M&Aの方法とは?手法・手続きの流れを分かりやすく解説!

M&Aは、企業が成長戦略として積極的に取り組む手法の一つです。M&Aを通じて、他社の経営資源を取り込むことで、自社の事業を強化したり、新しい市場に参入したりすることができます。しかし、M&Aにはさまざまな手法があり、それぞれの手法には特有のメリット・デメリットや手続きの流れがあります。本記事では、M&Aの代表的な手法を一覧で紹介し、それぞれの手法の基本的な仕組みや手続きの流れ、メリット・デメリットを解説します。M&Aを成功させるための手法選択のポイントについても触れていますので、ぜひ参考にしてください。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

M&Aの手法一覧

M&Aの手法には多岐にわたる選択肢があり、それぞれの手法には独自のメリットとデメリットがあります。企業の状況や目的に応じて最適な手法を選択することが成功の鍵です。ここでは、代表的なM&Aの手法を解説します。

株式譲渡

株式譲渡は、売り手の株主が保有する株式を買い手に譲渡することにより、経営権を移転させる手法です。この方法はM&Aの中で最もシンプルで一般的に利用される手法です。

株式譲渡の大きなメリットは、手続きが比較的簡便であることです。株式の譲渡には、基本的に株主間の合意と株式譲渡契約書の締結が必要となります。売り手側の企業の組織や業務に対する変更が少ないため、事業の継続性が保たれやすい点も重要です。また、個人株主が株式譲渡による対価を受け取る場合、税負担が一律20.315%と比較的低く抑えられる点も魅力です。

一方で、株式譲渡にはデメリットもあります。例えば、買い手側は譲り受けた企業の全ての負債やリスクを引き継ぐことになります。また、全ての株主の同意が得られない場合、株式譲渡が実行できないこともあります。特に、少数株主の反対や連絡が取れない株主がいる場合、手続きが複雑化する可能性があります。

事業譲渡

事業譲渡は、企業が保有する特定の事業や資産を選別して売買する手法です。これは、売り手が特定の事業のみを売却し、他の事業を継続する場合に適しています。

事業譲渡のメリットは、売り手が不要な事業を売却し、必要な事業に集中することができる点です。また、買い手は特定の事業だけを取得するため、不要な負債やリスクを引き継がないという利点があります。これにより、買い手のリスクが軽減され、投資額も抑えられる可能性があります。

しかし、事業譲渡には手続きが煩雑であるというデメリットがあります。売り手側の企業と外部との契約の引き継ぎや、従業員の転籍承諾書の取得など、多くのステップが必要となります。また、事業譲渡で生じた利益には法人税が課されるため、税負担が大きくなることがあります。

会社分割

会社分割は、企業の一部の事業を分離し、別の会社に承継させる手法です。これには新設分割と吸収分割の2種類があります。

新設分割は、新しい会社を設立し、その会社に事業を承継させる方法です。吸収分割は、既存の他の会社に事業を承継させる方法です。会社分割のメリットは、特定の事業を切り離して他の企業に売却できる点です。これにより、売り手は不要な事業を整理し、効率的な経営を目指すことができます。

一方、会社分割には手続きが複雑で時間がかかるというデメリットがあります。債権者保護手続が必要となり、これに少なくとも1か月半の期間がかかります。また、分割対象の事業に不動産が含まれる場合、不動産取得税や登録免許税が発生するため、コストが増える可能性があります。

合併

合併は、複数の企業が一つに統合される手法であり、吸収合併と新設合併の2種類があります。吸収合併は、既存の企業が他の企業を吸収する方法であり、新設合併は、新しい企業を設立し、統合される企業が消滅する方法です。

合併のメリットは、事業規模の拡大やシナジー効果を迅速に実現できる点です。企業文化や経営資源の統合により、競争力の向上が期待できます。また、包括承継により、従業員や取引先との関係が維持されやすい点も利点です。

しかし、合併にはデメリットもあります。異なる企業文化の統合には時間と労力がかかり、PMI(Post Merger Integration)が失敗すると、想定どおりのシナジー効果が得られないことがあります。また、合併には多くの法的手続きが必要であり、時間とコストがかかる点も注意が必要です。

株式交換

株式交換は、買い手企業が売り手企業の株式を取得し、その対価として自社の株式を売り手企業の株主に交付する手法です。これにより、買い手企業は売り手企業の全株式を取得し、完全子会社化することができます。

株式交換のメリットは、買い手が現金を用意する必要がないため、資金調達の負担が軽減される点です。また、株式交換により、買い手企業の株主構成が変わり、新しい株主との関係が構築される点も利点です。

一方、株式交換にはデメリットもあります。株式を対価とするため、買い手企業の株主構成が変わり、既存株主の持ち株比率が希薄化する可能性があります。また、株式交換には一定の法的手続きが必要であり、時間とコストがかかる点も注意が必要です。

株式移転

株式移転は、既存の複数の企業が新たに設立する会社に全株式を移転し、その新会社の完全子会社となる手法です。これにより、持株会社体制が構築されます。

株式移転のメリットは、持株会社体制の構築により、グループ全体の経営管理が一元化され、効率化が図られる点です。また、株式移転により、新たな株式が発行されるため、資金調達の手段としても利用できます。

しかし、株式移転にはデメリットもあります。新会社の設立には一定の法的手続きが必要であり、時間とコストがかかる点が挙げられます。また、新会社の設立に伴い、従業員や取引先との関係が再構築されるため、PMIの過程で混乱が生じる可能性があります。

第三者割当増資

第三者割当増資は、売り手企業が新株を発行し、特定の第三者に引き受けてもらう手法です。この手法は資金調達を目的として行われ、買い手企業は新たに発行された株式を取得します。

第三者割当増資のメリットは、売り手企業が資金を調達しながら、買い手企業が経営に参画できる点です。これにより、売り手企業の資金力が強化され、成長戦略を推進するための資金が確保されます。

一方、第三者割当増資にはデメリットもあります。新株を発行するため、既存株主の持ち株比率が希薄化し、株主構成が変わる可能性があります。また、新株発行には株主総会の特別決議が必要であり、手続きが煩雑で時間がかかる点も注意が必要です。

