渡企業が特別目的会社(SPC)と合併することにより、買収後のキャッシュフロー管理や資本構造の最適化が可能となります。SPCと譲渡企業を合併することで、譲渡企業の資産や負債が統合され、より効率的な財務管理を実現することができます。

この結果、譲受企業は譲渡企業のキャッシュフローを活用して、負債の返済を進めつつ、財務戦略を効果的に実行することが可能です。

財務シナジー効果を得るためには、買収後の企業価値向上が不可欠です。

例えば、コスト削減や事業統合による売上向上、新規事業開発などを通じて譲渡企業の業績を改善し、キャッシュフローの増大を図ることが求められます。これにより、譲渡企業が生み出すキャッシュフローをもとに、融資の返済を順調に行いながら、税務メリットを享受することができます。

LBOはこのように、財務戦略の一環として活用されることで、企業の法人税負担を軽減し、同時にシナジー効果を発揮することができます。その結果、譲渡企業と譲受企業の両方にとって、持続的な成長を実現することが可能となるのです。

LBOを活用するデメリット

LBOは少ない自己資金で企業買収を行うことができる反面、いくつかのデメリットやリスクが存在します。譲受企業がLBOを活用する際は、慎重にリスクを見極め、事前に適切な対策を講じることが求められます。

特に、買収後の統合において発生するシナジー効果が期待通りに得られなかった場合や、譲渡企業に過度な負債を負わせることによる経営圧迫などのリスクについては十分な検討が必要です。ここでは、LBOを活用するデメリットについて解説していきます。

見込んだシナジー効果が得られないリスク

LBOを実行する際の大きなリスクの一つは、譲渡企業と譲受企業の統合(PMI:Post-Merger Integration)が計画通りに進まないことによって、見込んだシナジー効果を得られない可能性がある点です。

LBOを行う場合、買収後の譲渡企業のキャッシュフローや資産を返済原資とすることが前提となるため、両社の統合が円滑に進み、企業価値が向上することが極めて重要です。

しかし、実際には、企業文化の違いや事業戦略の不一致、組織統合の失敗など、さまざまな要因によって統合がスムーズに進まないケースが多々あります。

例えば、譲渡企業の経営陣や従業員の反発により、業務プロセスの変更や経営戦略の修正が思い通りに行かず、統合にかかる時間やコストが膨大になることがあります。こうした状況では、当初期待していたシナジー効果を十分に発揮できず、譲渡企業の価値向上が実現できないというリスクが生じます。

また、シナジー効果が得られなかった場合、LBOにより調達した借入金の返済原資が不足し、融資返済が滞ることも考えられます。

このようなリスクを回避するためには、事前に譲渡企業と譲受企業の相性や統合プロセスの実行可能性を十分に検討し、必要に応じて統合計画の見直しを行うことが重要です。

最悪の場合、シナジー効果が得られないまま譲渡企業の財務状況が悪化し、倒産に至ることもあるため、シナジー効果に依存しすぎない資金計画の策定が求められます。

金利負担や有利子負債の増加

LBOによって資金調達を行う際、譲渡企業は多額の負債を抱えることになります。

この負債には利息(金利)も伴うため、金利負担が譲渡企業の財務に与える影響は無視できません。特に、LBOの実行時に金利の高い融資を利用した場合、譲渡企業は毎年多額の金利支払いを強いられることになり、企業の資金繰りが厳しくなる可能性があります。

金利負担が過大になると、企業の経常利益や営業利益が圧迫され、実質的な利益の減少を招くことがあります。

例えば、LBO実行時に譲渡企業が毎年数億円の金利支払いを行う場合、事業のキャッシュフローがその金利支払いを上回らなければ、キャッシュフローが枯渇し、追加の資金調達が必要となる可能性があります。

このような状況が続けば、企業の財務状況は徐々に悪化し、信用格付けの引き下げや新たな融資の取得が困難になるといった悪循環に陥るリスクもあります。

さらに、有利子負債の増加は企業の財務健全性に悪影響を及ぼします。特に、譲渡企業が景気の悪化や業績の低迷などによって十分なキャッシュフローを生み出せない場合、融資の返済が滞り、最悪のケースでは企業の破綻を招く可能性もあります。

