【M&A】第三者割当増資の目的・流れ・メリットを分かりやすく解説!

第三者割当増資は、M&Aにおいて資金調達と経営権の取得を同時に実現できる有効な手法です。企業が新たに株式を発行し、特定の第三者に引き受けてもらうことで、財務基盤を強化し、戦略的な提携関係を構築することが可能となります。これにより、企業は迅速かつ柔軟に経営戦略を進めることができ、成長の機会を広げることができます。しかし、その反面、注意すべき点やリスクも存在します。本記事では、第三者割当増資の目的や具体的な流れ、そして買手企業・売手企業それぞれにとってのメリットとデメリットについて解説し、M&Aにおけるこの手法の活用方法をわかりやすく紹介します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

第三者割当増資とは?

第三者割当増資とは、企業が新たに発行する株式を現在の株主ではない特定の第三者(投資者)に引き受けてもらうことによって、資金調達を進める手法です。この方法は、M&Aや資本提携などにおいて、重要な役割を果たすことが多く、特に中小企業の資金調達や経営支援においても広く利用されています。第三者割当増資は、通常の株式譲渡とは異なり、新たな株式を発行するため、資金が直接企業に注入されることが特徴です。これにより、企業の財務基盤を強化しながら、戦略的なパートナーシップを構築することが可能になります。

第三者割当増資の基本概念

第三者割当増資の基本的な仕組みは、企業が新株を発行し、その株式を特定の第三者に割り当てることです。この「第三者」とは、企業の既存株主以外の者を指し、戦略的なパートナー、ベンチャーキャピタル、金融機関、取引先などが該当します。新株を発行して特定の第三者に割り当てることで、企業は資金を調達するだけでなく、株主構成に変化をもたらすことができるのです。

第三者割当増資の最大の特徴は、株式譲渡と異なり、株式の対価が企業そのものに支払われる点です。株式譲渡では、株主が持つ既存の株式が売却され、その対価は売却した株主に支払われます。一方で、第三者割当増資では、新たに発行された株式の対価が企業に支払われ、企業の自己資本が増強されるため、財務基盤の安定化が期待できます。また、この増資によって議決権も発行されるため、企業は株主の構成を意図的に変更し、経営戦略を柔軟に進めることが可能になります。

さらに、第三者割当増資はM&Aの手法としても広く利用されています。M&Aにおいては、譲受企業が譲渡企業の新株を引き受けることで、経営権を取得または強化することができるのです。このように、第三者割当増資は単なる資金調達の手段を超え、企業の戦略的なツールとしても活用されています。

第三者割当増資の目的

第三者割当増資の主な目的は、資金調達、経営権の取得・維持、そして資本業務提携の強化です。これらの目的が企業の成長戦略や経営方針と密接に結びついており、具体的な目的に応じて増資の条件や割当先が慎重に選定されます。

資金調達の強化

第三者割当増資の最も一般的な目的は、資金調達の強化です。企業は新株を発行することで、外部から新たな資金を集めることができます。この資金は、新規事業の立ち上げ、設備投資、技術開発、人材採用など、企業の成長を支える多様な用途に使用されます。また、資金調達に際しては、返済義務がないため、企業の財務リスクを低減し、健全な財務体質の維持に寄与します。特に、金融機関からの融資が難しい状況や、負債比率をこれ以上増やしたくない場合には、第三者割当増資は効果的な手段となります。

経営権の取得・維持

第三者割当増資は、経営権の取得や維持にも利用されます。M&Aの文脈では、譲受企業が第三者割当増資を通じて譲渡企業の株式を取得することで、経営権を確保し、事業シナジーの実現を図ることができます。これにより、企業は対象企業の経営に積極的に関与し、統合後の成長を加速させることが可能となります。また、既存の株主に対して経営権を維持したい場合でも、特定の第三者を戦略的に選び、協力関係を築きながら経営を続けることができます。

資本業務提携の強化

第三者割当増資は、資本業務提携の強化を目的とすることも多いです。例えば、技術提携や営業面での協力関係を強化するために、パートナー企業に新株を引き受けてもらうケースがあります。このような提携は、単なる業務提携に比べて、資本関係を持つことでより強固な連携が可能となり、双方の企業にとって大きな利益をもたらす可能性があります。資本業務提携を通じて、新規市場への進出や共同開発、相互のリソース活用など、より広範囲な協力体制を築くことができるのです。