TOB(株式公開買付け)

TOB(Take Over Bid)は、買い手企業が売り手企業の株式を市場外で公開買付けする手法です。買い手企業は株式の買付価格や買付期間を公告し、売り手企業の株主から株式を買い取ります。

TOBのメリットは、買い手企業が一度に大量の株式を取得できる点です。また、株式公開買付けにより、株主から直接株式を買い取るため、迅速に経営権を取得できる点も利点です。

一方、TOBにはデメリットもあります。公開買付けには多額の資金が必要であり、買い手企業の資金負担が大きくなります。また、公開買付けが失敗すると、株価が大きく変動し、買い手企業の評判が悪化する可能性もあります。

MBO(経営陣買収)

MBO(Management Buyout)は、売り手企業の経営陣が自社の株式や事業部門を買収し、独立する手法です。経営陣は金融機関や投資ファンドからの支援を受けて、買収資金を調達します。

MBOのメリットは、経営陣が自社の経営権を引き継ぐため、経営の安定性が保たれる点です。また、経営陣が買収後も継続して経営に携わるため、M&A後の事業運営がスムーズに進む点も利点です。

一方、MBOにはデメリットもあります。経営陣が買収資金を調達するために、多額の借入や出資を受ける必要があり、資金負担が大きくなる可能性があります。また、経営陣が買収後の経営に専念できない場合、事業の成長が停滞するリスクもあります。

株式譲渡

ここからは、それぞれのM&A手法に関して解説していきましょう。まずは、M&A手法の中でも代表的な手法である株式譲渡について解説します。

株式譲渡の概要

株式譲渡は、売り手企業の株主が保有する株式を買い手企業に譲渡することにより、経営権を移転するM&A手法の一つです。株式譲渡は、M&Aにおいて最もシンプルで一般的に利用される方法であり、その手続きの簡便さとスピーディーな実行が魅力です。

この手法では、売り手企業の株主が株式を売却し、買い手企業がその対価として現金を支払います。株式の所有権が移転することで、買い手企業は売り手企業の経営権を取得し、企業全体を支配することが可能となります。株式譲渡の手続きには、株主間の合意、株式譲渡契約書の締結、株主名簿の変更などが含まれます。

株式譲渡の具体的な手続きには以下のステップがあります。まず、売り手企業の株主と買い手企業との間で基本合意書が締結され、譲渡の基本条件が合意されます。その後、デューデリジェンス(買収監査)が行われ、売り手企業の財務状況や事業内容が調査されます。最終的に、株式譲渡契約書が締結され、株主名簿の変更が行われて譲渡が完了します。

株式譲渡のメリット・デメリット

株式譲渡には、いくつかのメリット・デメリットがあります。

株式譲渡のメリット

まずは、株式譲渡における重要なメリットを解説していきます。

1. 手続きの簡便さ

株式譲渡は、比較的簡便な手続きで実行できるため、多くの企業が選択する手法です。主に株主間の合意と株式譲渡契約書の締結が必要なだけであり、複雑な法的手続きが少ない点が特徴です。

2. 事業の継続性

株式譲渡により、売り手企業の事業はそのまま継続されます。株主が変わるだけで、企業の名称や事業内容、従業員の雇用条件などが大きく変更されることはありません。そのため、従業員や取引先との関係が維持されやすく、業務の中断を避けることができます。

3. 税負担の軽減

個人株主が株式譲渡による対価を受け取る場合、税負担は一律20.315%と比較的低く抑えられます。これは給与所得や配当の累進課税(最大55%)と比較しても非常に有利な条件です。したがって、個人株主にとっては、株式譲渡は税負担を軽減する効果的な手法となります。

4. 資金調達の容易さ

買い手企業が株式を取得することで、迅速に売り手企業の経営権を掌握できるため、資金調達や事業戦略の見直しがスムーズに行われます。また、買い手企業が即座に売り手企業の資産を利用できるため、経営統合後のシナジー効果が早期に期待できます。

株式譲渡のデメリット

一方で、株式譲渡にはいくつかのデメリットも存在します。

1. リスクの包括承継

株式譲渡では、買い手企業が売り手企業の全ての資産と負債を引き継ぐことになります。これには、簿外債務や潜在的な法的リスクも含まれるため、買い手企業にとって予期せぬ負担が発生する可能性があります。このリスクを軽減するためには、事前のデューデリジェンスが不可欠です。

2. 全株主の同意が必要

株式譲渡を実行するためには、売り手企業の全ての株主の同意が必要です。特に、一部の株主が反対する場合や、連絡が取れない株主がいる場合、手続きが複雑化し、譲渡が難航することがあります。この問題を解決するためには、適切なコミュニケーションと交渉が重要です。

3. 株主構成の変化

株式譲渡により、買い手企業の株主構成が変わるため、既存の株主の持ち株比率が希薄化する可能性があります。これは、既存株主にとって不利益となる場合があり、株主間の調整が必要となることがあります。

4. 企業文化の統合の難しさ

買い手企業と売り手企業の企業文化が異なる場合、経営統合後の文化の融合に時間と労力がかかることがあります。特に、経営方針や働き方の違いが大きい場合、社員のモチベーション低下や業務の非効率化が懸念されます。

株式譲渡は、その簡便さと実行の迅速さから多くの企業にとって魅力的な手法ですが、包括承継によるリスクや全株主の同意の必要性など、注意すべき点も少なくありません。これらのメリットとデメリットを十分に理解し、適切な準備と対応を行うことが成功の鍵となります。

事業譲渡

次に、事業譲渡について解説します。

事業譲渡の概要

事業譲渡は、企業が特定の事業や資産を選別し、それを第三者に売却する手法です。この方法では、売り手企業は不要な事業部門や資産を選び、買い手企業に譲渡します。これにより、買い手企業は必要な事業や資産を取得し、売り手企業は経営資源を効率的に再配置することができます。事業譲渡は、特に中小企業のM&Aにおいて広く用いられる手法で、迅速な資金調達や事業整理が可能です。

