家族に株を譲渡する時の注意点!手続きの方法や発生する税金を解説!

家族間での株式譲渡は、事業承継や経営権の移転を円滑に進めるために非常に重要な手続きです。しかし、株式譲渡には税務や法務に関する複雑な問題が絡むため、適切な手続きを踏まなければ思わぬトラブルに発展する可能性があります。特に、株式譲渡の方法として選べる「相続」「贈与」「売買」それぞれには、発生する税金や手続きが異なり、慎重な判断が求められます。この記事では、家族に株式を譲渡する際の注意点、具体的な手続きの流れ、そして発生する税金について解説します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

家族間の株式譲渡とは?

家族間での株式譲渡とは、会社の経営権を次世代へ引き継ぐために、親族間で株式を譲渡する手法のことを指します。これは、事業承継や資産管理の一環として行われることが多く、後継者に対して会社の持分や経営権を移行する重要な手続きです。中小企業や家族経営の会社においては、特にこの株式譲渡が重要な役割を果たします。株式譲渡の方法としては、主に「相続」「贈与」「売買」の3つの手法があり、それぞれの方法によって発生する税金や手続きが異なるため、慎重な検討が必要です。

株式譲渡の基本的な仕組み

株式譲渡とは、企業の所有者である株主が保有する株式を、別の個人や法人に売却または譲渡する行為です。株式は企業の所有権の一部を表しており、その譲渡により、株主の地位が他者に移ります。株式譲渡の結果として、株主が持つ経営権や利益配当の権利も新たな株主に移行します。

上場株式と非上場株式の違いについても理解しておくことが重要です。上場株式は証券市場で自由に売買できる一方、非上場株式は市場での流通がなく、譲渡には制限が設けられていることが一般的です。家族間での株式譲渡では、多くの場合、非上場株式が対象となり、特に注意が必要です。

非上場株式の譲渡では、会社の承認が必要な場合や、取締役会の決議が求められることもあります。また、株式の評価額を正確に算定することも不可欠で、税務上の問題を避けるためには、適正な手続きを踏む必要があります。

家族間で株式を譲渡する理由とメリット

家族間での株式譲渡が行われる主な理由は、事業承継や資産管理の一環として、後継者に経営権をスムーズに引き継ぐためです。事業承継では、現経営者が引退を考えている場合や、次世代への円滑な経営移行を目指す際に、家族間での株式譲渡が活用されます。

家族間で株式を譲渡するメリットには、経営の安定性が保たれることが挙げられます。外部の第三者に株式を売却するのではなく、家族間で譲渡することで、企業文化や経営方針を継承しやすく、経営の一貫性が保たれます。また、家族間の信頼関係を基に、円滑な意思決定が可能となり、会社の将来ビジョンを共有することができます。

さらに、税制上のメリットも大きいです。例えば、相続税や贈与税の基礎控除を活用することで、税負担を軽減することが可能です。事業承継税制を利用すれば、一定の条件を満たすことで、相続税や贈与税の猶予または免除が受けられるため、企業を次世代に引き継ぐ際の負担が軽減されます。

株式譲渡が多く行われるシチュエーション

家族間の株式譲渡が特に多く行われるシチュエーションとしては、まず第一に事業承継が挙げられます。中小企業や家族経営の企業では、経営者の引退時期が近づいた際に、後継者である子供や親族に経営権を移譲するために株式を譲渡するケースが一般的です。こうした事業承継は、経営の継続性を保ち、企業の存続を図るための重要な手段です。

また、相続対策としても株式譲渡が利用されます。経営者が高齢化する中で、生前贈与を活用して株式を分割し、後継者に段階的に譲渡することで、相続時の税負担を軽減することが可能です。これにより、経営者の意思に沿った形で財産を次世代に引き継ぐことができるため、家族間のトラブルを防ぐことができます。

