表明保証保険はM&Aで最重要?仕組み・メリット・注意点を解説!

M&A(企業の合併や買収)において、取引の成功を左右する重要な要素の一つが「表明保証」です。表明保証とは、売り手が買い手に提供した情報が真実であることを保証するもので、万が一、その保証に違反があった場合、買い手に損害が生じるリスクがあります。このリスクをカバーし、M&A取引を円滑かつ安全に進めるために重要な役割を果たすのが「表明保証保険」です。

本記事では、表明保証保険の基本的な概念から、その仕組みやメリット、そして注意すべきポイントについて解説します。特に、M&Aにおけるリスク管理を重視する方々にとって、表明保証保険がどのように取引の安定性を支えるかを理解することは非常に重要です。ぜひ、この記事を通じて、表明保証保険の意義と活用方法についての知識を深めてください。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

表明保証保険とは?

M&A取引は、企業の将来を左右する重要な意思決定であり、その過程には多くのリスクが伴います。その中でも、表明保証違反によるリスクは、買い手にとって大きな懸念材料となります。表明保証とは、売り手が提供する情報の正確性を保証するものであり、これが正しく機能しなければ、買い手は予期しない損失を被る可能性があります。そこで、こうしたリスクを軽減し、取引を円滑に進めるための手段として注目されているのが「表明保証保険」です。

表明保証保険は、M&Aにおいて売り手や買い手が行う表明保証の違反に対するリスクをカバーする保険商品であり、特に日本国内でもその利用が増加しています。ここでは、まず表明保証保険の基本的な概念について解説し、その後、M&Aにおける表明保証の役割とその重要性について説明します。

表明保証保険の基本的な概念

表明保証保険(Warranty and Indemnity insurance, W&I)は、M&A取引において、売り手または買い手が相手方に対して提供する表明保証が誤っていた場合、その誤りによって発生する経済的損失をカバーする保険です。表明保証とは、売り手が買い手に対して、提供した情報や契約内容が正確で真実であることを保証する条項です。この保証が守られない場合、つまり情報に誤りがあり、結果として買い手が損害を被った場合、その損害を売り手に補償請求できるというものです。

表明保証保険は、こうした表明保証違反によるリスクをカバーするための保険商品であり、主に2種類に分かれます。ひとつは「売主用表明保証保険」、もうひとつは「買主用表明保証保険」です。売主用表明保証保険は、売り手が表明保証違反を犯した場合に、その損害を保険でカバーするもので、売り手が負うリスクを軽減します。一方、買主用表明保証保険は、買い手が直接保険会社に補償を請求できるもので、買い手にとっては安心して取引を進めるための重要な手段となります。

この保険は、近年日本でも注目されており、特に2020年から国内向けの商品が販売されるようになりました。表明保証保険の導入は、M&A交渉を円滑に進めるための有効な手段として、特に買い手側からの強い要望により利用されることが増えています。

M&Aにおける表明保証の役割と重要性

M&Aにおいて表明保証は、契約の成否や取引後のトラブル回避において極めて重要な役割を果たします。具体的には、売り手が買い手に提供する情報が正確であることを保証することにより、買い手は安心して企業を買収することができます。M&A取引では、売り手が提供する財務諸表や業務内容に関する情報が、そのまま取引の基盤となります。もしこれらの情報が不正確であれば、買い手は予期しないリスクを背負うことになり、最悪の場合、買収した企業の価値が大幅に減少する可能性があります。

表明保証は、こうしたリスクを回避するための重要な手段であり、契約書に明確に記載されることが一般的です。たとえば、売り手が「財務諸表に誤りがない」や「隠れた債務が存在しない」と表明保証し、これが事実と異なることが判明した場合、買い手はその損害を売り手に対して請求する権利を持ちます。

しかし、実際のM&A取引では、売り手も買い手も全ての情報を完全に把握しているとは限りません。売り手が意図せずに不正確な情報を提供してしまうこともありますし、デューデリジェンスの過程で全てのリスクを洗い出すことは困難です。ここで表明保証保険が重要な役割を果たします。表明保証保険を活用することで、こうしたリスクを軽減し、M&A取引をより安全かつスムーズに進めることができるのです。

さらに、表明保証保険は、M&Aの交渉を円滑に進めるための潤滑油として機能します。売り手にとっては、表明保証保険を付けることで買い手の信頼を得やすくなり、交渉が進みやすくなるというメリットがあります。また、買い手にとっても、万が一のリスクに備えることができるため、安心して取引を進めることができます。

