M&Aでの法務手続きを解説!関連法律・注意点とは

M&A(合併・買収)は、企業が成長戦略を推進し、市場競争力を強化するための重要な手段です。しかし、M&Aを成功させるためには、取引の各段階で適切な法務手続きを踏むことが不可欠です。法務手続きの不備や法令の理解不足は、取引の無効や予期せぬトラブルを引き起こし、企業にとって重大なリスクとなる可能性があります。この記事では、M&Aにおける法務手続きの重要性を解説するとともに、関連する主要な法律や注意点について説明します。これからM&Aを検討している企業や法務担当者にとって、必ず押さえておくべきポイントを明らかにしていくのでぜひ参考にしてください。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

M&Aにおける法務手続きの重要性

M&Aは、企業の成長や戦略的再編のために不可欠な手段ですが、その成功には法務手続きが極めて重要です。適切な法務手続きを行わないと、取引の無効や紛争の発生など、重大な問題が生じる可能性があります。ここでは、M&Aにおける法務手続きの重要性について、具体的な要素に分けて解説していきます。

M&Aの法務手続きとは

M&Aの法務手続きは、取引を円滑かつ合法的に進めるために、必要な法的事項を順守し、関係するすべての当事者の権利や義務を適切に処理することを目的としています。具体的には、秘密保持契約の締結、デューデリジェンスの実施、契約書の作成、法的リスクの評価などが含まれます。

これらの手続きは、取引の各段階で発生する法的リスクを最小限に抑え、M&Aが計画通りに進行するよう支援します。たとえば、秘密保持契約は、取引の初期段階で重要な情報が漏洩しないようにするために不可欠です。一方で、デューデリジェンスは、買収対象企業に潜在的な法的リスクがないかを確認するための重要なプロセスであり、これにより、取引後のトラブルを防止することができます。

なぜM&Aに法務が必要なのか?

M&Aは、単なる企業の売買にとどまらず、法的な権利や義務の移転を伴う複雑な取引です。これには、会社法や金融商品取引法、独占禁止法、労働契約承継法など、多くの法律が関連します。これらの法律を遵守しなければ、取引は無効となり、さらには法的な責任を問われる可能性があります。

M&Aにおいて法務が必要とされるのは、取引が複数の法律にまたがるためです。たとえば、会社法に基づく手続きは、取引の合法性を確保するために必要不可欠です。また、労働契約承継法は、M&Aにおいて労働者の権利を保護するために重要です。これらの法律を無視すると、取引が無効になるリスクがあるだけでなく、企業の信用や評判にも悪影響を及ぼす可能性があります。

法務手続きがM&Aの成否に与える影響

法務手続きがM&Aの成否に与える影響は非常に大きいです。適切な法務手続きを経ないM&Aは、後に重大な問題を引き起こす可能性があります。たとえば、法務デューデリジェンスの不足により、買収後に想定外のリスクが発覚した場合、その対応に多額のコストがかかることがあります。また、契約書の内容が不十分であった場合、取引後に発生する紛争に適切に対応できず、最悪の場合、取引が破談になることもあります。

このように、M&Aの成功には、法務手続きが欠かせません。法務手続きが適切に行われることで、取引の透明性が確保され、関係者全員が安心して取引を進めることができるのです。したがって、M&Aを成功させるためには、初期段階から法務手続きに十分な注意を払い、専門家の助言を仰ぐことが重要です。

M&Aに関連する主な法律

M&Aを適法かつ円滑に進めるためには、関連する多くの法律を正しく理解し、遵守することが不可欠です。M&Aに関連する法令は、その取引の性質や業種、企業の規模によって異なりますが、いくつかの法律はほぼすべてのM&A取引において重要な役割を果たします。ここでは、M&Aに関連する主な法律として、会社法、労働契約承継法、独占禁止法、金融商品取引法、建設業法およびその他の許認可に関する法律について解説します。

会社法

会社法は、M&Aにおいて最も基本的かつ重要な法律の一つです。この法律は、会社の設立、組織、運営、管理に関する規定を定めており、企業がM&Aを実行する際には必ず適用されます。会社法は、特にM&Aに関しては、会社債権者や労働者の保護を目的としたさまざまな手続きや対抗要件を規定しています。

会社法におけるM&A関連の規定には、例えば、合併や会社分割を行う際の債権者異議手続きや、株主への通知義務などが含まれます。これらの手続きを怠ると、取引が無効となるリスクがあるため、適切な法的手続きを踏むことが重要です。また、労働者の権利保護にも配慮が求められ、特に合併や会社分割においては、労働契約の承継や労働条件の変更について、会社法上の特別な規定に従う必要があります。