さらに、事業規模の拡大や資本再編の過程でも株式譲渡が行われます。たとえば、経営権を強化するために親族間で株式を再配分するケースや、事業拡大のために新たな投資を受け入れる際に、株式譲渡を行うことがあります。これにより、企業の資本構成を整え、将来的な成長を支える基盤を構築することが可能となります。

家族に株式を譲渡する3つの方法

家族間で株式を譲渡する方法には、主に「相続」「贈与」「売買」の3つがあります。これらの方法は、それぞれ異なるメリットとデメリットを持ち、譲渡のタイミングや家族の状況によって適した手法が異なります。株式譲渡の際には、税金の発生や手続きの複雑さを考慮しながら、最も適切な方法を選択することが重要です。ここでは、これら3つの方法について解説し、それぞれのメリット・デメリットと適したシチュエーションについて考えていきましょう。

相続による株式譲渡

相続による株式譲渡は、経営者が亡くなった際に、その保有する株式が法定相続人に引き継がれる方法です。この方法は、経営者の死後に自動的に発生するものであり、株式だけでなく、その他の資産も併せて相続されることになります。

相続のメリット・デメリット

相続による株式譲渡の最大のメリットは、相続税の基礎控除が適用される点です。基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となり、相続財産の総額がこの基礎控除額を超えなければ相続税は発生しません。これにより、一定の資産価値以下の株式であれば、税負担を抑えたまま次世代に引き継ぐことが可能です。

さらに、相続による株式譲渡は、事前に適切な準備が行われていれば、スムーズに経営権を後継者に引き継ぐことができます。特に遺言書を活用することで、後継者に経営権を集中させ、相続に伴うトラブルを防ぐことができます。

しかし、相続にはデメリットも存在します。まず、相続のタイミングは予測が難しく、経営者が突然亡くなった場合、準備が不十分であると、後継者に円滑に経営権が移行できない可能性があります。また、他の法定相続人が遺留分侵害額請求を行った場合、後継者が取得した株式の一部を譲渡しなければならないリスクがあります。これにより、経営権が分散し、会社の意思決定が複雑化する恐れもあります。

相続での株式譲渡が向いているケース

相続による株式譲渡が向いているのは、経営者が亡くなるまでに十分な準備を行い、後継者への経営権移行を計画的に進めているケースです。遺言書を作成し、特定の後継者に株式を集中させることができれば、相続による経営権の移行がスムーズに進むでしょう。

また、相続財産の総額が基礎控除額以内である場合には、相続税が発生しないため、税負担を抑えた譲渡が可能です。このようなケースでは、相続を利用して株式を次世代に引き継ぐことが有利と言えます。

ただし、相続に際しては、他の法定相続人との関係性にも注意が必要です。遺言書を作成する際には、遺留分への配慮が欠かせません。家族間のトラブルを防ぐためにも、専門家の助言を得ながら計画を進めることが重要です。

贈与による株式譲渡

贈与による株式譲渡は、現経営者が生前に自らの意思で株式を後継者に譲渡する方法です。この方法は、相続よりも経営者の意思を強く反映させることができ、譲渡のタイミングを自由に設定できるという特徴があります。

生前贈与、遺贈、民事信託の違いと特徴

贈与による株式譲渡には、主に「生前贈与」「遺贈」「民事信託」の3つの方法があります。それぞれの方法には異なる特徴があり、譲渡の目的や状況に応じて選択することが求められます。

生前贈与は、経営者が生きている間に後継者に株式を無償で譲渡する方法です。贈与税の基礎控除を利用することで、一定額までの贈与が非課税となります。特に「暦年贈与」を利用すれば、毎年110万円までの贈与が非課税となり、長期間にわたって少しずつ株式を譲渡することが可能です。

遺贈は、遺言書を通じて行う贈与の形態です。生前に贈与者の意思を明確に示すことができ、法定相続人以外の親族や第三者に株式を譲渡することが可能です。ただし、遺言書の作成には法的な要件が多く、手続きが複雑であるため、専門家のサポートが必要です。

