個人事業をM&Aする方法を解説!法人との違いや手続きの流れとは!

個人事業のM&Aは、後継者不足や新しい事業の獲得手段として注目されています。しかし、法人のM&Aとは異なり、手続きやリスクに独自の違いがあります。この記事では、個人事業のM&Aに特化した手続きの流れ、法人との違い、そして成功させるためのポイントを徹底解説します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

個人事業のM&Aとは?

個人事業のM&Aは、個人事業主が自身の事業を他者に譲渡することであり、法人M&Aとは異なる特徴を持っています。特に、後継者不足が深刻な現代では、個人事業主がM&Aを通じて事業を存続させるケースが増えています。ここでは、個人事業M&Aの定義と、具体的なメリットについて見ていきます。

個人事業M&Aの定義

個人事業M&Aとは、法人ではなく個人が運営する事業を譲渡する取引のことです。法人M&Aが株式譲渡や合併を通じて進行するのに対し、個人事業M&Aでは主に事業資産や契約の引き継ぎが中心となります。個人事業主は、顧客リスト、取引先との契約、従業員、事業設備など、事業に関連するすべての資産や権利を売却相手に譲渡します。

この取引は、従来の親族への事業承継が難しくなった今、新たな事業承継の手段として注目されています。個人事業主が事業を引き継ぐことが難しい場合、他者への譲渡を通じて事業を存続させることができます。特に、業績が安定している事業や独自の技術を持つ事業は、買い手にとっても魅力的な投資対象となります。

個人事業をM&Aするメリット

個人事業のM&Aには、売り手と買い手の双方にさまざまなメリットがあります。まず、売り手にとっての主なメリットは、事業継続の可能性と経済的な利益です。一方、買い手は新たな事業をスムーズに始めることができる点が大きな利点となります。

売り手側のメリット

1. 後継者問題の解決

親族への事業承継が難しい場合でも、第三者への譲渡により事業を存続させることができます。これにより、長年築いてきた事業が消滅することを防ぎ、従業員の雇用も守ることが可能です。

2. 経済的な利益

事業を売却することで、まとまった譲渡対価を得ることができます。この資金を引退後の生活資金として活用したり、新たなビジネスに投資したりすることも可能です。個人保証から解放されるケースもあり、経営者にとって大きな負担軽減になります。

買い手側のメリット

1. 事業立ち上げの負担軽減

新規事業の立ち上げには、顧客基盤の構築や設備投資が必要ですが、既存事業を買収すれば、こうしたコストや時間を節約できます。また、既に運営されている事業であれば、収益もすぐに期待できるため、リスクも低減されます。

2. ノウハウや従業員の引き継ぎ

M&Aを通じて、事業のノウハウや既存の従業員を引き継ぐことができます。これにより、買収後の事業運営がスムーズに進むだけでなく、安定した事業継続が期待できます。

個人事業をM&Aする背景と増加の理由

個人事業をM&Aする背景には、現代の経済環境や社会的な変化が密接に関係しています。特に、少子高齢化による後継者不足や中小企業の事業継続の問題がM&Aの需要を押し上げる大きな要因です。個人事業主の多くは、親族や社員に事業を引き継ぐことが難しくなり、第三者への譲渡という新しい選択肢に目を向けるようになっています。また、インターネットを通じたM&Aマッチングサイトや国の支援体制が整ったことで、以前は大企業の手法と見なされていたM&Aが、今では個人や小規模事業においても一般的な選択肢となりつつあります。

後継者不足の解決手段としてのM&A

日本では、長期にわたる少子高齢化が進行しており、個人事業や中小企業における後継者不足が深刻化しています。特に家業を引き継ぐ意欲や能力を持つ親族がいない事業主にとって、事業承継の問題は頭を悩ませる大きな課題です。これまで事業承継は、親族への継承や信頼できる社員に事業を引き渡すことが一般的でしたが、少子化や若年層の事業継承に対する意識の変化により、従来の方法では解決が難しくなっています。

