M&Aの一般的なスケジュールを解説【期間・流れについて】

M&A(企業の合併・買収)は、企業の成長や事業の拡大、または経営戦略の一環として重要な手法です。しかし、M&Aを成功させるためには、しっかりとした計画と準備が不可欠です。M&Aのプロセスには、事前準備からデューデリジェンス、最終交渉、そしてクロージングといった複雑な手続きが含まれ、そのすべてを適切に進めるためには、一般的に半年から1年以上の期間が必要です。本記事では、M&Aの一般的なスケジュールとその各段階における重要なポイントについて解説します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

M&Aの一般的なスケジュールとは?

M&Aを検討する際、経営者や関係者がまず気にかけるのが「どのくらいの期間が必要なのか」という点です。M&Aは、単なる企業の買収や合併というだけでなく、事前準備や交渉、契約締結、そして統合プロセス(PMI)までを含めた非常に複雑なプロジェクトです。そのため、全体のスケジュールは案件ごとに大きく異なることが特徴です。

M&Aにかかる期間の目安

一般的に、M&Aのプロセスには6か月から1年程度の時間がかかるとされています。これは、M&Aの各段階において多くの検討事項や手続きが存在するためです。たとえば、初期段階の事前準備には、M&Aの目的や基本方針の策定が含まれ、これだけでも数週間から数か月を要することがあります。その後、M&A仲介会社やアドバイザリー契約の締結、デューデリジェンスの実施、交渉、最終契約締結、クロージングといった各フェーズを順に進めていく必要があり、それぞれに十分な時間を確保する必要があります。

一般的なM&Aの期間

M&Aの全体的なスケジュールを考える際、標準的な案件では通常6か月から12か月が目安とされます。この期間には、以下のようなプロセスが含まれます。

1. 事前準備(1~2か月)

M&Aの目的を明確にし、基本方針を策定する期間です。また、M&A仲介会社やアドバイザーを選定し、秘密保持契約やアドバイザリー契約を結びます。

2. マッチングと交渉(2~3か月)

適切な買い手または売り手を見つけるためのマッチングプロセスが進められます。この段階では、企業概要書の作成やトップ面談、基本合意書の締結が行われます。

3. デューデリジェンス(1~2か月)

買い手企業が売り手企業の財務状況や法務状況を詳細に調査する重要なプロセスです。これにより、取引のリスクや適正な買収価格を把握することが可能となります。

4. 最終交渉と契約締結(1~2か月)

デューデリジェンスの結果を踏まえて、最終的な条件交渉が行われ、最終契約書が締結されます。

5. クロージングとPMI(1か月~)

最終契約書の締結後、M&Aの対価が支払われ、クロージングが完了します。その後、企業の統合作業(PMI)が開始され、新体制がスタートします。

案件による期間の違い

M&Aの期間は、案件の規模や性質によって大きく異なります。たとえば、比較的小規模なM&Aや、すでに相手企業が決まっているケースでは、数か月で完了することもあります。一方で、条件に合った相手企業が見つからない、交渉が難航しているといった場合には、プロセスが長引き、2~3年かかることも珍しくありません。

また、業界の特性や市場動向、法規制の状況もM&Aの進行に影響を与える要因です。例えば、規制が厳しい業界では、各種承認手続きに時間がかかり、その結果としてM&A全体のスケジュールが長くなることがあります。さらに、海外企業とのM&Aでは、国際的な法規制や文化的な違いによって、さらなる調整が必要となり、時間がかかる傾向にあります。

M&Aをスムーズに進めるためには、これらの期間の目安や要因を理解し、適切なスケジュールを設定することが重要です。そして、プロジェクトを計画的に進行させることで、成功の確率を高めることができるでしょう。

M&Aの具体的な流れ

M&Aは複数の段階を経て行われる複雑なプロセスであり、各段階での手順や判断が最終的な成功に大きな影響を与えます。ここでは、M&Aの具体的な流れを段階ごとに解説します。

