会社の乗っ取り事例と対策方法とは?M&Aとの違いも解説!

会社乗っ取りは、経営者にとって大きな脅威です。上場企業から中小企業まで、規模を問わず発生し得る乗っ取りは、経営権の強奪や企業価値の損失、従業員の地位の不安定化など、企業全体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。本記事では、実際に発生した会社乗っ取りの事例をもとに、具体的な手法やその対策方法を解説し、M&Aとの違いについても説明していきます。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

会社の乗っ取りとは?

会社の乗っ取りとは、第三者や内部の人物が会社の経営権を奪う行為を指します。合法的な手法も多く、経営者にとって大きな脅威となり得ます。ここでは、会社乗っ取りの定義や目的、背景について解説します。

会社乗っ取りの定義

会社の乗っ取りとは、第三者や内部の人物が意図的に会社の経営権を奪取する行為を指します。この「奪取」という表現は、単に株式の買い占めや役員の解任などの手続き上の問題にとどまらず、オーナーや創業者が意図しない形で、経営の主導権を奪われることを意味します。

会社の乗っ取りは、必ずしも違法な手段によって行われるわけではなく、法的に正当な手続きが行われているケースも多いです。例えば、上場企業の場合は、敵対的買収などの手法を用いて合法的に会社の経営権を掌握することもあります。しかし、このようなケースでも、会社のオーナーや現経営陣にとっては意図しない形で支配権を奪われるため、避けたい事態と言えます。

一方で、登記変更の際に虚偽の議事録を作成したり、理事会議事録を偽造するなど、明確に違法行為を伴うケースも存在します。そのため、会社の乗っ取りを防ぐためには、合法・違法を問わずあらゆる手段を把握し、適切な対策を講じることが求められます。

会社乗っ取りの目的と背景

会社乗っ取りの目的は多岐にわたります。一般的には、経営権を掌握して会社の価値を上げ、利益を得ることを狙ったものや、経営方針の対立を解消するための手段として行われますが、他にもさまざまな目的が考えられます。

例えば、以下のような目的や背景が考えられます。

企業価値を向上させて利益を得ること

経営者の資産運用として、経営権を取得して会社の企業価値を高め、その後売却することで利益を得ることを目的とする乗っ取りです。これは、いわゆる「ハゲタカファンド」が行う手法で、経営不振に陥っている企業に対して行われることが多いです。

経営方針の対立や内部紛争

現経営陣の経営方針に不満を抱く役員や大株主が、議決権を多数派にして経営陣を排除し、自らの経営方針を押し通すケースもあります。特に、事業承継の際に親族間で経営方針の相違が起こると、親族間の対立がエスカレートしてクーデターのような形で経営権を奪い合うことがあります。

私的な恨みや嫌がらせによる目的

稀ではありますが、個人的な恨みや嫌がらせを目的とした乗っ取りも存在します。これは、過去の経営方針に対する恨みや、個人的な対立を解消するために行われるケースです。会社の資産を私的に流用したり、会社の経営を意図的に混乱させることを目的として、会社乗っ取りを実行することもあります。

反社会的勢力による乗っ取り

反社会的勢力が会社に関与し、内部から経営権を掌握するケースもあります。このような場合は、企業の資産を強奪し、利益を得ることを目的とするため、会社の経営は著しく悪化し、場合によっては廃業に追い込まれることもあります。

会社の支配権を巡る権力争い

特に上場企業では、株式を分散保有する複数の株主がそれぞれ異なる経営方針を持ち、会社支配権の奪い合いを行うことも少なくありません。このようなケースでは、取締役の解任や新規株主の加入などが引き金となり、経営権を巡る争いが発生します。

会社乗っ取りとM&Aの違いとは?

会社乗っ取りとM&Aは、どちらも企業の経営権や資産に関わる行為ですが、その目的やプロセスには大きな違いがあります。ここからは、M&Aの基本的な概念を確認した上で、会社乗っ取りとの違いについて解説します。

M&Aとは?

