開業届は収入なしでも必要?提出のメリットや副業での注意点を解説!

これから副業や個人事業を始めようとしている方の中には、「収入がまだないし、開業届を出す必要はないのでは?」と考える方も多いでしょう。しかし、収入がない段階でも開業届を提出することには多くのメリットがあります。開業届は、開業した場合、所得税法上は一定期間内に提出が義務付けられている書類です。収入の有無は関係ありません。本記事では、収入がない場合でも開業届を出すべき理由、提出によるメリット、そして副業での開業届提出時の注意点について解説します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

開業届とは?提出の必要性を解説!

開業届は、個人事業主として新たに事業を開始したことを税務署に知らせるための書類で、正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。この届出書を提出することで、事業を正式にスタートさせることができますが、事業の開始が収入の有無に関わらず必要とされるのか、提出の必要性やその理由について理解することが大切です。

開業届の概要と正式名称

開業届とは、個人が新たに事業を開始する際に税務署に提出する書類で、正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。この書類は、事業を始めたことを税務署に報告するためのものであり、個人事業主としての活動を正式に認めてもらうための重要な手続きの一環です。

開業届は、事業の開始が本業であっても副業であっても提出することが原則です。提出することによって、個人事業主としての身分を公式に認められ、税制上のさまざまなメリットを享受することが可能になります。例えば、青色申告承認申請書と共に提出することで、青色申告の特典を受けることができ、最大65万円の特別控除や赤字の繰り越しといった節税効果を得ることが可能です。

開業届の提出先は、事業所の所在地を管轄する税務署です。提出方法には、税務署の窓口で直接提出する方法、郵送で送付する方法、そしてオンラインで提出する方法があります。特に、国税庁の「e-Tax」を利用すれば、インターネットを通じて簡単に開業届を提出できるため、時間や手間を省くことができ、多くの個人事業主にとって便利な方法です。

開業届提出の義務と罰則の有無

開業届の提出は、所得税法に基づき義務付けられています。

具体的には、所得税法第229条において、「居住者または非居住者が、国内で新たに不動産所得、事業所得、または山林所得を生じる事業を開始した場合、またはこれに関連する事務所を開設した場合には、その事実があった日から1カ月以内に税務署長に届け出る必要がある」と規定されています。

つまり、実態のある事業を開始した場合には、収入がまだ発生していない段階でも、開業届を提出することが義務となります。

この規定により、事業を開始した場合には、売上が0であったり、赤字であったりしても、開業届を提出しなければならないということが明確になります。たとえば、飲食店を開業してまだお客が来ていない状態や、オンラインでのビジネスを始めたばかりで収入がない場合でも、事業としての実態があれば開業届を出す必要があります。

ただし、開業届の提出については、罰則が設けられていない点が特徴です。

提出期限を過ぎてしまったり、そもそも提出していなかったりしても、直接的な罰金やペナルティが科されることはありません。そのため、開業届を出していない個人事業主も少なくないのが現状です。しかし、提出しない場合は青色申告の特典を受けられなかったり、事業としての社会的信用を得られなかったりと、間接的な不利益を被る可能性があります。

開業届の届出が所得税法で定められている理由は、届出後に発生した収入を益金、発生した費用を損金とすることを明確にするためです。届出がないと、事業を開始したタイミングがわからないので、課税所得の適切な損益計算ができません。

なお、開業届は、過去に遡って提出することも可能です。事業を始めたものの開業届を提出し忘れた場合や、提出を先延ばしにしてしまった場合でも、後から提出することができます。ただし、青色申告を利用するための承認申請には提出期限があるため、早めに開業届を提出し、申請手続きを進めることが重要です。

収入なしでも開業届を出すべき3つの理由

事業を始めたばかりの頃や、収入がまだない段階であっても、開業届を提出することには多くのメリットがあります。収入がなくても開業届を出すべき理由について、法律に基づく義務、税制上のメリット、そして社会的信用の向上という3つの観点から解説します。

