マルチプル法を徹底解説!企業価値評価の計算でメリット満載!?【具体例も】

企業価値評価は、M&Aや投資の意思決定において欠かせない重要なプロセスです。数ある評価手法の中でも、マルチプル法はそのシンプルさと迅速さから広く用いられています。マルチプル法は、類似企業の市場データを活用して評価対象企業の価値を客観的に算出する方法です。本記事では、マルチプル法の基本概念から具体的な計算方法、他の評価方法との比較までを徹底解説します。具体例を交えながら、そのメリットと注意点についても詳しく紹介し、読者の皆さんが実践的に活用できる知識を提供します。

この記事を監修した人:福住優(M&A情報館 代表取締役)

マルチプル法とは?

マルチプル法は企業価値評価の一手法であり、特にM&Aや株式投資において広く用いられています。この手法は、類似する上場企業の株価や財務指標を基にして、対象企業の価値を評価する方法です。具体的には、売上高、利益、株主資本などの財務数値に対する倍率(マルチプル)を利用して、対象企業の企業価値や株主価値を求めます。これにより、企業の相対的な価値を迅速かつ客観的に評価することが可能となります。

マルチプル法の基本概念

マルチプル法の基本概念は、評価対象企業と類似する上場企業の財務指標を活用して、対象企業の価値を算出する点にあります。例えば、評価対象企業の売上高に対して、類似上場企業の売上高倍率をかけることで、対象企業の価値を求めることができます。

具体的には、次のような計算式が用いられます。

  • 評価対象企業の価値=評価対象企業の𝐾𝑃𝐼×マルチプル

ここで、KPIとは重要業績評価指標(Key Performance Indicator)の略であり、売上高や利益、EBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)などが含まれます。また、マルチプル(倍率)は次のように算出されます。

  • マルチプル=類似企業の企業価値(または株主価値)÷類似企業の𝐾𝑃𝐼

この方法により、評価対象企業の価値は、類似上場企業の市場評価を基に客観的に算出されます。

マルチプル法が用いられる理由

マルチプル法が広く用いられる理由は、そのシンプルさと迅速性にあります。特に以下の点が評価されています。

シンプルに算出できる

マルチプル法は、DCF法(Discounted Cash Flow法)などと比べると、非常にシンプルでスピーディーに企業価値を算出できます。DCF法は将来のキャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引いて企業価値を算出するため、非常に時間と労力を要します。これに対して、マルチプル法は現時点の財務指標を用いるため、計算が簡便である点が大きな利点です。

客観的・相対的に評価できる

マルチプル法は、上場企業の市場評価を基にしているため、非常に客観的です。市場で実際に取引されている企業のデータを利用することで、主観的なバイアスを排除しやすくなります。これにより、誰が計算しても同様の結果が得られる可能性が高まります。

非上場企業でも算出できる

非上場企業は株式が市場で取引されていないため、企業価値の評価が難しい場合があります。しかし、マルチプル法を用いることで、上場企業の評価を基に非上場企業の価値を推定することが可能です。これにより、M&Aなどの場面で非上場企業の価値を客観的に評価することができます。

将来的な企業価値も算出できる

上場企業の株価には、将来の収益予測が反映されています。マルチプル法を用いることで、この将来的な価値を含めた評価が可能となります。具体的には、EBITDAやPER(株価収益率)などの指標を用いることで、将来の収益力を考慮した企業価値を算出できます。

マルチプル法のデメリットと注意点

マルチプル法は、そのシンプルさと迅速性により広く用いられている企業価値評価の手法ですが、いくつかのデメリットと注意点も存在します。これらの点を理解して適切に対処することで、評価の精度を高めることが可能です。

結果にブレが生じるリスク

マルチプル法の一つの大きなリスクは、結果にブレが生じる可能性がある点です。このリスクは主に以下の要因によって引き起こされます。

計算者の主観による影響

マルチプル法では、類似企業の選定が重要なステップとなります。しかし、どの企業を類似企業として選定するかは、計算者の主観が大きく影響します。例えば、評価対象企業と最も類似していると考える企業の選び方は、人によって異なることがあります。このため、同じ企業を評価する場合でも、計算者によって結果が異なる可能性が生じます。