M&A(Mergers and Acquisitions)は、企業の合併や買収を指し、主に事業の拡大や業績向上を目指して行われるものです。合併(Merger)は、2つ以上の企業が1つの組織に統合されることを意味し、買収(Acquisition)は一方の企業が他方の企業の株式や資産を取得し、支配権を得ることを指します。通常、M&Aは双方の経営陣の同意のもとで行われ、事業のシナジー効果や資産の有効活用を目的とした友好的な取引です。

会社乗っ取りとM&Aの違い

M&Aと会社乗っ取りの大きな違いは、双方の合意に基づくかどうかです。M&Aは、経営者同士の協議によって合意形成されるのに対し、会社乗っ取りは経営者の同意を得ず、強制的に経営権を奪うことを目的としています。特に、敵対的買収(Hostile Takeover)は、相手企業の同意なしに株式を買い占めるなどして経営権を握るため、M&Aの一種でありながらも会社乗っ取りとみなされるケースです。結果として、会社乗っ取りは企業の経営陣や従業員にとって予期せぬ事態となり、企業の安定性を揺るがすリスクが伴います。

会社乗っ取りの手法とは?

会社乗っ取りの手法は、会社の規模や上場・非上場の違いにより異なります。上場企業では、株式の公開買付(TOB)をはじめとする敵対的な買収手法が一般的ですが、非上場の中小企業では、親族や経営陣によるクーデターや相続に絡んだ経営権の奪取が主な手法となります。いずれの手法も合法的に行われることが多いものの、経営陣にとっては意図しない経営権の移転を招くことから、重大な経営リスクとして警戒すべきです。ここでは、上場企業と中小企業に分けて、それぞれの代表的な会社乗っ取りの手法を解説します。

上場企業における会社乗っ取りの手法

上場企業においては、株式市場での取引を通じて会社乗っ取りが行われるケースが多く見られます。これには、敵対的買収や総会屋を利用した乗っ取りといった手法が含まれます。これらの手法では、対象企業の株主を巻き込み、株主総会の議決権を利用して経営権を奪うことを狙います。

1. 敵対的買収(M&A)

敵対的買収とは、対象企業の経営陣の同意を得ずに、株式を買い集めることで経営権を握る手法です。これは上場企業における会社乗っ取りの代表的な方法であり、企業の敵対的買収は一般にTOB(株式公開買付け)という手段を用いて行われます。

TOBとは、買収者が一定期間内に特定の株価で株式を大量に買い取ることを公表し、不特定多数の株主から株式を取得する手法です。市場での株価よりも高い価格で買い付けが行われることが多く、株主は利益を見込んで売却に応じる傾向があります。これにより、買収者は議決権の過半数を取得し、株主総会での発言権を得ることができます。結果として、買収者が経営陣を交代させるなど、会社の経営権を掌握することが可能になります。

敵対的買収が行われると、企業の経営陣や従業員にとっては突然の変化が訪れ、組織全体に混乱が生じる可能性があります。そのため、上場企業では敵対的買収に備え、買収防衛策(ポイズンピル、ホワイトナイトなど)を事前に講じることが一般的です。しかし、それでも完全に防ぎきれないこともあるため、企業は常に株式の動向を注視し、適切な対策を準備しておく必要があります。

2. 総会屋を利用した乗っ取り

総会屋とは、株主権を悪用し、企業から不当な利益を得ようとする集団を指します。総会屋は、対象企業の株式を少数保有することにより株主としての権利を持ち、株主総会に出席して企業の経営陣に対して圧力をかけたり、議案に反対したりすることで企業を混乱させます。総会屋は、経営陣や企業に対し、総会が円滑に進行することを条件に金銭や利益供与を要求することがあり、過去には多くの企業が総会屋の標的となっていました。

総会屋による乗っ取りでは、株主総会の場で経営陣に対して不信任案を突きつけ、株主の賛同を得て経営陣を解任に追い込むことが目的とされるケースがあります。このような手法は違法行為に当たることも多く、現在では会社法や金融商品取引法の改正により規制が強化されていますが、完全に防ぐことはできません。