民事信託は、信頼できる親族や知人を受託者として、株式の管理や処分を委任する方法です。信託契約を通じて経営者の意向を反映させつつ、柔軟に事業承継を進めることができます。信託設定後も経営者が存命中であれば、一定の管理権限を保持し続けることが可能です。

贈与のメリット・デメリット

贈与による株式譲渡の最大のメリットは、経営者の意思を反映しやすい点です。経営者が自らの判断で、最も適切なタイミングで株式を譲渡できるため、後継者の準備状況や会社の状況に応じた柔軟な対応が可能です。また、生前贈与を活用することで、相続時の税負担を軽減し、事前に財産を分散させることができます。

一方で、贈与には贈与税が課されるというデメリットがあります。特に、暦年贈与や相続時精算課税制度を超える額の贈与を行った場合、贈与税が発生し、その税率は累進課税により高額になる可能性があります。また、贈与による株式譲渡を進める際には、長期的な計画が必要となるため、手続きが煩雑になることもあります。

さらに、贈与の途中で経営者が亡くなった場合には、暦年贈与では死亡から3年以前の贈与が相続財産として扱われるため、期待した節税効果が得られない場合もあります。この点を考慮し、贈与のタイミングや方法については慎重に検討する必要があります。

贈与での株式譲渡が向いているケース

贈与による株式譲渡が向いているのは、経営者が自らの意思で後継者に株式を譲渡したい場合や、相続税対策として生前に財産を分散させたい場合です。特に、長期間にわたって少しずつ株式を譲渡することで、贈与税の基礎控除を活用し、税負担を軽減することが可能です。

また、経営者が遺言書を作成し、特定の親族にのみ株式を譲渡したい場合には、遺贈が適しています。遺言書を通じて、後継者に対する贈与の意思を明確に示し、相続人間のトラブルを防ぐことができます。

さらに、民事信託を利用することで、経営者の意向を反映させた柔軟な事業承継が可能となります。信頼できる親族や知人に株式の管理を委任することで、経営者が亡くなった後もスムーズな経営権移行が実現します。

売買による株式譲渡

売買による株式譲渡は、家族間で株式を譲渡する際に、対価を支払って株式を取得する方法です。これは、第三者間で行われる通常の株式取引と同様の形をとりますが、家族間で行う場合には特有の注意点があります。この方法は、後継者が十分な資金を持ち、経営権を取得する意欲がある場合に適しています。

売買のメリット・デメリット

売買による株式譲渡の最大のメリットは、資金力を持つ後継者が株式を購入することで、経営に対する責任感や意欲を強化できる点です。後継者が株式を対価を支払って取得することで、経営に対するコミットメントが高まり、事業承継後の経営の安定性が期待されます。また、売買で取得した株式は、相続資産に含まれないため、相続時に他の法定相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクを避けることができます。

さらに、売買による株式譲渡は、経営者の意思を強く反映させることが可能です。株式を購入する後継者が、会社の経営権を引き継ぐために必要な資金を用意できる場合、経営者は安心して事業を譲渡できます。この方法は、相続や贈与による経営権の分散を避け、経営権を一元的に引き継ぐのに有効です。

しかし、売買にはデメリットもあります。最大のデメリットは、後継者に対して資金力が求められることです。株式の購入には多額の資金が必要となるため、後継者が資金を調達できない場合には、事業承継が困難になる可能性があります。また、売買によって発生する譲渡益には譲渡所得税が課されるため、売主側にも一定の税負担が生じます。特に、株式の評価額が高い場合には、税負担が大きくなる点に注意が必要です。

さらに、売買価格を適切に設定しないと、税務上の問題が発生する可能性があります。例えば、親族間であまりにも低い価格で株式を譲渡した場合、その差額が贈与とみなされ、贈与税が課されるリスクがあります。そのため、株式の適正価格を設定し、適切な手続きを踏むことが重要です。

