M&Aでのストックオプションの取り扱い・注意点を分かりやすく解説!

M&Aは、企業にとって成長や拡大のための重要な手段ですが、このプロセスには多くの複雑な要素が絡んでいます。その中でも、ストックオプション(SO: Stock Option)の取り扱いは、特に重要な検討事項の一つです。ストックオプションは、従業員のモチベーションを維持し、優秀な人材を確保するための強力なツールですが、M&Aが発生した際には、その取り扱いに細心の注意が必要です。

本記事では、M&Aにおけるストックオプションの基本的な概念から、実際の取り扱い方法、さらには注意すべき税務のポイントまでを分かりやすく解説します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

M&Aにおけるストックオプションの基本知識

M&Aのプロセスにおいて、ストックオプションの取り扱いは非常に重要です。企業が従業員や役員に付与するストックオプションは、企業の成長に対するモチベーションを高めるための有効な手段ですが、M&Aによってその価値や行使条件が大きく影響を受けることがあります。ここでは、ストックオプションの基本知識や、M&Aとストックオプションの関係、そしてM&Aによってストックオプションが消滅するリスクについて解説します。

ストックオプションとは?

ストックオプションは、企業の役員や従業員に、あらかじめ決められた価格で自社株を購入する権利を付与する制度です。この制度により、株価が上昇した際にその差額を利益として得ることができるため、従業員のモチベーション向上や企業価値の向上に寄与します。特にスタートアップ企業では、現金報酬に代わる形で広く利用されています。

M&Aとストックオプションの関係

M&Aの際には、企業が発行したストックオプションの取り扱いが重要になります。M&Aが実行されると、売り手企業が発行していたストックオプションが消滅するケースが多く、従業員や役員が期待していた利益を得られなくなるリスクがあります。このため、M&Aの際にはストックオプションの取り扱いについて事前に十分な検討が必要です。

M&Aでストックオプションが消滅するリスク

M&Aの際に、ストックオプションが消滅するリスクは高いです。特に、買収や合併によって企業が完全子会社化されたり消滅したりする場合、ストックオプションは行使不可能になり消滅することが多いです。このリスクを回避するためには、M&Aの計画段階でストックオプションの取り扱いを慎重に検討し、従業員に対する適切な説明と代替策を講じることが重要です。

M&Aでのストックオプションの取り扱い方法

M&Aプロセスにおいて、ストックオプションの取り扱いは非常に重要です。適切な対応をしなければ、従業員のモチベーションが低下するだけでなく、法的・税務的なリスクも発生します。本セクションでは、ストックオプションの取り扱い方法について、具体的なケーススタディや注意点を含めて解説します。

権利行使のタイミング

M&Aの際にストックオプションをどのタイミングで行使するべきかは、戦略的な判断が求められます。行使タイミングによって従業員の経済的利益や税務上の負担が大きく変わるため、慎重に検討する必要があります。

M&A直前に行使するべきか?

M&A直前にストックオプションを行使することは、従業員にとって一つの選択肢です。このタイミングで行使すれば、従業員は自社株を取得し、その後のM&Aで得られるキャピタルゲインを享受できる可能性があります。しかし、行使時には権利行使価額を支払う必要があり、株式の取得には多額の資金が必要になることがあります。また、税務上の観点からも、行使時に発生する課税が給与所得として扱われ、高い税率が適用されるリスクがあります。このため、M&A直前に行使するかどうかは、個々の従業員の資金状況や税務リスクを考慮した上で判断する必要があります。

行使期間の制約とその影響

ストックオプションには、行使期間が設定されている場合が多く、通常は「上場後」や「一定期間内」に限定されています。M&Aが行われる際、行使期間の制約が存在するため、従業員が適切なタイミングで権利行使を行えないケースがあります。特に行使可能期間が上場後に設定されている場合、M&Aによって上場が予定されていないと、権利行使が不可能となり、結果的にストックオプションが無価値となるリスクが高まります。このため、M&Aの計画段階で行使期間の制約を確認し、必要に応じて発行要項や契約書の修正を行うことが重要です。

