M&Aでは公認会計士が必須!?役割・業務・価格相場を解説!

M&Aは、企業成長や事業再編における重要な戦略手段です。しかし、M&Aの成功には、複雑な手続きや専門的な知識が必要であり、慎重な計画と適切なアドバイザーのサポートが不可欠です。特に、企業価値の適正な評価や財務・税務のリスク確認といった領域では、公認会計士の役割が大きく、彼らの専門性なしではM&Aの成功は難しいでしょう。

本記事では、M&Aにおける公認会計士の重要性、具体的な業務内容、他の士業との違い、そして依頼する際の報酬相場について解説します。さらに、公認会計士に依頼するメリット・デメリットや選び方のポイントをまとめ、M&Aを成功に導くための公認会計士の活用法を徹底解説していきます。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

M&Aにおける公認会計士の重要性と役割

M&Aでは、財務や税務、法務に関する専門知識が求められるため、各分野のプロフェッショナルが関与します。その中でも、公認会計士は企業の価値評価やリスク分析を行う重要な役割を担っており、取引の成功に不可欠な存在です。ここでは、M&Aにおける公認会計士の必要性と、その具体的な役割について解説します。

M&Aにおける公認会計士の必要性とは?

M&Aは、単なる企業の合併や買収に留まらず、経営戦略の一環として新たな市場や技術の獲得、経営資源の拡充などを目的に行われることが多いため、その成否が企業の将来に大きな影響を与えます。しかし、M&Aのプロセスは非常に複雑であり、法務、財務、税務といった専門的な知識を必要とするだけでなく、各分野におけるリスクや課題を正確に把握し、適切に対処することが求められます。

そのため、M&Aを検討する際には、専門知識を有する公認会計士の支援が欠かせません。公認会計士は、企業の財務状況や事業計画を分析することで、取引のリスクを把握し、適正な企業価値を算定することができます。また、譲受企業にとっては、買収対象企業が自社の成長戦略に合致するかを判断するための重要な情報を提供し、取引価格の妥当性を検証する役割を果たします。

一方で、譲渡企業にとっては、会社を適正な価値で売却することができるよう支援し、買収側との交渉を有利に進めるための材料を提供します。これにより、譲渡金額や売却条件の交渉において、譲渡側が不利益を被ることなく取引を成立させることが可能です。

また、M&Aの過程ではデューデリジェンス(買収監査)という、企業の財務や税務の詳細な調査が行われます。公認会計士は、このデューデリジェンスを通じて、財務面の潜在リスクを洗い出し、簿外債務や偶発債務の有無、事業計画の妥当性などを詳細に分析することができます。これにより、譲受企業は潜在的なリスクを事前に把握し、取引後に予期せぬ損失を被ることを回避できるのです。

M&Aにおける公認会計士の重要な役割

公認会計士は、M&Aの全プロセスを通じて、様々な役割を果たしています。主に譲受企業(買い手)と譲渡企業(売り手)の双方において、それぞれの立場から異なるサポートを提供しますが、共通しているのは、取引の適正化を図るために客観的な視点からの情報提供と分析を行うことです。

1. 譲受企業にとっての役割

譲受企業にとって、公認会計士はM&Aの検討段階から取引完了後まで、戦略的なパートナーとして機能します。まず、譲受企業がM&Aの目的を明確にし、どのような企業を買収するのか、その戦略を策定する段階で、公認会計士は企業価値の評価や将来的なリスクの分析を行います。これにより、譲受企業は買収対象企業の財務状況や事業計画を正確に理解し、自社にとって最適な買収候補であるかを判断することが可能となります。

さらに、実際の取引では、財務デューデリジェンス(財務DD)や税務デューデリジェンス(税務DD)を通じて、取引対象企業の財務や税務リスクを洗い出し、適切な買収価格を算定します。これにより、取引後に想定外のリスクが顕在化することを防ぎ、譲受企業の損失を回避することができます。また、M&A完了後の統合プロセス(PMI)でも、公認会計士は企業文化や経営体制の調整、システム統合など、組織の安定とシナジー効果の最大化を図るための支援を行います。

2. 譲渡企業にとっての役割

一方で、譲渡企業にとって公認会計士は、適正な企業価値を評価し、取引価格の交渉を有利に進めるための重要な存在です。公認会計士は、譲渡企業の経営者や株主に対し、財務状況の分析や事業計画の妥当性について専門的なアドバイスを行い、適正な譲渡価格の算定を支援します。