売買での株式譲渡が向いているケース

売買による株式譲渡が向いているのは、後継者が十分な資金を持っており、経営権を取得する意思が強い場合です。この方法は、後継者が資金調達の計画を立て、経営権を確実に取得するための準備ができている場合に有効です。また、他の法定相続人と経営権を共有したくない場合や、遺留分の問題を避けたい場合にも、売買による株式譲渡が適しています。

特に、後継者がすでに会社で重要な役割を果たしており、今後の経営を担う覚悟がある場合には、売買によって経営権を取得することで、その責任感をさらに強化することができます。売買による株式譲渡は、経営者としての自覚と責任感を持たせるための有効な手段となり得ます。

また、売買による譲渡が適しているのは、家族間のトラブルを避けたい場合でもあります。相続や贈与による譲渡では、他の相続人との間でトラブルが発生するリスクがありますが、売買による譲渡では、対価を支払って株式を取得するため、相続人間の不公平感が軽減され、トラブルを回避しやすくなります。

家族間の株式譲渡で発生する税金

家族間で株式を譲渡する場合、譲渡の方法によって発生する税金が異なります。主に「相続税」「贈与税」「譲渡所得税」が関係しており、それぞれの税金には特有の計算方法や控除、制度が存在します。これらの税金の理解は、家族間の株式譲渡をスムーズに進めるために不可欠です。ここでは、相続税、贈与税、譲渡所得税について解説し、それぞれの計算方法や控除の仕組み、注意点についても説明します。

相続税

相続税は、家族間で株式を相続する際に発生する税金です。相続税は、亡くなった方(被相続人)の財産を相続人が受け取る際に、その財産価値に応じて課されます。相続税の計算は複雑で、基礎控除や累進課税が適用されるため、相続財産の総額によって税負担が大きく異なります。

相続税の計算方法

相続税の計算は、まず相続財産の総額を算出することから始まります。これには、被相続人が所有していたすべての資産が含まれ、株式、土地、現金、預金、不動産などが該当します。次に、これらの相続財産から非課税財産や債務、葬儀費用などを差し引き、課税価格の合計額を求めます。

課税価格の合計額が算出されたら、次に基礎控除を適用します。相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という計算式で求められ、この控除額を超える部分に対して相続税が課されます。基礎控除後の課税価格が確定したら、その額を相続人ごとに法定相続分で按分し、それぞれの相続分に応じた相続税額を計算します。

相続税の税率は累進課税が適用され、課税価格が高いほど税率も高くなります。具体的には、課税価格が1,000万円以下の場合は10%、3,000万円以下は15%、5,000万円以下は20%、1億円以下は30%といった具合です。この累進税率により、相続する財産が大きい場合、税負担も増加します。

基礎控除額とその重要性

基礎控除額は、相続税の計算において非常に重要な要素です。この控除額があることで、一定の相続財産については税負担が発生しません。特に、相続財産の総額が基礎控除額を下回る場合、相続税は発生しないため、家族にとって大きなメリットとなります。

たとえば、相続人が2人の場合、基礎控除額は「3,000万円+600万円×2人=4,200万円」となります。この場合、相続財産の総額が4,200万円以下であれば、相続税は課されません。この基礎控除額を活用することで、相続税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。

また、基礎控除額は相続人の数によって変動するため、相続人が多いほど控除額が大きくなり、結果として相続税の負担が減少することになります。したがって、相続税対策を講じる際には、基礎控除額を考慮した財産分割や相続人の設定が重要です。

贈与税

贈与税は、家族間で株式を生前贈与する際に発生する税金です。贈与税の計算は、毎年の贈与額に基づいて行われ、一定の基礎控除額を超えた部分に課税されます。贈与税には、暦年贈与と相続時精算課税制度という2つの制度があり、それぞれ異なる税率や控除額が適用されます。

