M&Aが増加している理由とは?現状と今後の動向を解説!

近年、日本におけるM&A(合併と買収)は急速に増加しています。かつては一部の大企業に限られていたこの手法も、今では中小企業にとっても重要な経営戦略となりつつあります。市場の成熟化や人口減少、経営者の高齢化といった社会的な変化が進む中、M&Aは企業の成長や存続を支える強力な手段として注目を集めています。本記事では、M&Aが増加している理由を探り、その現状を分析し、今後の市場展開について解説します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

M&Aが増加している理由

日本におけるM&Aが増加している理由は多岐にわたります。これまでのM&Aは、一部の大企業が採用する戦略に限られていましたが、近年では中小企業においてもM&Aは一般的な経営手法となりつつあります。市場環境の変化、経済のグローバル化、経営者の高齢化など、さまざまな要因が絡み合い、M&Aの件数は右肩上がりに増加しています。ここでは、M&Aが増加している具体的な理由について掘り下げていきます。

事業承継型M&Aの増加

近年、日本の中小企業を中心に事業承継型のM&Aが増加しています。事業承継型M&Aとは、主に後継者不在に悩む中小企業が、自社の事業を第三者に譲渡することで存続を図るM&Aの手法です。日本は少子高齢化の影響を強く受けており、経営者の高齢化が進む一方で、後継者が見つからない企業が増加しています。これまでは親族内での事業承継が主流でしたが、都市部への人口集中や若年層の事業継承に対する関心の低下が影響し、親族内承継が難しくなってきました。

このような背景から、後継者不在の企業が廃業を避けるためにM&Aを選択するケースが増えてきています。M&Aを通じて、売り手企業は会社の存続と従業員の雇用を確保できる一方、買い手企業は新たな経営資源を得ることができます。このウィンウィンの関係が多くの企業に認識されるようになり、事業承継型M&Aは増加傾向にあります。

経営者の高齢化と後継者問題

日本の中小企業における経営者の高齢化は深刻な問題となっています。中小企業庁のデータによると、経営者の平均年齢は年々上昇しており、60代から70代の経営者が多くを占めています。かつては47歳が経営者の平均年齢であった時期もありましたが、現在ではそれが大きく上昇し、経営者の高齢化が顕著になっています。

この高齢化に伴い、後継者問題がますます深刻化しています。後継者がいない、あるいは見つからないために、事業を継続できず、廃業を余儀なくされる企業も少なくありません。このような状況で、多くの経営者がM&Aを通じて事業を引き継ぐことを選択するようになっています。特に高齢の経営者にとって、体力的な限界を感じることが多く、M&Aを通じて若い世代に経営を託すことは、事業を存続させるための有効な手段となっています。

人口減少と人材不足の影響

日本の人口減少は、M&Aが増加する要因の一つとして挙げられます。総務省のデータによれば、日本の人口は今後も減少傾向が続くと予測されており、2060年には人口が8674万人にまで減少する見通しです。これにより、若年層の働き手が減少し、人材不足が深刻化しています。特に地方の中小企業では、有能な人材の確保が難しくなっており、企業経営に大きな支障をきたしています。

このような環境下で、企業が人材を確保するための手段としてM&Aが有効とされています。大手企業が中小企業を買収することで、優秀な従業員を確保し、さらにその企業が持つノウハウや技術を取り込むことが可能です。また、M&Aによって大手企業のブランド力を活用し、求人活動を強化することもできます。これにより、人材不足を補うと同時に、企業の競争力を高めることができるため、M&Aは今後も増加することが予測されます。

業界再編と市場の成熟化

日本の多くの業界が成長期を過ぎ、成熟期に突入していることも、M&Aが増加している理由の一つです。市場の成長が鈍化する中で、企業間の競争は激化しており、生き残りをかけた再編が進んでいます。特に調剤薬局業界や運送業界、介護業界などでは、業界再編の動きが顕著です。これらの業界では、上位企業による統合が進んでおり、寡占化が進む中でM&Aが活発に行われています。

このような業界再編の動きは、企業が競争力を維持・強化するための戦略としてM&Aを選択するケースが増えていることを示しています。市場が成熟する中で、新たな成長機会を見つけるのは容易ではありませんが、M&Aを通じて他社の経営資源を取り込み、新たなビジネスモデルを構築することが可能です。これにより、企業は市場の変化に対応し、競争力を維持することができます。

DawnX

この記事では、近年行われた学習塾・予備校業界の代表的なM&A事例6選を通じて、業界が直面している課題とその展望について深…

ベンチャー企業に対するM&Aの増加

近年、大手企業がベンチャー企業を買収するケースも増加しています。特にデジタル技術の進化が急速に進む中で、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するために、大手企業が最新のテクノロジーを有するベンチャー企業をM&Aする動きが活発化しています。これにより、企業は短期間で新たな技術やビジネスモデルを自社に取り込むことができ、競争力を高めることが可能です。

また、ベンチャー企業にとっても、M&Aは資金調達や成長の機会として有効です。M&Aを通じて、創業者は創業利益を得ることができるだけでなく、大手企業の資本やノウハウを活用して、事業をさらに発展させることができます。こうした相互のニーズが合致し、ベンチャー企業に対するM&Aは今後も増加すると予測されます。