また、M&A仲介会社などの営業色が強いアドバイザーとは異なり、公認会計士は企業の独立した第三者としての立場から、取引の健全性や譲渡先の適正性を評価し、必要に応じて譲渡しない選択肢も含めたアドバイスを行います。これにより、譲渡側が短期的な利益追求に走ることなく、長期的な視点で最善の判断を下すことをサポートします。

3. 双方にとってのメリット

公認会計士の関与により、譲渡側と譲受側の双方にとって、取引に対する信頼性が高まるだけでなく、交渉の過程で客観的なデータを元にした対話が行われるため、取引の成立率が向上します。また、適正な価格交渉が行われることにより、無用な対立を回避でき、円滑な成約が期待できる点も公認会計士の大きなメリットです。

M&Aにおける公認会計士の具体的な業務内容

M&Aプロセスにおいて、公認会計士は企業の価値評価や財務・税務デューデリジェンスを通じて、企業の実態を把握し、取引の透明性を確保する役割を担っています。また、M&A完了後のPMI(経営統合プロセス)支援により、企業が新たな体制で円滑に事業を展開できるようサポートすることも重要な業務の一つです。ここでは、公認会計士がM&Aで果たす具体的な業務内容について、各項目ごとに詳しく解説します。

企業価値評価(バリュエーション)の実施

企業価値評価(バリュエーション)は、M&Aの初期段階で公認会計士が行う重要な業務です。バリュエーションは、譲渡対象となる企業の経済的価値を金額で評価し、取引価格の交渉材料とすることを目的としています。特に買い手企業と売り手企業の双方が納得できる適正な価値を算定することは、M&Aプロセス全体の成否を左右する要素となります。バリュエーションの評価手法には、主に以下の3つの方法が用いられます。

1. DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)  

DCF法は、企業が将来生み出すと見込まれるキャッシュフローを現在の価値に割り戻して、企業全体の価値を算定する手法です。特にスタートアップ企業や将来性のある技術を持つ企業の評価に適しており、投資収益の観点から企業の価値を評価するため、多くのM&A取引で採用されています。

例えば、将来的に高い成長が見込まれるIT企業のM&Aでは、DCF法を用いることで、将来の収益力を評価し、時価総額と比較して適正な取引価格を算定することが可能です。

2. 類似企業比準方式(マルチプル法)  

類似企業比準方式は、上場している類似企業の株価や業績指標を基に、譲渡対象企業の価値を推定する手法です。上場企業の株価データを参考にすることで、非上場企業の時価総額を算定することができます。この方法は、特定の業界やセグメントでの企業価値の標準値を参考にした評価が可能です。

例えば、製造業の企業価値を評価する際には、同じ業種内の上場企業のP/E(株価収益率)やP/B(株価純資産倍率)などの指標を活用して、譲渡企業の価値を算定することが行われます。

3. 純資産方式  

純資産方式は、譲渡企業の保有する資産から負債を差し引いた純資産額を基に企業価値を算定する方法です。この手法は、特に企業の資産の実態価値が重要となる不動産業や金融業で用いられます。純資産方式を用いる際は、財務デューデリジェンスを実施し、簿外債務や資産の評価額を正確に把握することが求められます。

財務デューデリジェンス(財務DD)

財務デューデリジェンス(財務DD)は、譲渡企業の財務状況や経営実態を調査し、企業価値評価やM&Aのリスクを正確に把握するための重要なプロセスです。公認会計士は、M&A取引において買い手企業が負う可能性のあるリスクを軽減し、取引を適正な形で進めるために、徹底的な調査を行います。財務DDの目的は、主に以下の内容を確認することにあります。

1. 簿外債務の有無の確認  

譲渡企業の財務諸表には記載されていないが、将来的に支払い義務が生じる可能性のある「簿外債務」を確認することは、財務DDにおける最重要事項の一つです。未払い残業代、リース債務、訴訟リスクなどが含まれ、これらが判明した場合、M&Aの交渉価格や取引条件に影響を与えます。

2. 過去の財務データの分析  

財務DDでは、過去の財務諸表や帳簿記録を詳細に分析し、収益性やキャッシュフローの安定性を確認します。また、売上や利益の推移、主要顧客の取引状況なども調査し、企業の実態を把握します。これにより、譲渡企業の将来性を判断する材料を提供します。

