何パーセントの株で乗っ取りができる?買収の防止策とは!

企業経営において、株式の持ち株比率は極めて重要な要素です。株主がどれだけの株式を保有しているかは、その株主が企業の意思決定にどれほど影響力を持つかを左右します。特に、企業の乗っ取りを狙う敵対的買収では、持ち株比率が企業支配を確立するための鍵となります。この記事では、企業支配に必要な持ち株比率や過去の実例をもとに、どの程度の持ち株比率が企業乗っ取りに十分なのかを解説します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

株式の持ち株比率とは?

株式の持ち株比率とは、その企業が発行している株式総数に対する、特定の株主が保有している株式の割合を指します。簡単に言えば、会社全体の中でどれだけの「持ち分」を持っているかを示すものであり、この比率が高いほど、その株主は企業の経営に対して大きな影響力を持つことになります。

持ち株比率は次の計算式で求められます。

  • 持ち株比率 = (保有株式数 ÷ 発行済株式数)× 100

例えば、ある企業の発行済株式が100株で、そのうちの50株を保有している場合、持ち株比率は50%になります。これは、その株主が企業の議決権の半分を持っていることを意味し、重要な経営判断に対して大きな発言力を持つことになります。逆に、持ち株比率が少ない株主の場合、企業の経営に直接的な影響を及ぼすことは難しくなります。

株主権利と持ち株比率の関係

持ち株比率は、株主がどのような権利を行使できるかに深く関わってきます。株主としての権利は大きく「自益権」と「共益権」に分類され、それぞれの権利をどの程度行使できるかは、持ち株比率に左右されます。

自益権は、株主個人の利益に関する権利で、例えば「剰余金配当請求権」や「残余財産分配請求権」などがあります。これらは、株主が企業の利益の分配を受ける権利であり、基本的には1株でも所有していれば行使可能です。つまり、自益権はすべての株主に等しく与えられる権利であり、持ち株比率に関わらず行使することができます。

一方で、共益権は、企業の経営に参与するための権利であり、持ち株比率に応じてその行使範囲が異なります。共益権の中で最も基本的なものは「議決権」であり、これは株主総会での議案に対して投票する権利です。議決権は1株につき1票が与えられ、持ち株比率が高ければ高いほど、その株主の投票が企業の意思決定に与える影響が大きくなります。

さらに、持ち株比率が一定の水準を超えると、株主は「少数株主権」と呼ばれる特別な権利を行使することができます。例えば、3%以上の株式を保有している株主は、株主総会の招集請求や会社の帳簿閲覧請求を行うことができ、さらに1%を保有していれば、株主総会での議案提出権を行使することができます。このように、持ち株比率が高くなるほど、株主は企業の運営に対して直接的な影響を与えることが可能となり、その結果、企業の経営方針に対する発言力が増していきます。

持ち株比率はまた、企業支配の手段としても重要です。特に、企業買収や乗っ取りといったケースでは、どの程度の株式を保有しているかが、企業の支配権を握るための鍵となります。一般的に、企業の普通決議を単独で可決できるためには50.1%以上の持ち株比率が必要であり、特別決議を単独で通すためには66.7%以上の持ち株比率が求められます。したがって、企業の支配権を確立するためには、持ち株比率が重要な要素となるのです。

企業支配に必要な持ち株比率

企業を支配するために、どの程度の持ち株比率が必要なのかは、企業経営において極めて重要な課題です。株主総会における議決権は、企業の意思決定を左右する力を持ち、持ち株比率が高ければ高いほど、その影響力は強大になります。特に、50.1%と66.7%という持ち株比率は、企業の普通決議や特別決議を単独で可決するための重要な基準となります。以下では、持ち株比率が企業支配にどのような影響を与えるのかを見ていきます。

株主総会における議決権と支配力

株主総会は、企業の最高意思決定機関であり、企業の運営や戦略に関わる重要な決定が行われる場です。株主が行使する議決権の割合は、その株主が企業に対して持つ支配力を意味します。議決権は通常、1株につき1票が与えられ、持ち株数が多い株主ほど、企業の経営に対して強い影響力を持つことができます。株主総会での決議内容は、企業の戦略や経営方針に直結するため、議決権の行使は企業支配における要となります。

持ち株比率が企業支配に与える影響

持ち株比率が企業支配に与える影響は非常に大きいです。株主としての持ち株比率が高いほど、企業の意思決定に対する影響力が増し、企業支配力も強まります。具体的には、持ち株比率が50.1%を超えると、株主は普通決議を単独で可決する力を持つことになります。この比率を超えることで、企業の取締役の選任や解任、役員報酬の決定、利益配当の決定など、企業運営に直接関わる重要な事項をコントロールすることが可能になります。