表明保証保険の仕組み

表明保証保険は、M&A取引において発生するリスクを軽減し、取引を円滑に進めるための重要なツールです。特に、取引後に発覚する表明保証違反に備えるため、多くの企業がこの保険を活用しています。ここでは、表明保証保険に加入するためのプロセスや手続き、補償範囲の設定方法、そして保険料の相場について解説します。

保険加入のプロセスと必要な手続き

表明保証保険に加入する際には、いくつかのステップを踏む必要があります。まず、保険会社に対して見積もりを依頼するところから始まります。この段階では、M&A対象企業に関する詳細な情報が必要となり、保険会社との秘密保持契約を締結した上で、企業情報や財務データを共有します。

その後、保険会社は提供された情報をもとに、法的拘束力のない見積書を提示します。この見積書には、保険料や補償範囲、限度額などの基本的な条件が記載されます。見積書の内容に合意した後、保険会社は詳細な引受審査を開始します。この審査には、デューデリジェンスの報告書や株式譲渡契約書などの重要な資料が含まれ、必要に応じて電話や面談でのヒアリングが行われます。

審査が完了し、保険内容に関する最終的な合意が得られた場合、保険契約が締結されます。一般的に、このプロセスには3週間程度かかるとされていますが、取引の複雑さや企業の規模によっては、さらに時間がかかることもあります。そのため、スムーズな契約締結を目指すには、M&Aアドバイザーや弁護士などの専門家と連携することが重要です。

補償範囲と限度額の設定

表明保証保険の補償範囲は、契約内容に明記された表明保証事項に基づいて設定されます。具体的には、売り手が保証する財務情報や法的事項、訴訟リスク、環境問題などが含まれることが一般的です。これらの事項に誤りがあった場合、発生する損害が保険の補償対象となります。

一方で、補償対象とならないケースもあります。例えば、デューデリジェンスで調査が不十分だった項目や、売り手が事前に認識していた表明保証違反、業績予測が大きく外れたことによる損害などは、保険の対象外となることが多いです。このため、保険契約を締結する際には、どの範囲が補償されるのかを明確に確認しておくことが重要です。

また、補償限度額の設定も重要な要素です。一般的に、補償限度額は売り手企業の企業価値の10%から20%程度とされており、これはM&A取引のリスクを一定の範囲内に抑えるための指標となります。しかし、取引の規模や性質に応じて、補償限度額は柔軟に設定されることがあります。特に、小規模なM&Aの場合や、クロスボーダー取引の場合には、異なる限度額が適用されることがあります。

保険料の相場とコスト

表明保証保険の保険料は、補償限度額の1%から3%が相場とされています。具体的な保険料は、対象企業の業種や取引のリスクプロファイルによって異なります。例えば、金融業や製薬業のようにリスクが高い業種では、保険料が高く設定される傾向があります。

また、国内向けの表明保証保険が近年登場したことで、従来の保険料相場にも変化が見られます。特に、小規模なM&A向けの表明保証保険では、保険料が従来の10分の1程度にまで抑えられるケースもあり、30万円から50万円という低コストで加入できる商品も存在します。これにより、スタートアップ企業や中小企業でも、リスクヘッジのために表明保証保険を利用しやすくなっています。

保険料の支払いは、M&A取引の規模や保険内容に応じて一括で支払われることが一般的ですが、取引の複雑さや契約条件によっては、分割払いが認められることもあります。保険料のコストは、取引全体のコストに対して相対的に低いものの、取引後のリスクを大幅に軽減できる点から、多くの企業が保険料を支払う価値があると判断しています。

表明保証保険を利用するメリット

表明保証保険は、M&A取引におけるリスクを効果的に軽減し、買い手と売り手双方に多くのメリットをもたらします。特に、表明保証違反による損害リスクを補償することで、取引の安心感を高め、交渉を円滑に進めることが可能となります。ここでは、買い手、売り手、それぞれにとっての具体的なメリットについて解説し、さらに双方の交渉が円滑に進む効果についても触れていきます。