3. 事業計画の妥当性の確認  

譲渡企業が提示する将来の事業計画について、現実的で実行可能かどうかを検証することも財務DDの重要な役割です。市場動向や競合企業の状況などを踏まえ、計画の実現性を判断することで、買い手企業が取引に伴うリスクを最小限に抑えることができます。

税務デューデリジェンス(税務DD)

税務デューデリジェンス(税務DD)は、譲渡企業の過去の税務処理や税務申告内容を調査し、税務上のリスクを把握するために実施されます。M&Aにおいては、税務リスクが取引後に思わぬ損失をもたらすことがあるため、税務DDを通じて事前にそのリスクを洗い出すことが重要です。税務DDの主な目的は以下の通りです。

1. 税務上のリスクの洗い出し  

譲渡企業の過去の税務処理に誤りがないか、税務調査で指摘されるリスクがないかを確認します。特に利益の過少申告や、取引先との特殊な取引に伴う税務リスク、減価償却や税額控除の適用の正当性などが調査項目に含まれます。

2. 過去の税務調査の対応状況の確認  

譲渡企業が過去に税務調査を受けたことがあるか、その際に指摘を受けた事項が解決されているかを確認します。未解決の税務問題が残っている場合、譲渡後に買い手企業にリスクが引き継がれることになります。

3. 税務DDの結果を踏まえた節税対策の提案  

税務DDの結果を基に、譲受企業が取引後に最適な税務処理を行えるよう、節税対策や税務上の最適化を提案することも、公認会計士の重要な役割です。これにより、買い手企業は税務コストを最小限に抑え、M&Aのメリットを最大化できます。

PMI(経営統合プロセス)支援

PMI(Post Merger Integration)は、M&A取引が完了した後の統合プロセスを指し、買収した企業と譲受企業の事業や組織をスムーズに統合するためのプロセスです。M&Aの成否は、このPMIがいかに成功するかにかかっているといっても過言ではありません。PMI支援の主な内容は以下の通りです。

1. システムの統合  

M&Aによって企業同士が統合されると、経営管理システムやITインフラの統合が必要となります。これには、財務・会計システムの連携や、人事管理システムの統合が含まれ、システムの整備を通じて情報共有を円滑に行える環境を整えます。

2. 業務の標準化  

買収後は、両企業の業務プロセスを統一し、組織間の相互理解を深めることが求められます。業務フローや手続きの標準化を行うことで、企業全体の効率を向上させ、取引コストを削減します。

3. 社内教育と人材マネジメント  

PMIでは、従業員の意識改革や新たな企業文化の定着を図ることも重要です。公認会計士は、これらのプロセスをサポートし、従業員が統合後の新体制に円滑に適応できるよう支援を行います。

M&Aにおける公認会計士と他の士業の違い

M&Aのプロセスには、さまざまな士業が関与しますが、その役割や専門分野には明確な違いがあります。M&Aに関わる主要な士業としては、公認会計士、税理士、弁護士が挙げられます。公認会計士は財務・会計面での専門知識を提供し、企業価値の算定や財務デューデリジェンスを担当する一方、税理士は税務デューデリジェンスを通じて税務上のリスクを評価し、弁護士は法務デューデリジェンスや契約書の作成など法的サポートを行います。

それぞれの士業が持つ専門領域は異なるため、M&Aを成功させるためには、各士業の役割を理解し、適切に役割分担を行うことが重要です。この章では、公認会計士と税理士、弁護士との違いについて、業務内容や役割の観点から詳しく解説します。

公認会計士と税理士の違い

公認会計士と税理士は、共に財務や税務に関わる業務を行いますが、その役割や業務内容にはいくつかの明確な違いがあります。特にM&Aにおいては、それぞれの士業が得意とする専門分野を理解し、適切に使い分けることが求められます。

1. 公認会計士の役割と業務内容  

公認会計士は、財務や会計に関する監査業務を主な専門としています。上場企業の財務諸表が適切かつ正確に作成されているかを確認する会計監査は、公認会計士の独占業務です。また、M&Aでは、企業価値評価(バリュエーション)や財務デューデリジェンスを行い、譲渡企業や譲受企業の実態を把握し、取引の透明性を高める役割を担います。

具体的には、譲渡企業の財務状況を精査し、潜在的なリスクや資産価値を評価することで、M&A取引における適正な取引価格を算定することが求められます。また、企業の将来性を評価するDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)や、類似企業比準方式などの高度な評価手法を用いて企業価値を測定する点で、他士業と異なる強みを発揮します。