したがって、LBO実行時には、金利負担を考慮した上で、譲渡企業のキャッシュフローや財務戦略を慎重に検討し、負債比率が過度に高くならないよう注意することが重要です。

譲渡企業の経営圧迫の可能性

LBOによって調達された資金は、譲渡企業の経営に大きな影響を与える可能性があります。

具体的には、譲渡企業に多額の負債が残り、その負債の返済義務が譲渡企業に集中することで、事業の成長が阻害されるリスクが存在します。

通常、LBOの実行後、譲渡企業はキャッシュフローを借入金の返済に優先的に充当するため、成長投資や研究開発、人材の採用といった将来的な企業価値向上につながる投資を行う余裕がなくなる可能性があります。

また、余剰資金がすべて借入金の返済に充てられることで、企業の資金繰りが極端に悪化し、日々の運転資金や取引先への支払いが滞るといった状況に陥ることも考えられます。

特に、譲渡企業が金融機関から追加融資を受けられない場合、短期的なキャッシュフロー不足が深刻化し、最終的には黒字倒産といった事態に発展することもあります。

事例として、過去にダイセンホールディングス株式会社が行ったLBOが挙げられます。

このケースでは、譲渡企業である株式会社さとうべネックが黒字経営を続けていたにもかかわらず、LBOによる多額の負債と金利負担により資金繰りが悪化し、最終的に倒産に至りました。

これは、譲渡企業のキャッシュフローが安定していても、負債の返済負担が企業経営に与える影響の大きさを物語っています。

このようなリスクを回避するためには、LBO実行前に譲渡企業のキャッシュフローや事業計画を十分に見極め、負債の返済計画が実現可能かどうかを慎重に検討する必要があります。

また、譲渡企業の成長戦略を阻害しないよう、負債返済と成長投資のバランスを保つことが求められます。

LBOは適切に活用されれば企業成長の起爆剤となる反面、負債の返済圧力によって企業の経営を圧迫するリスクも伴うため、実行時には細心の注意が必要です。

LBOを用いたM&Aを成功させるためのポイント

LBOを用いたM&Aを成功させるには、事前の準備と戦略的な計画立案が不可欠です。

LBOは少ない自己資金での買収を可能にし、高いリターンを期待できる一方で、キャッシュフローやシナジー効果の見込み違いによる失敗リスクが高い手法です。

そのため、適切な事前準備を行い、慎重に各プロセスを実施することが重要です。ここからは、LBOを用いたM&Aを成功に導くためのポイントを解説していきます。

買収対象企業のキャッシュフローの正確な見積もり

LBOを成功させるために最も重要な要素のひとつが、買収対象企業(譲渡企業)のキャッシュフローの正確な見積もりです。

LBOでは、譲渡企業の将来的なキャッシュフローを返済の原資とするため、キャッシュフローが安定的かつ十分な水準で確保されることが前提条件となります。そのため、買収前に譲渡企業のキャッシュフローを精緻に見積もり、過度なリスクを回避することが求められます。

まず、譲渡企業のキャッシュフローを見積もる際には、過去数年間の財務データをもとに、売上高や営業利益の推移、固定費や変動費の割合、そして今後の成長見込みなどを総合的に分析します。

これにより、譲渡企業のキャッシュフローが今後も安定して確保されるかを判断することができます。特に、景気変動や市場環境の変化、競合他社の動向など、外的要因による影響を十分に考慮することが重要です。

また、買収後のシナジー効果やコスト削減の見込みなどもキャッシュフローに大きく影響する要素です。これらを考慮に入れた上で、シナジー効果を過度に楽観視せず、現実的な見積もりを行うことが必要です。

例えば、買収後に譲渡企業の販売網や顧客基盤を活用した売上拡大を期待しても、その実現には時間やコストがかかる場合があるため、期待するシナジー効果が実現できなかった場合のシナリオも考慮しておくことが重要です。