買い手にとってのメリット

買い手にとって、表明保証保険はM&A取引におけるリスク管理の重要なツールです。主なメリットとしては、以下の3点が挙げられます。

まず第一に、M&A取引後に表明保証違反が発覚した場合でも、買い手は損害を最小限に抑えることができます。例えば、売り手が虚偽の情報を提供し、その結果、買い手が予期しない損失を被った場合でも、表明保証保険を通じて保険会社から補償を受けることが可能です。これにより、取引後のリスクを大幅に軽減でき、企業の財務的な安定性を保つことができます。

第二に、買い手は表明保証保険を利用することで、損害賠償請求にかかる手間や時間を大幅に削減できます。通常、損害賠償請求には法的手続きが伴い、多くの時間とコストがかかります。しかし、表明保証保険を利用すれば、保険会社との交渉で済むため、手続きが簡略化され、迅速な補償を受けられる点が大きなメリットです。

第三に、表明保証保険は特にクロスボーダーM&Aにおいて重要な役割を果たします。国際取引では、法律や商慣習の違いから、表明保証違反のリスクが高まります。このリスクに対して、表明保証保険は有効な対策となり、外国企業との交渉もスムーズに進めることが可能になります。

売り手にとってのメリット

売り手にとっても、表明保証保険は大きなメリットを提供します。特に、M&A取引後のリスクを軽減し、安心して取引を進めるための重要な手段となります。

第一のメリットは、クリーンエグジットが可能になることです。クリーンエグジットとは、M&A取引後に補償責任を持たずに、事業から完全に撤退できる状態を指します。売り手が表明保証保険に加入することで、表明保証違反が発生した場合でも、その責任を保険会社に転嫁できるため、安心して事業を手放すことができます。これにより、売却益を迅速に次の投資や新規事業に充てることができるため、売り手にとっては非常に魅力的な選択肢となります。

第二のメリットは、エスクローの設定を回避できることです。エスクローとは、M&A取引において売却代金の一部を第三者機関に預け、一定の条件が満たされた場合に売り手に支払う仕組みです。通常、この設定は表明保証違反に備えるために行われますが、表明保証保険を利用することで、エスクローの必要がなくなり、売り手は取引成立後に迅速に代金を受け取ることができます。これにより、キャッシュフローの早期確保が可能となり、資金の流動性が向上します。

双方にとっての交渉円滑化の効果

表明保証保険は、買い手と売り手の双方にとって、交渉を円滑に進めるための強力なツールとなります。特に、M&A交渉では、表明保証の範囲やリスク分担に関する意見の相違がしばしば問題となり、取引が停滞する原因となります。

しかし、表明保証保険を利用することで、これらのリスクを保険会社が引き受けるため、交渉がスムーズに進むようになります。例えば、売り手が表明保証に対して不安を感じている場合でも、保険がそのリスクをカバーすることで、安心して契約を締結できるようになります。同様に、買い手も表明保証保険を活用することで、万が一のリスクに備えながら、売り手との信頼関係を維持し、取引を円満に進めることが可能です。

また、表明保証保険は特に競争が激しい入札案件で有効です。買い手が表明保証保険を契約し、売り手に対して表明保証違反の責任を追及しない旨を提示することで、他の入札者に対して競争優位を確立することができます。これにより、取引の成約率が向上し、双方にとって満足度の高い結果が得られるでしょう。

表明保証保険を活用する際の注意点

表明保証保険はM&A取引における重要なリスクヘッジ手段ですが、その活用にはいくつかの注意点があります。保険の補償範囲には限界があり、デューデリジェンスとの密接な関係も影響します。また、クロスボーダーM&Aでは特有のリスクが存在するため、これらの要素を十分に理解しておくことが重要です。ここから、保険を活用する際の具体的な注意点について解説していきましょう。

保険対象外となるケース

表明保証保険は、契約における表明保証違反によって生じる損害を補償するものですが、全ての損害が補償対象となるわけではありません。特に注意すべきは、保険対象外となるケースです。

まず、保険対象外の代表的なケースとして、保険契約締結前にすでに認識されていた表明保証違反が挙げられます。例えば、デューデリジェンスや他の調査で事前に問題が発覚していた場合、その問題が契約後に損害をもたらしても、保険金の支払い対象にはなりません。これは、既知のリスクに対する補償を回避するための措置であり、保険の基本的な原則でもあります。

また、デューデリジェンスが適切に実施されていない場合、その対象外となった項目に関する損害も保険の補償対象外となることがあります。デューデリジェンスは、M&Aにおけるリスク評価の重要なプロセスであり、これが不十分であった場合には、保険会社はそのリスクを引き受けません。したがって、デューデリジェンスの範囲と深さには十分な注意が必要です。