2. 税理士の役割と業務内容  

一方、税理士は税務に関する業務を専門としています。税務申告や税務調査の対応、節税対策など、税金に関わる幅広いサービスを提供します。特にM&Aにおいては、税務デューデリジェンスを通じて、譲渡企業の税務上のリスクを評価し、適切な税務処理を行うためのアドバイスを提供します。

例えば、過去の税務申告内容に誤りがないか、税務調査で指摘される可能性がある取引が存在しないかを確認し、税務リスクを洗い出します。税理士の専門知識により、M&A取引後に税務リスクが顕在化し、譲受企業が多額の税金を支払う事態を未然に防ぐことができます。

3. M&Aにおける専門分野の使い分け  

M&Aのデューデリジェンスにおいて、税務上のリスクが大きいと判断された場合、税理士の関与が必要となります。公認会計士も税理士登録を行うことで、税務業務を行うことができますが、税務デューデリジェンスについては、専門的な税務知識が豊富な税理士に依頼することが一般的です。

また、譲渡企業の税務リスクが大きい場合、税理士による精査を通じて、M&A後に発生する可能性のある追加税額や追徴課税リスクを把握し、取引条件に反映させることが求められます。これにより、譲受企業は適正な取引価格を設定し、M&Aの成功を確実なものとすることができます。

公認会計士と弁護士の違い

公認会計士と弁護士は、M&Aにおいて協力してデューデリジェンスを行うことが多いですが、業務の内容や役割には明確な違いがあります。公認会計士は主に財務や税務に関する調査を行う一方で、弁護士は法務に関する調査や契約書の作成・確認など、法的観点から取引をサポートします。

1. 法務デューデリジェンスにおける弁護士の役割  

弁護士は、M&A取引における法務デューデリジェンスを担当し、譲渡企業が法律上のリスクを抱えていないかを調査します。具体的には、契約書や労働契約、知的財産権の保護状況、取引先との契約内容などを確認し、法的リスクの有無を評価します。特に、訴訟やクレームが発生している場合や、許認可の問題が絡む案件では、法務デューデリジェンスを通じて、取引後に発生し得るリスクを明確にし、取引条件に反映させることが求められます。

例えば、ある企業を譲受する際、その企業が過去に従業員と労働問題でトラブルを抱えていた場合、未払いの残業代や労働条件に関する訴訟リスクが存在することがあります。これらのリスクを把握し、対策を講じることが法務デューデリジェンスの重要な役割です。

2. 契約書作成と法的サポート  

M&Aにおいては、買収契約書や譲渡契約書など、さまざまな契約書の作成や確認が必要となります。契約書には取引条件や売買価格、責任分担、契約解除条項など、取引における重要事項が盛り込まれているため、法的な観点からの確認が不可欠です。

弁護士は、契約書の内容が法律に適合しているか、契約当事者に不利益な条項が含まれていないかを確認し、必要に応じて修正を提案します。特に、取引金額が大きいM&Aでは、契約書の内容がその後の取引に大きな影響を与えるため、弁護士による精査が重要です。

3. 公認会計士との協力関係  

公認会計士と弁護士は、M&Aプロセスにおいて密接に連携しながら業務を行います。例えば、公認会計士が財務デューデリジェンスを通じて簿外債務や偶発債務を発見した場合、そのリスクが法的にどのように扱われるべきかを弁護士に確認し、取引条件に反映させることが必要です。

また、契約書の作成においても、企業価値評価や財務状況に基づいた公認会計士のアドバイスを受けながら、取引価格や支払い条件を設定することがあります。このように、M&Aのプロセスでは公認会計士と弁護士が互いの専門知識を活用し、取引の成功に向けて協力関係を築くことが求められます。

M&Aは財務・税務・法務の各分野の専門知識を必要とする複雑な取引であり、各士業が持つ専門性を最大限に活用することが、取引を円滑に進めるための鍵となります。公認会計士と弁護士は、それぞれの立場からリスクを洗い出し、最適な解決策を提示することで、企業の成長や発展を支援します。

