M&Aが増加している理由とは?現状と今後の動向を解説!

日本国内のM&A市場は、この数十年で飛躍的に拡大を遂げ、現在では中小企業から上場企業まで幅広い層で活用されています。その背景には、人口減少や市場成熟化といった社会的課題がある一方、後継者不足やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進といった企業固有のニーズも影響しています。本記事では、M&Aが国内企業の経営戦略としてどのように活用されているのか、また、その市場がどのように変化しているのかを解説します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

国内M&A市場が拡大する5つの要因

国内M&A市場は、1985年の統計開始以降、一貫して成長を続けており、特に近年では年々その規模を拡大しています。この成長の背景には、経済的、社会的な変化に起因する複数の要因が複雑に絡み合っています。M&Aはもはや一部の大企業だけの戦略ではなく、中小企業や新興企業にとっても重要な経営戦略の一環となりつつあります。ここでは、国内M&A市場を拡大させている主な5つの要因について解説します。

事業承継型M&Aが中小企業に広がる背景

中小企業の間で事業承継型M&Aが広がっている背景には、後継者不足が深刻な問題として浮上していることが挙げられます。団塊世代の経営者が引退期を迎え、事業を継ぐべき後継者が親族内に見つからないケースが増加しています。この状況を受けて、第三者に事業を譲渡する手段としてM&Aが注目されています。

事業承継型M&Aは、企業の存続や従業員の雇用維持のみならず、譲渡先の企業との連携による新たな成長の可能性をもたらします。特に地方の中小企業においては、地域経済を支える重要な役割を果たしている企業も多く、これらを存続させるための効果的な手段として事業承継型M&Aが普及しています。

経営者の高齢化と後継者不在問題の深刻化

日本では経営者の高齢化が進行しており、中小企業経営者の平均年齢は年々上昇しています。2025年には、60歳以上の経営者が6割以上を占めると予想されており、その多くが後継者不在の問題を抱えています。

このままでは127万社以上の中小企業が事業継続の危機に直面すると言われ、結果的に数百万人の雇用と数十兆円規模のGDPが失われる可能性があります。このような状況を受け、親族内承継が難しい企業が第三者への譲渡を選択するケースが増えています。事業承継を目的とするM&Aは、この深刻な問題を解決するための重要な手段となっています。

人口減少による人材獲得競争の激化

少子高齢化に伴う人口減少は、企業にとって人材確保の課題をさらに深刻化させています。特に地方の中小企業では、若い労働力を確保することが困難となり、経営が立ち行かなくなるケースが増加しています。このような状況の中で、M&Aを通じて人材を引き継ぎ、企業の活力を維持しようとする動きが広がっています。

また、大企業でも優秀な人材を確保するために、競争力のある企業を買収してその人材を獲得するケースが見られます。M&Aは単なる事業拡大の手段ではなく、重要な経営資源である「人材」を確保するための戦略でもあるのです。

成熟市場における業界再編の必要性

日本国内市場の多くは成熟期を迎え、成長余地が限られています。このような環境下で、企業は業界内の競争を緩和し、効率化を進めるためにM&Aを積極的に活用しています。調剤薬局業界や運送業界、介護業界などでは、寡占化が進み、大手企業による市場支配が強まっています。このような業界再編の動きは、競争力のある企業同士の統合を促し、市場全体の効率化を目指しています。

また、中小企業においても、大手企業の傘下に入ることで経営基盤を強化し、市場シェアを維持するケースが増えています。

新興企業(スタートアップ)を対象としたM&Aの増加

近年、大手企業によるスタートアップ企業の買収が増加しています。特にITや医療などの分野では、最新のテクノロジーや革新的なアイデアを持つスタートアップ企業を取り込むことで、自社の競争力を強化しようとする動きが活発です。

例えば、DXの推進や新規事業の立ち上げを目的として、スタートアップ企業が持つ技術や人材を取り込むことで、迅速に事業拡大を図るケースが増えています。このようなM&Aは、新興企業にとっても資金調達や成長のチャンスとなるため、双方にメリットをもたらしています。

これらの要因が絡み合い、国内M&A市場は引き続き成長を続けると見られています。今後も、経済環境や社会的要因を背景に、さまざまな形態のM&Aが進展していくことが期待されています。

業界別に見るM&Aの最新トレンド

M&Aは、企業が市場競争力を強化し、成長を実現するための重要な手段として、さまざまな業界で幅広く活用されています。近年、日本国内外での経済環境の変化や技術革新、人口動態の変化に伴い、業界別に異なる動向が現れています。ここでは、製造業、サービス業、IT業界、調剤薬局・運輸業界、さらにはクロスボーダーM&Aにおける最新トレンドを詳細に解説します。