事業譲渡の基本的な仕組み

事業譲渡は、企業が特定の事業や資産を選別し、それを第三者に売却する手法です。この手法では、売り手企業は不要な事業部門や資産を選び、買い手企業に譲渡します。これにより、買い手企業は必要な事業や資産を取得し、売り手企業は経営資源を効率的に再配置することができます。

事業譲渡の手続きの流れ

事業譲渡の手続きは、基本合意書の締結から始まり、デューデリジェンス、最終契約書の締結、株主総会の承認、譲渡の実行、そして決済という一連の流れを経て進行します。それぞれのステップには重要なポイントがあり、特にデューデリジェンスでは譲渡対象事業のリスクや価値の評価が行われます。

事業譲渡のメリット・デメリット

事業譲渡には多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。企業が事業譲渡を検討する際には、これらのメリットとデメリットを十分に理解し、適切な判断を行うことが重要です。

事業譲渡のメリット

事業譲渡には、選別的な譲渡が可能である点やリスクの遮断ができる点、迅速な資金調達が可能である点、事業継続の確保ができる点など、多くのメリットがあります。これにより、企業は不採算事業や非コア事業を整理し、経営資源を効率的に再配置することができます。

事業譲渡のデメリット

一方で、事業譲渡には手続きの煩雑さや税負担の増加、従業員の不安、競業避止義務などのデメリットも存在します。これらのデメリットを十分に理解し、適切な準備と対応を行うことが、事業譲渡の成功に繋がります。

会社分割

さらに、会社分割について解説していきましょう。

会社分割の概要

会社分割とは、企業が特定の事業部門を切り離し、新たに設立する会社や既存の会社に承継させる手法です。この手法は、企業の再編や経営効率の向上を目的として用いられます。事業譲渡と異なり、包括的に資産・負債・権利義務を承継するため、手続きがスムーズに進むケースが多いです。特に、非事業用資産の切り離しや特定事業のスピンオフに適しています。

会社分割の基本的な仕組み

会社分割は、事業部門を他の会社に包括的に承継させる手法です。これにより、企業は特定の事業部門を分離し、別の法人として運営することが可能になります。分割された事業部門は、承継会社に移るため、既存の契約や権利義務もそのまま引き継がれます。このため、手続きが事業譲渡に比べて簡便で、事業の継続性が保たれやすいという特徴があります。

会社分割の手続きの流れ

会社分割の手続きは、まず取締役会の決議から始まります。その後、分割計画を策定し、株主総会の承認を得ます。次に、債権者保護手続きとして、官報への公告や債権者への通知を行います。この手続きには約1か月半の期間が必要です。最終的に、分割計画が確定した後、新会社の設立や既存会社への事業承継を実行し、必要な登記手続きを行います。

会社分割の種類

会社分割にはいくつかの種類があり、分割の方法や対価の受け取り方によって異なります。主なものとして、新設分割と吸収分割があります。

新設分割

新設分割は、事業部門を分割し、新たに設立する会社に承継させる手法です。新設分割の場合、分割会社は新たに設立された会社に対して事業を譲渡し、その対価として新設会社の株式を受け取ります。この方法は、企業グループの再編や新規事業の立ち上げに利用されることが多いです。分割後、新設会社が独立した法人として事業を運営するため、組織の柔軟な運用が可能になります。

吸収分割

吸収分割は、事業部門を既存の会社に承継させる手法です。吸収分割では、分割会社は既存の承継会社に対して事業を譲渡し、その対価として承継会社の株式や現金を受け取ります。これにより、承継会社は分割会社の事業部門を包括的に引き継ぐことができます。吸収分割は、事業の一体化を図りやすく、効率的な経営統合が可能です。

会社分割のメリット・デメリット

会社分割には多くのメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。企業はこれらを十分に理解し、適切な戦略を立てることが重要です。

会社分割のメリット

会社分割の主なメリットには、以下の点があります。

1. 事業の継続性の確保

分割後も事業が継続されるため、取引先や従業員への影響を最小限に抑えることができます。契約や許認可も包括的に承継されるため、手続きがスムーズに進行します。

2. 税負担の軽減

非事業用資産を分割し、新会社に承継させることで、譲渡時の税負担を軽減することができます。特に、会社分割を活用した資産管理が効果的です。

3. 経営資源の再配置

不要な事業を分離することで、経営資源を効率的に再配置することができます。これにより、企業全体の競争力が向上します。

4. 迅速な再編

分割により、迅速な事業再編が可能となり、新たなビジネスチャンスに対応しやすくなります。

会社分割のデメリット

一方で、会社分割には以下のデメリットも存在します。

1. 手続きの複雑さ

債権者保護手続きや株主総会の承認が必要となるため、手続きが複雑で時間がかかります。また、司法書士や弁護士の費用も発生します。

2. 分割後の調整

分割後の新会社や承継会社との調整が必要となり、特に経営の統合には時間と労力がかかります。

3. 許認可の再取得

新設分割の場合、新会社が新たに許認可を取得する必要があるため、事業開始までに時間がかかることがあります。

4. 従業員の不安

分割により、従業員に不安が生じる可能性があり、適切な説明や対応が求められます。

会社分割は、企業の戦略的な再編を実現するための強力な手法ですが、その実行には慎重な準備と計画が必要です。各種メリットとデメリットを十分に理解し、専門家のアドバイスを受けながら進めることが成功の鍵となります。

合併

さらに、合併について解説していきましょう。

合併の概要

合併とは、複数の企業が統合して一つの会社になるM&A手法の一つです。この手法は、企業の規模を拡大し、経営資源を効率的に活用するために用いられます。合併には、吸収合併と新設合併の二つの主要な種類があります。吸収合併では、一方の会社が存続し、もう一方の会社は消滅します。一方、新設合併では、両方の会社が消滅し、新たに設立された会社がその事業を引き継ぎます。これにより、企業はシナジー効果を得ることができ、競争力を強化することができます。