1. 事前準備

M&Aの成功は、事前準備の質に大きく依存します。ここでの準備がしっかりしていれば、その後のプロセスをスムーズに進めることができます。

M&Aの目的の明確化と基本方針の策定

M&Aを開始する前に、まず自社がM&Aを行う目的を明確にすることが重要です。この目的には、事業拡大、技術の取得、競争力の強化、事業承継などが含まれます。目的が曖昧だと、M&A後に期待していたシナジー効果を得られず、失敗に終わるリスクが高まります。

目的が明確になったら、その目的を達成するための基本方針を策定します。例えば、どのような企業を買収したいのか、その企業にどのような条件を求めるのかといった具体的な指針を設定します。これにより、M&Aの全プロセスで一貫した判断を下すことが可能となります。

秘密保持契約とアドバイザリー契約の締結

M&Aを進めるにあたり、外部の専門家であるM&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザー(FA)と協力することが一般的です。これらの専門家と契約を結び、M&Aの進行をサポートしてもらいますが、その際にはまず秘密保持契約を締結します。秘密保持契約は、M&Aに関する機密情報が外部に漏れるのを防ぐための重要なステップです。

また、アドバイザリー契約を結ぶことで、M&Aの戦略策定から交渉、契約締結までの全過程で専門家の助言を受けることができます。これにより、プロセスがスムーズに進み、リスクを最小限に抑えることが可能となります。

2. マッチングと交渉相手の選定

M&Aの初期段階が整った後は、実際に買収または売却の相手企業を探すフェーズに進みます。この段階は、適切な相手を見つけるための重要なステップです。

ノンネーム登録と相手企業探し

M&A仲介会社やFAは、まず自社の情報を「ノンネーム登録」します。これは、企業名を伏せた状態で市場に情報を公開し、興味を持つ企業を引き付けるための手法です。この段階で、業界や事業内容、企業規模などの基本情報が共有され、マッチングが行われます。

適切な候補企業が見つかると、さらに詳細な交渉に進みますが、このプロセスでは多くの時間が必要となることがあります。特に、相手企業が自社の条件に合わなかったり、交渉が難航したりする場合は、時間が長引くこともあります。

トップ面談と基本合意までのプロセス

候補企業が絞り込まれたら、次は経営トップ同士の面談が行われます。このトップ面談は、M&Aにおける意思確認や信頼関係の構築において非常に重要です。この段階では、企業の経営方針や今後のビジョンが共有され、お互いの理解を深めることが目的です。

トップ面談が成功裏に終わると、基本合意に至るための交渉が進められます。基本合意は、M&Aの大まかな条件や今後の手続きに関する枠組みを定めるもので、ここまでが順調に進むと、M&Aが現実味を帯びてきます。

3. デューデリジェンスの実施

基本合意が成立した後は、譲受企業が譲渡企業の詳細な調査を行う「デューデリジェンス」に進みます。この段階は、M&Aの成否を左右する重要なプロセスです。

デューデリジェンスの目的と重要性

デューデリジェンスの目的は、譲渡企業の実態を把握し、潜在的なリスクや価値を評価することです。財務、法務、税務、人事など、さまざまな視点から企業の状況を調査します。これにより、予期しない問題を未然に発見し、M&A後のリスクを最小限に抑えることが可能となります。

デューデリジェンスが不十分であった場合、M&A後に予期しない負債や法的トラブルが発覚し、経営に大きな打撃を与える可能性があります。そのため、このプロセスは慎重かつ徹底的に行う必要があります。

デューデリジェンスにかかる期間と手続きの流れ

デューデリジェンスにかかる期間は、企業の規模や業種、調査の範囲によって異なります。一般的には、1か月から2か月程度が必要とされますが、大企業の場合や複雑な事業構造を持つ企業では、それ以上の期間を要することもあります。