製造業におけるグローバル展開を狙ったM&A

製造業では、国内市場の成熟化と人口減少を背景に、グローバル展開を目指すM&Aが増加しています。特に日本の製造業は、高度な技術力と品質管理能力で世界的に評価されており、海外市場での需要を取り込むことが重要視されています。

例えば、自動車部品メーカーが新興国市場に参入するために現地企業を買収するケースや、電機メーカーが海外の革新的なテクノロジーを持つ企業を取り込むことで新製品開発を加速させる例があります。これにより、国内市場の停滞を補いながら、海外市場での成長基盤を築く動きが顕著になっています。

サービス業とIT業界で進む事業統合と技術獲得型M&A

サービス業やIT業界では、デジタル化の進展や顧客ニーズの多様化に対応するため、事業統合型や技術獲得型のM&Aが活発化しています。IT業界では、特にDXを推進する企業がスタートアップ企業を買収し、最新の技術やサービスを迅速に取り込む例が目立ちます。

また、サービス業では、効率的な顧客管理やサービス提供のために、データ分析技術やAIソリューションを持つ企業の買収が進んでいます。これにより、企業間でのシナジー効果が期待されるだけでなく、競争力を維持し、革新を続けるための土台が築かれています。

調剤薬局や運輸業界における規模拡大を目指すM&A

調剤薬局や運輸業界では、業界全体の規模拡大と効率化を目指したM&Aが進んでいます。調剤薬局業界では、医薬分業の進展や高齢化社会の影響で薬剤需要が増加する一方、競争が激化しています。この状況下で、上位企業が中小規模の薬局を統合することで、ネットワークの拡大とコスト効率の向上を図る動きが加速しています。

同様に、運輸業界では、物流の需要が急増する中、地域密着型の中小物流企業を大手が買収することで、サービスエリアの拡大や業務効率化を進めています。これにより、両業界ともに、競争力の強化と収益性の向上を実現するケースが増えています。

クロスボーダーM&Aが注目されるセクター別分析

近年、クロスボーダーM&Aが特定のセクターで注目されています。特に、医薬品、食品、テクノロジー分野では、海外市場でのプレゼンスを強化するための戦略的買収が増加しています。例えば、日本の製薬企業が海外のバイオテクノロジー企業を買収することで、新薬開発のスピードを高めたり、食品業界では、健康志向の高い市場をターゲットとした海外ブランドの取得が進んでいます。

さらに、テクノロジー分野では、日本のIT企業が海外の革新的なスタートアップを取り込むことで、新たなサービスや製品の市場投入を迅速化しています。このような動きは、日本企業が国内市場の縮小を補いながら、グローバル市場での競争力を強化するための重要な施策として位置付けられています。

これらの動向を踏まえると、各業界におけるM&Aは単なる事業拡大の手段ではなく、企業の生存戦略や新たな価値創造のための基盤となっていることが分かります。

今後も、経済環境や市場動向の変化に応じて、さらに多様化しながら進展していくことが予想されます。

M&Aを活用した経営戦略の変化

近年、企業がM&Aを活用する目的や手法に大きな変化が見られています。これまで主に大規模な企業が市場支配やシナジー効果を求めて行っていたM&Aは、中小企業やスタートアップにも広がり、経営戦略の重要な柱となっています。経済環境や技術革新、競争の激化といった外部要因により、企業は成長や生存のために柔軟でダイナミックな戦略を模索しています。

その中でM&Aは、成長の加速や事業再編、デジタルシフトへの対応、さらにはエグジット戦略としての利用など、多岐にわたる目的で実施されています。

成長加速を目的としたM&Aの増加

M&Aは、成長加速のための有力な手段として、ますます多くの企業に採用されています。特に市場での競争が激化する中で、競争力を短期間で強化する必要に迫られた企業が、M&Aによって新たな技術やノウハウを獲得し、市場でのポジションを確立しています。例えば、大手企業がスタートアップを買収することで革新的な技術を迅速に取り込み、新規事業の立ち上げを加速させるケースが増えています。

また、中小企業でも地域の有力企業を買収し、地盤を固めながら成長を目指す動きが見られます。このように、M&Aは成長を加速させるための戦略的な選択肢として、企業規模や業界を問わず幅広く活用されています。

選択と集中による事業ポートフォリオの再構築

企業は、持続的な成長を実現するために、自社の事業ポートフォリオを再構築する必要に迫られています。この背景には、グローバル化やデジタル化、そして環境問題への対応が求められる中で、非中核事業を切り離し、注力分野にリソースを集中させるという戦略が存在します。多くの企業が非中核事業を売却する一方で、成長が期待できる分野の企業や技術を買収することで、事業の選択と集中を進めています。