さらに、業績予測が大幅に外れたことによる損害や、環境汚染に関連する罰金や賠償責任なども、一般的に保険の対象外です。これらのリスクは、通常、経営や運営上のリスクとして扱われ、保険ではカバーされません。このため、M&Aの当事者は、保険が適用される範囲を明確に理解し、それに応じたリスク管理策を講じることが求められます。

デューデリジェンスとの関係

表明保証保険を適切に活用するためには、デューデリジェンスとの関係を理解することが不可欠です。デューデリジェンスは、M&Aにおいて買い手が売り手の企業価値やリスクを評価するプロセスであり、表明保証保険の補償範囲にも大きな影響を与えます。

デューデリジェンスが不十分であった場合、保険会社はそのリスクを引き受けない可能性があります。保険会社は、デューデリジェンスの結果をもとに保険の引き受け条件を決定するため、このプロセスが重要な役割を果たします。例えば、財務諸表の正確性や、重要な契約の有効性、法令遵守状況などがデューデリジェンスで十分に検討されていない場合、その部分に関連するリスクは保険でカバーされないことがあります。

また、デューデリジェンスで発見された問題点が表明保証の対象外とされる場合、そのリスクも保険ではカバーされません。たとえば、特定の契約上のリスクや、未解決の法的問題がデューデリジェンスで明らかになった場合、それを表明保証から除外することで、保険料を低く抑えることができますが、その場合には、保険による補償は受けられなくなります。

このため、デューデリジェンスの結果を踏まえて、どのリスクを表明保証保険でカバーすべきかを慎重に判断する必要があります。デューデリジェンスの範囲と結果を詳細に検討し、それに基づいて保険契約を最適化することが、効果的なリスク管理に不可欠です。

クロスボーダーM&Aにおける留意点

クロスボーダーM&Aにおいて表明保証保険を活用する場合、特有の留意点が存在します。クロスボーダー取引では、異なる法制度や商習慣、言語の違いが大きなリスク要因となり、表明保証保険の適用範囲や補償条件にも影響を与えます。

まず、法律や規制の違いは、表明保証保険の適用において大きな課題となります。国ごとに異なる法律が存在し、表明保証の範囲や解釈も異なるため、保険契約の内容を国際的に調整する必要があります。例えば、ある国では合法とされる行為が、別の国では違法とされる場合、そのリスクをどのように扱うかが問題となります。このような場合、保険契約において明確な取り決めを行うことが重要です。

また、クロスボーダーM&Aでは、言語の違いがコミュニケーションの障害となることがあります。保険契約書やデューデリジェンス報告書が英語で作成されることが一般的ですが、これに慣れていない企業にとっては、契約内容を正確に理解することが難しい場合があります。このため、保険契約の締結時には、信頼できる翻訳者や国際法に精通した弁護士のサポートを受けることが推奨されます。

さらに、クロスボーダーM&Aでは、文化の違いもリスクとなります。企業文化や商習慣が異なるため、買収後の統合プロセスにおいて摩擦が生じることがあります。このような文化的リスクも、表明保証保険でカバーされない可能性が高いため、事前に十分な対策を講じることが重要です。

最後に、クロスボーダーM&Aにおいては、保険会社の選定にも注意が必要です。保険会社が国際的な取引に精通しているかどうか、現地の法規制に対応できるかどうかを確認することが重要です。また、現地の法務や税務に関する知識を持つ専門家と連携し、取引の安全性を確保することが求められます。

まとめ:M&Aにおける表明保証保険の重要性を理解しよう!

表明保証保険は、M&A取引におけるリスク管理の要となるツールです。買い手にとっては、表明保証違反による損害をカバーする安心感を提供し、売り手にとってはクリーンエグジットの実現を支援します。また、取引全体の交渉を円滑に進める効果も期待できるため、双方にとって大きなメリットがあります。しかし、表明保証保険を効果的に活用するためには、保険対象外となるケースやデューデリジェンスとの密接な関係、さらにクロスボーダーM&Aにおける特有のリスクを十分に理解し、適切に対応することが必要です。M&Aにおける成功は、事前の準備とリスク管理にかかっています。表明保証保険を賢く活用し、安全で確実なM&A取引を実現しましょう。

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