複数の類似企業の選定によるバラツキ

マルチプル法では、複数の類似企業を選定し、その平均値や中央値を用いて倍率を算出します。しかし、選定した類似企業が多様であればあるほど、その平均値や中央値にバラツキが生じる可能性があります。例えば、類似企業の業績や市場評価が大きく異なる場合、その影響が評価結果に反映され、結果的に評価対象企業の価値にブレが生じることになります。

KPIの選定による影響

マルチプル法では、売上高や利益、EBITDAなどのKPI(重要業績評価指標)を基に評価を行いますが、どのKPIを重視するかによっても結果は異なります。業界や企業の特性によって、最適なKPIが異なるため、KPIの選定が結果に影響を与える可能性があります。

類似企業の選定が難しい

マルチプル法のもう一つのデメリットは、類似企業の選定が難しいことです。この難しさには以下のような要因があります。

非上場企業や特殊な業務を行う企業

非上場企業や独自のビジネスモデルを持つ企業の場合、類似する上場企業を見つけることが困難です。例えば、革新的な技術を持つスタートアップ企業や、非常にニッチな市場で活動している企業の場合、同様のビジネスを行う上場企業が存在しないことがあります。このような場合、適切な比較対象を見つけることが難しく、評価の精度に影響を与える可能性があります。

市場の多様性と業界特性

市場や業界によっては、企業間の業績や市場評価が大きく異なることがあります。例えば、同じ業界内でも企業ごとに事業戦略や収益構造が異なる場合、その多様性が類似企業の選定を難しくします。また、業界特性によっては、特定の指標が他の指標よりも重要視されることがあり、それに応じて適切な類似企業を選定する必要があります。

データの入手と精査

適切な類似企業を選定するためには、詳細な財務データや市場情報が必要です。しかし、これらのデータを入手し、正確に精査することは容易ではありません。特に、市場の変動や企業の最新情報を反映させるためには、常に最新のデータを収集し続ける必要があります。

類似企業の株価変動の影響

最後に、マルチプル法では類似企業の株価変動が評価結果に大きな影響を与える点にも注意が必要です。

マクロ経済環境の影響

上場企業の株価は、為替レート、金利動向、地政学的リスクなどのマクロ経済環境の変化により日常的に大きく変動することがあります。これにより、類似企業の株価が大きく変動し、その結果としてマルチプル(倍率)にも影響が及びます。例えば、急激な市場変動や経済ショックが発生した場合、類似企業の株価が短期間で大きく変動することがあります。

企業固有のミクロ要因

また、類似企業の株価は、その企業特有のミクロ要因、例えば経営戦略の変更、新製品の発表、業績予想の修正などによっても変動します。これらの要因が評価対象企業の価値算定に影響を与えるため、類似企業の株価変動を常に監視し、適切なタイミングで評価を行うことが重要です。

観測期間の幅

適切にマルチプル法を用いるためには、類似企業の株価を評価する際に観測期間に幅を持たせることが推奨されます。例えば、一定期間の平均株価を用いることで、一時的な株価変動の影響を軽減することができます。また、財務分析を行い、類似企業の財務内容に異常値等が含まれていないかを確認し、必要に応じて修正を加えることが重要です。

これらのデメリットや注意点を理解し、適切に対応することで、マルチプル法を用いた企業価値評価の精度を高めることができます。評価の際には、他の評価方法と併用することや、複数の類似企業のデータを活用することで、より信頼性の高い評価結果を得ることが可能となります。

マルチプル法の種類と特徴

マルチプル法は企業価値評価の手法として広く用いられていますが、具体的にはいくつかの異なるアプローチがあります。それぞれの手法は、評価対象企業の特性や市場状況に応じて使い分けられます。ここでは、代表的な3つのマルチプル法について解説します。

市場株価平均法

市場株価平均法は、同業界内の複数の上場企業の株価を基にして評価対象企業の価値を算出する手法です。この方法では、対象企業と類似する上場企業群の平均株価や時価総額を参考にし、これらのデータをもとに評価対象企業の価値を推定します。

特徴と利点

市場株価平均法の主な利点は、広範なデータを利用することで、個別の異常値や特異な事象の影響を平均化できる点です。複数の企業のデータを用いるため、特定の企業の株価変動に左右されにくく、より安定した評価が可能です。また、この手法は比較的簡単にデータを収集しやすい点でも優れています。