例えば、大手製薬企業が新薬開発に注力するため、後発医薬品事業を売却する一方で、バイオテクノロジー企業を買収するケースが挙げられます。このような動きは、企業の収益構造を強化し、市場での競争優位性を高めることにつながります。

M&AがIPOに代わるエグジット戦略として定着

スタートアップやベンチャー企業の間で、IPO(新規株式公開)に代わるエグジット戦略としてM&Aが定着しつつあります。これは、企業の規模や市場環境、投資家の期待による制約を乗り越え、迅速に成果を得るための選択肢となっています。

特に、M&Aを通じてスタートアップが大手企業の傘下に入ることで、資金調達の課題を解消するとともに、成長のためのリソースやネットワークを活用することが可能になります。この流れは、大手企業にとっても、革新的な技術や市場への迅速なアクセスを実現するために有効であり、両者にとってWin-Winの関係を築ける点が注目されています。

デジタルシフトが後押しする企業間連携

デジタル化の進展は、企業間連携を促進し、M&Aの新たな動機を生み出しています。特にDXの加速が求められる中、多くの企業がデジタル技術やデータ解析能力を持つ企業を買収し、自社の業務効率化や新サービスの創出を図っています。

例えば、大手物流企業がAI技術を持つスタートアップを買収することで、配送網の最適化や顧客体験の向上を実現した事例があります。また、IT業界においては、クラウドサービスやセキュリティ技術の需要が高まる中、それらを提供する企業との連携や統合が活発化しています。デジタルシフトは企業間の競争と協力を一層進め、M&Aを企業戦略の中核に据える動きを加速させています。

日本国内M&Aの現状と課題

日本国内のM&A市場は、この30年間で件数が大幅に増加し、特に中小企業を対象とした取引が注目されています。一方で、経済環境や人口動態の変化に伴い、市場の成長にはいくつかの課題が存在します。ここでは、M&Aの件数推移から見える市場の拡大と停滞要因、支援体制の変化、法制度の整備、中小企業特有の課題であるデューデリジェンスの重要性について解説します。

M&A件数推移に見る日本市場の拡大と停滞要因

日本のM&A市場は1985年に年間約260件だった件数が、2021年には年間約4300件に達し、約16倍以上に拡大しました。市場の成長を牽引してきたのは、バブル崩壊後の規制緩和、後継者問題の解決を目的とした中小企業のM&A増加、そして経済成長期から成熟期への移行に伴う業界再編です。

しかし、新型コロナウイルス感染症の影響や人口減少、少子高齢化により、取引件数の増加が鈍化した時期もありました。また、クロスボーダーM&Aでは、世界的な不安定な経済状況や渡航制限が取引を妨げる要因となっています。これらの停滞要因を克服するためには、経済環境に柔軟に対応する戦略が求められます。

中小企業のM&Aにおける支援体制の変化

中小企業におけるM&Aの増加に伴い、政府や関連機関による支援体制が大きく変化しています。従来、後継者不足に直面する中小企業は、事業承継に関する情報やノウハウの不足に悩まされていました。しかし近年では、事業承継補助金や税制優遇措置を活用する企業が増え、M&Aを選択肢として捉える動きが活発化しています。

また、中小企業庁や地域の商工会議所が、M&A仲介会社や専門家との連携を強化し、企業規模に合ったサポートを提供する仕組みを整備しています。こうした支援体制の進展は、中小企業がM&Aを通じて持続可能な経営を実現するための重要な基盤となっています。

法制度の整備が後押しする中小企業向けM&A

法制度の整備は、中小企業がM&Aを活用する際の大きな後押しとなっています。事業承継税制の導入により、相続税や贈与税の負担が軽減され、親族内承継だけでなく第三者承継の選択肢も広がりました。

また、中小企業の特性に配慮したM&Aガイドラインの策定により、適正な取引が促進されています。これにより、M&A取引の透明性が高まり、取引プロセスの信頼性が向上しました。さらに、中小企業の特有の事情を考慮した簡易な手続きや柔軟な契約形態が導入され、資金やリソースが限られた企業でも安心してM&Aに取り組む環境が整備されています。

デューデリジェンスにおける課題と成功の鍵

M&Aにおける成功の鍵となるのが、デューデリジェンス(DD)の適切な実施です。しかし、中小企業では専門知識やリソースの不足が原因で、DDが十分に行われないケースが多く見られます。これにより、後になって簿外債務や法的リスクが発覚するなど、取引後のトラブルが生じるリスクが高まります。一方で、成功するM&Aの共通点として、財務、法務、事業、人事など多岐にわたる分野で徹底したDDを行うことが挙げられます。専門家の協力を得て包括的なリスク分析を行い、適正な企業価値を算出することが、取引の成功を左右する重要な要因です。

