建設業界のM&A最新トレンドと事例紹介【2024年更新】

建設業界は、急速なテクノロジーの進化、人手不足の深刻化、そしてグローバルな競争の激化といった複数の課題に直面しています。これらの挑戦に対応し、さらなる成長と発展を遂げるために、多くの企業が戦略的なM&Aを積極的に行っています。2024年においても、建設業界ではM&Aが一つの重要なトレンドとなっており、企業のポートフォリオ強化、新技術の獲得、市場シェアの拡大など、多様な目的で実施されています。本記事では、最新のM&Aトレンドと注目すべき事例を掘り下げて紹介していきます。

建設業界の概要

建設業界は、土木と建築を主軸とする産業であり、インフラ整備から民間建築まで幅広いプロジェクトに関わる業界です。具体的には、道路、堤防、上下水道の構築から、ビルやマンションなどの建設まで、さまざまな施工活動が行われます。使用される材料は、コンクリート、土石、木材、鋼材など多岐にわたり、これらを使用して構造物を建設することが主な業務です。また、建設に付随するソリューション業務も含まれます。

業界には、大手総合建設会社(ゼネコン)と、特定の専門分野に特化したサブコントラクター(サブコン)が存在します。ゼネコンはプロジェクトの元請けとして、設計から施工、管理まで一貫して手がけることが多いですが、特定の専門分野ではサブコンが重要な役割を果たします。サブコンは、電気設備、空調設備、土木など、特定の技術分野においてゼネコンをサポートする企業です。

建設業界は、国のインフラ整備や民間投資、災害復旧などの需要に大きく左右されます。近年、業界は人手不足や資材価格の高騰といった課題に直面しつつも、技術革新や省人化に向けた取り組みで、これらの問題に対応しようとしています。

建設業界の市場動向

建設業界の市場動向

国内建設市場は、2023年度に前年度比4.6%増の71兆9200億円と成長が見込まれています。この成長は、政府による国土強靭化投資や民間セクターの設備投資回復などが背景にあります。特に、公共事業投資は5.6%増の23兆6000億円に上ると予測されています。

海外市場に目を向けると、日本企業による海外工事受注額は、2022年度に前年度比14.6%増の2兆485億円と大幅に増加しました。この増加は、アジアを中心とした政府開発援助(ODA)案件の回復や、米国での受注拡大が主な要因です。特に、2023年度上半期には、前年同期比6%増の1兆1427億円と過去最高の海外工事受注額を記録しました。

国内における2024年1月の建設受注額は、前年同月比14%増の1兆756億円となり、民間からの受注は8%増の7429億円と堅調です。この数字は、自治体や不動産業からの受注が中心で、建設業界全体としては比較的健全な状況を維持しています。

しかしながら、建設業界は資材価格の高騰や人手不足、労働時間の規制など、経営を圧迫する要因に直面しています。これらの課題に対応するため、業界では生産性の向上、省人化技術の導入、人材の確保と育成に力を入れています。例えば、建設現場におけるロボットの活用やAIを利用した効率的な工程管理が進んでおり、作業の自動化や迅速化が図られています。また、2024年から適用される労働時間の上限規制に対応し、多くの建設会社が労働環境の改善に努めています。これには、週休2日制の確保や待遇の改善などが含まれます。

加えて、建設業界は国内市場の成長が鈍化する中で、海外市場への展開や新たな事業領域への進出が重要な戦略となっています。特に、再生可能エネルギー関連のインフラ構築や、海外での大型プロジェクト受注に力を入れる企業が増えています。さらに、国内においても、老朽化したインフラの更新や災害復旧工事など、社会的な需要に応える重要な役割を担っています。

このように、建設業界は変化の激しい経済環境の中で、多くの課題に直面しながらも、技術革新と経営戦略の見直しによって、新たな成長機会を模索しています。今後も、環境変化に柔軟に対応し、持続可能な発展を目指す取り組みが求められています。

建設業界でM&Aを行うメリット・デメリット

建設業界でM&Aを行うメリット・デメリット

建設業界でのM&A(合併・買収)は、成長戦略や効率化の観点から注目されています。しかし、このような戦略は明確なメリットと共に潜在的なデメリットも伴います。以下で、建設業界におけるM&Aの利点と欠点について解説します。