贈与税の計算方法と基礎控除

贈与税の計算は、まず年間で贈与された財産の合計額を算出し、基礎控除額を差し引いて課税価格を求めます。贈与税の基礎控除額は年間110万円であり、この範囲内の贈与であれば非課税となります。例えば、年間で300万円の贈与を受けた場合、課税価格は「300万円−110万円=190万円」となり、この金額に対して贈与税が課されます。

贈与税の税率は累進課税となっており、課税価格が高くなるほど税率も上がります。一般的には、課税価格が200万円以下の場合は10%、400万円以下の場合は15%、600万円以下の場合は20%といった具合で、最高税率は55%です。この累進課税により、高額な贈与を受けた場合には、相応の税負担が発生します。

暦年贈与と相続時精算課税制度の違い

贈与税には、主に「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」という2つの制度があります。これらの制度は、贈与のタイミングや金額に応じて選択され、それぞれ異なる特徴を持っています。

暦年贈与は、毎年の贈与額に対して課税される方式です。毎年110万円の基礎控除が適用され、それを超えた部分に対して贈与税が課されます。この制度は、毎年少額ずつ贈与を行い、税負担を分散させることができます。しかし、大きな金額の贈与を行う場合には、多額の贈与税が発生する可能性があります。

相続時精算課税制度は、生前に多額の贈与を行うことが可能な制度です。この制度を選択すると、2,500万円までの贈与が非課税となり、これを超える部分に対して一律20%の贈与税が課されます。この制度の特徴は、相続時に贈与額が相続財産に加算される点です。そのため、相続税の計算において贈与された財産が考慮されるため、全体的な税負担が増加する可能性もあります。

譲渡所得税

譲渡所得税は、家族間で株式を売買した際に発生する税金です。これは、株式を売却した際に得た利益(譲渡益)に対して課される税金であり、譲渡所得税、復興特別所得税、住民税が含まれます。株式を売却する際の価格設定や、譲渡益の計算が重要な要素となります。

譲渡所得税の計算方法

譲渡所得税の計算は、まず株式の売却価格から、取得費用や譲渡にかかった手数料などの必要経費を差し引いた譲渡益を求めることから始まります。この譲渡益に対して、一定の税率で譲渡所得税が課されます。

具体的には、譲渡益に対して15%の所得税が課され、さらに2.1%の復興特別所得税が加算されます。また、5%の住民税も課されるため、合計で20.315%の税率が適用されます。たとえば、譲渡益が1,000万円の場合、譲渡所得税として「1,000万円×20.315%=203万1,500円」が課される計算となります。

売買による譲渡所得税の留意点

売買による株式譲渡では、特に譲渡所得税に関していくつかの留意点があります。まず、家族間で株式を売買する場合には、適正な価格での取引が求められます。もし、適正な時価よりも低い価格で売買が行われた場合、その差額が贈与とみなされ、贈与税が発生するリスクがあります。

また、株式を売却するタイミングも重要です。株式の評価額が高い時期に売却すると、譲渡益が大きくなり、その分譲渡所得税の負担も増加します。逆に、株式の評価額が低い時期に売却することで、譲渡益を抑え、税負担を軽減することが可能です。

さらに、譲渡所得税は確定申告が必要です。株式の売買を行った年度の翌年に確定申告を行い、譲渡益や必要経費を正確に申告することで、適切な税額を納めることが求められます。申告を怠ると、追徴課税やペナルティが科される可能性があるため、注意が必要です。

家族に株を譲渡する際の注意点

家族間での株式譲渡は、経営権の承継や事業承継において非常に重要な手続きです。しかし、その過程で注意すべきポイントを無視すると、予期せぬ税金や法律上のトラブルに巻き込まれる可能性があります。特に、適正価格の設定や専門家への相談は、スムーズな株式譲渡を行うために欠かせない要素です。ここからは、家族間での株式譲渡における注意点を解説していきましょう。