また、買収後のPMI(統合プロセス)を見据えた計画的なDDが、取引の円滑な実施と期待されるシナジー効果の実現に繋がります。

今後のM&A市場を読み解く4つの視点

日本国内のM&A市場は、これまでの成長を背景に、今後もその重要性を増すと予測されています。しかし、その方向性は経済環境や社会的要因、さらには企業の価値観や戦略の進化によって大きく影響を受けます。後継者不足やクロスボーダーM&Aの展開、コロナ後の経済環境の変化、持続可能性を考慮した新たなM&A戦略など、これからの市場を読み解くための重要な視点を4つに分けて解説します。

後継者不足がM&A件数に与えるインパクト

日本の中小企業において後継者不足が深刻な課題となっていることは広く知られています。2025年には経営者の約6割が70歳以上に達する一方で、後継者が決まっていない企業が127万社以上あると推計されています。この状況が続けば、廃業や倒産が相次ぎ、数百万人の雇用が失われるだけでなく、GDPにも大きな打撃を与える可能性があります。こうした危機を回避するために、事業承継型M&Aがこれまで以上に重要な役割を果たすと考えられます。

後継者不在の企業が第三者への譲渡を選択するケースが増加し、結果としてM&A市場の件数がさらに拡大する見込みです。後継者問題が中小企業の存続を支える契機として、M&A市場の発展を後押ししています。

クロスボーダーM&Aがもたらす成長の可能性

国内市場の成熟化に伴い、多くの日本企業が海外市場への進出を視野に入れています。特に、クロスボーダーM&Aは、新しい市場の獲得や現地の技術・人材へのアクセスを可能にする重要な戦略手段となっています。例えば、製薬業界では、日本企業が海外のバイオテクノロジー企業を買収することで新薬開発を加速させるケースや、食品業界が健康志向の高い海外ブランドを取り込む動きが顕著です。

また、円安や金融緩和政策の影響で、日本企業が比較的安価に海外資産を取得する機会も増えています。こうしたクロスボーダーM&Aは、国内市場の縮小を補うだけでなく、企業全体の競争力を強化し、成長の新たな可能性を切り開く役割を果たします。

コロナ後の経済環境で変わるM&Aの目的

新型コロナウイルス感染症の影響により、企業経営の環境は大きく変化しました。感染拡大による渡航制限や経済活動の停滞は一時的にM&A市場を冷え込ませましたが、2021年以降、徐々に回復の兆しを見せています。特に注目すべきは、コロナ後の新たな経済環境に適応するため、企業がM&Aの目的を再定義している点です。従来の事業拡大や市場シェアの確保だけでなく、リスク分散やサプライチェーンの強化、デジタル化対応のための技術獲得を目的とする取引が増えています。

さらに、資金難に陥った企業がM&Aを活用して経営再建を図る動きも活発化しています。これにより、コロナ後の経済環境に対応するためのM&Aが新たな市場トレンドとして台頭しています。

持続可能性を意識したM&A戦略の台頭

近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)への対応が企業経営の重要な要素となっています。これに伴い、持続可能性を意識したM&A戦略が注目を集めています。たとえば、環境負荷を低減する技術を持つ企業や、社会課題を解決する事業を展開する企業を買収することで、企業価値を向上させる動きが加速しています。

また、企業のガバナンス強化やリスク管理の観点から、法令順守や透明性を重視したM&Aの推進も増えています。このような戦略は、単なる経済的利益を追求するだけでなく、長期的な持続可能性を確保し、企業の社会的責任を果たす取り組みとして位置付けられています。

これらの視点を通じて、日本のM&A市場は、単なる事業拡大の手段を超え、持続可能な成長と社会課題の解決に寄与する新たなフェーズに移行しつつあることが明らかです。今後の市場動向を見据えた企業の戦略的な対応が期待されています。

まとめ: 今後のM&A市場を見据えて

国内M&A市場は、単なる事業拡大の手段に留まらず、後継者問題の解決や持続可能な成長を実現するための重要な経営戦略として定着しつつあります。成長加速や事業ポートフォリオの再構築、IPOに代わるエグジット手段としての活用など、多様化する目的に対応し、市場はさらなる発展を遂げるでしょう。

また、コロナ後の経済環境やESG投資の流れも相まって、デジタルシフトや持続可能性を意識した企業間連携が進展しています。これらの動向を捉えた戦略的なM&Aは、企業の競争力を高め、地域や業界の枠を超えた新しい価値を生み出します。

未来の市場予測を踏まえると、M&Aの活用はますます不可欠なものとなり、企業規模や業界を問わず、その可能性が広がっています。今後もこのダイナミックな市場の進化を見据え、企業が適切にM&Aを活用することで、新しい時代の経営モデルを築くことが期待されるでしょう。

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