公認会計士に依頼する際の価格相場

公認会計士にM&A業務を依頼する際の報酬体系は、業務内容や案件の規模によって大きく異なります。公認会計士の報酬は、一般的に「着手金」「中間金」「成功報酬」「デューデリジェンス費用」「バリュエーション費用」など、各業務に応じた項目に分かれていることが多く、各項目ごとに報酬基準や計算方法が異なります。特にM&Aの規模が大きくなるほど報酬額も上昇する傾向があるため、依頼内容に応じて報酬の体系を事前に確認することが重要です。ここでは、公認会計士に依頼する際の報酬体系の基本、報酬体系の代表例であるレーマン方式、そして業務内容ごとの具体的な報酬相場について詳しく解説していきます。

公認会計士の報酬体系の基本

公認会計士の報酬体系は、主に以下の5つの項目で構成されることが一般的です。

1. 着手金  

着手金とは、M&A業務を依頼する際に最初に支払う金額です。公認会計士に業務を正式に依頼することを示す意思表示の意味合いもあり、依頼内容に応じて設定されます。一般的な相場としては、50万円〜100万円程度が目安とされており、案件の難易度や規模によって金額が変動します。

2. 中間金  

中間金は、基本合意書の締結やデューデリジェンスが完了したタイミングなど、M&Aプロセスの中間地点で支払われる報酬です。デューデリジェンスや企業価値評価が含まれる場合には、その業務の進捗に応じて支払われます。金額の相場は50万円〜200万円程度ですが、業務量が多くなるほど増額されることが一般的です。

3. 成功報酬

成功報酬は、M&A取引が成立した際に支払われる報酬です。報酬額は取引の規模や条件によって異なり、一般的には「レーマン方式」を用いて計算されることが多く、成約額や企業価値に基づいて設定されます。成功報酬の割合は、5億円までの部分では5%、5億円を超える部分では4%といった具合に、取引金額に応じて段階的に変動する仕組みです。

4. デューデリジェンス費用  

デューデリジェンス(DD)費用は、企業の財務状況や税務状況を調査するために発生する費用です。財務デューデリジェンスや税務デューデリジェンスの他、法務や労務に関するデューデリジェンスも含まれる場合があります。デューデリジェンスは、M&Aプロセスの中で最も重要な業務の一つであり、詳細な調査を行うために多くの時間とリソースを要します。相場としては1時間あたり2万円〜5万円程度のタイムチャージ制が一般的です。

5. バリュエーション(企業価値評価)費用  

バリュエーション費用は、企業価値評価を行う際に発生する報酬です。企業の価値を算定するために、財務データや将来のキャッシュフローの分析、類似企業との比較などを行います。評価手法には、DCF法、類似企業比準方式、純資産方式などがあり、評価手法の選択や企業の規模によって報酬額が異なります。一般的な相場としては、50万円〜300万円程度となっています。

レーマン方式の料金体系

レーマン方式とは、M&Aの成功報酬の計算方法として広く用いられている料金体系で、取引金額(成約額)に応じて段階的に報酬料率を設定する仕組みです。取引の規模が大きくなるにつれて、段階的に料率が低くなり、報酬額が増加する仕組みになっています。

例えば、以下のような段階制を用いるケースが一般的です。

  • 5億円までの部分:5%
  • 5億円超~10億円までの部分:4%
  • 10億円超~50億円までの部分:3%
  • 50億円超~100億円までの部分:2%
  • 100億円超の部分:1%

つまり、成功報酬基準額が5億円の場合、報酬額は「5億円 × 5% = 2,500万円」となります。また、成功報酬基準額が13億円の場合、以下のような段階的な計算を行います。

  • 5億円までの部分:5億円 × 5% = 2,500万円
  • 5億円超~10億円までの部分:5億円 × 4% = 2,000万円
  • 10億円超~13億円までの部分:3億円 × 3% = 900万円

この場合、総額で「2,500万円 + 2,000万円 + 900万円 = 5,400万円」が成功報酬となります。レーマン方式は、取引金額が大きいほど報酬額も増加するため、M&Aの規模に応じた報酬設定を行えるという特徴があります。また、成功報酬基準額には、「成約額」や「企業価値」、「移動総資産額」など、さまざまな設定方法があります。公認会計士と依頼者の間で、どの基準を用いるかを事前に確認し、双方が納得した上で契約を締結することが重要です。

依頼する業務内容による報酬相場の例

公認会計士にM&A業務を依頼する際の報酬は、依頼する業務内容によっても異なります。以下に、代表的な業務内容ごとの報酬相場を紹介します。

1. バリュエーションの報酬  

バリュエーション(企業価値評価)を依頼する際の費用は、50万円〜300万円程度が一般的です。企業の規模や評価手法の複雑さによって、報酬額が大きく変動することがあります。特に、DCF法を用いた評価では、将来のキャッシュフローの予測やリスク評価が必要となるため、通常よりも高額になることが多いです。