キャッシュフローの見積もりが正確であれば、適切な負債返済計画を策定することができ、過度な返済負担を回避することができます。これにより、譲渡企業が長期的に安定した経営を維持し、LBOの成功に貢献することが期待できます。

シナジー効果の適切な評価と実行計画

LBOを用いたM&Aを実施する際、シナジー効果の適切な評価と実行計画の立案は成功の鍵を握る要素です。シナジー効果とは、譲受企業と譲渡企業の事業統合により、個々の企業単独では実現できなかった利益や効率性を生み出すことを指します。例えば、コスト削減効果や売上拡大、技術力の向上などがシナジー効果として挙げられます。

シナジー効果を正確に評価するためには、譲受企業と譲渡企業の事業特性や組織文化、運営方針などを十分に理解し、統合後のシナジー実現に向けた詳細なシナリオを作成することが重要です。

特に、営業面でのシナジー効果(クロスセルの機会増大や販売チャネルの共有)、生産面でのシナジー効果(生産効率の向上や原材料調達コストの削減)など、具体的なシナジーの発生メカニズムを見極める必要があります。

シナジー効果を実現するためには、買収後の統合計画(PMI:Post-Merger Integration)が効果的に機能することが前提です。

統合プロセスにおいて、両社の経営陣や従業員の役割分担、システム統合、ブランド戦略の策定などを事前に計画し、円滑な統合を進めることで、シナジー効果の実現を促進します。シナジー効果を適切に評価し、その実現を目指す統合計画を立案することで、LBOの成功確率を高めることができます。

M&A専門家の活用と入念なデューデリジェンスの実施

LBOは複雑なファイナンス手法であり、買収後の統合や負債返済を含む多岐にわたるプロセスが関与します。そのため、M&Aの専門家を活用して、入念なデューデリジェンス(事前調査)を実施することが成功のポイントとなります。

デューデリジェンスは、買収対象企業の財務状況、法務リスク、税務、ビジネスモデル、組織文化、従業員構成など、あらゆる側面を精査するプロセスです。これにより、買収対象企業に潜在するリスクや問題点を事前に把握し、買収条件や統合計画に反映させることができます。

例えば、財務デューデリジェンスでは、譲渡企業の資産や負債、キャッシュフロー、収益性などのデータを精査し、適正な企業価値を算出します。また、法務デューデリジェンスでは、契約関係や訴訟リスク、知的財産権の問題などを確認し、買収後の法務リスクを軽減します。さらに、税務デューデリジェンスでは、譲渡企業が適切な税務処理を行っているか、過去に税務リスクが存在しないかをチェックします。

M&A専門家のサポートを受けることで、デューデリジェンスの質を高め、買収対象企業のリスクを正確に把握することができます。特に、LBOにおいてはデューデリジェンスの結果をもとに、借入金額や返済計画の妥当性を判断するため、専門家の知見を取り入れることは成功の重要な要素です。デューデリジェンスを怠った場合、買収後に予期しないリスクや負担が発生し、LBOの失敗につながることもあります。

したがって、LBOを実施する際には、M&A専門家と協力し、あらゆる角度からデューデリジェンスを実施することが、成功のための必須条件となります。デューデリジェンスで得られた情報をもとに、買収計画や統合戦略を慎重に検討し、実行に移すことで、LBOを活用したM&Aを成功に導くことができるでしょう。

まとめ: M&A戦略にLBOを上手く活用しよう!

LBOを活用したM&Aは、少ない自己資金で企業買収を実現し、レバレッジ効果を最大限に引き出せる手法です。

しかし、その反面、見込んだシナジー効果が得られなかったり、金利負担による経営圧迫が発生するリスクも存在します。

LBOを成功させるためには、買収対象企業のキャッシュフローを正確に見積もり、適切なシナジー効果を評価した上で、入念なデューデリジェンスを行い、M&A専門家のサポートを活用することが不可欠です。リスクを適切に管理し、買収後の統合プロセス(PMI)を確実に実施することで、LBOを用いたM&Aを成功に導くことができるでしょう。

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