ストックオプションを譲渡する方法

ストックオプションを譲渡する方法も、M&Aにおける重要な取り扱い方法の一つです。譲渡する場合、税務上の取り扱いや契約上の要件をしっかりと理解する必要があります。

SOをそのまま譲渡するケース

ストックオプションを譲渡する方法として、SOそのものを第三者に譲渡するケースがあります。この場合、譲渡のためには通常、会社の取締役会の承認が必要です。譲渡制限が解除された時点で、ストックオプションの時価が給与所得として課税されることになります。これにより、譲渡時に課税が発生し、その後にSOが譲渡される場合には譲渡所得として扱われます。したがって、譲渡する際には税務上の影響を慎重に検討する必要があります。

新株予約権買取請求権の行使

M&Aによって企業が完全子会社化されたり、合併によって消滅した場合、ストックオプションが消滅するリスクがあります。こうした場合、新株予約権買取請求権を行使することが可能です。これは、ストックオプション保有者が発行会社に対して、ストックオプションを時価で買い取るよう請求できる権利です。この請求権を行使することで、従業員はストックオプションを失わずに一定の経済的利益を得ることが可能です。ただし、この手続きを進めるためには、発行会社との事前の合意や取締役会の承認が必要であり、実務的には慎重な対応が求められます。

買収企業によるストックオプションの引き継ぎ

M&Aの際、買収企業がストックオプションをどのように取り扱うかも重要な検討事項です。買収企業がSOを引き継ぐか、あるいは新しいインセンティブに切り替えるかによって、従業員のモチベーションや企業文化に大きな影響を与える可能性があります。

買収企業のSOへの切り替え

買収企業がストックオプションを引き継ぐ場合、通常は既存のSOを買収企業のSOに切り替える形が取られます。この切り替えが行われる場合、SOの権利内容や行使条件が買収企業のSOに準じた形で再設定されることが一般的です。このプロセスでは、税制適格要件を満たすように設計されることが重要です。特に合併や株式交換といった組織再編行為の場合、買収企業のSOに切り替えることで、税制適格性が維持され、従業員にとって税務上有利な状況が続く可能性があります。

買収企業がSOを買い取るケース

もう一つの選択肢として、買収企業がストックオプションを時価で買い取るケースがあります。この方法では、買収企業が従業員からSOを現金で買い取るため、従業員は即座にキャピタルゲインを得ることができます。ただし、この場合も、買い取り時に発生する経済的利益は給与所得として課税されるため、税務上の負担が大きくなる可能性があります。買収企業としては、この方法によってストックオプションに対する従業員の期待を即時に解消できるため、M&A後のスムーズな統合プロセスを促進する効果があります。

税制適格ストックオプションと税務の注意点

M&Aにおいてストックオプションの取り扱いは非常に重要なテーマです。特に、税制適格ストックオプションを付与している企業では、税制の要件を満たすかどうかが従業員の税負担に直接影響します。税制適格ストックオプションは、一定の条件を満たすことで、従業員が大きな税制優遇を受けられる制度です。しかし、M&Aの際には、その適格性が失われるリスクがあり、注意が必要です。ここからは、税制適格ストックオプションの基本的な特徴、M&Aにおけるリスク、そして税制非適格ストックオプションのリスクとその対策について解説します。従業員のモチベーションを維持し、企業の成長を支えるためにも、税務に関する正しい理解と適切な対応が求められます。

税制適格ストックオプションとは?

税制適格ストックオプションは、一定の税制優遇を受けることができるストックオプション(SO)の一形態です。具体的には、ストックオプションの付与から権利行使、さらにはその株式の売却に至るまで、所得税の課税が大幅に優遇されることを目的とした制度です。

通常、ストックオプションが行使されると、その時点で株式の時価と行使価格との差額が従業員にとっての経済的利益となり、これが課税対象となります。しかし、税制適格ストックオプションの場合、権利行使時には課税が発生せず、その後の株式売却時にのみ譲渡所得として課税が行われます。これにより、従業員は大幅に税負担を軽減できるメリットがあります。