建設業界でM&Aを行うメリット

建設業界でM&Aを行う場合には次のようなメリットがあります。

グローバルな市場での競争力強化

M&Aにより、他の地域や国に存在する企業を取り込むことで、グローバル市場への即時アクセスが可能となります。これは、国内市場の成熟や飽和が進む中で、新たな成長機会を追求する上で極めて有効です。海外企業とのM&Aは、現地の市場知識、ビジネスネットワーク、顧客基盤を獲得することを意味し、グローバルなプロジェクトでの競争力を強化します。

総合的なサービス提供能力の向上

特定の専門分野で強みを持つ企業を取り込むことにより、建設会社はサービスの範囲を広げ、一貫したソリューションを顧客に提供できるようになります。例えば、環境に配慮した建設技術や省エネルギーソリューションなど、特定のニッチな技術を持つ企業をM&Aすることで、持続可能な建設プロジェクトへの対応能力を高め、市場での差別化を図ることができます。

イノベーションと効率化の促進

M&Aは、新しい技術やアイデア、ビジネスモデルを組織内にもたらすことで、イノベーションを加速します。また、組織間でのベストプラクティスの共有や、業務プロセスの統合による効率化が実現され、運営コストの削減にも繋がります。特に、デジタル技術やAIの活用が進む建設業界において、技術革新による生産性の向上は重要な課題の一つです。

リスク分散と安定化

M&Aを通じて事業ポートフォリオを多様化することで、市場や経済の変動に対するリスクを分散し、企業の安定化を図ることができます。特に建設業界は、経済の波に大きく影響される業界であるため、異なる地域やセグメントにわたる事業展開は、不確実性を管理し、持続可能な成長を実現する上で効果的です。

建設業界でM&Aを行うデメリット

建設業界でM&Aを行う場合には次のようなデメリットがあります。

統合の複雑さとコスト

M&Aには、異なる企業文化の融合、システムやプロセスの統合、従業員間のコミュニケーションの調整など、多くの課題が伴います。特に、大規模な建設プロジェクトを多く手掛ける企業間でのM&Aでは、プロジェクト管理方法や安全基準など、業務遂行の基本的な枠組みを統一する必要があり、そのプロセスには高額なコストと時間がかかることがあります。また、従業員の不安や抵抗感により、事業の効率性が一時的に低下する可能性もあります。

文化的衝突

異なる企業文化の衝突は、M&A後の統合プロセスで最も難しい課題の一つです。建設業界では、企業ごとに安全に対する考え方、品質管理の基準、労働環境など、企業文化に大きな差が存在することがあります。これらの差異を調和させることなく進められたM&Aは、従業員のモチベーション低下や生産性の低下につながる恐れがあります。

シナジー効果の過大評価

M&Aを推進する際には、シナジー効果が期待されますが、これを過大評価すると、実際の成果が期待値に届かない場合があります。特に、技術やノウハウの統合に際して、予想以上に高い障壁が存在することが判明することがあり、計画通りに事業が展開できないリスクがあります。

市場および規制環境の変化への対応

建設業界は、法規制や市場環境の変化に敏感な業界です。M&Aを通じて新たな市場や技術領域に進出した際には、未知のリスクに直面することがあります。また、規制の変更によって、新たに取り込んだ事業が思うように展開できなくなる可能性もあります。

建設業界のM&A事例6選

建設業界のM&A事例6選

ここからは、近年行われた建設業界におけるM&A事例を6つ紹介していきます。

成友興業による木本建興の子会社化

成友興業は2024年2月9日、神奈川県相模原市に拠点を置き、大型の水道工事を多く手掛ける木本建興を子会社化すると発表しました。成友興業は、この子会社化によって神奈川県での事業展開を強化し、技術交流や相互支援体制をグループ全体で充実させる目的を持っています。また、成友興業は自社の経営リソースや人的資源を活用して木本建興の事業基盤を強化し、グループ全体の収益力を向上させる計画です。

木本建興は1977年に設立され、東京都や神奈川県で官公庁からの土木工事、水道工事、建築工事を主な事業として展開している企業です。特に、水道工事に関しては、長年にわたる豊富な実績と高い施工能力で信用を築いてきました。2023年6月期の売上高は10億5349万円、営業損益は1億8033万円の赤字でした。

成友興業にとって、木本建興の子会社化は、首都圏を中心に展開する建設事業の地域拡大と、工種の多角化や請負工事の大型化といった経営戦略を推進する上で重要な一歩となります。このM&Aにより、成友興業は神奈川県でのプレゼンスを高め、木本建興の豊富な実績と技術力を活かして、より広範な建設プロジェクトの獲得を目指します。さらに、両社の技術交流や人材育成を通じて、グループ全体の質の高いサービス提供と、持続可能な成長を実現していくことが期待されます。