こうした背景の中で、M&Aは有効な事業承継の手段として注目されています。個人事業主が第三者に事業を譲渡することで、後継者不在の問題を解決できるだけでなく、従業員の雇用も守ることができるのです。特に、売り手にとっては、蓄積されたノウハウや顧客基盤、ブランド価値を次の事業主に引き継ぐことで、事業を途絶えさせずに済み、長年築き上げたビジネスの命をつなげることができます。

このように、後継者不足は日本社会全体の課題であり、M&Aはその解決策としてますます重要視されています。特に個人事業では、親族間での事業継承が難しいケースが増えており、M&Aを通じて事業を譲り渡すことで、円滑に次の世代へと事業を引き継ぐことが可能となります。

小規模事業のM&Aが増加している理由

小規模事業のM&Aが増加している理由は、後継者不足に加えて、事業環境の変化や技術の進展が影響しています。特に、事業承継問題が深刻化する中、個人事業主や中小企業の経営者は、事業をゼロから立ち上げるよりも既存事業を買収する方が効率的であると認識しています。買収することで既存の顧客基盤、ブランド、事業ノウハウを一から構築する手間が省け、リスクを抑えた形で新しい事業をスタートさせることができるのです。

また、M&Aマッチングサイトや支援センターの普及も小規模事業のM&A増加に寄与しています。インターネットを利用して手軽に事業を譲渡したい売り手と、事業を買いたい買い手をつなげるプラットフォームが登場したことで、かつては大規模な仲介会社を通じてのみ行われていたM&Aが、今ではもっと手軽かつ迅速に行えるようになっています。これにより、個人や中小企業がM&Aを実施しやすくなり、小規模事業のM&A案件が急増しています。

さらに、国の事業承継支援センターや各種公的機関がM&Aの推進をサポートすることも、M&A増加の理由の一つです。これらの機関が提供するサポートにより、売り手・買い手双方にとってリスクを抑えながら円滑にM&Aを進めることが可能になっています。これにより、従来では難しかった小規模な事業の譲渡も、スムーズに行えるようになっているのです。

スモールM&AとマイクロM&Aの台頭

最近では「スモールM&A」や「マイクロM&A」と呼ばれる小規模なM&Aが注目されています。これらは、従来の大規模なM&Aとは異なり、数百万円から数千万円規模の取引が中心となることが多いです。こうした取引の台頭は、少額で事業を始めたい個人や、新規参入を目指す中小企業にとって魅力的な選択肢となっています。

スモールM&Aは、事業の規模が小さいため、比較的低リスクで進められるのが特徴です。少ない資金で既存の事業を手に入れることができ、買収後はすぐに運営を始めることができるため、初期投資が少なく済む点が大きなメリットです。例えば、飲食店やエステサロン、個別指導塾など、比較的シンプルなビジネスモデルを持つ事業は、スモールM&Aの対象として非常に人気です。

マイクロM&Aも同様に、さらに少額の投資で事業を買収できるため、起業家や個人投資家の間で関心が高まっています。特に、インターネットを活用したWebサービスやオンラインビジネス、少人数で運営できる小規模事業は、マイクロM&Aに適しています。これにより、個人事業やフリーランスの事業者も手軽にM&Aを実施できる環境が整ってきているのです。

スモールM&AとマイクロM&Aの台頭は、特に事業承継問題に悩む中小企業や個人事業主にとって、新たな出口戦略としての魅力を増しています。また、買い手側にとっては、リスクを抑えつつも既存の事業を活用してすぐに収益化できる可能性があるため、新たなビジネスチャンスとしての期待も高まっています。

個人事業と法人のM&Aの違い

個人事業と法人のM&Aには、それぞれ独自の特徴と手続きが存在します。M&Aを進める際には、対象が個人事業か法人かによって、取引の流れや買収後の運営方法、税制、法的な手続き、買収コストなどに大きな違いが生じます。法人のM&Aは、より複雑な契約や法的な義務が求められる一方、個人事業のM&Aは比較的シンプルで手軽に進められるというメリットがあります。しかし、簡単さゆえにリスクも存在するため、これらの違いを理解し、適切に対処することがM&A成功の鍵となります。