適正価格の設定

家族間で株式を譲渡する際、適正価格の設定は極めて重要な要素です。適正価格が適切に設定されていない場合、税務当局から否認されるリスクが高まり、その結果として予期せぬ税金が発生する可能性があります。適正価格の設定は、譲渡の健全性を担保し、法的な問題を回避するための重要な手段です。

なぜ適正価格が重要なのか

適正価格の設定が重要な理由は、税務上のリスクを回避するためです。家族間の株式譲渡では、感情的な関係や家族内の配慮から、時価よりも低い価格で取引を行いがちです。しかし、もし税務当局がその取引価格を適正でないと判断した場合、低く設定された価格と時価との差額が「贈与」とみなされ、その差額分に対して贈与税が課される可能性があります。

また、適正価格が設定されていない場合、税務調査の対象となるリスクが高まります。税務当局は、親族間での株式取引に対して特に厳しい目を向けており、不適切な価格設定が疑われると、調査が行われる可能性があります。こうした調査は、企業の経営に対する影響が大きく、最悪の場合、追徴課税や罰金が科されるリスクもあります。

さらに、適正価格で取引を行うことで、家族間での公平性を保つことができます。特に複数の相続人がいる場合、株式の価値が適切に評価されていることは、後の遺産分割協議や相続トラブルの防止に役立ちます。適正価格での譲渡は、家族間の信頼関係を維持し、将来的な紛争を防ぐためにも重要です。

適正価格の設定方法とリスク回避

適正価格を設定するためには、まず株式の正確な評価を行う必要があります。評価方法にはいくつかの方法がありますが、代表的なものに「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」、「配当還元方式」などがあります。これらの方法は、企業の業種や規模、財務状況によって最適なものを選択します。

類似業種比準方式は、同業種の上場企業の株価を基にして、自社株の価値を算出する方法です。業種全体の業績や市況を反映した評価が可能で、非上場企業でも業界の標準的な評価を得ることができます。

純資産価額方式は、企業の純資産に基づいて株式の価値を評価する方法です。企業が保有する資産や負債を基に評価するため、企業の財務状態を正確に反映できます。

配当還元方式は、過去の配当実績に基づいて株式の価値を評価する方法です。配当が安定している企業では、この方式が有効です。

これらの評価方法を適切に活用し、時価に近い価格での取引を行うことが、税務リスクを最小限に抑えるための重要なステップです。また、評価結果を基に取引価格を決定した場合、その根拠を文書化しておくことも重要です。これにより、税務当局からの指摘に対して、適正な価格で取引が行われたことを証明する材料となります。

専門家に相談する重要性

株式譲渡を円滑に進めるためには、専門家の助言を得ることが不可欠です。特に、税理士、弁護士、司法書士といった専門家のサポートは、税務面や法務面でのリスクを回避し、スムーズな譲渡手続きを実現するために重要です。家族間の株式譲渡は、単に株式の移転を行うだけでなく、税務や法務に関連する複雑な問題が絡むため、専門家の知識と経験が必要不可欠です。

税理士・弁護士・司法書士の役割

税理士は、株式譲渡に関する税務面でのアドバイスを提供します。譲渡にかかる税金の計算や、適正価格の設定、贈与税や相続税の申告手続きなどをサポートします。税理士の助言を受けることで、税務リスクを回避し、適切な税務処理を行うことができます。

弁護士は、家族間の株式譲渡において、法的な問題や契約書の作成、相続に関する法的助言を提供します。弁護士は、相続トラブルや家族間の紛争を未然に防ぐための重要な役割を果たし、法的に有効な遺言書や贈与契約書を作成することで、将来的なリスクを最小限に抑えます。

司法書士は、株式の名義変更手続きや、登記に関する業務を担当します。司法書士は、法律に基づいた確実な名義変更を行うため、株式の譲渡が正当に行われたことを証明します。また、遺産分割協議書の作成など、相続に関連する書類の整備も司法書士の専門分野です。