デューデリジェンスは、主に以下の手順で進められます。まず、譲受企業は調査項目をリストアップし、これに基づいて譲渡企業から必要な資料を収集します。その後、弁護士や会計士などの専門家がこれらの資料を分析し、企業価値の評価やリスクの特定を行います。最終的に、デューデリジェンスの結果をもとに、M&Aの条件が再調整されます。

4. 最終交渉と契約の締結

デューデリジェンスの結果を踏まえ、M&Aの最終的な条件が確定されます。この段階では、譲渡企業と譲受企業の間で詳細な交渉が行われます。

最終合意から契約締結までの流れ

最終合意に至るための交渉では、譲渡価額や支払い条件、経営体制の移行方法などが細かく取り決められます。この交渉は、M&Aの成功を左右する重要なステップであり、双方が納得できる条件を見つけることが求められます。

最終合意が得られた後、M&Aの正式な契約書が作成されます。この契約書には、すべての条件が詳細に記載され、法的な拘束力を持つ文書として締結されます。契約書の内容は、今後の経営方針や組織体制の変更に大きく影響を与えるため、慎重に確認する必要があります。

クロージングに向けた準備

契約が締結されたら、次はクロージングに向けた準備が行われます。クロージングとは、M&Aの最終手続きであり、契約書に基づいて企業の所有権が正式に移転することを指します。このプロセスでは、譲渡代金の支払い、株式の移転、法的手続きの完了などが行われます。

クロージングは、M&Aの最終段階であり、ここでのミスは重大な結果を招く可能性があるため、全ての手続きを慎重に進めることが重要です。

5. クロージングとPMI

M&Aが正式に完了した後は、企業の統合プロセス(PMI)が始まります。このプロセスは、新しい企業体制を確立し、M&Aのシナジー効果を最大化するために重要な役割を果たします。

クロージングとは何か

クロージングは、M&Aの最終段階であり、譲渡代金の支払いと同時に、企業の所有権が譲受企業に移転します。この段階で、契約書に基づくすべての手続きが完了し、M&Aが正式に成立します。クロージングの日は、M&Aにおける一つの節目であり、この日をもって新体制がスタートします。

PMIの重要性とその進め方

クロージングが完了した後、次に重要になるのがPMI(Post Merger Integration)です。PMIは、買収後の企業を統合し、シナジー効果を最大限に引き出すためのプロセスです。ここでの失敗は、M&A全体の成功に影響を及ぼすため、特に注意が必要です。

PMIでは、経営方針の統一、組織体制の再編、企業文化の融合、情報システムの統合などが行われます。また、従業員の不安を取り除き、新体制にスムーズに適応してもらうためのコミュニケーションが重要です。PMIを成功させるためには、早期に計画を立て、関係者全員が一丸となって取り組むことが不可欠です。

以上が、M&Aの具体的な流れです。各段階での注意点を理解し、計画的に進めることで、M&Aの成功確率を高めることができます。

M&Aを成功させるためのポイント

M&Aを成功させるためには、戦略的な計画と徹底した準備が不可欠です。多くのM&Aが計画通りに進まず失敗する原因は、準備不足や目的の曖昧さ、情報開示の不備に起因することが多いです。ここでは、M&Aを成功に導くための重要なポイントを解説します。

事前準備と目的の明確化

M&Aの成功において、最も重要な要素の一つが事前準備と目的の明確化です。これがしっかりと行われていなければ、後のプロセスで問題が発生しやすくなり、M&A自体が失敗に終わる可能性が高まります。

目的設定がM&Aの成功に与える影響

M&Aを進める際に最初に行うべきは、目的の明確化です。例えば、事業拡大や技術の獲得、競争力の強化など、M&Aを行う理由は企業ごとに異なります。これらの目的が明確でない場合、M&Aの方向性が定まらず、適切な買収ターゲットを選定するのが困難になります。