M&Aの現状

日本におけるM&Aの現状は、ここ数年で急速に変化しており、その重要性は増す一方です。かつては一部の大企業が中心となっていたM&Aですが、現在では中小企業においても積極的に活用され、経営戦略の一環として欠かせないものとなっています。日本国内の経済環境や市場の成熟化が進む中で、企業が生き残りをかけてM&Aを選択するケースが増加しており、その動向は国内外の企業戦略にも大きな影響を与えています。ここでは、日本におけるM&A件数の推移や業界別の動向、中小企業の現状と課題、さらにクロスボーダーM&Aの現状について見ていきます。

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この記事では、近年行われた学習塾・予備校業界の代表的なM&A事例6選を通じて、業界が直面している課題とその展望について深…

日本におけるM&A件数の推移

日本におけるM&A件数は、ここ数十年で劇的に増加しています。特に近年では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた2020年に一時的に減少したものの、2021年以降は再び増加に転じ、件数ベースで過去最高を更新しています。M&Aの件数が増加している背景には、経済環境の変化や後継者不足、業界再編など複数の要因が絡んでいます。

かつてのM&Aは一部の上場企業が中心でしたが、現在では中小企業にも広がりを見せています。特に2021年には、M&Aの件数がリーマンショック前の2007年以来となる1,000件を超え、これは日本企業が成長戦略としてM&Aを積極的に取り入れている証拠と言えます。こうした動きは、今後も続くと予測されており、M&Aは日本企業にとって重要な経営手段となり続けるでしょう。

業界別のM&A動向

日本国内のM&A動向を業界別に見ると、特に調剤薬局業界、運送業界、介護業界などでの再編が進んでいます。これらの業界は、国内市場の成熟化とともに競争が激化しており、企業間の合併や買収を通じて業界のシェアを拡大する動きが顕著です。

調剤薬局業界では、高齢化社会の進展に伴い医薬品の需要が増加していますが、医薬分業の進展や政府の薬価抑制策の影響もあり、大手企業による統合が進んでいます。この結果、業界の寡占化が進み、少数の企業が市場を支配する構図が形成されています。同様に、運送業界や介護業界でも、効率化やコスト削減を目的としたM&Aが活発に行われており、これらの業界での再編が加速しています。

中小企業のM&Aの現状と課題

中小企業におけるM&Aは、特に事業承継問題が背景にあります。日本の中小企業の多くは、経営者の高齢化が進む中で、後継者が不在という問題に直面しています。親族内での事業承継が難しい場合、事業を継続するための選択肢としてM&Aが選ばれるケースが増えています。

しかし、中小企業のM&Aにはいくつかの課題も存在します。まず、M&Aに対する理解や経験が乏しい経営者が多く、適切なアドバイザーや仲介業者を見つけることが難しいことが挙げられます。また、M&Aのプロセス自体が複雑であり、デューデリジェンスや交渉など、多くのリソースを必要とします。このため、特に小規模な企業では、M&Aを進めるための準備が整っていないことがしばしば見られます。

一方で、政府や地方自治体によるM&A支援も進んでおり、中小企業がよりスムーズにM&Aを実施できる環境が整いつつあります。中小企業庁が設置した「事業引継ぎ支援センター」などの公的支援機関が増え、M&Aの知識やノウハウが共有されることで、今後はより多くの中小企業がM&Aを活用して事業承継を行うことが期待されています。

クロスボーダーM&Aの現状

クロスボーダーM&Aとは、国境を越えた企業間の合併・買収を指します。日本企業によるクロスボーダーM&Aも近年増加しており、特にIn-outタイプ(日本企業が海外企業を買収するケース)が顕著です。この背景には、国内市場の成熟化に伴う新たな成長機会の獲得が挙げられます。

日本の少子高齢化により国内需要が減少する中、海外市場に進出することで新たな収益源を確保することは、多くの企業にとって戦略的に重要です。クロスボーダーM&Aを通じて、現地企業の持つ市場シェアや技術、人材を迅速に取り込むことが可能であり、特にアジアや北米市場への進出が目立っています。

しかし、クロスボーダーM&Aにはリスクも伴います。言語や文化の違い、現地法規制の理解不足などが障害となることがあり、これを克服するためには入念な準備と専門的なサポートが不可欠です。また、2022年以降、円安の影響で海外企業の買収費用が増加していることも一部では懸念されています。それでも、日本企業にとってクロスボーダーM&Aは、成長戦略の一環として今後も重要な役割を果たしていくと考えられています。

今後のM&A市場の展望

日本におけるM&A市場は、今後も拡大していくことが予測されています。少子高齢化や人口減少、国内市場の成熟化など、さまざまな社会経済的要因が絡み合い、企業にとってM&Aは成長戦略の一環としてますます重要性を増しています。これまでの動向を踏まえ、今後のM&A市場がどのように展開していくのかを見ていきましょう。