法人との主な違い

個人事業と法人のM&Aの最大の違いは、事業形態そのものにあります。個人事業は、法律上、事業主本人が全ての事業資産と負債を持つため、事業そのものが事業主の一部として扱われます。したがって、個人事業のM&Aでは、事業の譲渡という形で行われ、個人の財産と事業の資産が分離されていないことが一般的です。このため、法人のM&Aに比べて手続きが簡素であり、迅速に進められる場合が多いです。

一方で、法人は法律上、会社そのものが独立した存在として認められているため、法人のM&Aは株式譲渡や事業譲渡など、より複雑な手続きが必要となります。株主の合意や役員の交代、契約書の整備などが含まれるため、取引の進め方がより時間を要する場合があります。法人の場合、会社の資産や負債は法人に属し、経営者の個人資産とは分離されているため、買収後のリスクが限定されることが特徴です。

また、法人M&Aでは株主が存在することが多く、M&Aの実施に際して株主の意向や利害関係が関与するため、これが交渉や契約の複雑さに影響を与えます。一方、個人事業は事業主が全てを一人で管理しているため、意思決定が迅速に行える点が異なります。

税制や法的手続きの違い

税制や法的手続きに関しても、個人事業と法人のM&Aには大きな違いがあります。個人事業のM&Aでは、譲渡所得税や消費税の取り扱いが重要となります。個人事業では、事業主の収入は個人所得として扱われ、事業の譲渡時にはその所得が譲渡所得として課税されます。特に、事業の譲渡額が大きい場合、個人の税率に基づいて課税額が大きくなる可能性があります。また、譲渡対象となる資産や負債の内容に応じて、譲渡益がどのように計算されるかが異なるため、税務の専門家に相談しながら進めることが求められます。

一方、法人のM&Aでは、譲渡所得税に加えて、法人税や消費税の適用が重要なポイントとなります。特に株式譲渡の場合、法人は独立した法的主体として扱われるため、法人税の影響を受けることがあり、譲渡対象の資産が多い場合には取引の複雑さが増します。さらに、事業譲渡の場合、売却資産ごとに個別の譲渡税が発生し、消費税の取り扱いも複雑になることが一般的です。

また、法的手続きに関しても個人事業と法人では大きく異なります。個人事業のM&Aは、主に事業譲渡として進められ、資産や負債の引き渡しに関する契約書を作成するだけで済む場合が多いです。一方、法人のM&Aでは、株主総会での承認が必要な場合や、会社法に基づく厳格な手続きを経る必要があるため、取引の進行に時間がかかることが一般的です。

買収コストとリスクの違い

個人事業と法人のM&Aでは、買収にかかるコストやリスクの面でも大きな違いがあります。個人事業のM&Aは、一般的に小規模な事業が多く、買収コストも比較的低額で済むことが多いです。個人事業のM&Aにおける取引額は数十万円から数百万円程度で済む場合が多く、特に事業規模が小さい個人事業では、事業の買収コストも抑えられるのが特徴です。これにより、個人や小規模な法人にとって、手軽に事業を買収できる手段として人気があります。

一方で、法人のM&Aは、事業規模や業績によっては数千万円から億単位の取引となることもあり、資金調達や融資が必要になることもあります。また、法人のM&Aでは、買収後に簿外債務や法的リスクが発覚する可能性があり、リスクの範囲が広がることがあります。デューデリジェンスを徹底し、法的に適切な契約を結ぶことが求められますが、これには専門家の関与が必要であり、コストがかさむ傾向があります。

さらに、個人事業のM&Aでは、事業の負債が事業主の個人資産と一体化していることが多く、買収後に想定外の負債が発覚した場合には、買い手に直接的な経済的リスクが及ぶ可能性があります。これに対して、法人のM&Aでは、株式譲渡によって法人そのものを引き継ぐため、買い手の個人資産が影響を受けるリスクは低く抑えられます。ただし、法人のM&Aにおいても、簿外債務や未公開の法的リスクが存在する可能性があるため、慎重な対応が必要です。