出典: https://ssl4.eir-parts.net/doc/9170/tdnet/2383983/00.pdf

三菱電機による株式交換での北弘電社完全子会社化

三菱電機は2024年1月9日に、株式交換により北弘電社を完全子会社化すると発表しました。この手続きにより、2024年4月15日に三菱電機は完全親会社となり、北弘電社は完全子会社となる予定です。株式交換比率は、北弘電社株1株に対して三菱電機株0.26株が割り当てられ、交付予定株式数は11万8834株で、これは三菱電機の自己株式を充当する形で行われます。

北弘電社は、三菱電機が重点を置く重電関連事業において、水処理施設や発変電所などの電気設備工事を一部受注し、三菱電機製のFA住宅環境設備機器や産業設備機器の仕入れ及び販売を手がけてきました。しかしながら、小形風力発電事業からの撤退や太陽光発電所建設工事における不適切な会計処理などによる損失の計上が財務悪化に繋がり、債務超過の状況に陥ってしまいました。自力での再建が困難と判断した北弘電社は、27.53%の株式を保有する筆頭株主である三菱電機に対し、完全子会社化と追加出資の検討を申し入れました。

三菱電機は、北弘電社の経営破綻を回避するために、この株式交換による完全子会社化を受け入れることに決めました。これにより、北弘電社は三菱電機の全面的な支援を受けられることになり、財務状況の改善及び事業基盤の強化が期待されます。三菱電機にとっては、北弘電社の技術力と市場へのアクセスを活用することで、重電関連事業のさらなる強化が図れることになります。また、この株式交換は、三菱電機が持続可能な企業運営と社会課題の解決への貢献を目指す戦略の一環としても位置づけられています。

両社の合併は、厳しい事業環境の中で北弘電社の持続可能な成長を支援し、三菱電機グループ全体の強化を目的としています。今回の完全子会社化は、北弘電社に新たな展開をもたらし、三菱電機にとってもグループのシナジー創出と企業価値のさらなる向上を実現する重要な一歩となります。

今回の株式交換は、困難な状況にあった北弘電社に対し、三菱電機の資源を活用して再建を図るという意味で、両社にとって有益な展開です。三菱電機の強固な経営基盤のもと、北弘電社は今後、事業の安定化と成長を目指すことができるようになります。この株式交換は、北弘電社の経営課題を解決し、三菱電機の事業範囲を拡大するための戦略的な決定であると言えるでしょう。

出典: 三菱電機株式会社による株式会社北弘電社の完全子会社化に関する 株式交換契約締結(簡易株

大栄環境によるシーイーシーの子会社化

大栄環境は、2024年1月5日に、土地開発関連のサービスを提供する株式会社シーイーシー(大阪市)の全株式を取得し、同社を連結子会社化したことを発表しました。シーイーシーは、土地区画整理やインフラ整備に関わる測量、設計、登記業務を専門に行う企業であり、特に産業廃棄物処理施設の設計及び調査業務において豊富な実績を有しています。

大栄環境グループは、廃棄物の収集運搬から中間処理、再資源化、最終処分に至るまでの一貫サービスを提供しており、土壌浄化や施設建設・運営管理など、環境創造に関連する幅広いサービスを展開しています。この子会社化により、大栄環境グループは新増設予定の最終処分場や焼却等熱処理施設などに関する設計と調査業務をより迅速かつ柔軟に対応できる体制を整えることが可能となります。これにより、脱炭素社会や循環経済への転換を目指す中で、ESG施策の推進とともに、企業価値のさらなる向上を図っていくことが期待されます。シーイーシーの2023年6月期の売上高は1億7900万円、営業利益は1300万円でした。

出典: https://ssl4.eir-parts.net/doc/9336/tdnet/2378364/00.pdf

スバル興業によるテス東北の子会社化

スバル興業は、2023年12月21日に太陽光発電設備の設置工事や機器販売を行うテス東北(盛岡市)の全株式を取得し、同社を子会社化したと発表しました。この取得によって、スバル興業は太陽光発電所の拡大と太陽光発電所の維持管理部門の強化を目指すことになります。テス東北は、太陽光発電関連事業において、設置工事から機器の販売までを手掛ける企業であり、2023年3月期の売上高は4億9486万円、営業利益は765万円でした。