注意点

一方で、市場株価平均法にはいくつかの注意点もあります。まず、対象企業と類似する企業群を適切に選定する必要があります。選定が不適切であると、平均株価が実際の市場動向を反映しない可能性があります。また、市場全体の株価が大きく変動する場合、評価結果も影響を受けやすい点に留意が必要です。

類似会社比較法

類似会社比較法は、評価対象企業と事業内容や規模が類似する上場企業の財務指標を基に評価を行う手法です。具体的には、売上高、営業利益、EBITDAなどの財務指標に対する倍率(マルチプル)を用いて、評価対象企業の価値を算出します。

特徴と利点

類似会社比較法の最大の利点は、評価対象企業と非常に近い事業環境や市場で活動する企業を基に評価を行うため、精度の高い評価が可能である点です。この手法では、類似企業の市場評価を直接反映させることで、対象企業の相対的な価値を迅速に算出できます。また、非上場企業の価値を評価する際にも有効であり、客観的な評価が可能です。

注意点

しかし、類似会社比較法にはデメリットも存在します。特に、類似企業の選定が難しい場合があります。評価対象企業に非常に近い類似企業を見つけることは容易ではなく、選定が不適切であると評価結果にブレが生じる可能性があります。また、選定した類似企業の財務指標が市場全体の変動や特定のイベントによって大きく変動する場合、評価結果に影響を与える可能性が高まります。

類似取引比較法

類似取引比較法は、過去のM&A取引や企業買収の事例を基に評価対象企業の価値を算出する手法です。この手法では、対象企業と類似する企業の過去の取引データを参照し、その取引価格や倍率を基にして評価を行います。

特徴と利点

類似取引比較法の利点は、実際の取引データを基にしているため、非常に実践的で現実的な評価が可能である点です。特に、直近の取引事例を利用することで、現在の市場動向や取引慣行を反映させた評価が行えます。また、この手法は、買収価格や取引条件など具体的なデータを基にしているため、説得力のある評価が可能です。

注意点

一方で、この手法にはいくつかの注意点があります。まず、適切な類似取引を見つけることが難しい場合があります。特に、特定の業界や市場での取引事例が少ない場合、信頼性の高いデータを得ることが難しくなります。また、取引の条件や背景が異なる場合、それを考慮に入れないと評価結果が正確でなくなる可能性があります。

総じて、マルチプル法の各種手法にはそれぞれの利点と注意点があります。評価対象企業の特性や市場状況に応じて、最適な手法を選択し、他の評価方法と併用することで、より信頼性の高い企業価値評価が可能となります。これらの手法を適切に組み合わせることで、投資やM&Aの意思決定に役立つ有益な情報を提供することができます。

主要なマルチプル法の指標

マルチプル法は企業価値評価の手法として広く用いられており、その際に用いられる指標にはいくつかの種類があります。これらの指標は、それぞれ異なる側面から企業の価値を評価するため、評価の精度や信頼性を高めるために適切に選択することが重要です。ここでは、主要なマルチプル法の指標について詳しく解説します。

EBIT(利払い前・税引き前利益)

EBIT(Earnings Before Interest and Taxes)は、日本語で「利払い前・税引き前利益」と呼ばれ、企業の事業活動から生じる純粋な利益を示す指標です。EBITは、支払利息や受取利息などの財務活動に関わる費用や収益を除外し、事業活動からの利益のみを計算します。

特徴と利点

EBITの大きな利点は、企業の本業からの利益を純粋に評価できる点です。特に、金融機関からの借入金が多い企業や、多額の受取利息や配当金がある企業に対して、事業活動の実質的な収益力を評価する際に有効です。これにより、企業の運営効率や競争力を正確に把握することができます。

計算式

EBITの算出方法は以下の通りです。

  • 𝐸𝐵𝐼𝑇=税引前当期利益+支払利息−受取利息

EBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)

EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization)は、利払い前・税引き前・減価償却前利益を示し、キャッシュフローに近い形で企業の本業の儲けを表します。EBITDAは、税引前利益に支払利息や減価償却費を加えることで計算されます。