1. 義務としての開業届提出

開業届の提出は、法律に基づく義務です。所得税法第229条には、国内で新たに不動産所得、事業所得、または山林所得を生じる事業を開始した場合には、その事実があった日から1カ月以内に開業届を税務署に提出することが義務付けられています。この規定は、事業としての実態がある場合には、収入や売上がなくても適用されるため、事業開始直後や赤字の状態であっても開業届を出さなければなりません。

例えば、新たに飲食店をオープンしたものの、まだ客足が少なく売上がほとんどない場合でも、その事業としての実態が存在する限り、開業届の提出は必要です。また、オンラインビジネスなどで収入がゼロでも、事業の準備や運営が進行している場合には、これも事業とみなされ、開業届の提出が求められます。

開業届を提出しないことによる罰則はありませんが、法律上の義務を果たしていないと、後々の手続きで不都合が生じる可能性があります。義務として開業届を提出することは、事業を正式にスタートさせるための基本的なステップであり、事業活動の信頼性を高めるためにも重要です。

2. 青色申告による税制上のメリット

開業届を提出することには、税制上の大きなメリットがあります。その一つが「青色申告」を利用できることです。青色申告を行うためには、開業届と一緒に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。この申請書を提出することで、青色申告による特典を享受することができ、節税効果を最大限に活用することが可能です。

青色申告の最大のメリットの一つは、最大65万円の特別控除を受けることができる点です。これは、帳簿をきちんと記帳し、正確に申告することで得られるもので、事業の利益を減少させることで所得税の負担を軽減できます。また、青色申告の特典には、赤字の繰り越しが可能であることも含まれています。赤字を繰り越すことで、翌年以降の利益から相殺することができ、数年間にわたって税負担を減少させる効果が期待できます。この繰り越し制度は、特に事業の立ち上げ時期に収益が安定しない場合に大きな助けとなります。

青色申告承認申請書の提出には期限があり、開業日から2カ月以内に申請する必要があります。この期限を過ぎると、その年度には青色申告の特典を受けられなくなってしまうため、開業届を提出する際には同時に申請することが推奨されます。開業届を提出し、青色申告の承認を受けることで、税制上のメリットを最大限に活用し、事業の経営をより安定させることが可能です。

3. 社会的信用の向上

開業届を提出することで得られるもう一つの重要なメリットは、社会的信用の向上です。開業届を提出すると、「開業届の控え」が発行されます。この控えは、事業を行っていることを証明する書類としてさまざまな場面で活用されます。たとえば、銀行で事業用の口座を開設する際や、クレジットカード決済やQRコード決済などの導入時に必要となることがあります。事業用の銀行口座を持つことで、プライベートの口座とは別に事業の収支を管理できるため、確定申告の際にも作業がスムーズになります。

さらに、開業届の控えがあることで、金融機関からの融資を受けやすくなります。事業資金が必要な際に、開業届が事業の実態を証明する書類として利用できるため、融資を受けるための信頼性が高まります。また、助成金や補助金の申請時にも開業届の控えが必要となる場合が多く、これがあることで申請のハードルが低くなる場合があります。これらのメリットを通じて、開業届を提出することは事業を円滑に運営し、成長させるための重要なステップとなります。

開業届の提出によって得られる社会的信用は、事業の規模に関わらず有用です。事業を始めたばかりの段階や、収入がまだ発生していない状態であっても、開業届を提出していることで、事業者としての責任と信頼性を確立することができるのです。

収入なしでも開業届を出すメリット

事業を開始して間もない頃や収入がまだ安定していない段階でも、開業届を提出することで得られるメリットは多くあります。収入がない時期であっても開業届を提出することで、将来的な節税効果や事業運営の円滑化を図ることができ、事業の成功に向けた基盤を強化できます。以下では、確定申告での節税効果、金融機関からの融資や助成金の申請、そして小規模企業共済などへの加入という3つのメリットについて詳しく説明します。

1. 確定申告での節税効果

開業届を提出し、青色申告を行うことで、確定申告の際に様々な節税効果を得ることができます。まず、青色申告の特典として、最大65万円の特別控除を受けられるため、事業所得を大幅に減少させることが可能です。これにより、所得税の負担を軽減でき、事業の収益が少ない時期や赤字の年であっても、翌年以降の節税につなげることができます。