合併の基本的な仕組み

合併の基本的な仕組みは、二つ以上の会社が一つに統合されるプロセスです。吸収合併の場合、一方の会社(存続会社)が他方の会社(消滅会社)を吸収し、存続会社がすべての権利義務を引き継ぎます。これにより、消滅会社の資産、負債、契約、従業員などが包括的に存続会社に移ります。新設合併の場合、両方の会社が消滅し、新たに設立された会社がその権利義務を引き継ぎます。このプロセスでは、従業員の雇用契約や取引先との契約も新会社に引き継がれるため、事業の継続性が確保されます。

合併の手続きの流れ

合併の手続きは、いくつかの段階を経て進められます。まず、合併する企業間で合併契約を締結します。この契約には、合併の目的、合併比率、合併後の組織構成などが含まれます。次に、両社の取締役会で合併契約の承認を得ます。承認後、株主総会で合併契約の承認を得る必要があります。この際、株主には合併に関する情報を提供し、質疑応答を行います。その後、合併に関する公告を行い、債権者保護手続きを実施します。最後に、合併の登記を行い、合併が正式に成立します。この一連の手続きにより、合併が法的に完了し、新たな企業体として事業を開始することができます。

合併の種類

合併には主に吸収合併と新設合併の二つの種類があります。それぞれの手法には、異なる特徴と適用場面があります。

吸収合併

吸収合併とは、一方の会社が他方の会社を吸収し、存続会社がすべての権利義務を引き継ぐ手法です。この場合、吸収される会社(消滅会社)は法的に消滅し、存続会社が事業を引き継ぎます。吸収合併は、迅速かつ効率的に統合を進めることができるため、スピーディーな再編が求められる場面でよく用いられます。存続会社がすべての権利義務を引き継ぐため、契約の再交渉や新たな許認可の取得が不要であり、手続きが比較的簡便です。

新設合併

新設合併とは、複数の会社が統合して新たに設立された会社がすべての権利義務を引き継ぐ手法です。この場合、統合される会社はすべて消滅し、新たに設立された会社が事業を引き継ぎます。新設合併は、企業文化や経営方針の違いをフラットにし、新たな企業文化を創造するために用いられることが多いです。新設会社がすべての権利義務を引き継ぐため、統合後の事業運営がスムーズに進む一方、新たな許認可の取得が必要となる場合があります。

合併のメリット・デメリット

合併には多くのメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。企業はこれらを十分に理解し、合併の戦略を立てることが重要です。

合併のメリット

合併にはいくつかのメリットがあります。

1.スケールメリットの享受

合併により企業規模が拡大し、調達力や販売力が強化されます。これにより、コスト削減や効率化が図れます。

2.経営資源の有効活用

合併により、両社の経営資源(人材、技術、設備など)を統合し、シナジー効果を生み出すことができます。

3.市場シェアの拡大

合併により、競争力が強化され、市場シェアを拡大することが可能です。特に、競争の激しい市場での地位向上に寄与します。

4.技術やノウハウの共有

合併により、両社の技術やノウハウを共有し、イノベーションの促進が期待できます。

合併のデメリット

他方で、合併にはデメリットがあるので注意しましょう。

1.企業文化の統合の難しさ

異なる企業文化を持つ企業同士が合併する場合、統合後の企業文化の調整が難航することがあります。これにより、内部対立やコミュニケーションの問題が生じることがあります。

2.一時的なコスト増加

合併に伴う統合コストや再編コストが発生し、一時的に経営負担が増加することがあります。特に、システム統合や組織再編にかかるコストは無視できません。

3.従業員の不安

合併に伴うリストラや役職変更などにより、従業員の不安やモチベーションの低下が生じることがあります。適切なコミュニケーションとサポートが求められます。

4.法的・規制上の手続きの複雑さ

合併には、法的および規制上の手続きが多数伴い、これが複雑で時間がかかる場合があります。専門家の助言を得ることが不可欠です。

合併は、企業の成長戦略として非常に有効な手法ですが、その実行には慎重な計画と準備が必要です。メリットとデメリットを十分に理解し、適切な戦略を立てることで、成功する合併を実現することができます。

株式交換と株式移転

加えて、株式分割と株式移転について解説します。

株式交換の概要

株式交換とは、一つの企業が他の企業の全株式を取得し、その対価として自社の株式を交付する手法です。この方法により、完全親子会社関係を構築することが可能です。株式交換は、買収される企業(子会社)の株主が、買収企業(親会社)の株主となるため、親会社の支配権を持ちながらも、子会社の運営に関与することができます。

株式交換の基本的な仕組み

株式交換の基本的な仕組みは、買収企業が売却企業の株式をすべて取得し、その対価として自社の株式を交付することにあります。例えば、A社がB社を買収する場合、A社はB社の株主に対してA社の株式を提供し、その見返りとしてB社の全株式を取得します。これにより、B社はA社の完全子会社となり、A社の株主はB社の経営に直接的な影響力を持つことになります。この方法は、現金を用意しなくても買収を実行できる点が特徴です。

株式交換の手続きの流れ

株式交換の手続きの流れは次の通りです。まず、買収企業と売却企業の間で株式交換契約を締結します。この契約には、株式交換の目的、対価となる株式の種類や数、株式交換の効力発生日などが明記されます。次に、両社の取締役会で株式交換契約の承認を得た後、株主総会でその承認を得る必要があります。株主総会では、株主に対して株式交換の詳細を説明し、質問や意見を受け付けることが一般的です。最終的に、株式交換契約が承認されると、株式交換の効力発生日に合わせて実際の株式交換が行われます。このプロセスを経て、売却企業は買収企業の完全子会社となります。

株式移転の概要

株式移転とは、既存の企業が新たに設立された企業の完全子会社となり、新設企業の株式を既存企業の株主に交付する手法です。これにより、持株会社体制(ホールディングス体制)が構築されます。株式移転は、複数の企業を一つのグループとして統合する際に用いられることが多く、企業グループ全体の統制や管理を強化する目的で実施されます。