後継者不足によるM&A増加の予測

日本の中小企業における後継者不足は、今後のM&A市場における主要な原動力となるでしょう。現在、経営者の高齢化が進む中で、多くの企業が後継者不在という問題に直面しています。中小企業庁の調査によれば、経営者の平均年齢は60歳を超えており、その傾向は今後さらに加速する見通しです。これに伴い、親族内での事業承継が難しい企業が増え、M&Aを通じて第三者に事業を引き継ぐケースがますます増加すると予想されます。

特に、「2025年問題」と呼ばれる団塊の世代が75歳以上になる時期が近づいており、これが後継者不足問題を一層深刻化させることが懸念されています。この時期には、多くの経営者が事業承継を急務とし、M&Aがその解決策として選ばれることが多くなるでしょう。また、政府や地方自治体もこの問題に対応するために、事業承継支援を強化しており、これが中小企業におけるM&Aのさらなる増加を後押しすると考えられます。

国内需要減少によるクロスボーダーM&Aの増加

日本の人口減少と国内市場の成熟化により、多くの企業が新たな成長を求めて海外市場に目を向けるようになっています。この動きは、クロスボーダーM&Aの増加に直結しています。国内市場では限られた成長機会しか見込めない中、企業は海外での事業展開を加速させるため、現地企業を買収するクロスボーダーM&Aを積極的に活用しています。

特に、アジア市場や北米市場におけるM&Aは今後も増加すると予測されます。これらの地域は、人口増加や経済成長が続いており、日本企業にとって魅力的な市場となっています。クロスボーダーM&Aを通じて、企業は現地の市場シェアや技術、ノウハウを迅速に取得し、競争力を強化することができます。

しかし、クロスボーダーM&Aには特有のリスクも伴います。現地の法規制や文化の違いを理解し、適切に対応することが求められます。また、近年の円安の影響で、海外企業の買収費用が増加していることも課題となっています。それでも、日本企業にとってクロスボーダーM&Aは、今後の成長戦略において欠かせない要素であり、その件数は今後も増加すると考えられます。

コロナショック後のM&A動向

新型コロナウイルス感染症の拡大は、世界中の経済活動に大きな影響を与えましたが、M&A市場もその影響を大きく受けました。2020年には一時的にM&A件数が減少しましたが、2021年以降、ポストコロナを見据えた企業の動きが活発化し、再びM&Aが増加しています。

特に、コロナショックを受けて業績が悪化した企業が、事業再編やリストラクチャリングの一環としてM&Aを選択するケースが増えています。これにより、業績不振の企業が、より健全な企業とのM&Aを通じて再生を図る動きが見られます。また、異業種への参入や事業の多角化を目指す企業が、M&Aを活用して新たな市場や技術を獲得するケースも増えています。

ポストコロナの世界では、デジタルトランスフォーメーション(DX)が一層進むと予想されており、これに関連したM&Aが今後さらに増加するでしょう。DXの推進により、企業は新たな技術やデジタルプラットフォームを迅速に取り込む必要があり、その手段としてM&Aが重要な役割を果たすことになります。

M&A市場の今後の課題とチャンス

M&A市場の拡大が予測される一方で、いくつかの課題も浮き彫りになっています。その一つが、デューデリジェンスの重要性です。M&Aにおいて、買い手企業が売り手企業の財務状況や潜在的なリスクを適切に把握することは非常に重要です。しかし、デューデリジェンスが不十分なままM&Aを進めると、後に予期せぬ問題が発生し、取引が失敗に終わるリスクがあります。

さらに、M&A後の統合プロセス(PMI: Post-Merger Integration)の成功が、M&Aの成否を決定づける要因となります。文化の違いや組織構造の統合に失敗すると、期待されるシナジー効果が得られない可能性が高くなります。これに対応するためには、M&Aを成功に導くための戦略的な計画と実行が求められます。

一方で、これらの課題を克服することで、M&A市場には多くのチャンスが広がっています。特に、グローバル化の進展に伴い、クロスボーダーM&Aは今後も成長する分野です。また、DXやAIなどの新技術の普及により、これまでにない分野でのM&Aが増加する可能性があります。

今後のM&A市場では、これらの課題に対する適切な対応策を講じながら、企業は新たな成長機会を探求していくことが重要です。M&Aは、企業が競争力を維持し、持続可能な成長を達成するための強力なツールであり、今後もその重要性は増していくでしょう。

まとめ: M&Aは今後も増加が見込まれる!

M&Aは、企業が直面するさまざまな課題に対する効果的な解決策として、ますますその重要性を増しています。後継者不足、人口減少による人材不足、業界の再編成など、M&Aの増加を後押しする要因は多岐にわたります。今後も、企業が競争力を維持し、持続的な成長を実現するためには、適切なM&A戦略を策定し実行することが求められるでしょう。

特に、ポストコロナの世界やデジタルトランスフォーメーションの進展により、これまで以上に多様なM&Aが行われることが予測されます。企業は、この動向を捉え、自社の成長に繋がる機会を積極的に探求していくべきです。M&A市場におけるチャンスと課題を的確に把握し、未来を見据えた戦略的なアプローチを取ることが、これからの企業成功の鍵となるでしょう。

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