さらに、目的が曖昧なままM&Aを進めると、統合後に企業間でのミスマッチが発生するリスクが高まります。例えば、買収企業が考えていたシナジー効果が実現せず、期待していた成果が得られないといったことが起こり得ます。明確な目的設定は、M&Aプロセス全体の軸となり、成功の確率を大きく引き上げる要素です。

スムーズな進行を支える準備の重要性

M&Aにおいて事前準備は、その後のプロセスをスムーズに進めるための基盤となります。特に、企業の財務状況や法的状況の整理、対象企業の選定基準の設定、交渉戦略の立案などが挙げられます。これらの準備が十分に整っていると、M&Aの進行中に予期せぬ問題が発生した際にも、迅速かつ適切に対応できるようになります。

また、事前準備においては、M&A後の統合プロセス(PMI)の計画も含めて検討しておくことが重要です。統合プロセスが適切に計画されていない場合、M&Aが完了した後に企業間の文化やシステムの統合が進まず、結果としてM&Aが失敗に終わることもあります。そのため、事前準備の段階で統合プロセスを視野に入れた計画を立てることが、M&Aの成功を左右する鍵となります。

情報開示の適切なタイミング

M&Aを成功させるためには、情報開示のタイミングも非常に重要です。適切なタイミングで必要な情報を開示することで、M&Aの進行が円滑になり、双方にとって有益な取引が実現します。

デューデリジェンスでの情報提供の重要性

デューデリジェンスは、M&Aにおいて譲受企業が譲渡企業の実態を詳細に調査する重要なプロセスです。この段階で譲渡企業が必要な情報を適切に提供することが、M&Aの成功に直結します。例えば、財務状況や法務関連の情報、事業の運営状況に関するデータなど、企業の実態を正確に把握するための情報が必要です。

この情報が正確であるほど、譲受企業はリスクを正しく評価し、適切な価格での交渉が可能になります。逆に、情報が不十分であったり、正確でない場合、後に大きなリスクが顕在化し、M&Aが失敗に終わる可能性があります。したがって、デューデリジェンスの段階での情報提供は、譲渡企業にとっても非常に重要な責務となります。

情報開示の不備がもたらすリスク

情報開示のタイミングや内容が不適切であった場合、M&A全体に大きなリスクをもたらします。特に、重要な情報が開示されないまま進められたM&Aは、後に訴訟リスクや信頼関係の崩壊を引き起こす可能性があります。例えば、財務上の不正や隠れた負債が後から発覚した場合、M&Aの価値が大きく損なわれ、最悪の場合、契約が破棄されることもあります。

さらに、情報開示の不備はM&A後の統合プロセス(PMI)にも悪影響を及ぼします。従業員や取引先に対する説明が不十分であった場合、組織内の混乱や離職が増加し、M&Aによって期待されたシナジー効果が得られなくなることがあります。したがって、情報開示のタイミングとその内容は、M&Aを成功に導くための非常に重要な要素といえるでしょう。

M&Aの成功には、事前準備、目的の明確化、そして適切な情報開示が不可欠です。これらの要素がしっかりと揃っていれば、M&Aのリスクを最小限に抑え、期待される成果を最大限に引き出すことが可能となります。

まとめ: M&Aのスケジュールを押さえ、成功への道を開こう

M&Aは、企業にとって大きな転機であり、その成功は将来の成長や安定に直結します。本記事で紹介したように、M&Aには一定の時間とリソースが必要であり、事前準備や目的の明確化がその成否を左右します。特に、適切な情報開示やデューデリジェンスの徹底は、リスクの低減と円滑な統合を支える重要な要素です。また、M&A後の統合作業(PMI)の計画も含めて、早期の段階から戦略的に準備を進めることが、M&Aを成功に導く鍵となります。M&Aを円滑に進め、成功を確実にするためには、全体の流れを理解し、各ステップでのポイントを押さえておくことが重要です。これにより、企業はM&Aを通じて新たな成長の機会をつかむことができるでしょう。

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