税制適格ストックオプションを発行するためには、いくつかの厳しい要件を満たす必要があります。主な要件としては、対象者の条件(発行会社の役員や従業員であること)、権利行使期間の条件(付与後2年以降から10年以内)、年間行使可能金額の制限(年間1200万円以下)などが挙げられます。これらの要件をクリアすることで、税制適格の恩恵を受けることができるのです。

M&Aで税制適格性を失うリスク

M&Aが行われると、税制適格ストックオプションが持つ優遇措置が失われるリスクがあります。特に、非上場企業がM&Aによって買収される場合、このリスクは非常に高くなります。M&Aによる企業の統合や組織変更は、税制適格性の維持に必要な要件に影響を与える可能性があるためです。

保管要件と非上場企業の課題

税制適格ストックオプションを維持するためには、特定の証券会社や信託会社との間で保管契約を結び、株式の保管を委託する必要があります。この保管要件は、主に上場企業を念頭に置いて設計されているため、非上場企業がこれを満たすのは困難です。特に、非上場企業のストックオプションを受け入れる証券会社が限られていることが問題となります。

M&Aが実行される際に、この保管要件を満たせない場合、税制適格ストックオプションはその適格性を失い、従業員にとって不利な税務処理が必要となります。具体的には、行使時に給与所得として課税されることになり、これが大きな税負担をもたらすことになります。

税制適格要件を満たさない場合の課税

税制適格要件を満たさない場合、ストックオプションの行使時にその経済的利益が給与所得として課税されます。この場合、所得税と住民税を合わせた税率が最大で約55%に達する可能性があり、従業員にとって非常に重い負担となります。また、行使時点での課税により、現金が手元にない状況での納税義務が発生するため、資金調達の問題も生じます。

さらに、税制適格性を失った場合、ストックオプションの付与から行使までの間に発生する全ての利益が課税対象となるため、従業員は多くの税金を支払わなければならなくなります。このような状況を避けるため、M&Aが行われる際には、事前に税務上の影響を十分に検討し、必要な対策を講じることが重要です。

税制非適格ストックオプションのリスクと対策

税制非適格ストックオプションは、税制適格ストックオプションと比べて税務上のリスクが高いです。特に、従業員が得る経済的利益が給与所得として課税されるため、課税率が高くなる傾向があります。これにより、従業員が受け取る手取り額が大幅に減少する可能性があります。

給与所得としての課税

税制非適格ストックオプションの場合、ストックオプションの行使時に得られる利益が給与所得として課税されます。このため、従業員は行使時点で所得税および住民税の課税を受けることになります。給与所得として扱われるため、累進課税が適用され、税率は最大で約55%に達する可能性があります。これにより、ストックオプションを行使する際に大きな税負担が発生し、従業員のモチベーションや経済的メリットが損なわれる恐れがあります。

税負担を抑えるための対策

税制非適格ストックオプションによる重い税負担を避けるためには、いくつかの対策が考えられます。一つの方法として、ストックオプションを有償で発行することが挙げられます。有償ストックオプションは、譲渡所得として扱われるため、課税時期が株式の売却時に移行し、税率も低く抑えられます。

また、M&Aに備えて「M&A対応型SO」を発行することも有効です。このストックオプションは、税制適格性を維持しながらM&Aを進めるために設計されたもので、M&Aによっても税制適格性を失わない特性を持っています。これにより、従業員の税負担を軽減し、ストックオプションの持つインセンティブ効果を維持することが可能です。

企業がM&Aを計画する際には、これらの税務上のリスクを事前に把握し、適切なストックオプションの設計や対策を講じることが、従業員のモチベーションを維持し、M&Aの成功につなげるために重要です。

M&Aでのストックオプション活用のメリット

M&A(企業の買収や合併)において、ストックオプションは単なる報酬手段を超えて、企業戦略の一環として重要な役割を果たします。特に、M&Aが行われた際にストックオプションが適切に活用されることで、従業員のモチベーションを維持・向上させるだけでなく、優秀な人材の確保と定着、さらには企業価値の長期的な向上に寄与する可能性が高まります。ここでは、M&Aにおけるストックオプションの活用がもたらす具体的なメリットについて解説します。