第三者割当増資の流れ

第三者割当増資を実施するには、いくつかの重要なステップが必要です。このプロセスは、企業が新たに発行する株式を特定の第三者に割り当てるための手続きであり、企業の資金調達や戦略的な提携関係の構築において非常に重要な役割を果たします。以下に、第三者割当増資の具体的な流れを解説します。

1. 新株の募集事項の決定

第三者割当増資の第一段階は、新株の募集事項の決定です。この段階では、企業が発行する新株の具体的な条件を設定します。まず、発行する株式の数(募集株式数)や、新株を引き受ける際の払込金額を設定する必要があります。これらの事項は、企業の資金調達ニーズや市場の状況、将来の成長戦略などを考慮して慎重に決定されます。

また、このプロセスは、公開会社と非公開会社で異なる手続きが求められます。公開会社の場合、通常は取締役会で募集事項の決定が行われます。これに対して、非公開会社では、株主総会の特別決議を経て決定されるのが一般的です。この違いは、株主の保護や透明性の確保を目的とした会社法の規定によるものです。特に非公開会社の場合、株主の利益が直接関わるため、株主総会での特別決議が求められることが多く、その結果、取締役や大株主の意思だけでなく、全株主の意見を反映した意思決定が行われます。

2. 株主宛の通知と募集

新株の募集事項が決定された後、次に行われるのが株主宛の通知と募集です。この段階では、決定された募集事項を株主や関係者に通知し、新株の引受希望者を募ります。公開会社であれば、株主への通知は取締役会の決議によって行われますが、非公開会社の場合は、株主総会での特別決議が必要です。通知内容には、新株の募集に関する具体的な情報、例えば募集株式の数、払込金額、払込期日などが含まれます。

株主に対して募集内容を通知する際には、法的な手続きを遵守することが求められます。これには、株主に対する公平な取り扱いと、募集の透明性を確保するための措置が含まれます。また、株主が新株の引受を希望する場合は、決められた期間内に申し込みを行う必要があります。この申し込みには、引受株式数や引受人の情報を記載した申込書の提出が求められます。これにより、企業は応募者の情報を把握し、次の段階である割当の決定に向けて準備を進めます。

3. 割当の決定と出資金の払い込み

新株の募集に対して引受希望者が決まったら、次のステップは割当の決定と出資金の払い込みです。割当の決定は、企業の取締役会や株主総会で行われ、新株を引き受ける者とその割当株数を正式に決定します。割当の決定は、企業の戦略や資金調達の目標に基づいて慎重に行われ、どの引受者にどの程度の株式を割り当てるかが決まります。

割当の決定後、割当を受けた出資者は、定められた払込期日までに、指定された方法で出資金を払い込む必要があります。払込は通常、銀行振込などの安全で確実な方法で行われます。払込金額が全額揃わないと、新株の発行手続きが進められないため、このステップは非常に重要です。また、払込が完了した時点で、出資者は正式に企業の株主となり、割当を受けた株式に対応する議決権や配当権などの株主権利を得ることになります。

4. 株式の発行と登記

最後のステップは、新株の発行と登記の手続きです。出資金の払い込みが完了した後、企業は正式に新株を発行し、出資者に対して株式を交付します。この段階で、企業の資本金や発行済み株式数が増加し、企業の財務状況にも変化が生じます。

株式発行が完了したら、企業はその内容を登記変更手続きを通じて法務局に届け出る必要があります。これには、増加した資本金の額や新たに発行された株式の数、株主構成の変更などが含まれます。この登記手続きは、法的な義務であり、企業の公開情報として記録されます。登記変更が完了することで、第三者割当増資の一連の手続きが完了し、企業は正式に新たな株主を迎え入れ、資金調達に移ることができるのです。

第三者割当増資のメリット

第三者割当増資は、買手企業と売手企業の双方にとって、多くのメリットをもたらす資金調達手法です。この手法は単なる資金調達にとどまらず、企業の戦略的な目的に応じた柔軟な経営手段としても活用されます。以下では、買手企業、売手企業、そして売手企業の株主にとっての具体的なメリットについて解説します。

買手企業のメリット

第三者割当増資は、買手企業にとっても多くの戦略的メリットを提供します。まず、M&A手続きの迅速化が挙げられます。通常のM&Aでは、デューデリジェンスや交渉、契約締結など、多くのステップが必要であり、時間とコストがかかります。しかし、第三者割当増資を用いることで、これらの手続きを簡略化し、比較的短期間で資金調達と経営権の取得を行うことが可能です。特に緊急性の高い案件やタイムセンシティブなM&Aにおいて、この迅速な手続きは大きなアドバンテージとなります。