個人事業のM&Aは、小規模であるがゆえに簡素に進められる一方で、事業主個人の責任が大きく、買収後のリスクも高いと言えます。法人のM&Aは複雑な手続きが求められるものの、法的な枠組みの中でリスクを分散させることが可能です。それぞれの違いを理解し、買収コストやリスクを十分に見極めることが、M&Aの成功につながる重要な要素となります。

個人事業M&Aを成功させるポイント

個人事業M&Aを成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。個人事業は法人と比べて規模が小さく、経営の透明性が低いことが多いため、買い手や売り手の信頼性を確保することが特に重要です。また、取引の進行においては、適切なサポートを得ることや、従業員や取引先との関係を円滑に進めるための準備が求められます。ここでは、信頼できる買い手を見つける方法や仲介会社の利用、デューデリジェンスの重要性、そして従業員や取引先との信頼構築について解説します。

信頼できる買い手を見つける方法

個人事業M&Aの成功のためには、信頼できる買い手を見つけることが非常に重要です。買い手が事業を適切に引き継いで発展させる能力や意欲を持っていることが、事業の持続可能性を確保するための鍵となります。そのためには、事前に買い手候補をしっかりとリサーチし、事業に対する理解や同じ方向性での成長を望んでいるかどうかを確認することが求められます。

信頼できる買い手を見つけるためには、次の方法が有効です。まず、M&Aマッチングサイトを利用することが考えられます。近年では、オンラインのプラットフォームを通じて個人事業や小規模事業の買収相手を探すことが一般的になってきました。こうしたサイトを活用することで、多くの候補者と出会い、自分の条件に合った相手を見つけることが可能です。

また、友人や知人を通じて、事業承継を希望する買い手を紹介してもらう方法も有効です。紹介による取引では、お互いの信頼関係を前提に交渉が進められるため、安心感があります。特に、親族や知人に引き継ぐ場合、長年の人間関係をもとにスムーズな承継が期待できます。

M&A仲介会社の利用

個人事業のM&Aは、規模が小さいために全てを自分で進められると考えることもありますが、成功させるためにはM&A仲介会社のサポートを受けることが非常に効果的です。仲介会社を利用することで、専門的な知識や経験を持ったアドバイザーが取引の全体をサポートし、適切な買い手や売り手の紹介から、契約の締結、交渉のフォローまでを一貫して行ってくれます。

特に、仲介会社は信頼できる買い手を探す際の大きな助けとなります。彼らは多くのM&A案件を扱っており、豊富なネットワークを持っているため、個人での調査では見つけられない候補者と出会う機会を提供してくれます。また、仲介会社は事前に買い手の信用や財務状況をチェックするため、トラブルを未然に防ぐことができます。

ただし、仲介会社の選定も重要なポイントです。多くの会社が存在しますが、成功報酬の仕組みやサービスの内容がそれぞれ異なります。事前にいくつかの仲介会社と面談し、自分に最も適した会社を選ぶことが成功の鍵となります。例えば、仲介会社によっては最低報酬額が設定されている場合もあるため、取引規模に応じた仲介会社を選ぶことが必要です。

デューデリジェンスの重要性

デューデリジェンスは、M&A取引において事業の実態やリスクを詳細に調査するプロセスです。特に個人事業のM&Aでは、事業主個人の資産や負債が事業と密接に結びついているため、デューデリジェンスを徹底的に行うことが不可欠です。これにより、買収後に思わぬ問題が発生するリスクを低減することができます。

デューデリジェンスでは、財務状況、法務関係、事業内容、人材の状況など多方面から事業を詳細に調査します。財務状況の確認は特に重要で、簿外債務や未払金の有無、収益の安定性などを把握し、将来的なリスクを見極めます。また、法務デューデリジェンスでは、契約や法的なリスクが存在しないかを確認し、違法な行為や契約違反がないかをチェックします。

この調査は、M&Aの専門家による支援が必要です。税理士や弁護士、会計士などのプロフェッショナルに依頼して、リスクを洗い出し、最終的な合意の判断材料とすることが重要です。デューデリジェンスを怠ると、買収後に問題が発生し、企業の運営に悪影響を及ぼす可能性があるため、時間とコストをかけてでも徹底的に行うべきです。