2. デューデリジェンスの費用  

デューデリジェンス(財務DD・税務DD)の費用は、1時間あたり2万円〜5万円程度のタイムチャージ制が採用されることが多く、1案件あたり100万円〜300万円を超えることもあります。デューデリジェンスは、企業の財務状況や税務リスクを精査する重要なプロセスであるため、依頼内容に応じた専門知識と経験を有する公認会計士に依頼することが求められます。

3. PMI支援の費用  

PMI(経営統合プロセス)の支援費用は、M&A完了後の統合作業の範囲によって大きく異なります。システムの統合や業務プロセスの標準化、従業員への社内教育など、支援内容が多岐にわたるため、案件規模や支援期間によって料金が設定されることが一般的です。通常、1案件あたり300万円〜500万円程度が相場とされていますが、大規模な統合プロジェクトでは、さらに高額となることもあります。

これらの報酬相場は、あくまで目安となるものであり、実際の報酬額は依頼する公認会計士事務所や案件の内容、難易度によって異なります。依頼する際は、複数の公認会計士事務所から見積もりを取り、業務内容や報酬額を比較した上で依頼先を選定することをお勧めします。

公認会計士にM&A業務を依頼するメリット・デメリット

M&Aを成功させるためには、専門的な知識と経験を持つ公認会計士のサポートを受けることが非常に有効です。しかし、依頼する際には、メリットとデメリットの両方を理解し、自社の状況に合った選択をすることが重要です。公認会計士にM&A業務を依頼することは、企業価値の適正な評価や財務デューデリジェンスの実施など、さまざまなメリットを享受できる反面、仲介業者や他士業と比較した際に、紹介できる相手企業の数が限られていることや、費用面でのデメリットが生じることもあります。この章では、公認会計士にM&A業務を依頼するメリットとデメリットについて詳しく解説していきます。

公認会計士に依頼するメリット

公認会計士にM&A業務を依頼する最大のメリットは、その専門性の高さと業務遂行能力にあります。公認会計士は、会計・財務・税務のスペシャリストであり、企業の財務状況を適切に分析し、M&Aにおけるリスクや価値の評価を行うことができます。以下では、公認会計士に依頼する具体的なメリットについて解説します。

1. 高度な専門性と信頼性  

公認会計士は、会計監査を独占業務とする国家資格であり、厳しい試験と実務経験を通じて専門知識を習得しています。そのため、企業の財務諸表の読み解きや簿外債務の確認、税務リスクの評価など、M&Aのプロセスにおいて非常に重要な業務を高い精度で実施することが可能です。また、公認会計士は第三者としての独立した立場から、客観的かつ信頼性の高い評価や意見を提供できるため、M&A取引の透明性と信頼性を確保できます。

2. 企業価値の適正な評価  

M&Aにおいては、売り手企業の適正な企業価値を算定することが重要です。公認会計士は、DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)や類似企業比準方式、純資産方式など、さまざまなバリュエーション手法を駆使して、企業価値の適正な評価を行います。特に、売り手と買い手が互いに納得できる企業価値を提示することは、円滑な交渉とM&Aの成立に直結するため、公認会計士の関与は不可欠です。

3. 複雑な財務・税務リスクの解明と対策  

財務デューデリジェンスや税務デューデリジェンスを通じて、売り手企業の財務状況や税務リスクを詳細に分析できるのも公認会計士の強みです。企業の過去の財務データや現在の資産負債の実質的な価値を確認し、潜在的なリスクや偶発債務を洗い出すことで、買い手企業が将来的に負担する可能性のある費用や損失を未然に防ぐことができます。特に、税務分野では節税対策や税務調査の対応策を講じるなど、依頼者の利益を最大化するためのアドバイスも提供します。

4. 他士業との連携が可能  

M&Aでは、財務面以外にも法務や労務、ITなど、多岐にわたる分野の知識と経験が必要となります。公認会計士は、弁護士や司法書士、社会保険労務士といった他士業と密に連携することで、総合的なサポートを提供することが可能です。公認会計士事務所やコンサルティングファームの中には、こうした他士業とのネットワークを活用して、依頼者のニーズに応じた専門家を紹介し、M&Aプロジェクト全体を統括して進める体制を整えている場合もあります。これにより、各専門分野の知見を最大限に活用し、より効果的なM&Aを実現できます。