労働契約承継法

労働契約承継法は、会社分割に伴う労働者の保護を目的とした法律です。この法律は、会社法に基づく会社分割において、労働契約の承継が行われる際に適用されます。会社分割とは、企業の一部門や事業を別会社に移転することで、M&Aの一形態としてしばしば利用されます。

労働契約承継法は、労働者の権利保護を強化するために、分割会社と承継会社の双方に対して、労働契約の承継に関する手続きを厳格に履行することを義務付けています。具体的には、労働者や労働組合に対する通知義務、労働契約の承継に関する特例、労働協約の承継に関する特例などが規定されています。また、労働者が不利益を被ることがないよう、会社分割に際しては労働者の理解と協力を得るための手続きも必要です。労働契約承継法に基づくこれらの手続きは、M&Aが適法に行われるための重要な要素となります。

独占禁止法

独占禁止法は、公正かつ自由な競争を維持することを目的として、企業結合や不公正な取引方法を規制する法律です。M&Aにおいて、特に企業結合が競争を制限する可能性がある場合、独占禁止法の規定に従う必要があります。

独占禁止法は、一定の取引分野における競争を実質的に制限する企業結合を禁止しており、これには合併、事業譲受、株式取得、会社分割などが含まれます。企業結合を行う際には、事前に公正取引委員会に届出を行い、競争への影響を審査してもらう必要があります。この事前届出制度により、公正取引委員会は企業結合が市場に与える影響を評価し、必要に応じて競争を確保するための措置を講じることができます。M&Aにおいて、この独占禁止法の遵守は極めて重要であり、違反すると取引が無効となるリスクや巨額の罰金が科される可能性があります。

金融商品取引法

金融商品取引法は、主に有価証券取引に関する規制を定める法律であり、M&Aにおいても重要な役割を果たします。この法律は、企業内容等の開示規制、金融商品取引業者に対する規制、金融商品取引所に対する規制などを定めており、特に上場企業のM&Aにおいて適用されます。

金融商品取引法の目的は、国民経済の健全な発展と投資者の保護です。このため、有価証券の取引においては、企業内容の適時適切な開示が求められます。特に、株式の公開買付(TOB)は、金融商品取引法の規制対象となり、透明性と公正性が確保されるよう厳格なルールが設けられています。また、インサイダー取引の規制もこの法律の一環として重要であり、未公開情報を利用した不正な取引を防止することが求められます。金融商品取引法を遵守しないM&Aは、重大な法的リスクを伴い、企業の信頼性や市場での評価に悪影響を及ぼす可能性があります。

建設業法およびその他の許認可に関する法律

建設業法は、建設業を営む企業に対して適用される法律であり、M&Aにおいてもその重要性は高いです。建設業法は、建設業を営む者が一定の資格や条件を満たしていることを確認し、適正な業務運営を確保するために、建設業許可を受けることを義務付けています。M&Aによる事業承継や会社分割などの場合、建設業許可の承継が問題となることが多く、これを適法に行うためには、新たに許可を取得する必要がある場合もあります。

さらに、建設業法以外にも、M&Aに関連する許認可制度は多岐にわたります。例えば、医療法人や老人ホームなどの許認可を必要とする業種では、事業譲渡や会社分割の際に、その許認可が適切に承継できるかを確認することが不可欠です。これらの許認可に関する法律を遵守しない場合、M&A後に事業が停止するリスクや、事業価値が損なわれる可能性があるため、十分な法務チェックが求められます。

このように、M&Aに関連する主な法律は多岐にわたり、それぞれの法律が企業の取引や統合にどのように影響するかを理解することが、成功するM&Aを実現するための鍵となります。適切な法務手続きを踏むことで、取引に伴うリスクを最小限に抑え、円滑な事業統合を目指すことができるのです。

M&Aのプロセスにおける法務手続き

M&Aの成功には、法務手続きが不可欠です。法務手続きは、取引の各段階で発生するリスクを最小限に抑え、取引を合法かつ円滑に進めるための重要なステップです。これらの手続きには、秘密保持契約書(NDA)の締結、基本合意書(LOI/MOU)の作成、法務デューデリジェンスの実施、そして最終契約書の締結が含まれます。ここでは、これらの各手続きについて詳細に解説します。