次に、売手企業との強固な関係構築が期待できる点も重要です。第三者割当増資により、買手企業は売手企業の株式を取得し、直接的な資本関係を築くことができます。これにより、経営戦略の共有やシナジー効果の創出が可能となり、事業拡大や新たな市場開拓などに向けた連携が強化されます。買手企業と売手企業が協力して成長を目指すための基盤が整い、長期的なパートナーシップの確立につながります。

さらに、第三者割当増資を通じて、買手企業は売手企業の利益を連結決算に取り込むことができるため、節税効果も期待できます。これは、売手企業の欠損金を利用して買手企業の利益と相殺することで、税負担を軽減することが可能となるからです。特に大規模な企業グループにおいては、この利益取込み効果が財務戦略における重要な要素となります。

また、第三者割当増資では、100%の完全買収と異なり、他の株主も存在するため、経営に対する道義的責任を分散することができます。完全買収の場合、すべてのリスクや責任が買手企業に集中するため、万が一の事業不振時には大きな負担を強いられる可能性があります。しかし、第三者割当増資を利用することで、他の株主とリスクを共有できるため、リスクヘッジの観点からも有利です。これにより、買手企業は負担を軽減しながら、成長戦略を推進することができます。

売手企業のメリット

売手企業にとっても、第三者割当増資は多くのメリットをもたらします。まず、最も大きなメリットは資金繰りの安定と財務基盤の強化です。新たに発行する株式を引き受けてもらうことで、企業は即座に資金を確保でき、これにより経営の安定化が図れます。この資金は、新規事業への投資、既存事業の強化、債務の返済などに充てられ、企業の成長を後押しします。特に、返済義務がないことから、財務リスクを低減しながら資金調達が可能であり、経営の自由度が高まります。

また、第三者割当増資によって信用力が向上し、事業拡大の可能性が広がることも重要です。信用力の高い企業や戦略的パートナーからの出資を受けることで、取引先や金融機関からの信用が増し、資金調達や新規取引の機会が増加します。これにより、企業はさらなる事業拡大を目指しやすくなり、成長の加速が期待できます。加えて、第三者割当増資の実施により、売手企業は新たな株主を迎えることになり、その株主がもたらすノウハウやネットワークも活用することができます。

さらに、第三者割当増資では、売手企業が新株主を選択できるため、戦略的なパートナーシップの構築が可能です。既存の取引先や協力関係のある企業に新株を割り当てることで、経営面でのシナジーが生まれやすくなり、競争力の強化につながります。このように、売手企業は新株主との関係を通じて、経営資源を効率的に活用し、事業の安定と拡大を実現することができます。

売手企業株主のメリット

売手企業の株主にとっても、第三者割当増資にはいくつかのメリットがあります。まず、株主は持株比率が低下する可能性はあるものの、経営権を維持できる点が重要です。これは、完全な株式譲渡とは異なり、株主が引き続き経営に関与できるため、自社の成長に寄与し続けることが可能だからです。特に、売手企業が新たな資金を得て事業を拡大することで、株主としての投資価値も向上する可能性があります。

また、第三者割当増資を通じて企業が成長を遂げることで、株主としてもその恩恵を受けることができます。増資によって企業の競争力が強化され、利益が増加すれば、配当金の増加や株価の上昇といった形で、株主にとってのリターンが期待できます。これにより、株主は自社の成長に貢献しながら、自らの資産価値も向上させることができるのです。

さらに、新たに迎え入れた株主との協力関係により、企業全体の事業戦略が強化され、より安定した経営が期待されます。これにより、既存株主も新株主からの提案やサポートを受け入れることで、企業の長期的な成長に貢献し続けることができます。このように、第三者割当増資は売手企業株主にとっても、自社の発展とその恩恵を享受できる大きなメリットがあるのです。

第三者割当増資のデメリット

第三者割当増資は多くのメリットを提供する一方で、企業や株主にとっていくつかのデメリットも存在します。これらのデメリットを理解し、事前に適切な対策を講じることが、第三者割当増資の成功につながります。以下では、買手企業、売手企業、そして売手企業の株主それぞれの立場でのデメリットについて解説します。