また、青色申告では赤字の繰り越しが可能です。たとえ収入がゼロであっても、事業活動に伴う必要経費が発生している場合、その赤字分を最大3年間繰り越すことができ、将来の収益から相殺することで節税効果を期待できます。事業の立ち上げ段階では収益が安定しないことが多く、初期投資や運営費用がかさむため、赤字になることは珍しくありません。このような場合に赤字を繰り越すことができる青色申告は、事業を継続するための大きな助けとなります。

さらに、青色申告を行うことで、配偶者や親族に給与を支払った場合、その給与を経費として計上することが可能です。これにより、家族経営の事業では労働力を確保しつつ、税負担を減らすことができます。例えば、配偶者が事業をサポートしている場合、その労働に対して適正な給与を支払い、その金額を経費に含めることで、節税効果が得られます。これは白色申告にはない特典であり、家族で事業を運営する個人事業主にとっては非常に有益な制度です。

2. 金融機関からの融資や助成金の申請が可能

開業届を提出することで得られるもう一つの大きなメリットは、金融機関からの融資や助成金・補助金の申請が容易になることです。事業を運営していく中で、設備投資や運転資金が必要になる場面が必ず出てきます。その際、金融機関からの融資を受けるためには、事業が正式に認められていることを示す開業届の控えが必要になります。この開業届の控えが、事業の実態を証明する書類として大変重要な役割を果たします。

また、開業届を提出すると、事業名義の銀行口座を開設することができます。事業用の口座を持つことで、個人の資金と事業の資金を明確に分けることができ、収支の管理が格段にしやすくなります。これは、確定申告の際の帳簿管理の負担を軽減し、税務調査などが行われた際にもスムーズに対応するための重要なステップです。事業用の口座はまた、法人用のクレジットカードを作成する際にも必要となり、事業活動をより効率的に行うためのツールとして活用することができます。

さらに、開業届を提出していると、助成金や補助金の申請が可能になります。例えば、地域雇用開発助成金や創業促進補助金、IT導入補助金など、さまざまな助成金制度があり、これらの申請には事業の実態を示す開業届の控えが必要です。助成金や補助金は、事業の初期投資を支援したり、新しい技術導入をサポートするための重要な資金源となるため、これらの制度を活用できることは大きなメリットです。

3. 小規模企業共済などへの加入

開業届を提出することで、小規模企業共済に加入することが可能になります。小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の経営者のための退職金制度であり、毎月一定額の掛金を積み立てることで、将来の退職時や廃業時に備えることができます。掛金は全額が所得控除の対象となるため、節税効果も期待できる非常に有益な制度です。

小規模企業共済は、事業を継続する中で将来の不安を軽減するための強力なツールです。廃業や退職を迎えた際に、まとまった資金を受け取ることができるため、経営者としてのリスクを減少させることができます。さらに、掛金の支払いは事業経費として認められ、これにより年間の所得を圧縮することで、税負担の軽減を図ることができます。

小規模企業共済に加入するためには、開業届の控えが必要です。開業届を提出していることで、共済への加入が認められ、経営者としての将来の生活設計をより安心なものにすることができます。このように、開業届を提出することは、ただの形式的な手続きではなく、事業の運営や成長に直結する多くのメリットを持っています。

副業での開業届提出時の注意点

副業として事業を始める場合でも、開業届の提出が必要かどうかを迷う方は多いでしょう。副業の規模や収入によっては、開業届を提出することで得られるメリットもあれば、提出しない方が適しているケースもあります。ここでは、副業で開業届を提出する際の注意点を、収入の分類、確定申告の基準、開業届を出すメリットとデメリットの観点から解説します。

副業の収入は事業所得か雑所得か

副業の収入をどう分類するかは、税務上の大きなポイントです。副業による収入は「事業所得」と「雑所得」のいずれかに分類され、その違いによって税務処理や開業届の必要性が変わってきます。