株式移転の基本的な仕組み

株式移転の基本的な仕組みは、既存の企業が新設された企業の完全子会社となり、既存企業の株主は新設企業の株主になることです。例えば、A社とB社が株式移転を行う場合、両社は新たに設立されたC社の完全子会社となります。そして、A社とB社の株主は、それぞれの持ち株に応じてC社の株式を取得します。これにより、C社を頂点とする企業グループが形成され、グループ全体の戦略的な運営が可能となります。

株式移転の手続きの流れ

株式移転の手続きの流れは次の通りです。まず、既存企業間で株式移転計画を策定し、株式移転契約を締結します。この契約には、株式移転の目的、新設企業の設立、株式移転の効力発生日、株主に対する新設企業の株式の配分方法などが含まれます。次に、各既存企業の取締役会で株式移転計画の承認を得た後、株主総会でその承認を得る必要があります。株主総会では、株主に対して株式移転の詳細を説明し、質問や意見を受け付けます。最終的に、株式移転契約が承認されると、株式移転の効力発生日に新設企業が設立され、既存企業はその完全子会社となります。これにより、株主は新設企業の株式を取得し、持株会社体制が完成します。

株式交換と株式移転のメリット・デメリット

株式交換と株式移転には、それぞれ特有のメリットとデメリットが存在します。これらを理解することで、適切なM&A手法を選択するための参考になります。

株式交換のメリット

株式交換の主なメリットは以下の通りです。

1. 資金の節約

株式交換では、現金を用意する必要がないため、資金調達の負担が軽減されます。これにより、企業は財務リスクを抑えつつ、効率的にM&Aを実行できます。

2. スピーディーな統合

株式交換は手続きが比較的簡便であり、迅速に統合を進めることができます。これにより、短期間でシナジー効果を発揮しやすくなります。

3.株主の利益確保

株式交換により、売却企業の株主は買収企業の株主となり、引き続き企業の成長に参加することができます。これにより、株主の利益が確保されます。

株式交換のデメリット

一方で、株式交換には以下のデメリットもあります。

1. 株主構成の変化

株式交換により、買収企業の株主構成が変わるため、経営の意思決定に影響を与える可能性があります。特に、少数株主の影響力が増大することが懸念されます。

2.潜在的なリスクの承継

株式交換により、買収企業は売却企業のすべてのリスクを引き継ぐことになります。これには、簿外債務や法的な問題なども含まれるため、事前のデューデリジェンスが重要です。

株式移転のメリット

株式移転の主なメリットは以下の通りです。

1.グループ経営の強化

株式移転により、持株会社体制が構築され、グループ全体の戦略的な運営が可能となります。これにより、企業グループの統制力と経営効率が向上します。

2.資本の有効活用

株式移転は、現金を用意する必要がないため、資本を有効に活用することができます。これにより、企業は成長戦略に集中することができます。

3.柔軟な経営戦略

株式移転により、企業は柔軟な経営戦略を展開することができます。例えば、子会社の売却や再編を容易に行うことができます。

株式移転のデメリット

一方で、株式移転には以下のデメリットもあります。

1. 手続きの複雑さ

株式移転は、手続きが複雑であり、多くの時間とコストがかかります。特に、新設企業の設立や株主総会の承認手続きが必要です。

2.経営統合の難しさ

株式移転により、複数の企業が一つのグループとして統合されるため、企業文化や経営方針の統合が難航する可能性があります。

3.株主の不安

株式移転により、株主は新設企業の株式を受け取るため、経営の安定性や将来性に対する不安が生じることがあります。これにより、株主の信頼を確保するためのコミュニケーションが重要です。

株式交換と株式移転は、それぞれ異なる特性を持つM&A手法であり、企業の戦略や状況に応じて適切な手法を選択することが重要です。各手法のメリットとデメリットを十分に理解し、慎重な計画と準備を行うことで、成功するM&Aを実現することができます。

第三者割当増資

さらに、ここからは、第三者割当増資について解説します。

第三者割当増資の概要

第三者割当増資とは、企業が新株を発行し、その新株を特定の第三者に引き受けてもらうことで資金を調達する手法です。この手法は、企業が特定の投資家や企業と強い関係を築きたい場合や、戦略的パートナーシップを結びたい場合によく用いられます。第三者割当増資により、企業は必要な資金を調達しつつ、経営に参画してもらうことができます。

第三者割当増資の基本的な仕組み

第三者割当増資の基本的な仕組みは、新株を発行して特定の第三者に割り当てることにあります。この第三者は、通常、企業の成長を支援するための投資家や戦略的パートナー企業です。新株発行により、既存株主の持株比率は希薄化しますが、企業は新たな資金を得ることができます。第三者割当増資は、既存株主の優先購買権を行使しないため、迅速に資金調達が可能です。

例えば、A社がB社からの資金提供を受ける場合、A社は新株を発行し、それをB社に割り当てます。B社はその新株を購入することでA社の株主となり、経営に参画することができます。これにより、A社は資金を得るとともに、B社との協力関係を強化することができます。

第三者割当増資の手続きの流れ

第三者割当増資の手続きの流れは以下の通りです。

1. 取締役会の決議

まず、企業の取締役会で第三者割当増資の実施を決議します。この段階で、新株発行の目的や発行する株式の数、発行価格、割当先などが決定されます。

2. 株主総会の承認

次に、株主総会で第三者割当増資の実施を承認します。これは、既存株主の持株比率が希薄化するため、株主の理解と承認を得るために必要です。

3. 新株発行の手続き

株主総会の承認を得た後、企業は新株発行の手続きを行います。この際、新株の発行価格を公正に決定するために、外部の評価機関を利用することが一般的です。

4. 割当先への通知

新株の発行が決定したら、割当先となる第三者に対して通知を行います。この通知には、発行価格や支払期限などの詳細が記載されます。

5. 株式の引き受けと支払い

割当先は、通知された内容に基づき新株を引き受け、発行価格を企業に支払います。この支払いが完了すると、新株は割当先に発行されます。

6. 登記手続き

最後に、発行された新株についての登記手続きを行います。これにより、新株発行が法的に完了し、割当先が正式に株主となります。

第三者割当増資のメリット・デメリット

第三者割当増資には、企業にとってさまざまなメリットとデメリットがあります。これらを理解することで、適切な資金調達方法を選択することができます。

第三者割当増資のメリット

第三者割当増資のメリットとしては次のようなものがあります。

1. 迅速な資金調達

第三者割当増資は、既存株主の優先購買権を行使しないため、迅速に資金を調達することが可能です。これにより、企業は緊急の資金ニーズに対応することができます。

2. 戦略的パートナーシップの構築

特定の第三者に新株を割り当てることで、戦略的パートナーシップを構築することができます。これにより、企業は資金調達だけでなく、パートナーの知識や技術、ネットワークを活用することができます。