買手企業のデメリット

第三者割当増資を利用する際、買手企業にはいくつかのデメリットがあります。まず、最も大きな課題として挙げられるのが、多額の資金調達の必要性です。第三者割当増資では、企業が発行する新株を引き受けるために、相応の資金を用意する必要があります。特に、取得する議決権の割合が高いほど、必要となる資金の額も増大します。このため、買手企業が資金調達のために多額の借り入れを行う場合、その負担が企業の財務状況に影響を与えるリスクが生じます。また、資金調達が難航すれば、計画の遅延や中止につながる可能性もあり、資金計画の見直しが必要になることもあります。

次に、第三者割当増資では議決権を完全に取得することが困難である点もデメリットです。通常、100%の完全買収であれば、買手企業は譲受企業のすべての議決権を取得し、経営権を完全に掌握することができます。しかし、第三者割当増資では、株式の一部のみを取得するため、他の株主も引き続き存在します。その結果、買手企業は経営において全ての決定権を持つことができず、特に重要な経営判断においては他の株主の意向を考慮する必要があります。これにより、企業のガバナンスが複雑化し、意思決定のスピードや方向性に影響を及ぼす可能性があります。

さらに、買手企業が第三者割当増資を引き受ける際には、簿外債務のリスクもあります。簿外債務とは、譲受企業の財務諸表に反映されていない負債や契約上の義務のことを指します。これらの簿外債務は、第三者割当増資の引受時には見逃されがちであり、後に買手企業に大きな負担をもたらすことがあります。例えば、将来的に発生する未計上の賠償責任や隠れた契約上の支出が発覚した場合、それらを負担する義務が買手企業に生じることとなり、予期せぬコスト増加や財務悪化を引き起こすリスクがあるのです。

売手企業のデメリット

売手企業にとっての第三者割当増資のデメリットには、まず既存株主の持株比率の低下が挙げられます。新たな株式を発行して第三者に割り当てることで、既存株主の持株比率が希薄化し、これに伴い、経営に対する影響力や発言力も低下する可能性があります。この現象を「株式の希薄化」と呼び、特に大規模な増資を行った場合、既存株主にとっては大きな懸念材料となります。株主総会における重要な決議においても、持株比率が低下することで、意見が反映されにくくなるリスクが高まります。

次に、売手企業にとっての大きなデメリットは、直接的な譲渡対価を受け取れないことです。株式譲渡の場合、譲渡対価は株主に支払われるため、直接的な資金の受け取りが可能です。しかし、第三者割当増資では、資金は企業に直接注入されるため、既存株主は直接的な利益を得ることはできません。これは、既存株主が譲渡対価を期待している場合には、大きな不満につながることがあります。また、売手企業にとっては、増資によって資本金が増加するため、税負担の増加というデメリットもあります。具体的には、資本金が一定の金額を超えると、法人税や地方税の負担が増える可能性があり、これにより企業の収益に直接的な影響を与えることになります。

売手企業株主のデメリット

売手企業の株主にとっても、第三者割当増資にはいくつかのデメリットがあります。まず、経営権の希薄化が挙げられます。新株の発行によって持株比率が低下するため、株主としての影響力が減少し、経営に対する発言権や決定権が弱まる可能性があります。特に、経営に積極的に関与している株主にとっては、この希薄化は大きなデメリットと感じられることがあります。さらに、議決権の低下により、重要な経営判断に対して十分な影響を及ぼせなくなるリスクも伴います。

また、売手企業の株主は第三者割当増資において譲渡対価を直接受け取ることができません。株式譲渡の場合には、売却した株式の対価が株主に支払われるため、即座に現金化することが可能です。しかし、第三者割当増資では、資金は企業に注入されるため、株主は直接的な現金収入を得ることはできません。これにより、株主は増資による企業価値の向上に間接的に依存することとなり、短期的な利益を期待する投資家にとっては不満となる可能性があります。

M&Aにおける第三者割当増資の注意点

第三者割当増資はM&Aにおいて効果的な手段ですが、その実行には慎重な注意が必要です。企業が増資を行う際には、割当比率や発行価額の設定など、経営や法的な観点から様々なリスクを考慮しなければなりません。ここでは、第三者割当増資を実施する際に特に注意すべき点について、割当比率と経営権の割合、そして特に有利な発行価額での発行に関する注意事項を解説します。