秘密保持契約書(NDA)の作成と締結

秘密保持契約書(NDA)は、M&Aプロセスの最初の段階で締結されることが一般的です。この契約書は、取引の初期段階で開示される企業の重要な情報を守るためのものであり、その役割と重要性は非常に高いです。M&Aでは、買い手と売り手が互いに企業の財務状況や戦略的情報を共有することが不可避ですが、この情報が不適切に開示された場合、競争優位性が失われたり、取引が破談した場合に深刻なダメージを被る可能性があります。

NDAの作成時には、いくつかの注意点があります。まず、秘密情報の定義を明確にすることが重要です。何が秘密情報に該当し、それがどのように扱われるべきかを契約書に具体的に記載します。また、情報の開示範囲や、情報を共有する人物の範囲を制限する条項も必要です。さらに、情報が不要になった場合の返却や廃棄に関する取り決めも重要です。

NDAの法的効力については、その限界を理解しておくことも重要です。NDAは法的に有効ですが、違反が発生した場合の損害賠償の範囲や、実際に秘密情報の漏洩があった場合にどの程度の保護が得られるかは状況により異なります。そのため、NDAを締結する際には、リスクを十分に評価し、契約内容を慎重に検討することが求められます。

基本合意書(LOI/MOU)の作成と締結

基本合意書(LOI/MOU)は、M&Aプロセスにおいて、当事者間での基本的な合意事項を確認し、取引の進行に向けた枠組みを設定するために作成される文書です。この書面は、取引の方向性を明確にする役割を果たし、最終契約に向けた重要なステップとなります。

基本合意書の目的は、取引の基本条件を定義し、当事者間での合意を文書化することにあります。これには、取引価格や支払い条件、スケジュール、デューデリジェンスの範囲などが含まれます。特に、独占交渉権や秘密保持義務についての取り決めが重要です。これにより、取引が他の競合者によって妨害されるリスクを回避し、双方が安心して交渉を進めることが可能となります。

基本合意書には、法的拘束力を持たせる条項と持たせない条項が存在します。通常、取引の実行義務そのものには法的拘束力を持たせない一方で、独占交渉権や秘密保持義務などについては法的拘束力を持たせることが一般的です。このように、どの部分に法的拘束力を持たせるかを明確に定めておくことが、基本合意書作成時の重要なポイントです。

法務デューデリジェンスの実施

法務デューデリジェンスは、M&Aプロセスにおいて欠かせない重要な手続きです。これは、買収対象企業に関する法的リスクを洗い出し、そのリスクを最小限に抑えるための情報収集・分析を行うプロセスです。法務デューデリジェンスの目的は、企業が抱える潜在的な法的問題を事前に把握し、M&Aの最終決定に影響を与える重要な要素として考慮することにあります。

デューデリジェンスでは、特に株式の帰属、過去の訴訟リスク、適法性、労働契約、知的財産権、不動産権利などが確認されます。例えば、過去に企業が関与した訴訟や、未解決の法的紛争が存在するかどうか、また、労働契約が適法に締結されているかなどが重点的に調査されます。これらの調査結果は、M&Aの価格交渉や最終契約書の内容に大きな影響を与えることになります。

法務デューデリジェンスの実施には、弁護士や法務専門家の役割が重要です。専門家は、デューデリジェンスの進行を指揮し、発見されたリスクに対する適切な対策を講じるための助言を提供します。専門家による法務デューデリジェンスの実施により、M&Aプロセス全体がより確実でリスクの少ないものとなります。

最終契約書の締結と注意点

最終契約書は、M&A取引を正式に確定するための最も重要な文書です。これは、売り手と買い手が合意に達した取引条件を具体的に記載した契約書であり、これを締結することで、取引が法的に確定します。最終契約書には、取引の主要条件、価格、支払い条件、クロージング条件、リスク分担、表明保証、違反時の救済措置などが詳細に記載されます。

最終契約書において特に重要なのは、リスクヘッジの手法を適切に取り入れることです。例えば、買収後に発覚する可能性のあるリスクに対して、売り手が一定の期間責任を負うようにする「表明保証条項」や、特定の条件が満たされない場合に取引を撤回できる「クロージング条件」などを盛り込むことが一般的です。これにより、買い手は取引後のリスクを最小限に抑えることができます。

最終契約書を作成する際には、すべての重要項目が適切に網羅されていることを確認することが不可欠です。これには、取引の完了後に発生する可能性のある問題を予測し、それに対する対応策を契約書に明確に記載することが求められます。また、最終契約書の内容が将来的にトラブルとなる可能性を減らすために、専門家の助言を受けながら慎重に作成することが重要です。