総会屋対策として、企業は株主構成の把握や株主とのコミュニケーションを密にし、総会の運営において不測の事態が起こらないよう準備を行うことが求められます。また、会社乗っ取りを防ぐために、総会屋による妨害行為が発覚した際には、迅速に法的手段を講じることが重要です。

中小企業における会社乗っ取りの手法

中小企業では、上場企業とは異なり、親族間の対立や相続を巡るトラブルによって会社乗っ取りが発生することが多くあります。中小企業は株式の保有者が限られているため、株主の意向や相続のタイミングが経営権に大きな影響を与えやすいのです。以下では、中小企業に特有の会社乗っ取りの手法について解説します。

1. 親族や役員によるクーデター

中小企業では、オーナー経営者が親族に株式を分け与えることが一般的です。しかし、株式の分配方法を誤ると、親族同士の対立からクーデターが発生し、経営権を奪われる可能性があります。たとえば、オーナーの逝去後に親族間で株式が分散してしまい、一部の親族が他の株主と結託して議決権の過半数を取得することで、代表取締役を解任し、自身が経営権を握るというケースです。

このようなクーデターを防ぐためには、株式の分配に際して慎重な検討を行い、信頼できる人物にのみ株式を持たせることが重要です。また、相続や事業承継の計画を立て、遺言書や信託契約などで親族間のトラブルを未然に防ぐことも有効です。

2. 株式相続による乗っ取り

中小企業における株式の相続がきっかけで、経営権が意図せず移転してしまうことも、会社乗っ取りの手法の一つです。多くの中小企業では、定款で株式の譲渡制限を設けていますが、相続にはこの制限が適用されません。そのため、経営者の死去や予期せぬ相続によって、会社の経営に不向きな人物や経営者と対立する者に株式が渡ってしまい、会社の支配権を握られてしまうことがあります。

この手法による会社乗っ取りを防ぐためには、定款で取得条項付き株式や拒否権付き種類株式を発行し、相続によって経営権が意図せず移転することを防ぐことが有効です。これにより、会社は特定の条件のもとで株式を強制的に買い戻したり、重要事項の決議に対して拒否権を行使したりすることが可能となります。事業承継を見据え、あらかじめ相続に絡むリスクを低減することが必要です。

3. 虚偽の登記変更

中小企業では、株主総会の議事録を偽造し、虚偽の登記を行うことで会社を乗っ取る手法が用いられることもあります。これは、長期入院中の経営者や認知症を患っている経営者がいる場合に、他の役員や元従業員が虚偽の議事録を作成し、代表取締役の変更を登記することで行われることが一般的です。

このような違法行為を防ぐためには、企業内部の監査体制を強化し、定期的に登記内容を確認することが重要です。また、企業の代表取締役や役員の変更手続きに関しては、法務専門家の助言を受けながら慎重に行うことが求められます。

必要な虚偽の変更登記が発覚した場合には、直ちに法的措置を講じることが重要です。具体的には、司法書士や弁護士に依頼して不正な登記内容の取り消しを請求し、必要に応じて刑事告訴を行うことが有効な対策です。また、経営者が長期不在や健康上の理由で会社運営に支障が生じる可能性がある場合には、事前に信託や後見制度などを利用して経営権の管理を行うことも、登記変更を悪用した乗っ取りを防ぐ有効な方法と言えます。

会社乗っ取りの事例6選

会社乗っ取りは、上場企業から中小企業までさまざまな規模の企業で発生しており、手法や背景も多岐にわたります。ここでは、過去に実際に起きた会社乗っ取りの事例を6つ紹介し、それぞれの事例がどのような手法で行われたのか、どのような結果をもたらしたのかについて解説します。

1. 株式の買い占めによる乗っ取り(例:春日電機の事例)

株式の買い占めは、上場企業における代表的な会社乗っ取り手法の一つです。特に、公開市場で株式を大量に購入することで議決権を多数獲得し、株主総会で経営権を掌握することが一般的です。