従業員や取引先との信頼構築

個人事業のM&Aでは、事業の引き継ぎがスムーズに行われることが成功の鍵となりますが、そのためには従業員や取引先との信頼関係の構築が不可欠です。M&Aによって事業主が変わることは、従業員や取引先にとって大きな不安要素となることがあり、場合によっては従業員の離職や取引先の契約解除といったリスクが生じます。

従業員に対しては、M&A後の経営方針や雇用条件の変更がないかを明確に伝え、安心感を与えることが重要です。特に、これまでの経営者と従業員の信頼関係が強い場合、新しい経営者がその信頼関係を引き継ぐ努力を怠らないことが重要です。M&A後には、早い段階で従業員との面談やミーティングを行い、コミュニケーションを深めることで、事業継続に対する不安を払拭することが求められます。

取引先との信頼関係も同様に重要です。取引先に対しては、M&Aの経緯や今後の事業方針について適切に説明し、継続して取引が行われることを確認する必要があります。特に、重要な取引先との関係が悪化すると、事業全体に大きな影響を与える可能性があるため、丁寧な対応が求められます。信頼できる取引先との関係を維持するためには、誠実な姿勢でコミュニケーションを図り、双方にとってメリットのある取引を続けていくことが重要です。

個人事業のM&Aでは、こうした人間関係の構築が、単に経済的な取引だけでなく、事業の持続的な成功に直結する要素となります。信頼を築き、維持するためには、誠実さと透明性が求められるでしょう。

個人事業M&Aの具体的な手続きの流れ

個人事業のM&Aは、法人のM&Aと比べて規模が小さいものの、手続きの流れは似通っています。事前準備から最終的なクロージングまで、各段階で注意が必要です。個人事業の特性や、事業主個人と事業が密接に関係している点を考慮しながら、慎重に進める必要があります。ここでは、個人事業M&Aの具体的な手続きについて、詳細に解説します。

1. 事前準備と企業価値評価

個人事業M&Aの最初のステップは、事業を売却するための準備と企業価値の評価です。事前準備として、まず事業の財務状況や経営状況を整理し、買い手に対して信頼できる情報を提供できる状態にしておくことが重要です。特に、個人事業の場合、事業主個人の資産や債務が事業と混在しているケースも多く、これらを整理して明確に区別する作業が必要となります。

企業価値の評価は、事業の売却価格を決める上で不可欠なプロセスです。企業価値評価では、事業がどれだけの収益力を持ち、将来的にどれだけ成長が期待できるかを専門家が分析します。一般的には、売上や利益、キャッシュフローを基にした算出方法が使われますが、事業の特性や成長ポテンシャルも加味されます。例えば、安定した顧客基盤を持っている個人事業であれば、より高い評価を受けることが期待できます。

この段階で重要なのは、売り手としての目標や希望条件を整理しておくことです。事業を売却することで得たい金額や、譲渡後の事業継続の条件、従業員や取引先に対する配慮など、自分が求める条件を明確にしておくことで、次のステップがスムーズに進行します。

2. M&A仲介会社への相談

次のステップとして、M&Aを進めるためには信頼できる仲介会社に相談することが大切です。個人事業のM&Aに精通した仲介会社は、買い手候補の紹介や、取引のプロセスをサポートしてくれます。仲介会社の役割は、売り手と買い手の間に立ち、交渉のサポートをするだけでなく、事前の企業価値評価や契約手続きの助言など、幅広いサポートを提供することです。

仲介会社の選定においては、経験と実績のある会社を選ぶことが成功への鍵となります。特に、個人事業のM&Aを多く手掛けた実績がある仲介会社を選ぶことで、より適切なアドバイスを得られるでしょう。また、仲介会社のフィー体系も確認しておくべきポイントです。成功報酬型や最低報酬額の設定が異なるため、取引の規模に応じた仲介会社を選ぶことが重要です。

仲介会社を介することで、買い手候補との交渉がスムーズに進むだけでなく、信頼性の高い相手を見つけやすくなります。仲介会社は、事前に買い手の財務状況や経営状態を確認し、リスクの低い相手を選定してくれます。