M&Aにおける弁護士の役割

M&Aは、企業の経営戦略において重要な手段であり、その成功には法務の適切な対応が欠かせません。この過程において、弁護士は専門的な法的知識と経験を活かして、取引の安全性と円滑な進行を確保する役割を果たします。弁護士の関与は、M&Aの各段階において法的リスクを最小限に抑え、当事者双方の利益を保護するために不可欠です。ここでは、弁護士がM&Aにおいて果たす具体的な役割と、その関与が求められる場面について解説します。

弁護士の関与が求められる場面

M&Aにおいて弁護士の関与が求められる場面は多岐にわたります。まず、法務手続き全般において、弁護士は重要な役割を果たします。M&A取引には、秘密保持契約の締結、基本合意書の作成、デューデリジェンスの実施、最終契約書の締結といった、さまざまな法的手続きが伴います。これらの手続きを適切に進めるためには、各プロセスにおける法的リスクを理解し、適切な対応策を講じる必要があります。弁護士は、これらの手続き全般において、法的な助言を提供し、取引を円滑に進めるためのサポートを行います。

また、弁護士はM&A仲介会社との協力関係においても重要な役割を果たします。M&A仲介会社は、買い手と売り手のマッチングを行い、取引の交渉をサポートしますが、法的な手続きやリスク評価については弁護士の専門知識が必要とされます。弁護士は、仲介会社と連携しながら、取引の法的側面を担当し、契約書の作成やリスクの分析を行います。この協力関係により、M&Aプロセスが円滑に進行し、取引が法的に問題なく実施されることが保証されます。

具体的に、弁護士がM&Aにおいて果たす業務としては、契約書の作成や交渉のサポート、法務デューデリジェンスの実施、そして取引後の法的対応の準備などが挙げられます。これらの業務を通じて、弁護士はM&A取引のリスクを最小限に抑え、取引が円滑に進むよう支援します。

M&Aの各プロセスにおける弁護士のサポート

弁護士は、M&Aの各プロセスにおいて、法的なチェックやアドバイスを提供することで、取引の成功に貢献します。まず、秘密保持契約書(NDA)や基本合意書(LOI/MOU)のチェックは、取引の初期段階での重要な業務です。弁護士は、これらの契約書が適切に作成され、法的に問題がないかを確認します。NDAでは、秘密情報の定義や取り扱いに関する条項が適切かどうかをチェックし、LOI/MOUでは、取引の基本条件や法的拘束力を持つ条項が明確に定められているかを確認します。

次に、弁護士は法務デューデリジェンスの実施とリスク評価においても重要な役割を果たします。デューデリジェンスは、M&Aにおいて買収対象企業の法的リスクを評価するために必要なプロセスであり、これには企業の契約書、労働契約、訴訟リスク、知的財産権、不動産権利などの調査が含まれます。弁護士は、これらのリスクを的確に評価し、取引に伴う法的リスクを最小限に抑えるためのアドバイスを提供します。特に、過去の訴訟や現在進行中の紛争がある場合、それらが取引後にどのような影響を及ぼすかを慎重に分析します。

さらに、最終契約書の作成においても、弁護士のサポートは不可欠です。最終契約書は、取引の条件を明確に定め、当事者間の合意を法的に拘束する重要な文書です。弁護士は、取引条件が法的に有効であり、クライアントの利益が十分に保護されるように契約書を作成します。また、リスクヘッジのために表明保証条項や違反時の救済措置を盛り込むなど、将来のトラブルを未然に防ぐための手段を契約書に反映させます。

弁護士は、M&Aプロセスの各段階で法的なサポートを提供し、取引が法的に問題なく進行するよう支援します。これにより、クライアントは取引のリスクを最小限に抑え、M&Aが成功する可能性を高めることができます。弁護士の専門的な知識と経験を活かすことで、M&Aはより安全かつ効果的に実施されるのです。

まとめ: M&A成功の鍵は適切な法務手続きにあり!

M&Aの成功には、法務手続きを適切に行うことが鍵となります。この記事で解説したように、秘密保持契約書の作成から最終契約書の締結まで、各段階での法務的な対応が重要です。また、会社法や労働契約承継法、独占禁止法、金融商品取引法、建設業法など、関連する法令を正しく理解し、遵守することが求められます。さらに、弁護士のサポートを受けることで、取引に伴うリスクを最小限に抑え、M&Aを円滑に進めることが可能です。法務手続きの重要性を認識し、慎重に進めることで、企業はM&Aを通じて持続的な成長と成功を実現できるでしょう。

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