春日電機の事例は、2008年に大株主のS氏が同社の経営権を乗っ取ったケースとして知られています。S氏は、自ら設立した会社アインテスラを通じて春日電機の株式を買い占め、大株主として2008年6月の株主総会で創業者一族による経営陣の再任を否決させました。その後、S氏は取締役会において自らが社長に就任し、春日電機の経営権を完全に掌握しました。

しかし、S氏は経営権を得た後、自社の資金繰りを改善するために、春日電機からアインテスラへ無担保で約5億5000万円もの巨額の資金を貸し付けました。この結果、春日電機の財務状況は大きく悪化し、最終的には企業価値の大幅な毀損につながりました。その後、春日電機は上場廃止に追い込まれ、2009年には会社更生手続きの開始が決定されます。最終的に春日電機は、因幡電機産業が設立した同じ商号の新会社に事業を譲渡する形で再編されました。S氏は、春日電機に多大な損害を与えた件で、2011年に会社法違反容疑で逮捕され、2012年には懲役3年の実刑判決が確定しました。

2. 創業者一族の対立による敵対的TOB(例:大戸屋HDの事例)

大戸屋ホールディングス(以下、大戸屋HD)の事例は、創業者一族の対立が原因で、敵対的TOB(株式公開買付け)という手段に発展し、最終的に創業者一族が経営権を失うことになったケースです。

大戸屋HDは、元会長の死後、創業者の長男が従兄弟である社長と経営方針を巡って対立することとなりました。長男は常務から取締役に降格され、最終的に取締役も辞任することになります。この状況を受け、長男は自分や母親が保有する大戸屋HDの株式約19%をコロワイドに売却しました。

コロワイドはこの株式をもとに大戸屋HDの筆頭株主となり、株主総会で取締役候補を提案するなど、経営介入を試みました。大戸屋HDの経営陣との対話がうまくいかなかったため、コロワイドは2020年に敵対的TOBを実行し、最終的に46%超の株式を取得して経営権を握ることに成功しました。これにより、大戸屋HDの旧経営陣は退任を余儀なくされ、創業者の長男を含む新経営陣が選任されました。

3. 役員の結託による乗っ取り(例:ユニバーサルエンターテインメントの事例)

ユニバーサルエンターテインメントでは、創業者である元会長O氏が、子供たちに株式を分配したことがきっかけで経営権を奪われる事態が発生しました。

O氏は、会社の将来的な事業承継を見据えて、筆頭株主である岡田ホールディングスの株式を長男と長女に分配しました。この結果、長男と長女の議決権を合わせると過半数を超える一方、O氏自身の議決権は過半数を割り込んでしまいました。これにより、岡田ホールディングスでの取締役人事はO氏の同意なしに決議できるようになり、2017年にはO氏は岡田ホールディングスの取締役を解任されてしまいます。

さらに、岡田ホールディングスがユニバーサルエンターテインメントの筆頭株主であったため、O氏はユニバーサルエンターテインメントの取締役会でも解任され、最終的に経営権を失いました。その後、O氏は会社資金の不正流用を理由に同社から損害賠償訴訟を起こされることになり、経営者としての地位を完全に失うことになりました。

4. 虚偽の登記変更による乗っ取り(例:医療法人の事例)

医療法人における会社乗っ取りの事例として、理事会議事録を偽造して経営権を掌握したケースがあります。2015年、千葉県の医療法人では、理事会議事録を偽造し、法人理事長を変更したとして、投資会社社長が同法人から刑事告発されました。

偽造された議事録には、同年9月に理事会が開催され、前理事長が退任し、新たな理事長が選任されたことが記載されていましたが、実際には前理事長と新理事長は共に入院中で、他の理事も会議には参加していませんでした。投資会社社長は、法人の実印を持ち出し、資産を不正に流用していました。

5. 親族によるクーデター(例:相続クーデターの事例)

親族間での経営権を巡る対立は、非上場の中小企業でよく見られる会社乗っ取りの一つです。相続の際、株式が複数の親族に分散されたことがきっかけで、内部対立が生じ、後継者が解任されるといったケースがこれに当たります。