50.1%で普通決議が可能になる意味

持ち株比率が50.1%を超えると、株主は企業の普通決議を単独で可決することができるようになります。普通決議は、企業の運営に関わる日常的な事項に対して行われる決議であり、取締役の選任や解任、役員報酬の決定、剰余金の配当などが含まれます。50.1%の持ち株比率を持つということは、その株主が企業の運営において多数派であることを意味し、他の株主の意向にかかわらず、自らの意志を実現できる強力な支配力を持つことになります。

66.7%で特別決議が可能になる意味

持ち株比率が66.7%を超えると、株主は企業の特別決議を単独で可決する権利を持つことができます。特別決議は、企業の存続や構造に重大な影響を与える決議であり、定款の変更や企業の合併・解散、重要な資産の譲渡などが含まれます。66.7%の持ち株比率を持つことで、企業の運命を左右する重要な意思決定を単独で行うことが可能となり、企業支配力が一層強固なものとなります。この支配力を持つ株主は、企業の将来にわたる重要な戦略的決定を迅速かつ確実に実行できるため、経営の安定性と戦略的柔軟性を確保することができます。

過去の事例から見る乗っ取りの実際

企業乗っ取りの問題は、ビジネス界でしばしば取り上げられるテーマであり、持ち株比率が企業支配にどのように影響するかを理解する上で非常に重要です。過去の有名な事例を通じて、持ち株比率が企業の支配権争いにどのような役割を果たしたのかを見ていきましょう。ここでは、ライブドアとフジテレビ、大塚家具のお家騒動、そして伊藤忠とデサントの事例を取り上げ、企業乗っ取りが実際にどのように行われたのかを解説します。

ライブドア vs フジテレビ:持ち株比率と企業支配の関係

ライブドアとフジテレビの対立は、2005年に起こった日本の企業買収史上最も注目された事件の一つです。ライブドアは、IT企業として急成長を遂げた若手経営者堀江貴文氏が率いる企業であり、彼はフジテレビの支配権を握るために、親会社であるニッポン放送の株式を大量に買い集めました。

このケースでは、ライブドアがニッポン放送の株式を買い集めることで、フジテレビに間接的に影響を与えようとしました。ニッポン放送はフジテレビの親会社であり、その株式を支配することで、フジテレビの経営に口出しができる立場を確立しようとしたのです。持ち株比率が高まるにつれて、ライブドアはフジテレビの経営に対してより強い影響力を持つことが可能となりましたが、最終的にはフジテレビ側が防衛策を講じることで、ライブドアによる支配は実現しませんでした。

この事例は、持ち株比率が企業支配においてどれほど重要な役割を果たすかを示す典型例です。ライブドアはフジテレビの支配を目指してニッポン放送の株を積極的に買い集めましたが、最終的にフジテレビ側がニッポン放送株を貸株として他社に譲渡することで、ライブドアによる乗っ取りは失敗に終わりました。この事件は、企業がどのように持ち株比率を利用して支配権を確立しようとするか、また防衛策がどのように機能するかを理解するための重要な教訓を提供しています。

大塚家具お家騒動:プロキシファイトによる経営権争奪戦

大塚家具のお家騒動は、2015年に大塚家具で起こった、父と娘の間での経営権争奪戦として広く知られています。この事件は、経営方針をめぐる意見の対立がエスカレートし、最終的には株主総会における「プロキシファイト」(委任状争奪戦)に発展しました。

大塚家具の創業者である父・大塚勝久氏は、従来の高級路線を守りたいと考え、一方で娘の大塚久美子氏は、より多くの消費者にアプローチするために新しい経営方針を打ち出しました。この対立が激化し、双方が株主の支持を集めるために委任状争奪戦を繰り広げました。

プロキシファイトとは、経営権を巡る株主間の争いであり、株主総会での議決権をどちらが多く確保できるかが勝敗を決します。この場合、持ち株比率が勝敗を分ける重要な要素となります。最終的には、大塚久美子氏が株主からの支持を多く集め、経営権を手にしました。彼女の勝利は、経営方針の刷新と企業の再生に向けた株主の期待を反映した結果であり、持ち株比率と株主の支持がいかに経営権に影響を与えるかを示しています。

この事例は、企業内部での対立が株主総会での支配権争いに発展することがあることを示しており、プロキシファイトが経営権争奪の手段として有効であることを教えてくれます。また、持ち株比率が高ければ高いほど、経営権争いにおいて有利な立場に立てることも明らかにしています。