5. PMI(経営統合プロセス)の支援  

公認会計士は、M&A成立後のPMIにおいても重要な役割を果たします。買収後の企業統合プロセスにおいて、システム統合や業務プロセスの標準化、財務や経営体制の構築などを支援することで、M&Aのシナジー効果を最大限に引き出すことができます。PMIの支援を行うことにより、買収企業と被買収企業の間で発生する可能性のある文化的摩擦や経営上の混乱を最小限に抑え、スムーズな経営統合を実現することが可能です。

公認会計士に依頼するデメリット

一方、公認会計士にM&A業務を依頼する際には、デメリットも考慮する必要があります。特にM&A仲介会社や専門のコンサルティング会社と比較した場合、次のようなデメリットが挙げられます。

1. 紹介できる相手企業が少ない  

公認会計士は、財務や税務の専門家であり、M&A仲介を専業とする仲介会社や金融機関と比べて、取引先ネットワークの広さでは劣ることがあります。M&A仲介会社は、豊富な取引データベースや顧客ネットワークを活用して、買い手・売り手企業の候補を迅速かつ効果的に見つけ出すことができますが、公認会計士がこれと同じ水準のマッチング力を発揮できるとは限りません。そのため、売り手企業の紹介数が少なく、適切な相手企業を見つけるまでに時間がかかる場合があります。

2. 依頼内容によっては費用が高額になることもある  

公認会計士に依頼する場合、専門的なスキルと経験を要する業務が多いため、業務内容や案件の規模によっては、報酬が高額になることがあります。特に、財務デューデリジェンスや税務デューデリジェンス、企業価値評価などの複雑な業務を依頼する際には、1時間あたり2万円〜5万円程度のタイムチャージが発生することが一般的です。これらの業務は、M&Aの規模や依頼する内容に応じて費用が増大するため、コストを重視する企業にとっては負担が大きくなることもあります。

3. M&A業務の経験が限られている場合がある  

公認会計士は会計や財務の専門家である一方、M&A仲介やアドバイザリー業務を主とするわけではないため、M&A業務の経験が限られている場合があります。特にM&Aを専門としない公認会計士事務所の場合、M&A特有の交渉力や、実務経験が豊富な仲介会社と比べるとノウハウが不足していることが考えられます。そのため、依頼する際には、担当者の経験や実績を確認し、必要であればM&A仲介会社や他の専門家と連携を取ることをお勧めします。

4. 全体のプロジェクトマネジメントには不向きな場合もある  

公認会計士は、財務や税務のプロフェッショナルですが、M&A全体のプロジェクトマネジメントにおいては、M&A専門のアドバイザリー会社やコンサルティング会社と比べて総合的な対応力に欠けることがあります。M&Aは複数の士業や専門家との連携が求められるプロジェクトであり、全体のプロセス管理や戦略策定に関しては、公認会計士単独では対応が難しい場合もあります。そのため、M&Aの全体像を把握し、効果的に進めるためには、他の士業や専門機関との連携を図ることが重要です。

M&Aでの公認会計士の活用事例

公認会計士は、M&Aのプロセス全体で多岐にわたる役割を果たし、企業の合併や買収を円滑に進めるために重要なサポートを行います。ここでは、実際に公認会計士がM&Aに関わった事例を通じて、バリュエーションの実施や財務デューデリジェンス、PMI支援など、各業務での具体的な活用例を紹介します。

事例①:中小企業の買収時におけるバリュエーションと財務DD支援

中小企業の買収を検討していたA社は、適切な買収価格を決定するために、バリュエーションと財務デューデリジェンス(財務DD)の実施を公認会計士に依頼しました。依頼を受けた公認会計士は、まず企業価値を正確に評価するため、DCF法と純資産方式を組み合わせたバリュエーションを実施しました。

結果として、DCF法では将来的なキャッシュフローの創出能力をもとに企業価値を算定し、純資産方式では既存資産の実質的な価値を評価することで、売り手企業の資産状況を正確に把握することができました。さらに、財務DDを通じて、売り手企業が抱えていた簿外債務や将来的に発生する可能性のある偶発債務を特定しました。これにより、A社はリスクのある負債を事前に認識し、適切な価格交渉を行うことができたのです。