専門家を利用するメリット

専門家を利用する最大のメリットは、複雑な手続きを正確かつ迅速に進められる点です。家族間の株式譲渡には、税務や法務に関連するさまざまな問題が絡みます。専門家のサポートを受けることで、これらの問題を適切に処理し、予期せぬトラブルや余計な税金の発生を防ぐことができます。

また、専門家に依頼することで、家族間のコミュニケーションが円滑に進むという利点もあります。第三者である専門家が関与することで、感情的な問題を避け、客観的かつ公正な視点で株式譲渡を進めることができます。これにより、家族内での誤解や対立を最小限に抑え、スムーズな事業承継が実現します。

さらに、専門家の助言を受けることで、最適な譲渡方法や税務対策を講じることができます。専門家は、最新の税制や法律に精通しているため、最も有利な方法で株式譲渡を進めるためのアドバイスを提供してくれます。これにより、家族の資産を最大限に保護し、将来的な経営の安定性を確保することが可能となります。

家族間の株式譲渡の手続きの流れ

家族間で株式を譲渡する際には、適切な手続きを踏むことが重要です。株式譲渡には「相続」「贈与」「売買」という3つの方法があり、それぞれの方法に応じた手続きが必要です。これらの手続きを正確に行うことで、税務上の問題を回避し、スムーズな株式の移転が可能になります。ここでは、相続、贈与、売買による株式譲渡の具体的な手続きの流れについて解説します。

相続による株式譲渡の手続き

相続による株式譲渡は、被相続人が亡くなった後に発生する手続きであり、遺産分割協議を経て株式の名義変更が行われます。この手続きは、遺産分割協議書の作成や名義変更の申請など、複数のステップを経る必要があります。

遺産分割協議の進め方

相続による株式譲渡の最初のステップは、遺産分割協議を行うことです。遺産分割協議は、法定相続人全員が集まり、相続財産をどのように分割するかを話し合う場です。この協議では、株式の相続者を決定し、その結果を遺産分割協議書に記載します。遺産分割協議書には、被相続人の氏名、相続日、協議に参加した法定相続人の名前、そして株式を含む相続財産の分配内容を明記する必要があります。

遺言書が存在する場合、その内容に従って協議が進められることが一般的です。しかし、遺言書がない場合や、遺言書に明記されていない財産については、相続人間での話し合いが不可欠です。この過程で、相続人間の意見が分かれることもあり、慎重な調整が求められます。また、遺留分侵害額請求が行われる可能性もあるため、事前に法定相続人全員の同意を得ることが重要です。

協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることも考えられます。調停を経て最終的に合意が得られた場合、調停調書が作成され、これに基づいて株式の名義変更が行われます。

株式の名義変更方法

遺産分割協議が終了し、株式の相続者が決定した後は、株式の名義変更手続きを行います。名義変更は、上場株式の場合は証券会社を通じて、非上場株式の場合は株式を発行している会社に直接申請します。この手続きには、遺産分割協議書の写し、被相続人の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書などが必要です。

名義変更の申請先である証券会社や株式発行会社は、それぞれ異なる書類を求めることがあるため、事前に必要書類を確認し、漏れがないよう準備することが重要です。名義変更が完了したら、株主名簿に新たな株主として記載され、相続手続きが正式に完了します。

贈与による株式譲渡の手続き

贈与による株式譲渡は、相続よりも自由度が高く、生前に経営者の意思を反映させやすい手法です。しかし、贈与税が発生するため、適切な手続きを踏むことが求められます。特に、株式の評価と贈与契約書の作成が重要なポイントとなります。

株式価格の評価方法

贈与による株式譲渡の手続きでは、まず株式の価格を正確に評価することが必要です。株式の評価は、贈与税の計算に直接影響するため、適正な価格を設定することが重要です。上場株式の場合、評価方法は比較的簡単で、次の4つの価格のうち最も低いものを基準にします。