3. 買い手候補の選定と基本合意

仲介会社と協力して、いよいよ買い手候補の選定に移ります。仲介会社が提供する買い手候補のリストから、自社の事業に適した買い手を絞り込むことがこの段階の主な作業です。この際、事業の将来的なビジョンや、譲渡後の経営方針が自社と一致しているかを確認することが重要です。

買い手候補のリストが絞られたら、ノンネームシートを使って匿名の状態で買い手にアプローチします。ノンネームシートは、企業名や個人事業主の名前を明かさずに、事業内容や財務状況を概要的に伝える資料です。買い手側が事業に興味を持った場合、次のステップとして秘密保持契約(NDA)を締結し、詳細な情報の開示が始まります。

秘密保持契約が締結された後は、双方が基本合意書を作成します。基本合意書には、譲渡金額の目安や、譲渡する資産の範囲、スケジュールなど、取引の基本的な条件が記載されます。この段階で、双方が大まかな条件に同意していることを確認し、最終的なデューデリジェンスや契約締結に進む準備を整えます。

4. デューデリジェンスの実施

デューデリジェンスは、M&Aプロセスにおける重要な調査段階で、買い手が売り手の事業に潜むリスクや問題点を確認するために行います。財務、法務、税務、人材、事業運営など、さまざまな側面から事業を精査し、買収後に予想外のトラブルが発生しないようにリスクを最小化します。

財務デューデリジェンスでは、売上、利益、負債などの財務状況を詳細に分析し、正確な事業価値を把握します。特に、簿外債務や未払い金など、帳簿に記載されていない負債がないかを確認することが重要です。また、法務デューデリジェンスでは、契約書や許認可に問題がないかをチェックします。特に、事業が法的に適切に運営されているかどうか、労働問題や取引先との契約にトラブルがないかを確認します。

デューデリジェンスの結果に基づき、買い手は基本合意書の条件を見直したり、譲渡価格を再交渉したりすることが可能です。ここで問題が発見されれば、最終的な契約を結ぶ前に解決策を講じることが重要です。

5. 最終契約書の締結とクロージング

デューデリジェンスが完了し、買い手と売り手が最終的な条件に合意したら、最終契約書を作成し、締結します。最終契約書には、譲渡資産の範囲や譲渡金額、従業員の処遇、取引先との契約の引き継ぎ方法など、具体的な取引条件が詳細に記載されます。

最終契約書の作成には、税務や法務の専門家が関与し、双方にとって不利にならないように注意深く進められます。特に、簿外債務や将来的なリスクに対する保証条項など、買い手を保護するための条項が含まれることが一般的です。

契約が締結されると、クロージングが行われます。クロージングは、実際に資金の受け渡しが行われ、事業の引き継ぎが正式に完了する段階です。クロージング後、買い手は事業の運営を開始し、売り手は譲渡対価を受け取ります。ここでのポイントは、従業員や取引先に対してM&Aの経緯や今後の方針を適切に説明し、事業の移行がスムーズに行われるよう努めることです。

これらのステップを確実に進めることで、個人事業M&Aを成功に導くことが可能です。それぞれのプロセスで専門家の支援を受けることが、リスクを最小限に抑え、円滑な取引を実現するための鍵となります。

個人事業をM&Aする際の注意点とリスク

個人事業のM&Aは、買収後に事業を安定して運営するために、いくつかの注意点とリスクに十分留意する必要があります。特に、個人事業は規模が小さいため、買収する際のリスクが見落とされやすい傾向にあります。ここでは、個人事業のM&Aにおける代表的なリスクと、その注意点について解説します。

簿外債務や未解決のリスク

個人事業のM&Aで特に注意が必要なのが、簿外債務や未解決の法的問題などの見えないリスクです。簿外債務とは、帳簿に記載されていない債務のことを指し、買収後に予想外のコストが発生する原因となります。簿外債務の典型的な例として、未払いの税金や社会保険料、取引先との未解決の債務などが挙げられます。

個人事業主は、事業と個人の資産や負債が曖昧になっているケースが多く、簿外債務が発覚しやすい特徴があります。これは、法人に比べて財務管理が不十分な場合が多いためです。M&A後に突然の支払い義務が発生すると、買収による利益が減少するだけでなく、経営に悪影響を与える可能性があります。