事業所得は、反復・継続して行われる事業から得られる所得であり、事業としての実態がある場合に認められます。この場合、開業届を提出することで正式に事業として認められ、青色申告などの税制上のメリットを享受することが可能です。一方で、雑所得は一時的な収入や規模の小さい活動から得られる所得を指し、事業のように継続性や独立性が認められない場合に分類されます。例えば、時折依頼されるスポット的な仕事や、一時的な副業収入は雑所得とされることが多いです。

収入を事業所得と認めるか雑所得とするかの判断基準には、収入規模やその活動の継続性が影響します。収入が少額であったり、一時的な収入であれば雑所得とされる可能性が高く、開業届を出す必要はありません。しかし、収入が一定以上であり、業務が反復・継続される事業とみなされる場合は、事業所得となり、開業届を提出する義務が生じます。具体的には、独立した店舗を持っていたり、定期的に収入を得ている場合などは事業所得と判断されることが多いです。副業の規模が小さい場合は、開業届の提出は必ずしも必要ではなく、雑所得として処理して確定申告を行う方法もあります。

副業での確定申告の基準と義務

副業における確定申告の義務は、その所得金額に依存します。副業での所得が年間20万円以上の場合、確定申告が義務付けられます。これは、所得税法第121条に基づいており、給与所得や年金以外の所得が20万円を超えると申告が必要になるという規定です。したがって、たとえ開業届を提出していなくても、副業での所得がこの基準を超える場合は、確定申告をしなければなりません。

また、副業所得と主業務からの所得の損益通算は原則として認められていません。つまり、副業が赤字であっても、それを主業務の所得と相殺して所得税の負担を軽減することはできません。この点においても、事業所得と認められるか雑所得とされるかで、税務処理が大きく異なるため注意が必要です。事業所得の場合、青色申告による赤字の繰り越しが可能ですが、雑所得ではこれも適用されません。そのため、副業の収益がある程度大きく、今後の継続性が見込まれる場合は、事業所得として開業届を提出し、税制上のメリットを活用することが賢明です。

開業届を出すことによるメリットとデメリット

副業で開業届を出すことにはいくつかのメリットがあります。まず、開業届を提出することで、個人事業主としての社会的信用を獲得することができます。これは、金融機関からの融資を受ける際や、事業名義での銀行口座開設、クレジットカードの発行など、ビジネス活動を行う上で必要な手続きに役立ちます。また、青色申告を利用することで、節税効果を得ることができ、最大65万円の控除や赤字の繰り越しが可能になります。特に、初期段階での赤字が多い場合や、今後の事業展開を見据えた長期的な視点では、開業届の提出は大きなメリットとなります。

しかし、開業届を出すことにはデメリットも存在します。主なデメリットとしては、確定申告の手間や管理の必要性が挙げられます。開業届を出すと、個人事業主として毎年の確定申告が義務となり、帳簿の作成や経費の管理など、事務作業が増加します。特に副業の場合、本業とのバランスを取る必要があり、時間や手間がかかることを考慮する必要があります。また、事業所得として申告する場合、税務署からのチェックが厳しくなる可能性もあり、帳簿管理や申告内容に対する責任が重くなる点も注意が必要です。

副業で開業届を出すべきかどうかは、その事業の収益規模、将来的な展望、そして個々の状況に応じた判断が求められます。事業として本格的に取り組む場合や、将来的に独立を目指している場合は、開業届を出して正式な個人事業主としての道を歩むことが得策です。しかし、収入が少額であったり、一時的な副業としての位置づけであれば、開業届を出さずに雑所得として処理する方が手間が少ないでしょう。それぞれの状況に応じた最適な選択を行い、効果的に副業を進めることが大切です。

まとめ: 開業届の提出は収入の有無にかかわらず原則義務!

開業届の提出は、事業の収入の有無にかかわらず、法律で義務付けられています。収入がない時期でも、開業届を提出することで、青色申告の節税メリットや社会的信用の向上など、事業運営における多くのメリットを得ることができます。また、副業で開業届を出す場合には、収入の分類や確定申告の義務についても理解しておくことが重要です。

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