特徴と利点

EBITDAは、減価償却費の計上方法による違いを排除し、企業の本業から生じるキャッシュフローに近い利益を示します。これにより、設備投資が重要な成長企業や、事業拡大期にある企業の収益力を正確に評価することができます。また、企業の財務状態をより正確に把握できるため、投資家や買収者にとって重要な指標となります。

計算式

EBITDAの算出方法は以下の通りです。

  • 𝐸𝐵𝐼𝑇𝐷𝐴=営業利益+減価償却費

PER(株価収益率)

PER(Price Earnings Ratio)は、株価収益率を示し、企業の株価が純利益の何倍になっているかを表す指標です。PERは、株式時価総額を当期純利益で割ることで計算されます。

特徴と利点

PERは、投資家が最も重視する指標の一つです。純利益に対する株価の倍率を示すため、企業の収益力と市場評価を直感的に把握することができます。特に、同業他社との比較や、適正株価の判断に用いられます。また、PERの高低により、企業の成長期待やリスクを評価することが可能です。

計算式

PERの算出方法は以下の通りです。

  • 𝑃𝐸𝑅=株式時価総額÷当期純利益

PBR(価格簿価比率)

PBR(Price Book-value Ratio)は、価格簿価比率を示し、株価が1株あたりの純資産と比べて何倍になっているかを表す指標です。PBRは、株式時価総額を簿価純資産で割ることで計算されます。

特徴と利点

PBRは、不景気となり企業業績が悪化している環境下で特に注目される指標です。PBRが高いほど、市場が企業ののれんや将来の成長性を高く評価していることを示します。一方で、PBRが低い場合、企業の純資産価値に対して株価が割安であると判断されることがあります。

計算式

PBRの算出方法は以下の通りです。

  • 𝑃𝐵𝑅=株式時価総額÷簿価純資産

売上高倍率

売上高倍率は、企業価値を売上高で割ることで算出される指標です。この指標は、売上高に対する企業価値の倍率を示します。

特徴と利点

売上高倍率は、特にベンチャー企業や赤字企業の評価に適しています。これらの企業は、利益が出ていない場合でも高い成長性を持つことがあり、売上高倍率を用いることでその成長ポテンシャルを評価することができます。また、収益構造が極めて近似している業界に属する企業の評価にも適しています。

計算式

売上高倍率の算出方法は以下の通りです。

  • 売上高倍率=企業価値÷売上高

各指標の特徴と計算方法を理解することで、マルチプル法を用いた企業価値評価の精度を高めることができます。これにより、評価対象企業の実質的な価値を把握し、適切な投資判断やM&Aの意思決定を行うことが可能となります。

マルチプル法の計算方法

マルチプル法は、企業価値評価において簡便かつ効果的な手法として広く用いられています。この手法では、評価対象企業の財務指標と、それに対する倍率(マルチプル)を用いて企業価値を算出します。以下では、具体的な計算方法について、EBIT、EBITDA、PER、PBR、および売上高倍率を用いた計算例を示します。

EBITを用いた計算例

EBIT(利払い前・税引き前利益)は、企業の本業からの収益力を評価するために用いられる指標です。EBITを用いたマルチプル法では、評価対象企業のEBITに類似企業のEV/EBIT倍率を掛けて企業価値を算出します。

計算例

例えば、X社のEBITが4,000万円であり、類似企業であるY社のEV/EBIT倍率が5であるとします。これに基づいて、X社の企業価値を計算すると次のようになります。

  • 𝑋社の企業価値=𝐸𝐵𝐼𝑇×𝐸𝑉/𝐸𝐵𝐼𝑇倍率
  • 𝑋社の企業価値=4,000万円×5=2億円

このようにして、EBITを用いて評価対象企業の企業価値を簡便に算出することができます。

EBITDAを用いた計算例

EBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)は、減価償却費を加味しないことで、企業のキャッシュフローに近い利益を示す指標です。EBITDAを用いたマルチプル法では、評価対象企業のEBITDAに類似企業のEV/EBITDA倍率を掛けて企業価値を算出します。

計算例

例えば、X社の営業利益が4,000万円、減価償却費が1,600万円で、類似企業であるY社のEV/EBITDA倍率が3であるとします。X社のEBITDAを計算し、それにEV/EBITDA倍率を掛けると次のようになります:

  • 𝐸𝐵𝐼𝑇𝐷𝐴=営業利益+減価償却費
  • 𝐸𝐵𝐼𝑇𝐷𝐴=4,000万円+1,600万円=5,600万円
  • 𝑋社の企業価値=𝐸𝐵𝐼𝑇𝐷𝐴×𝐸𝑉/𝐸𝐵𝐼𝑇𝐷𝐴倍率
  • 𝑋社の企業価値=5,600万円×3=1億6,800万円

このようにして、EBITDAを用いて評価対象企業の企業価値を算出することができます。

PERを用いた計算例

PER(株価収益率)は、企業の株価が純利益の何倍になっているかを示す指標です。PERを用いたマルチプル法では、評価対象企業の当期純利益に類似企業のPERを掛けて株主資本価値を算出します。

計算例

例えば、X社の当期純利益が2,000万円であり、類似企業であるY社のPERが4であるとします。これに基づいて、X社の株主資本価値を計算すると次のようになります。

  • 𝑋社の株主資本価値=当期純利益×𝑃𝐸𝑅
  • 𝑋社の株主資本価値=2,000万円×4=8,000万円

このようにして、PERを用いて評価対象企業の株主資本価値を簡便に算出することができます。

PBRを用いた計算例

PBR(価格簿価比率)は、株価が1株あたりの純資産と比べて何倍になっているかを示す指標です。PBRを用いたマルチプル法では、評価対象企業の純資産に類似企業のPBRを掛けて株主資本価値を算出します。

計算例

例えば、X社の純資産が9,000万円であり、類似企業であるY社のPBRが1.5であるとします。これに基づいて、X社の株主資本価値を計算すると次のようになります。

  • 𝑋社の株主資本価値=純資産×𝑃𝐵𝑅
  • 𝑋社の株主資本価値=9,000万円×1.5=1億3,500万円

このようにして、PBRを用いて評価対象企業の株主資本価値を算出することができます。

売上高倍率を用いた計算例

売上高倍率は、企業価値を売上高で割ることで算出される指標です。売上高倍率を用いたマルチプル法では、評価対象企業の売上高に類似企業の売上高倍率を掛けて企業価値を算出します。

計算例

例えば、X社の売上高が7,000万円であり、類似企業であるY社の売上高倍率が2であるとします。これに基づいて、X社の企業価値を計算すると次のようになります:

  • 𝑋社の企業価値=売上高×売上高倍率
  • 𝑋社の企業価値=7,000万円×2=1億4,000万円

このようにして、売上高倍率を用いて評価対象企業の企業価値を算出することができます。

以上のように、マルチプル法を用いることで、さまざまな財務指標に基づいて企業価値を簡便に算出することができます。各指標の特性と用途を理解し、適切な指標を選択することで、より信頼性の高い企業価値評価が可能となります。

マルチプル法と他の評価方法の比較

企業価値評価にはさまざまな手法があり、それぞれに長所と短所があります。ここでは、マルチプル法と他の主要な評価方法であるDCF法、インカムアプローチ、ネットアセットアプローチとの比較を行い、それぞれの違いや特徴を明らかにします。

DCF法との比較

DCF法(Discounted Cash Flow法)は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を評価する手法です。DCF法は詳細な財務予測と割引率の設定が必要であり、非常に精密な評価が可能です。

比較ポイント

マルチプル法とDCF法を比較した場合の違いは以下のとおりです。

精度と詳細さ

DCF法

DCF法は、将来のキャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引くため、非常に精密な評価が可能です。この手法では、企業の将来の収益力や投資計画、資本コストを詳細に分析します。そのため、企業の長期的な成長性やリスクを反映した評価ができます。

マルチプル法

マルチプル法は、類似企業の倍率を利用して評価対象企業の価値を簡便に算出する手法です。必要なデータが少なく、短時間で評価を行うことができるため、迅速な意思決定が求められる場面で有効です。しかし、将来のキャッシュフローを考慮しないため、企業の長期的な成長性やリスクを十分に反映できない場合があります。