  1. 贈与する日の最終価格
  2. 贈与する月の最終価格の平均
  3. 贈与する前月の最終価格の平均
  4. 贈与する2か月前の最終価格の平均 これに対し、非上場株式の評価は複雑であり、「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」「配当還元方式」など、企業の財務状況や規模に応じた評価方法を選択します。この評価が適正でない場合、税務当局から指摘を受けるリスクがあるため、専門家の助言を得て慎重に進めることが推奨されます。 贈与契約書の作成と確定申告の重要性 株式の評価が終わったら、次に贈与契約書を作成します。贈与契約は、贈与者と受贈者の合意によって成立しますが、後のトラブルを避けるためにも、書面での契約を行うことが重要です。契約書には、贈与者と受贈者の氏名、贈与日、贈与対象の株式、贈与の意思などを明記します。 贈与契約書の作成後、確定申告を行う必要があります。特に、年間110万円を超える贈与を受けた場合、受贈者は贈与税の申告を行わなければなりません。確定申告を怠ると、脱税とみなされ、追徴課税が科されるリスクがあります。贈与税の申告は、贈与を受けた年の翌年に行う必要があり、正確な申告が求められます。 売買による株式譲渡の手続き 売買による株式譲渡は、家族間で資金を伴う取引を行う場合に選ばれる方法です。この手続きには、株式譲渡承認の請求や、株式譲渡契約書の作成、株主名簿の書き換えが含まれます。 株式譲渡承認の請求方法 売買による株式譲渡を行う場合、まず会社の承認を得る必要があります。特に非上場企業では、株式譲渡に制限が設けられていることが多いため、会社に対して株式譲渡承認請求を行います。この請求は、株式を譲渡する側と受け取る側が連名で行うのが一般的です。請求書には、譲渡先の氏名や名称、譲渡する株式の種類と数を明記します。 会社は、株式譲渡承認請求を受けた後、取締役会や株主総会でその承認を決定します。この承認が下りない場合、譲渡は無効となります。承認が下りた場合、会社は2週間以内にその結果を請求者に通知する必要があります。通知が遅れると、自動的に承認されたものとみなされます。 株式譲渡契約書の作成と株主名簿の書き換え 株式譲渡の承認が得られた後、次に株式譲渡契約書を作成します。この契約書は、譲渡価格や株式の種類、数量、支払い方法、譲渡日などの基本事項を明記し、売主と買主が署名・捺印します。契約書を作成することで、取引内容を明確にし、後のトラブルを防ぐことができます。 契約書が完成したら、次に株主名簿の書き換えを行います。株主名簿は、株主としての権利を証明する重要な書類であり、名簿の書き換えが完了することで、譲渡された株式が正式に新しい所有者に移転されます。株式発行会社の場合は、名簿管理人が書き換え手続きを行い、買主のみが請求することができます。一方、株式不発行会社の場合は、売主と買主が共同で書き換えを請求する必要があります。 株主名簿の書き換えが完了したら、最後に「株主名簿記載事項証明書」を取得し、新しい株主としての権利が正確に反映されていることを確認します。この証明書は、取引が正式に完了したことを証明するものであり、今後の株主としての権利行使に必要な書類となります。 まとめ: 家族間の株式譲渡を成功させるポイントをおさえよう! 家族間の株式譲渡は、単に株式を移転するだけでなく、将来の経営を見据えた重要な決断です。この記事で紹介したように、株式譲渡の方法によって発生する税金や手続きは大きく異なり、慎重な対応が必要です。適正価格の設定や専門家の助言を活用することで、税務リスクを回避し、家族全員が納得できる形で株式の移転を行うことができます。 特に、相続、贈与、売買それぞれの手続きや注意点を理解し、適切な対応をすることが、成功する株式譲渡の鍵となります。税務上の問題や法的なリスクを避けるためにも、家族間のコミュニケーションを大切にし、専門家と協力しながら進めていくことが重要です。
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