割当比率と経営権の割合

第三者割当増資を行う際に最も重要な要素の一つが、割当比率とそれに伴う経営権の割合です。この増資方法では、発行する株式の割合によって譲受企業の経営関与の度合いが大きく変わるため、割当比率を慎重に設定する必要があります。特に、普通株式の持株比率が経営権の確立に直結するため、その比率をどの程度にするかが、企業の将来的なガバナンスに大きな影響を与えます。

例えば、持株比率が過半数(50%超)に達すれば、取締役の選任や解任、剰余金の処分といった重要な経営判断を単独で行うことができるようになります。しかし、持株比率が3分の2(66.7%)を超える場合には、さらに強力な経営権が付与され、定款の変更や会社の解散といった重大な決定も行うことが可能となります。このため、譲渡企業の経営者が引き続き経営に関与したい場合には、第三者割当増資の割当比率を注意深く設定することが求められます。

さらに、割当比率が高くなると、譲受企業が実質的な経営権を握ることになり、売手企業の既存株主の経営関与が低下するリスクがあります。これは、企業のガバナンスのバランスを崩す可能性があり、経営陣や既存株主の意図しない方向へ企業が進む危険性を孕んでいます。特に中小企業のM&Aにおいては、経営者が引き続き経営に関わりたいと考えるケースが多いため、適切な持株比率の設定が企業の存続と成長に直結します。

また、譲受企業の持株比率に関する法的注意点も重要です。株式の割当によって経営権が移動する場合、会社法や独占禁止法の規定に従って必要な手続きや届出が求められることがあります。特に、持株比率が一定の割合を超える場合には、独占禁止法による事前届出が必要となることがあり、この手続きを怠ると法的な制裁を受ける可能性もあります。そのため、第三者割当増資を通じて経営権の取得を目指す場合には、法的な制約や必要な手続きを十分に理解した上で進めることが求められます。

特に有利な発行価額での発行

第三者割当増資の実施においては、発行価額の設定も大きな注意点となります。特に、時価よりも低い「特に有利な発行価額」で新株を発行する場合には、法的な規制や株主の保護の観点から、慎重な対応が必要です。会社法では、このような有利な価格での新株発行を行う際には、株主総会での特別決議が必要とされています。これは、低い発行価額で新株を発行することが、既存株主の権利を侵害するリスクがあるためです。

特別決議が必要な理由は、有利価格での発行が既存株主の持株比率を希薄化し、経済的な利益を損なう可能性があるからです。特別決議では、議決権を持つ株主の3分の2以上の賛成が必要とされ、これにより株主の利益保護が図られています。また、特別決議を経ずに有利な価格で新株を発行した場合、取締役は会社に対して公正な払込金額との差額について賠償責任を負うこととなります。このため、企業は発行価額の設定において、公正かつ合理的な基準に基づくことが求められます。

発行価額設定におけるリスクも見逃せません。時価よりも低い発行価額での新株発行は、一見すると引受人にとって有利に見えるかもしれませんが、企業にとっては資金調達額が減少するというデメリットがあります。さらに、株価が低く設定されることは、企業の市場評価を低下させ、長期的には企業価値の減少につながる可能性があります。そのため、発行価額の設定は慎重に行い、株主や市場からの信頼を損なわないよう配慮することが重要です。

また、特に有利な発行価額での発行は、潜在的な訴訟リスクも伴います。特に、経営権争いの激しい企業や、株主が多数存在する企業においては、発行価額の設定が適切でなかった場合、株主からの訴訟や反発を招く可能性があります。このため、発行価額の設定にあたっては、外部の専門家による公正な評価や、第三者機関の意見を参考にするなど、透明性を確保することが求められます。

まとめ: 第三者割当増資を有効に活用しよう!

第三者割当増資は、M&Aにおける資金調達や経営権の取得手段として、多くの企業が採用する有力な選択肢です。買手企業にとっては手続きの迅速化や売手企業との強固な関係構築、売手企業にとっては資金繰りの安定や信用力の向上といったメリットがあります。また、既存株主にとっても、経営権を維持しながら企業の成長に貢献できる利点があります。

しかし、第三者割当増資には、多額の資金調達の必要性や経営権の希薄化といったデメリットも伴います。特に、割当比率の設定や発行価額の決定には慎重な判断が求められ、法的な手続きや株主の利益保護を確実に行うことが重要です。これらのリスクを理解し、適切な対応を行うことで、第三者割当増資を通じて企業の成長戦略を成功させることができるでしょう。

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