特に、相続クーデターと呼ばれる手法では、相続を機に親族が結託し、株主総会で議決権の過半数を確保した上で代表取締役を解任することが可能です。このような事例では、経営者が後継者として指定した人物が親族により排除され、信頼関係が崩壊することが多く見られます。

6. 総会屋を利用した乗っ取り(例:昭和の総会屋事件)

総会屋とは、株主権を悪用して企業から金銭などの利益を得ることを目的とする集団です。昭和の時代には、総会屋が株主総会に参加し、企業の経営者に不当な要求を突きつけることで、企業を混乱させて経営権を掌握する事件が多く発生しました。

代表的な総会屋事件としては、大手製造業や流通業などの株主総会で総会屋が多数の株を保有し、経営者を脅迫して経営方針を変更させることで、経営権を握るという手法がありました。しかし、現在では総会屋に対する法規制が強化され、彼らの影響力は大きく低下しました。それでも、総会屋のような存在が完全に消滅したわけではないため、依然として注意が必要です。

会社乗っ取りの対策方法とは?

会社乗っ取りのリスクは、上場企業から中小企業まで規模を問わず存在します。そのため、事前に有効な対策を講じておくことが不可欠です。乗っ取りの手法は、敵対的買収や株式の分散、内部クーデターなど多岐にわたるため、企業の特性や状況に応じた適切な対策を選ぶことが重要です。ここでは、代表的な会社乗っ取りの対策方法について解説します。

1. 種類株式の活用

種類株式の活用は、会社乗っ取り対策として非常に効果的な方法です。種類株式とは、株主の権利内容に特別な条件を設定することができる株式のことを指し、通常の普通株式とは異なり、経営権や議決権の行使において特別な権限を持たせることができます。種類株式をうまく活用することで、第三者や好ましくない株主による経営介入を防ぎ、会社の安定経営を図ることが可能です。

種類株式にはさまざまな種類がありますが、特に会社乗っ取り対策として有効なのは、「拒否権付き種類株式」と「取得条項付き種類株式」の2つです。

拒否権付き種類株式(黄金株)  

拒否権付き種類株式は、株主総会や取締役会で決議された内容に対して、拒否権を行使することができる特別な株式です。この種類株式を保有している株主は、例えば、株主総会で代表取締役の解任や事業譲渡などの重要事項が決議されても、それを拒否することが可能です。そのため、敵対的買収や内部クーデターなど、経営権を脅かすような行為に対して強力な防御策となります。また、黄金株は、創業者が後継者に事業を譲渡する際も、後継者の経営状況を監視・統制する目的で活用されることがあります。

取得条項付き種類株式  

取得条項付き種類株式は、あらかじめ定めた条件(取得事由)が発生した場合、会社がその株式を強制的に買い取ることができる株式です。例えば、株主が相続などで会社にとって好ましくない人物になった場合、会社が取得条項付き種類株式を保有することで、その人物から強制的に株式を買い取ることができ、会社乗っ取りのリスクを低減できます。取得事由として設定される条件は柔軟にカスタマイズできるため、自社の経営状況や株主構成に合わせて設計することが可能です。

種類株式の導入には定款の変更が必要であり、全株主の合意を得る必要がある場合もあるため、導入の際には法務の専門家と十分に相談し、慎重に手続きを進めることが重要です。

2. 持株会社の設立

持株会社の設立も、会社乗っ取りに対する有効な対策の一つです。持株会社とは、他の会社の株式を保有し、その経営を管理・統制することを主な事業とする会社のことです。持株会社は、親会社として子会社を管理し、グループ全体のガバナンスを強化する役割を果たします。

持株会社を設立し、子会社である本体企業の株式をすべて持株会社に集約させることで、会社の株式が第三者に分散することを防ぎ、会社乗っ取りのリスクを減少させることができます。特に、中小企業や非上場企業においては、株主が親族や創業者一族に限られている場合、持株会社を設立し、株式を一括管理することで、親族間の対立や相続時のトラブルを未然に防ぐことができます。