3. 資本コストの削減

銀行借入や社債発行に比べて、第三者割当増資は資本コストが低い場合があります。これは、株式発行に伴う利息支払いや返済義務がないためです。

4. 財務基盤の強化

新たな資本の導入により、企業の財務基盤を強化することができます。これにより、信用力が向上し、将来的な資金調達が容易になります。

第三者割当増資のデメリット

第三者割当増資にも以下のようなデメリットがあるので注意が必要です。

1. 株主の希薄化

新株発行により既存株主の持株比率が希薄化するため、既存株主の影響力が低下する可能性があります。特に、経営権に関する問題が発生することがあります。

2. 価格設定の難しさ

新株の発行価格を適切に設定することは難しく、公正な価格を決定するためには外部の評価機関を利用する必要があります。価格設定が不適切である場合、既存株主からの反発を招く可能性があります。

3. 信頼性の問題

第三者割当増資を実施する際には、割当先の信頼性を十分に確認する必要があります。不適切な割当先を選んだ場合、企業の信用が損なわれる可能性があります。

4. 手続きの複雑さ

第三者割当増資は、取締役会や株主総会の承認、外部評価機関の利用など、多くの手続きが必要です。これにより、時間とコストがかかることがあります。

第三者割当増資は、企業の成長や戦略的なパートナーシップ構築のために有効な手法ですが、慎重な計画と準備が必要です。メリットとデメリットを十分に理解し、適切なタイミングで実施することが成功の鍵となります。

TOB(株式公開買付け)

ここからは、TOBについて解説していきましょう。

TOBの概要

TOB(Take Over Bid、株式公開買付け)は、特定の企業の株式を市場外で買い集めるための手法です。買収者が株式の買付価格や買付期間を公表し、不特定多数の株主から株式を直接買い取ることを目的とします。この手法は主に上場企業の株式取得に用いられ、株式市場に大きな影響を与えることがあるため、非常に注目されます。

TOBの基本的な仕組み

TOBの基本的な仕組みは、買収者が買付価格や買付期間などを公告し、一定の条件で株式を買い取るというものです。買収者は通常、市場価格よりも高い買付価格を提示し、株主が株式を売却するインセンティブを提供します。買収者が公告した条件に応じて、株主は自分の保有する株式を買収者に売却するかどうかを決定します。TOBは通常、大量の株式を迅速に取得するために用いられ、企業の経営権を取得するための手段としても利用されます。

具体的には、買収者がA社の経営権を取得したい場合、A社の株式を一定価格で買い取るという内容の公告を行います。株主はこの価格が市場価格よりも高い場合、買収者に対して株式を売却することで利益を得ることができます。買収者は、一定の期間内に目標とする株式数を取得することを目指します。

TOBの手続きの流れ

TOBの手続きの流れは以下の通りです。

1. 買付けの準備

買収者は、対象企業の株式を買い取るための計画を立て、買付価格や買付期間、目標とする株式数などの条件を決定します。また、資金の調達方法や買収後の経営計画についても検討します。

2. 公告

買付条件が決定したら、買収者はこれを公告します。この公告には、買付価格、買付期間、買付株式数、買付条件などが含まれます。公告は、金融庁への提出とともに新聞やインターネットなどを通じて行われます。

3. 買付けの実施

公告後、買収者は買付期間内に株主からの応募を受け付けます。株主は、自分の保有する株式を買収者に売却するために、買付けの応募手続きを行います。

4. 応募株式の買付け

買付期間が終了すると、買収者は応募された株式を買付けます。この際、買付け対象株式数が公告された目標数に達しない場合、買収者は買付けを撤回することもあります。一方、目標数に達した場合、買収者はその株式を取得し、買付けが成立します。

5. 決済

買付けが成立した場合、買収者は株主に対して買付価格を支払い、株主から株式を受け取ります。この決済により、買収者は正式に株式を取得し、対象企業の経営権を掌握することができます。

TOBの種類

TOBには主に二つの種類があります。友好的TOBと敵対的TOBです。これらの種類は、買収者と対象企業の関係や買収の目的によって区別されます。

友好的TOB

友好的TOBとは、買収者が対象企業の経営陣や取締役会と協力して行うTOBです。この場合、対象企業の経営陣は買収者の提案を支持し、株主に対して株式売却を推奨します。友好的TOBは、買収後の経営統合がスムーズに進むことが期待されるため、株主や従業員、取引先などからも歓迎されることが多いです。

具体的な例として、大手企業が成長戦略の一環として中堅企業を買収するケースがあります。この場合、大手企業は中堅企業の経営陣と事前に交渉し、双方が合意の上でTOBを実施します。経営陣の支持を得ることで、買収プロセスが円滑に進み、買収後の統合作業もスムーズに行われます。

敵対的TOB

敵対的TOBとは、買収者が対象企業の経営陣や取締役会の同意を得ずに行うTOBです。この場合、対象企業の経営陣は買収に反対し、株主に対して株式売却をしないよう呼びかけます。敵対的TOBは、経営権の争奪戦となることが多く、メディアや市場関係者の注目を集めます。

例えば、企業Aが企業Bを買収しようとするが、企業Bの経営陣がこれに反対する場合、企業Aは敵対的TOBを実施します。企業Aは市場外で企業Bの株式を買い集め、企業Bの経営権を奪取しようとします。この過程で、企業Bは防衛策を講じることがあります。