スバル興業は「中期経営戦略2022-2025 TRY!2025」の下、「サステナブルな社会づくりへの貢献」と「環境に配慮した事業の推進」を基本方針として掲げており、太陽光発電事業の拡充をその取り組みの一つと位置づけています。テス東北の子会社化により、スバル興業グループは太陽光発電事業における技術力とサービスの質を高め、脱炭素社会への貢献をさらに強化することを目指しています。この戦略的な動きは、太陽光発電所の運営における効率性と収益性の向上に寄与し、企業価値の向上を図ることにつながる見込みです。

出典: https://subaru-kougyou.jp/ir/ir_record/35f8e6e3256c8999bd0e07aa19c4f50d4ac618b8.pdf

大成建設によるピーエス三菱に対するTOB

大成建設は、2023年11月9日に、ピーエス三菱に対して連結子会社化を目指し、株式公開買い付け(TOB)を実施すると発表しました。このTOBの目的は、ピーエス三菱を子会社化し、さまざまなシナジー効果を追求することにありました。

ピーエス三菱の取締役会は、当時、TOBに賛同する意見を表明しましたが、株主がTOBに応募するか否かは各自の判断に委ねるとしました。大成建設は、ピーエス三菱の筆頭株主であるUBE三菱セメントおよび2位株主の太平洋セメントとTOBへの応募について合意に至っています。

建設業界は燃料費や資材価格の高騰、人手不足、残業時間の上限規制など、厳しい経営環境が続くと予想されています。大成建設は、ピーエス三菱を子会社化することで、人財交流、顧客・技術情報の共有、資材の共同調達などのシナジー効果を追求し、さらには成長が期待される洋上風力浮体基礎の共同研究開発にも取り組む計画です。

TOBは成功し、2023年12月12日に成立が発表されました。応募総数は3436万6845株に達し、買い付け予定数を上回りました。大成建設は、12月18日付でピーエス三菱の株式の50.2%を保有する筆頭株主となり、ピーエス三菱を連結子会社にしました。これにより、大成建設グループはピーエス三菱との間でさらなる協力関係を築き、業界内での競争力強化を図ることができるようになりました。

出典: https://ssl4.eir-parts.net/doc/1801/tdnet/2356766/00.pdf

セキュアによるジェイ・ティー・エヌの子会社化

セキュアは2023年12月18日、電気通信工事業などを手掛けるジェイ・ティー・エヌ(横浜市)の全株式を取得し、2024年1月5日に完全子会社化すると発表しました。取得した株式数は241株で、取得価額は7億5500万円にのぼります。ジェイ・ティー・エヌは、監視カメラシステムの構築をはじめとする電気通信・電気設備工事全般を提供しており、特に神奈川県内での事業展開に強みを持っています。同社は多数の有資格者を擁し、施工に関する様々なノウハウを保有しています。

セキュアは、物理セキュリティシステムを事業領域とし、ソフトウェアの設計やハードウェアの選定から施工・アフターフォローまでの一貫したサービスを提供しています。この買収により、セキュアは施工に関する慢性的な人手不足のリスクを軽減し、ジェイ・ティー・エヌが蓄積してきたノウハウや専門性を獲得することができます。これによって、セキュアの競争力の強化と中長期的な成長の確度を高めることが期待されます。

ジェイ・ティー・エヌにとっても、上場企業であるセキュアのブランドを活かし、採用強化や新たな顧客獲得を図ることで、事業の拡大に繋がると見込まれています。ジェイ・ティー・エヌの23年9月期の売上高は4億8700万円、営業利益は8400万円でした。この子会社化により、セキュアとジェイ・ティー・エヌは、相互に補完し合う形でさらなる成長を目指します。

出典: https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS02669/3b8c2387/6588/45bb/9cd1/682c92ad3f07/140120231218504607.pdf

まとめ

建設業界におけるM&Aは、業界の構造変化を促進し、企業の成長戦略を加速する重要な手段となっています。2024年のトレンドを見ると、企業は新技術へのアクセス、海外市場への進出、そしてサステナブルな開発への取り組みなど、様々な目的でM&Aを活用していることがわかります。これらの取り組みは、建設業界が直面する複雑な課題に対処するために不可欠であり、同時に、業界全体の競争力を高め、持続可能な成長を支える基盤を築くことにも寄与しています。今後も、M&Aは建設業界における重要な戦略的ツールとして、業界の進化とともに発展していくことが期待されるでしょう。