伊藤忠 vs デサント:敵対的TOBによる企業支配の確立

伊藤忠商事とデサントの対立は、2019年に発生した日本の企業買収の中でも特に注目された事例です。伊藤忠商事は、デサントの筆頭株主でありながら、デサントの経営方針に不満を持っていました。特に、デサントが伊藤忠商事の意向に反して他社と業務提携を結んだことや、業績目標の未達成についての説明責任を果たしていなかったことが、両社の関係を悪化させました。

この対立が深まる中、伊藤忠商事はデサントに対して敵対的TOB(株式公開買付け)を仕掛けました。敵対的TOBとは、企業の支配権を獲得するために、経営陣の同意を得ずに市場で株式を買い集める手法です。伊藤忠商事は、デサントの株式を大量に買い集めることで、企業支配を確立しようとしました。

最終的に、伊藤忠商事は敵対的TOBを通じてデサントの経営権を掌握し、デサントの経営陣を総退陣させることに成功しました。この事例は、敵対的TOBがいかにして企業の支配権を確立する有効な手段となり得るかを示しています。また、持ち株比率が企業支配においてどれほど重要であるかを再確認させる事例でもあります。

伊藤忠商事とデサントのケースは、企業が外部からの支配を防ぐための防衛策が十分でない場合、いかにして他社が支配権を獲得し得るかを示す重要な教訓です。敵対的TOBが成功するか否かは、企業の持ち株比率や株主構成、そして市場での株価動向に大きく依存します。デサントの場合、伊藤忠商事が市場での優位性を活用して株式を買い集め、企業支配を確立したのです。

企業乗っ取りに関するリスクと防止策

企業は、その経営権を巡って外部からの乗っ取りリスクに常にさらされています。特に、株式が広く公開されている上場企業においては、経営陣が株主の支持を失った場合や、外部の企業が大量の株式を取得することで、経営権が奪われる可能性があります。これらのリスクに対して、企業はさまざまな防止策を講じる必要があります。ここでは、企業乗っ取りに伴うリスクと、それに対する具体的な防止策について解説していきます。

企業乗っ取りのリスクとは?

企業乗っ取りのリスクは、主に経営陣と株主の双方に影響を及ぼします。まず、経営陣にとっては、外部からの敵対的買収により、自らの経営権を失うリスクが存在します。敵対的買収が成功すると、現経営陣は退陣を余儀なくされ、新たな経営陣が企業の舵取りを行うことになります。これにより、現経営陣が描いていた経営戦略や企業のビジョンが大きく変更される可能性があり、企業の将来性に対して深刻な影響を与えることがあります。

また、株主にとっても企業乗っ取りにはリスクが伴います。敵対的買収が行われる場合、買収者は通常、市場価格よりも高値で株式を買い付けますが、これが必ずしも企業全体の価値向上につながるわけではありません。買収後に経営が不安定化したり、シナジー効果が発揮できなかった場合、企業価値の低下につながるリスクがあり、結果的に株主の利益が損なわれる可能性があります。また、買収により企業が抱える負債が増加することで、将来的な配当が減少するリスクも考えられます。

買収防止策とは?

企業乗っ取りのリスクに対抗するために、企業は様々な買収防止策を講じることが求められます。買収防止策とは、企業が敵対的買収の対象となることを防ぐため、または乗っ取りを試みる企業の買収コストを高めるための一連の戦略や手段を指します。

買収防止策には、大きく分けて「事前警告型防衛策」と「有事導入型防衛策」の二つのタイプがあります。事前警告型防衛策は、企業が敵対的買収に備えて平時から準備しておく防衛手段であり、いざ買収が仕掛けられた際に迅速に対応できるようにします。一方、有事導入型防衛策は、実際に買収の危機が迫った際に導入される対抗手段であり、買収者の動きに応じて柔軟に対応することが求められます。この二つの防衛策を適切に組み合わせることで、企業は買収リスクを最小限に抑えることができます。

事前警告型の防衛策

事前警告型防衛策は、企業が敵対的買収を予防するために平時から準備しておく手段です。これには、ポイズンピルやゴールデンパラシュート、ティンパラシュート、チェンジオブコントロール条項(COC条項)などがあります。これらの防衛策は、買収者に対するコストを高め、買収の実行を困難にすることを目的としています。