さらに、持株会社を設立することで、以下のようなメリットがあります。

  • 株式の分散を防止し、経営権の安定化を図れる。
  • グループ全体の資本構成や経営方針を一元管理しやすくなる。
  • 事業承継の際、持株会社の株式を後継者に譲渡するだけで済むため、承継がスムーズに行える。

ただし、持株会社の設立にはコストや手続きの煩雑さが伴うため、導入する際には専門家と相談し、自社に適したスキームを構築することが求められます。

3. 買収防衛策の導入

会社乗っ取りの対策として、上場企業では「買収防衛策」の導入が一般的です。買収防衛策とは、敵対的買収や会社乗っ取りのリスクに備えて、あらかじめ取締役会や株主総会で定めておく一連の対策のことです。買収防衛策にはさまざまな手法があり、以下のようなものが代表的です。

ポイズンピル  

ポイズンピルとは、敵対的な買収者が現れた際に、買収者以外の既存株主に対して市場価格よりも安い価格で新株を購入できる権利(新株予約権)を発行することで、買収者の持株比率を希薄化させ、経営権の掌握を困難にさせる防衛策です。新株の発行により、買収者の持株比率が低下するため、買収のコストを増大させ、買収意欲を削ぐ効果があります。

ホワイトナイト  

ホワイトナイトは、敵対的買収を仕掛けられた際に、友好的な第三者に経営権を譲渡し、敵対的買収を防ぐ防衛策です。買収はされるものの、敵対的な買収者に経営権を握られることを防げるため、経営権の安定を図ることができます。

パックマン・ディフェンス  

パックマン・ディフェンスは、敵対的買収を仕掛けられた企業が、逆に買収側に対してTOB(株式公開買付け)を行うことで、買収者に買収を諦めさせる手法です。この手法は、敵対的買収者に対する強力な対抗策となる一方、資金やリソースの負担が大きいため、慎重に判断する必要があります。

クラウン・ジュエル  

クラウン・ジュエルとは、買収者にとって魅力的な資産や事業を第三者に売却することで、企業価値を低下させ、買収意欲を削ぐ防衛策です。王冠の宝石(クラウン・ジュエル)を取り外すことで王冠の価値を下げるという意味が込められています。

これらの買収防衛策は、会社乗っ取りのリスクを軽減するために有効ですが、企業価値や株主利益を損ねるリスクもあるため、導入に際しては慎重な判断が求められます。

4. 株主構成の管理

会社乗っ取りのリスクを軽減するためには、株主構成の管理も重要です。特に中小企業や非上場企業では、株式を親族や信頼できる人物に集約させ、分散させないことが経営権を守る上で有効です。内部クーデターや株式相続をきっかけとした会社乗っ取りの事例は、株主構成が分散していることが原因で発生することが多いため、次の点に注意して株主構成を管理することが求められます。

株式の譲渡制限の設定  

自社の定款において、株式の譲渡に関して取締役会や株主総会の承認を必要とする「株式譲渡制限」を設けることが重要です。これにより、好ましくない人物や第三者が株式を取得することを防ぎ、経営権の安定を図ることができます。

株式相続の事前対策  

株式相続をきっかけとした会社乗っ取りを防ぐためには、遺言書や生前贈与を活用し、相続人間での争いを回避することが重要です。また、先述の取得条項付き種類株式を導入することで、相続による株式移転を管理しやすくすることも対策の一つです。

これらの株主構成の管理は、会社の状況や経営方針に応じて柔軟に行い、経営権を守るための体制を整えておくことが求められます。

まとめ: 経営権を守るための適切な対策を!

会社乗っ取りは、合法的な手段を用いることが多いため、単に「違法行為を防ぐ」という考え方では不十分です。企業としては、種類株式の活用や持株会社の設立、買収防衛策の導入といった具体的な対策を講じることが必要です。また、内部クーデターや株式相続に起因する乗っ取りリスクを軽減するためにも、株主構成の管理や事前の計画が重要です。健全な経営を守るためには、日々の経営活動の中で、常にリスクマネジメントを意識しておくことが求められます。

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