TOBのメリット・デメリット

TOBには、企業の戦略的な成長や経営統合を実現するためのメリットがありますが、一方でリスクやデメリットも存在します。

TOBのメリット

TOBには次のようなメリットがあります。

1. 迅速な経営権取得

TOBは短期間で大量の株式を取得できるため、迅速に経営権を掌握することが可能です。これにより、企業の戦略的な意思決定や事業展開をスピーディーに進めることができます。

2. 市場価格より高い買付価格

TOBは通常、市場価格よりも高い買付価格を提示するため、株主にとっては魅力的な売却機会となります。これにより、株主の利益を最大化することができます。

3. 戦略的な統合

友好的TOBの場合、買収後の統合作業がスムーズに進むことが期待されます。買収者と対象企業が協力して経営戦略を実行することで、シナジー効果を最大限に引き出すことができます。

4. 競争力の強化

TOBにより、企業は競争力を強化するための資源を迅速に確保できます。例えば、技術力のある企業を買収することで、自社の技術力を向上させることができます。

TOBのデメリット

一方で、TOBには次のようなデメリットがあります。

1. 高額な買付価格

TOBは通常、市場価格よりも高い買付価格を提示するため、買収コストが高額になります。これにより、買収者の財務負担が増大し、資金繰りに影響を与える可能性があります。

2. 敵対的TOBのリスク

敵対的TOBは、対象企業の経営陣との対立を引き起こすため、買収プロセスが長期化し、コストが増大することがあります。また、メディアや市場関係者からの注目が集まり、企業の評判に影響を与える可能性もあります。

3. 株主の反発

TOBは株主の意向を無視して進められることがあるため、株主の反発を招くことがあります。特に敵対的TOBの場合、株主が買収に反対することが多く、買収成功の可能性が低下することがあります。

4. 経営統合の課題

買収後の経営統合がスムーズに進まない場合、期待されるシナジー効果が得られないことがあります。特に、企業文化の違いや組織構造の統合に課題がある場合、経営統合が難航することがあります。

TOBは企業の成長戦略や経営権取得のための有力な手法ですが、成功させるためには慎重な計画と準備が必要です。メリットとデメリットを十分に理解し、適切なタイミングで実施することが重要です。

MBO(経営陣買収)

最後に、MBOについて解説していきます。

MBOの概要

MBO(Management Buyout)は、企業の経営陣が自社の株式や事業部門を買収する手法です。経営陣が主体となって自社を買収することで、外部からの影響を最小限に抑えつつ、経営権を確保することができます。この手法は、後継者問題の解決や、企業の戦略的な方向性を変える際に有効です。特に中小企業や非上場企業において、経営陣の意向を反映させやすいM&A手法として広く利用されています。

MBOの基本的な仕組み

MBOの基本的な仕組みは、経営陣が自社の株式を買い取ることで経営権を取得するというものです。経営陣は、金融機関からの融資や投資ファンドからの資金提供を受けて、株式の買収資金を調達します。買収が成功すると、経営陣は株式の過半数以上を保有し、経営権を確保します。これにより、経営陣は外部の影響を受けずに、自由に経営戦略を実行することが可能となります。

具体的には、経営陣がMBOを実施するために、新たな法人を設立し、その法人を通じて自社の株式を買い取ることが一般的です。この新設法人は、金融機関からの融資や投資ファンドからの出資を受けて資金を調達し、既存の株主から株式を買い取ります。買収後、新設法人が自社の親会社となり、経営陣がその株式を保有することで、経営権を掌握します。

MBOの手続きの流れ

MBOの手続きの流れは以下の通りです。

1. 計画の立案

経営陣はMBOの実施を決定し、具体的な計画を立案します。この計画には、買収対象となる株式の数量や買収価格、資金調達方法などが含まれます。

2. 資金調達の準備

経営陣は、金融機関や投資ファンドと交渉し、買収資金を調達します。この段階で、融資契約や出資契約を締結します。

3. 新設法人の設立

経営陣はMBOを実施するための新設法人を設立します。この法人が買収資金を調達し、既存の株主から株式を買い取ります。

4. 株式買収の実施

新設法人が既存の株主から株式を買い取り、経営陣がその株式を保有します。これにより、経営陣は自社の経営権を取得します。

5. 経営統合の実施

買収が完了した後、経営陣は新設法人と既存法人の経営統合を進めます。これにより、新設法人が親会社としての役割を果たし、経営陣が実質的な経営権を掌握します。

MBOのメリット・デメリット

MBOには、経営陣が主体的に経営を行えるというメリットがありますが、一方で資金調達や経営統合に伴うリスクも存在します。

MBOのメリット

MBOには次のようなメリットがあります。

1. 経営権の安定化

経営陣が自社の株式を保有することで、外部からの影響を受けにくくなり、経営権が安定します。これにより、長期的な視点での経営戦略を実行しやすくなります。

2. 経営戦略の実行

MBOにより、経営陣は自社の経営戦略を自由に実行することができます。外部株主の意向に左右されずに、迅速な意思決定が可能です。

3. 後継者問題の解決

MBOは、後継者問題の解決手段としても有効です。特に、家族経営の中小企業では、経営陣が自社を買収することで、円滑な事業承継が可能となります。

4. 従業員のモチベーション向上

経営陣が自社の株式を保有することで、経営者としての責任感が高まり、経営に対する意欲やモチベーションが向上します。また、従業員に対しても安定した経営体制を示すことができるため、従業員の士気が高まります。

5. 経営の自由度向上

経営陣が株主になることで、外部の干渉を受けにくくなり、経営の自由度が高まります。これにより、経営陣は独自のビジョンや戦略を実現しやすくなります。

MBOのデメリット

一方、MBOには以下のようなデメリットがあります。

1. 資金調達の難しさ

MBOには多額の資金が必要です。経営陣が個人資産を持っていない場合、金融機関からの融資や投資ファンドからの出資を受ける必要がありますが、これにはリスクが伴います。特に、経営状況が悪化した場合、返済負担が重くなる可能性があります。