ポイズンピルは、企業が新株予約権を発行し、既存の株主に対して市場価格よりも安価で追加の株式を購入する権利を提供する防衛策です。これにより、買収者が株式の過半数を取得するためのコストが大幅に増加し、買収が難しくなります。日本では、多くの企業がこの手法を導入しており、その効果は高いとされています。

ゴールデンパラシュートとティンパラシュートは、経営陣および従業員に対して高額の退職金を設定することで、買収者に対する負担を増やす防衛策です。特に、ゴールデンパラシュートは経営陣に適用されるものであり、経営陣が買収により退職させられる場合に、多額の退職金を受け取る権利を事前に設定しておきます。ティンパラシュートはこれを従業員に拡大したもので、企業全体におけるコスト増加を狙った防衛策となります。

チェンジオブコントロール条項(COC条項)は、契約上の支配権変更に関する制約を設定する防衛策です。これにより、企業が買収されて支配権が変更された場合、特定の重要な契約が無効となるか、契約条件が大幅に変更されることが事前に定められます。これにより、買収後の事業運営に大きな影響を与えることができるため、買収者にとってのリスクが増大します。

ピープルピルは、敵対的買収が完了した際に、主要な役員や重要な人材が一斉に退職することを条件として設定する防衛策です。これにより、買収者が求める人材やノウハウを持った従業員が一斉に退職し、買収の目的が達成されないようにします。また、プットオプションは、特定の資産についてあらかじめ定められた価格で売却する権利を設定し、買収者がこれを買い戻す際に多額のコストを負担させることで、買収を抑止する効果があります。

これらの事前警告型防衛策は、企業が敵対的買収の対象となるリスクを減少させ、買収者に対する防御力を高めるための重要な手段となります。企業がこれらの防衛策を事前に導入しておくことで、買収リスクに対してより強力な防衛線を構築することができます。

有事導入型の防衛策

有事導入型防衛策は、企業が実際に買収の危機に直面した際に発動される対策です。これらの防衛策は、買収者が行動を起こした際に迅速に対応することを目的としており、企業の独立性を維持するための強力な手段となります。

ホワイトナイトは、企業が敵対的買収者からの攻撃を受けた際に、友好的な第三者を探してその第三者に買収を依頼することで、敵対的買収を防ぐ手法です。ホワイトナイトとなる企業は、通常、買収される企業にとってより良好な条件を提示し、経営陣や従業員の利益を守ることが期待されます。この手法により、企業は敵対的買収者の攻撃を回避しつつ、より安定した経営環境を維持することができます。

パックマンディフェンスは、敵対的買収者が買収を仕掛けた際に、逆にその買収者を買収してしまうという戦略的な防衛策です。この手法は、敵対的買収者の行動を牽制し、企業の独立性を守るための強力な手段として知られています。ただし、パックマンディフェンスは資金的な負担が大きいため、実行には慎重な計画と十分な資金が必要です。

クラウンジュエル(焦土作戦)は、買収者が企業の高価値資産を狙っている場合、その資産を他の企業に売却することで、買収後の企業価値を低下させる手法です。この戦略は、企業が最後の手段として使用することが多く、買収者に対して強力な抑止効果を発揮します。ただし、クラウンジュエル戦略を使用する場合、企業自体の価値が大きく損なわれるリスクがあるため、慎重な判断が求められます。

資産ロックアップと第三者割当増資も有事導入型の防衛策として有効です。資産ロックアップは、企業が重要な資産を凍結し、買収後にその資産を自由に処分できないようにする手法です。これにより、買収者は企業を取得しても期待するリターンを得られなくなるリスクが増加します。一方、第三者割当増資は、特定の第三者に対して新株を発行することで、敵対的買収者の持ち株比率を希薄化させ、買収を防ぐ手法です。この方法により、企業は支配権を守りつつ、資金調達も行うことができます。

まとめ:持ち株比率の理解と適切な防衛策が企業の未来を守る

持ち株比率は、企業の支配権を確立するための最も重要な要素の一つです。企業乗っ取りのリスクは、経営陣や株主にとって常に存在するものであり、適切な防衛策を講じることでそのリスクを軽減することが可能です。50.1%の持ち株比率で普通決議を単独で可決できる一方で、66.7%の持ち株比率があれば特別決議も行えるため、企業の将来を決定づける力を持つことができます。また、過去の実例からもわかるように、持ち株比率を高めることが企業支配の確立につながる一方で、買収防止策の導入が企業を守るために不可欠です。企業の安定と成長を支えるためには、持ち株比率を理解し、適切な防衛策を講じることが必要です。これにより、経営者は企業の将来をコントロールし、株主は長期的な利益を確保することができるでしょう。

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