このリスクを回避するためには、デューデリジェンスを徹底的に行い、財務状況や法的問題について精査することが必要です。専門家の助けを借りて、すべての契約書や取引記録、税務書類を確認し、潜在的なリスクを洗い出すことが重要です。特に、個人事業主の個人保証が含まれている場合には、これが買収後に引き継がれるかどうかも確認する必要があります。

従業員や顧客の離脱リスク

個人事業のM&Aでは、従業員や顧客の離脱リスクも無視できない重要な要素です。特に個人事業の場合、事業主自身が顧客や従業員と密接な関係を築いているケースが多く、事業主の交代が大きな影響を与えることがあります。買収によって新しい経営者が事業を引き継ぐ際、従業員が不安を感じ、離職するリスクや、顧客が経営方針の変更に不安を感じて取引を中止するリスクが生じます。

従業員の離脱は、事業の安定運営に直結する大きな問題です。特に小規模な個人事業では、従業員一人ひとりが重要な役割を担っていることが多く、熟練した従業員が辞めてしまうと、事業運営に大きな支障をきたす可能性があります。同様に、顧客の離脱も事業の収益に直結するリスクであり、個人事業の買収後に売上が急激に減少するケースもあります。

このリスクを最小限に抑えるためには、買収後に従業員や顧客との信頼関係を築くことが重要です。従業員に対しては、M&Aの目的や将来のビジョンを丁寧に説明し、労働条件の見直しや待遇改善を通じて不安を解消する努力が求められます。また、顧客に対しても、買収後のサービスや製品の品質維持を約束し、信頼を確保するためのコミュニケーションを積極的に行うことが大切です。

経営手法の違いによる影響

個人事業をM&Aする際に見落とされがちなのが、経営手法の違いによる影響です。個人事業主は、長年にわたり自身のスタイルで事業を運営してきているため、買収後に新しい経営者が異なる経営手法を導入すると、従業員や顧客が混乱することがあります。この経営手法の違いが、事業運営に悪影響を及ぼすリスクが存在します。

たとえば、買収後に業務フローやサービス内容が大きく変更されると、従業員が新しい方針に適応できず、生産性が低下する可能性があります。また、顧客に対しても、急激なサービス変更は不信感を与え、取引停止につながることがあります。特に、個人事業主が築いてきた信頼やコミュニティとのつながりを重視している場合、その経営スタイルを尊重しながら変革を進めることが求められます。

経営手法の違いによるリスクを軽減するためには、M&A後すぐに急激な変革を行わず、現状のビジネスモデルやフローを段階的に見直していくことが効果的です。また、元の経営者と一定期間協力関係を保ち、業務引き継ぎを円滑に進めることも重要です。このように、新しい経営方針を導入する際は、従業員や顧客との調整をしっかり行い、長期的な視点での変革を目指すことが、成功の鍵となります。

個人事業M&Aに向いている業種

個人事業のM&Aは、業種によってその適応性や成功のしやすさが異なります。特に顧客基盤や従業員のスキル、設備などが整っている業種では、買収後の運営が比較的スムーズに進むことが多く、M&Aが有効な手段となります。ここでは、個人事業M&Aに向いている具体的な業種について、飲食業、サービス業、教育関連事業、介護事業、美容・サロン業界を取り上げて解説します。

飲食業やサービス業

飲食業やサービス業は、個人事業M&Aにおいて非常に多くの案件が見られる分野です。特に飲食業は、立地や設備、顧客基盤がすでに整っている場合が多く、新たな経営者にとっても比較的すぐに収益を得やすい業種です。また、飲食店の多くがすでに事業として一定の知名度やブランドを持っているため、買収後にそのまま運営を続けることで安定した収益を期待できます。

飲食業では「居抜き物件」と呼ばれる、すでに設備が整った店舗をそのまま引き継ぐ形式がよく見られます。これにより、新規開業に比べて大幅に初期コストを削減できる点もM&Aのメリットです。また、地域に根付いた小規模な飲食店は、地元のリピーターをすでに抱えていることが多く、経営を引き継ぐことで安定した売上を維持することが可能です。