公認会計士の支援により、A社はリスクを最小限に抑えた形で買収を完了し、M&A後の予期せぬ負担を避けることができました。こうした事例は、公認会計士が持つ専門的な知識と分析能力が、企業の意思決定にどれほど貢献できるかを示す良い例といえます。

事例②:PMI(統合プロセス)支援によるM&A後のトラブル回避

ある大手企業B社は、異業種の中小企業を買収し、新規事業に進出することを決定しました。しかし、買収後の統合プロセス(PMI)に不安を感じていたため、PMI支援を専門とする公認会計士に相談しました。

公認会計士は、買収企業と被買収企業の経営体制や業務プロセス、企業文化の違いを洗い出し、システムや業務フローの統合計画を策定。さらに、被買収企業の従業員に対して事業の方向性や新しいオペレーション体制を説明し、適切なトレーニングを実施しました。また、経営幹部にはPMIの進捗状況を定期的に報告し、問題が生じた際には迅速に対策を講じることで、統合後のトラブルを回避することができました。

結果として、B社は買収企業とスムーズに統合を果たし、従業員のモチベーションを維持しながら、買収後の経営基盤を早期に安定させることができました。この事例では、PMIの段階で公認会計士の支援を受けることが、M&Aの成功とシナジー効果の最大化にどれほど重要かを示しています。

公認会計士を選ぶ際のポイントと注意点

M&Aを成功させるためには、適切な公認会計士を選ぶことが重要です。しかし、公認会計士や会計事務所の選定は難しいと感じることも多いでしょう。ここでは、公認会計士を選ぶ際に注目すべきポイントや、複数の候補を比較する方法、選定時の注意点について解説します。

公認会計士選びのポイント

公認会計士を選ぶ際には、経験、専門知識、過去の実績などに注目することが大切です。まず、M&Aの案件に精通していることが重要な条件です。たとえ公認会計士としての資格があっても、M&Aの実務経験がなければ効果的なアドバイスや支援は難しいでしょう。また、税務、法務、ファイナンスなどの専門知識をバランスよく持っていることもポイントです。さらに、過去の成功事例や対応した業種・規模を確認することで、自社のニーズに合った公認会計士を選ぶことができます。

複数の公認会計士・会計事務所を比較する方法

複数の公認会計士や会計事務所を比較する際には、報酬体系や業務対応範囲、実績、サポート体制を基準にすることが有効です。まず、報酬については着手金、成功報酬、デューデリジェンス費用などが適正であるかを確認し、コスト面のバランスを検討します。また、業務対応範囲として、バリュエーションやデューデリジェンス、PMI支援までを包括的にカバーできるかどうかも重要です。加えて、過去の実績や顧客の評判を調査し、経験と対応力を見極めることも大切です。これらの要素を総合的に判断し、自社に最も適した公認会計士を選びましょう。

公認会計士を選ぶ際の注意点

公認会計士を選ぶ際には、コストやサポート内容の確認に加え、対応できる業務範囲と案件規模についても注意が必要です。特に、小規模の会計事務所では大型案件に対応できない場合や、特定の業界や業務に強い偏りがある場合もあるため、依頼したい業務に対応可能かを事前に確認しましょう。また、報酬が安いからといって安易に選んでしまうと、サポートの質や対応スピードに問題が生じることもあるため、価格だけで判断しないことが重要です。信頼性と相性を重視し、自社のニーズに最も適した公認会計士を選定するよう心がけましょう。

まとめ:M&Aを成功させるために公認会計士を最大限に活用しよう!

M&Aでは、企業の財務や税務、法務といった多方面で専門的な知識を要するため、公認会計士は欠かせない存在です。企業価値評価(バリュエーション)や財務デューデリジェンスの実施、税務面でのアドバイス、さらにM&A後の経営統合プロセス(PMI)支援など、M&Aの全過程において公認会計士は重要な役割を果たします。

一方で、他の士業やM&A仲介会社と比べて公認会計士に依頼するデメリットも存在するため、選定時には注意が必要です。報酬体系や業務対応範囲、実績を基準にして複数の候補を比較し、M&Aに精通した公認会計士を見極めることが重要です。

本記事を参考に、M&Aにおける公認会計士の役割を理解し、適切なアドバイザーを選び抜くことで、M&Aを円滑に進め、企業価値の最大化を実現してください。成功のカギは、経験豊富で信頼できる公認会計士とのパートナーシップであることを忘れないようにしましょう。

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