従業員のモチベーション維持と向上

M&Aにおいて、存続する企業がストックオプションを新しく付与するか、既存のストックオプション制度を引き継ぐことで、従業員のモチベーション維持と向上が可能となります。以下では、ストックオプション活用の効果を具体的にみていきましょう。

エグジット後のキャピタルゲイン

ストックオプションを付与された従業員にとって、M&Aはキャピタルゲインを実現する重要な機会となります。企業がM&Aによって売却される際、従業員が保有するストックオプションは、その価値が大幅に上昇する可能性があります。これにより、従業員は通常の給与やボーナスとは異なる形で、企業の成長に対する直接的な報酬を得ることができるのです。

キャピタルゲインの実現は、従業員にとって非常に大きな動機付けとなります。彼らは、自らの努力が企業価値の向上に直結し、その成果としてストックオプションが報われるという明確な利益を得ることができます。これは、特にスタートアップやベンチャー企業において、従業員が企業の成長と成功に対して強いコミットメントを持ち続けるための強力なインセンティブとなります。

離職防止と組織の安定化

M&Aは、企業にとって大きな変革の時期であり、従業員に不安を与えることが少なくありません。企業文化の変化や経営陣の入れ替え、新しい方針への適応など、従業員にとってはストレスとなる要因が多く存在します。このような状況下で、ストックオプションの存在は従業員の離職を防止し、組織の安定化に寄与する重要な役割を果たします。

特に、ストックオプションが継続勤務を条件としたものの場合、従業員は企業に留まることでより多くの利益を得られるため、離職のリスクが低下します。さらに、M&A後の新しい組織体制においても、ストックオプションを通じたインセンティブは、従業員が自発的に組織の成功に貢献しようとする動機を維持する効果があります。これにより、M&Aのプロセスが円滑に進行し、企業全体としての一体感を保つことが可能となります。

優秀な人材の確保と定着

存続する企業が、ストックオプション制度を活用することには、従業員に対して、金銭的なメリットを与えるだけではありません。従業員のモチベーションの向上にも有効です。この点について、以下では解説していきましょう。

ストックオプションによるインセンティブ効果

優秀な人材の確保と定着は、企業の競争力を維持・強化する上で不可欠な要素です。M&Aにおいて、ストックオプションはこうした人材に対する強力なインセンティブとして機能します。特に、企業が成長を続け、将来的な上場やさらなるM&Aを見据えた場合、ストックオプションはその価値を大きく増加させる可能性があります。

ストックオプションを付与することで、企業は優秀な人材に対して「長期的な成功にコミットしてほしい」というメッセージを強く発信できます。これは、短期的な報酬では得られない、長期的な視点に立ったインセンティブを提供することになります。結果として、従業員は自らのキャリアを企業の成長と連動させ、より強いコミットメントを持つことが期待されます。

長期的な企業価値向上への貢献

ストックオプションを活用することは、単に優秀な人材の確保やモチベーションの維持にとどまらず、企業価値の長期的な向上にも寄与します。企業が成長し、収益性を高め、最終的にはIPOや次のM&Aに至る道筋を描く中で、ストックオプションを保有する従業員は、企業の成功を自分自身の成功と捉えるようになります。

このように、ストックオプションは従業員が長期的な視点で企業の成長に貢献することを促し、結果として企業全体の価値を高めることにつながります。特に、企業が革新的なプロジェクトや新規事業に取り組む際には、従業員の積極的な関与と高いパフォーマンスが求められますが、ストックオプションを活用することで、従業員はそのような挑戦に対して積極的に取り組む動機付けを得ることができます。

まとめ: M&Aにおけるストックオプションの取り扱いは慎重に!

M&Aにおけるストックオプションの取り扱いは、企業の成長戦略において非常に重要な要素です。ストックオプションの適切な運用は、従業員のモチベーションを維持し、優秀な人材を確保するための強力な手段となり得ます。しかし、M&Aのプロセスにおいては、ストックオプションが消滅するリスクや、税制適格性を失う可能性があるため、事前に十分な計画と対策を講じることが求められます。

企業がM&Aを成功させ、長期的な成長を実現するためには、ストックオプションの取り扱いを慎重に検討し、従業員に対して透明性のある説明を行うことが不可欠であると言えるでしょう。

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