サービス業も同様に、すでに確立された顧客基盤がある場合、買収後の運営は比較的スムーズです。たとえば、清掃サービスや配達サービスといった地域密着型のサービス業は、買収後もそのままのスタッフや設備で運営を継続しやすいのが特徴です。これらの業種は、初期投資が少なく、運営ノウハウがすでに確立されているため、M&Aを通じて迅速に事業を軌道に乗せやすい分野といえます。

教育関連や介護事業

教育関連事業や介護事業も、個人事業M&Aに向いている分野です。特に学習塾や予備校、個別指導塾などは、地域に根付いた事業が多く、買収後もそのままの施設やスタッフ、教材を活用して事業を継続できるため、経営の引き継ぎが容易です。教育業界では、既存の顧客(生徒や保護者)との信頼関係が重要であり、それを維持することで買収後も収益を確保しやすい点がM&Aの魅力です。

また、少子化に伴い一部の教育事業は経営が厳しくなっていますが、買い手側にとっては既存の教育機関を再編して新たなターゲット層を開拓するチャンスとなります。例えば、学習塾をより専門的な科目に特化させたり、地域の需要に応じたカリキュラムを追加することで、さらなる事業成長が期待できるでしょう。

介護事業も高齢化社会を背景に、今後ますます需要が増加する分野です。訪問介護やデイサービス、小規模な老人ホームなどは、すでにサービス利用者を抱えていることが多く、買収後もそのまま運営を継続できるケースが多いです。特に、地域密着型の介護事業では、地域住民との信頼関係が重要であり、その関係を維持できれば収益性も安定します。

さらに、介護事業では国の補助金や助成金制度を活用できることが多く、事業運営の安定化に役立ちます。M&Aを通じて事業を拡大したり、効率的な運営を行うことで、成長の可能性が大きい分野です。

美容・サロン業界

美容業界やサロン業界も、個人事業M&Aの対象として非常に人気があります。美容室やネイルサロン、エステティックサロンなどは、すでに確立された顧客基盤があることが多く、買収後もそのまま事業を引き継ぐことで、安定した収益を期待できます。また、サロン業界はリピーターが多い傾向にあり、顧客との信頼関係を継続できることで経営を軌道に乗せやすい特徴があります。

美容業界は、設備投資や内装工事のコストが比較的高額になるため、M&Aを通じて既存の設備を引き継ぐことで新規開業よりも初期投資を大幅に抑えられる点が大きなメリットです。また、近年の美容業界では、専門性の高いサービス(ヘアケア、スキンケア、まつ毛エクステなど)が求められており、M&Aによってすでに専門技術を持ったスタッフや設備を引き継ぐことができるのも魅力です。

さらに、美容業界は顧客との密なコミュニケーションが重要な業種であり、買収後もそのコミュニケーションをしっかりと引き継ぐことができれば、経営の安定化が見込めます。特に、地域に密着した小規模サロンでは、地域住民との信頼関係が大きな強みとなるため、事業引き継ぎ後もその関係を維持することが成功の鍵となります。

このように、個人事業のM&Aは、飲食業、サービス業、教育関連、介護事業、美容・サロン業界など、顧客基盤やリピーターの多い業種において特に効果的です。それぞれの業界で求められるニーズや経営の特性を理解し、適切な戦略を立てることで、買収後の事業を成功に導くことが可能です。

まとめ: 個人事業M&Aの成功には適切な準備が鍵

個人事業のM&Aは、法人と異なる点が多く、その違いを理解した上で手続きを進めることが重要です。個人事業特有のリスクやメリットを把握し、適切なM&A仲介会社を活用しながら、信頼できる相手を見つけることが成功のポイントとなります。特に、デューデリジェンスや従業員・取引先との信頼構築を怠らず、慎重に進めることが大切です。M&Aは、事業承継や新たなビジネスチャンスとして強力な手段であり、個人事業でも有効な戦略です。正確な情報と適切な準備を持って、成功への一歩を踏み出しましょう。

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