客観性とシンプルさ

DCF法

詳細な予測と複雑な計算が必要であり、前提条件や割引率の設定によって結果が大きく変わるため、一定の主観が入る可能性があります。

マルチプル法

類似企業の市場データを利用するため、客観性が高く、誰が行っても同様の結果が得られることが多いです。また、計算がシンプルで迅速に行える点もメリットです。

適用範囲

DCF法

企業の将来計画や長期的な投資を評価する場合に適しています。特に、成熟した企業や安定したキャッシュフローを持つ企業に対して有効です。

マルチプル法

短期的な評価や市場での比較を重視する場合に適しています。特に、類似企業が存在し、その財務データが入手可能な場合に有効です。

インカムアプローチとの違い

インカムアプローチは、企業の収益力に基づいて価値を評価する手法です。DCF法もインカムアプローチの一種ですが、他にも配当割引モデルなどがあります。

比較ポイント

マルチプル法とインカムアプローチを比較した場合の違いは以下の通りです。

将来性の反映

インカムアプローチ

企業の将来の収益やキャッシュフローに基づいて価値を評価するため、将来の成長性を反映させやすいです。DCF法や配当割引モデルなど、企業の収益力や成長性を詳細に分析する手法が含まれます。

マルチプル法

現在の財務指標と市場倍率を用いて評価するため、短期的な視点での評価が中心となり、将来の成長性を直接的には反映しにくいです。

主観性

インカムアプローチ

将来の収益やキャッシュフローを予測するため、前提条件や予測の精度によって評価結果が大きく変わることがあります。そのため、一定の主観が入る可能性があります。

マルチプル法

類似企業の市場データを基に評価を行うため、主観性が排除されやすく、客観的な評価が可能です。

適用範囲

インカムアプローチ

成熟企業や安定した収益を持つ企業に適しています。将来の収益や配当を重視する投資家にとって有益な手法です。

マルチプル法

非上場企業や成長企業、または類似企業が存在する市場での評価に適しています。市場での比較が容易なため、スクリーニングや短期的な意思決定に有効です。

ネットアセットアプローチとの違い

ネットアセットアプローチは、企業の純資産を基に価値を評価する手法です。時価純資産法や簿価純資産法が含まれます。

比較ポイント

マルチプル法とネットアセットアプローチを比較した場合の違いは以下の通りです。

資産価値の重視

ネットアセットアプローチ

企業の保有資産の価値に基づいて評価を行うため、資産価値を重視します。特に、資産の質や価値が重要な企業、清算価値を評価する場合に適しています。

マルチプル法

資産価値ではなく、収益性や市場評価を重視します。企業の本業からの収益力や市場での評価を基に価値を算出するため、資産価値を直接反映しないことがあります。

客観性

ネットアセットアプローチ

保有資産の価値に基づくため、客観性が高い評価が可能です。ただし、資産の評価に際して市場価格の変動や会計上の扱いに影響されることがあります。

マルチプル法

類似企業の市場データを用いるため、客観性が高く、簡便に評価を行うことができます。

適用範囲

ネットアセットアプローチ

資産価値が重要な企業、特に不動産や設備投資が多い企業に適しています。また、企業の清算価値や再編成時の評価にも有効です。

マルチプル法

収益性や市場評価を重視する場合に適しています。非上場企業や成長企業の価値評価、または市場での比較が重要な場合に有効です。

以上の比較から、マルチプル法は迅速かつ簡便に評価を行うことができる一方で、将来性や資産価値の評価には限界があることがわかります。それぞれの手法の特性を理解し、評価目的や対象企業の状況に応じて適切に使い分けることが重要です。

まとめ: マルチプル法をうまく活用して適切に企業評価を行おう!

マルチプル法は、企業価値評価においてシンプルかつ迅速な手法として非常に有用です。類似企業の市場データを活用することで客観性を保ちつつ、簡便に評価を行うことができます。具体的な計算方法を理解し、適切な指標を選定することで、企業の収益力や市場評価を正確に反映した評価が可能となります。ただし、類似企業の選定や市場データの変動には注意が必要です。他の評価手法との違いや特徴を理解し、目的に応じて使い分けることが成功の鍵となります。この記事を通じて、マルチプル法のメリットと活用方法を深く理解し、企業価値評価のプロセスに役立ててください。

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