2. 経営統合のリスク

MBO後の経営統合には多くの課題があります。特に、新設法人と既存法人の統合が円滑に進まない場合、経営効率が低下し、シナジー効果が得られないことがあります。

3. 外部の支援不足

経営陣が主体となるMBOでは、外部からの支援が少なくなることがあります。特に、外部株主の意見や助言を得にくくなるため、経営判断の幅が狭くなる可能性があります。

4. 経営リスクの増大

経営陣が自社の株式を保有することで、経営リスクが増大します。特に、経営状況が悪化した場合、経営陣自身が大きな損失を被る可能性があります。

5. 従業員の不安

MBOによる経営権の移転は、従業員に不安を与えることがあります。特に、経営方針の変更や組織再編が行われる場合、従業員の士気が低下することがあります。

MBOは、経営陣が主体的に経営権を掌握するための有力な手法ですが、成功させるためには慎重な計画と資金調達が不可欠です。また、経営統合や従業員の士気維持にも注意が必要です。メリットとデメリットを十分に理解し、適切なタイミングで実施することが重要です。

M&A手法選択のポイント

M&A手法を選択する際には、目的や条件、税務面、手続きのスケジュール、事業の継続性など、さまざまな要素を考慮する必要があります。ここでは、主要なM&A手法の比較と、手法選択時の具体的なポイントについて説明します。

各手法の比較

まずは、M&Aの各種方法の特徴を比較していきましょう。

株式譲渡 vs 事業譲渡 vs 会社分割

株式譲渡

株式譲渡は、売り手の株主が保有する株式を買い手に譲渡することで、経営権を移転する手法です。この手法は、手続きが比較的簡便であり、M&Aの中で最も一般的に用いられます。個人株主の場合、税負担は譲渡所得に対して一律20.315%です。譲渡対象会社の包括承継が可能であり、事業に与える影響も少ないため、事業継続性を確保しやすいのが特徴です。

事業譲渡

事業譲渡は、会社の特定の事業や資産を選択して譲渡する手法です。包括承継ではないため、不要な負債や資産を引き継がずに済むメリットがあります。しかし、手続きが煩雑であり、譲渡する資産や負債ごとに個別に契約を締結する必要があります。税務面では、法人税が約34%課税され、さらに資産の取得には消費税もかかります。

会社分割 

会社分割は、事業部門を切り離して別会社に承継させる手法です。新設分割や吸収分割といった方法があります。この手法は、非事業用資産の切り離しや、税負担の軽減に役立ちます。包括承継が可能であるため、契約の引継ぎや従業員の転籍がスムーズに行える点がメリットです。ただし、手続きには時間がかかり、債権者保護手続きが必要となるため、実施には慎重な計画が求められます。

その他手法の比較

合併

合併には吸収合併と新設合併があります。吸収合併は、既存の会社が他の会社を吸収する手法であり、新設合併は複数の会社が統合して新しい会社を設立する手法です。合併は包括承継が可能であり、経営資源の統合によるシナジー効果が期待できますが、企業文化の違いによるPMIの難易度が高い点がデメリットです。

株式交換・株式移転

株式交換は、完全親子会社関係を前提に、買い手が売り手の全株式を取得し、その対価として自社株式を交付する手法です。株式移転は、既存企業が新設企業の完全子会社になる手法です。どちらも現金を用意せずに株式を対価とするため、資金負担が軽減されます。

第三者割当増資

第三者割当増資は、新株を発行し、特定の第三者に引き受けてもらう手法です。資金調達が目的であり、経営権を一部残したまま資金を得られる点がメリットです。

TOB(株式公開買付け)

TOBは、株式公開買付けを通じて、上場企業の株式を市場外で買い集める手法です。友好的TOBと敵対的TOBがあり、買収対象企業の経営陣の賛同が得られるかどうかで戦略が異なります。

MBO(経営陣買収)

MBOは、経営陣が自社の株式を買収する手法です。経営権の安定化や後継者問題の解決に役立ちますが、資金調達の難易度や経営統合のリスクも伴います。

M&A手法選択のポイント

M&Aの手法を選択するためには、以下のポイントを押さえておくことが大切です。

目的による手法選択

M&Aの目的に応じて最適な手法を選択することが重要です。たとえば、経営権を迅速に取得したい場合は株式譲渡が適していますが、特定の事業だけを取得したい場合は事業譲渡が有効です。後継者問題の解決を目的とする場合はMBOが適しています。

税務面の考慮

税負担はM&A手法選択において重要な要素です。株式譲渡では個人株主の税負担が約20%と比較的低く、事業譲渡では法人税が約34%かかります。会社分割では、分割後の会社の資産や負債の移転に伴う税務処理が複雑になることがあります。税務面での最適化を図るためには、専門家のアドバイスを受けることが必要です。

手続き・スケジュールの考慮

手続きの簡便さやスケジュールの柔軟性も考慮すべきポイントです。株式譲渡は手続きが比較的簡単で、短期間で実行可能です。一方、事業譲渡や会社分割は手続きが煩雑で、時間がかかることがあります。特に、債権者保護手続きが必要な会社分割では、実行までに1か月半以上の期間を要することがあります。

事業継続性の考慮

M&A後の事業継続性も重要なポイントです。株式譲渡は経営陣や従業員、取引先との関係を維持しやすく、事業継続性が高い手法です。事業譲渡や会社分割では、事業の移転や許認可の取得、従業員の転籍などが発生し、事業継続性に影響を与える可能性があります。事業の引継ぎを円滑に進めるためには、買い手と売り手の協力が不可欠です。

M&A手法を選択する際には、これらのポイントを総合的に考慮し、最適な手法を選択することが成功の鍵となります。各手法のメリット・デメリットを十分に理解し、専門家の意見を参考にしながら、戦略的な意思決定を行うことが重要です。

まとめ: 多種多様なM&A方法を適切に選択しよう!

M&Aの手法には、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併、株式交換、株式移転、第三者割当増資、TOB、MBOなど、多岐にわたる選択肢があります。それぞれの手法には、目的や状況に応じた特徴と手続きがあり、適切な選択が求められます。手法の選択においては、M&Aの目的、税務面の考慮、手続きやスケジュール、事業継続性などを総合的に判断することが重要です。M&Aは企業にとって大きな転機となるため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが成功への鍵となります。

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